第14話 相棒 前編
時間は少し遡る…
第14話 相棒 前編
楓からの魔獣発生の報せを受けた輝と雷葉は美月の事が少し気掛かりなものの司令室に急いだ。
「すんません。少し遅れました」
「輝くん!それに雷葉ちゃんも…ごめんなさいね、急かすようにしちゃって。ただ…状況はちょっと芳しくないわね…まず魔獣が発生した地点なんだけど…」
「地点?そんなの転送ゲートがあればどこだって…」
[雷葉。いま話している途中だろう。少し黙って聞いてろ]
楓の話を遮って、意見を述べた雷葉にボルトは少し辛辣に注意をした。
「ごめんごめん。も〜みづきちの事が気になんのはわかるけど、八つ当たりしないでよ〜」
「え?美月ちゃんに何か…いや。それはいま話す事では無いわね。問題は場所では無いわ。二ヶ所の地点で同時に発生したのよ」
「…なんだ、そんな事か…だったら二手に分かれりゃいいでしょ?ほれ、先にいってんぞ」
「待って!それもそうなんだけど、でも二人共さっきの戦闘で疲れて…」
「大丈夫!まだまだ魔力はあるよ。ね、ボルト?」
[…ああ。まだ余裕はある。しかし、輝の方は…]
「あ?俺の心配なんかしてんじゃねぇよ。お前はそのおチビちゃんのお守りを頼むぜ…雷葉、無理はす」
[無理をしているのはマスターでしょう?先程の疲れが取れ切っていませんよ。あれだけ後の事を少しは考えて戦えと…確かに雷葉はともかく、マスターを一人で行かせるのは心配ですね]
まさか自分の方を心配されるとは思ってもいなかった輝は、それでもやっぱり意地を通すのであった。
「…ばーか。んなもんお前の気の所為だよ。それにこんな場面で戦えねぇなんてなか」
[かっこ悪い…でしょう?…はぁ…まったくこの馬鹿マスターは…20分です…それ以上の戦闘は許しませんよ]
「20分?ハッ、そんなにかかんねえよ。3分で終わらせて、ついでに雷葉のも横取りしてやんよ。併せて10分もかけねえからな!…それにあいつとの約束もあっからよ…」
「いったな〜‼︎だったらこっちは1分で倒すかんね‼︎そんでさっきおチビちゃんって言ったの謝って貰うかんね‼︎」
「おう、上等だ‼︎だったらんな所で駄弁ってねぇでさっさと行くぞ、変身‼︎」
「上等なのはこっちだよ!いくよボルト、電着‼︎」
売り言葉に買い言葉。若干喧嘩気味に、しかし不敵な笑みを浮かべ二人は変身し、転送ゲートからそれぞれの敵が待つ場所へと赴くのであった。
ーーーーーー
雷葉は魔界フィールド内に転送されてから直ぐに魔獣を発見した。それを幸運に思いながらも、まずは最近考えた遠距離攻撃魔法で先制攻撃を仕掛けた。
「…見つけた…!よ〜し、くらえっ‼︎」
両腕に装備したトンファーに魔力を込めて、稲妻を纏った光球を生み出し魔獣にぶつけた。
「雷光…遠滅撃‼︎どうかな魔獣さん、あたしの新技のお味は…あれ?」
爆炎の中から無傷の魔獣が現れた。自分の新技がまったく効いて無いことに、雷葉は若干落ち込みながらも、構え直すのであった。
「も〜、せっかく考えたのに無傷か〜あのカブト虫め〜…ちょっとかっこいいからって調子に乗らないでねっ‼︎おりゃあ‼︎でりゃあ‼︎……あぁもうかたい〜あたしの相手こんなんばっかだよ〜‼︎助けてボルえも〜ん‼︎」
[誰がボルえもんだ‼︎…少し待ってろ。今対策を練っている。それまでは死なない程度に適当に動いてろ]
「えっ、ちょっ…適当にって、うわあ⁉︎…今のは危なかった…あれ見た目によらず結構速いな…ああ、こんなんじゃ兄ちゃんに負けちゃうよ…」
魔獣からの攻撃を危なげなく躱す雷葉であったが、しかしこちらからも決定打を撃てずにいた。そんな中やっとボルトから打開策が提唱されようとしていた。
[…魔獣分析完了…ふんっ、なんだわかって仕舞えば大した相手では無かったな…]
「ボルト〜?一人で納得してないで、なんかわかったなら早く教えて〜⁉︎」
[ふんっ。少しは自分で考えろ…と言いたい所だが、いい加減美月が心配だ…感謝しろ。この高性能デバイスであるボルト様から、打開策を貰えるこ]
「あ、もういいや。な〜んかわかっちゃった。うおりゃあ‼︎」
なにかを掴んだ雷葉は、地面を思い切り殴り飛ばし凄まじい衝撃波を発生させた。その衝撃波を浴びた魔獣は、ひっくり返って身動きが取れなくなってしまった。
「やっぱり‼︎いや〜さっきから飛んだりしないな〜とも思ってたけど、あの様子じゃ飛べないんだね。それにカブト虫ってひっくり返ったらなんも出来なくなっちゃうから、今がチャンスってとこだね!ボ・ル・ト?」
[…嫌味ったらしく言ってないでとどめを刺したらどうだ…はぁ…だから貴様は嫌なんだよ…こっちが何か考えても、その前になんとかしちまう…いやするようになったからな…電子分解を使え、それでさっさと決めろ]
「…それじゃ一気に決めようか。ボルト、固有魔法…電子分解、使うよ‼︎」
[ああ、あの装甲を電子の散りに変えてやれ…固有魔法、電子分解…発動‼︎]
固有魔法の発動が宣言されると同時に、トンファーに高出力の電気がチャージされていった。充分な量が溜まったと感じた雷葉は、一筋の稲妻となり、無防備な魔獣の上に落ちた。
この一撃で魔獣は跡形もなく消滅した。
「雷光…電滅撃っ‼︎…すっご…あんな硬かったのに…やっぱ強いんだね…あたし」
[違うな。この魔法は貴様の物ではない。私の固有魔法だ。感謝しろ、今回は特別に使わせてやったんだ。…だからさっさと帰って美月の所に行くぞ…ん、楓からの通信?今回は特に言われる様な事は…なんだ楓。どうせもう輝は決着をつけただろう?]
『…残念だけどそっちの方が大変な事になっているわ…至急帰還して、輝くんの救援に行って‼︎』
そこまで言って通信は切れた。
余りにも唐突な事に一瞬、頭が真っ白になった雷葉であったが家族の危機に呆けているばかりでは無かった。
「…全く…あんだけ強がっといて…世話が焼けるな〜………行くよ、ボルト‼︎」
[わかっている…やはりあの時止めて置けば…‼︎]
直ぐに持ち直した雷葉は帰還用のゲートに向けて走り出した。一方ボルトはあの時にもっと強く止めておくべきであったと悔しそうに呟いていた……
中編へ続く




