第12話 追憶 後編
「何だろう…家族を取られた気がする…」
「急にどうしたの?」
第12話 追憶 後編
M.G.S.Cに正式加入を決めた輝は、家に帰ろうかと研究室を後にしようとするが…
「あ、待って輝くん。もう遅い時間だし、ここからだとちょっと遠いから、蓮の家に泊めて貰いなさい。良いわよね、蓮?」
「もぅ…突然そういう事決めるんだから…でもそれが良いね。ちょっと話したい事もあるし…輝くんもそれで良いかな?」
突然の展開に、輝は若干焦り気味に返した。
「ええ⁉︎いやこちらとしてはそれは大変、魅力的ではありますが…でもさっき知り合ったばかりの奴を泊めるとか…逆に良いんすか?」
「うん。家には私一人しか居ないし…部屋も余っているから…それにここから車で10分もかから無いから直ぐに行けるしね…それに輝くんなら、変な事しないってわかるから別に気にしないよ」
「あら〜、輝くん照れてんの〜?ほんと、目付きのわりに可愛い反応ばっかするんだから♪それじゃあんまり遅くならない内に帰って良いわよ。今日もお疲れ様、蓮。それに輝くん。明日からよろしくね」
「はいお疲れ様。楓もあんまり遅くならないでね?昔から直ぐ無理するんだから…それじゃあ行こうか輝くん…」
「あっ…はい!…お疲れ様でした。楓さん…明日からお願いします。それではお先に失礼します。…でも照れては居ませんからね…」
今までの態度とは打って変わり、丁寧な口調で別れを言う輝に、楓は若干驚きながらも嬉しそうに「お疲れ様」と返し、その場を後にした。その後ろ姿にもう一度礼をしてから輝は、蓮とともにM.G.S.C本部を後にした。
それから蓮の車に乗り込み、10分程で家に着いた輝は、やっぱり綺麗な家だったなと予想通りの結果に満足していた。
「ごめんね?ちょっと急だったから大した物は出せないけど…何か苦手な食べ物とかある?」
「えーっと…すんません、野菜がちょっと…いやかなり苦手です。出来れば…その…」
「ん、了解。大丈夫だよ、誰だって嫌いな物くらいはあるから…でも野菜ジュースとかなら飲めるかな?少しは取らないと身体に悪いからね…」
「あ、はい。それなら何とか…なんかすんません。気ぃ使わせちまって…そう言えば話したい事って何ですか?」
「うん、多分だけど…魔界フィールドとか、魔獣が何で生まれたのかとか…まだ聞いてないかなって思って…はい、簡単な物で悪いけど晩御飯ね。お代わりはあそこにあるから好きに取って良いからね」
そう言いながら蓮は、綺麗に作られた目玉焼きと、如何にも美味そうに焼かれたウィンナーと白米に輝の為の野菜ジュースを机に並べて行った。…夕食と言うより、朝食っぽかったが。
「うわっ、うまそ…料理も出来るんですね…それに俺が知りたかったことも予想済みですか…ほんとに隙がないですね。なんか羨ましいっすよ」
「そんな事ないよ…それじゃ食べながら話そうかな。頂きます」
丁寧に両手を合わせ、食事の前の恒例行事を済ます蓮に合わせ輝も同じ事をした。
「っと、いけねっ忘れるとこだったぜ…頂きますっと…あ、醤油あります?目玉焼きにかけたいんすけど…」
「ああ、すっかり忘れてきちゃってたね、ごめんごめん…はいお醤油と、一応ソースとか調味料ね。味とか変えたくなったら使ってね。さて……うん、すっごく真剣に食べてるね…やっぱり食べ終わってから話そうか」
久しぶりのまともな食事に、輝は我を忘れて食べまくっていた。その姿を見てやっぱり男の子だなぁ、と微笑ましく思いながら蓮も卵焼きにソースを大量にかけ、そして口に運んだ。
「ああ…この濃さが一番だよね…ぼ…私もお腹空いていたからね…食事に集中しようかな…」
そして、腹を空かしていた二人はお代わりを挟みながら、夕食をあっと言う間に食べ尽くし、直ぐに片付けまで済ましてゆっくりと食事の余韻に浸っていた。
「ふぃ〜…ご馳走様でした。いや〜こんな美味え晩飯はなんか久々っすよ。ほんとにありがとうございました」
「はい、お粗末様でした。まあ大した物じゃないけどね…それじゃあそろそろ、話して行こうか…まず魔界フィールドに付いて話そうかな」
「それですよ!実はすっごい気になってたんすよ。何なんですか、あそこ?」
[マスター…お母様が話そうとしていたでしょう?余計な口を挟まず黙って聞いていて下さい。それではお願いします、お母様]
「フレイ?そんな言い方しないの…それでは説明していくね。魔界フィールド…20年前、私の父が発見した未知の領域だよ。世界中のありとあらゆる場所に存在しているんだ。イメージとしては、地上と大気圏の中間くらいの位置かな?そこに、生き物が無意識の内に放出している魔力が入り込み、そして消えて行くだけの…言わば魔力の墓場、だったんだけどね…」
[…お母様、辛いのでしたら私がお話しましょうか?]
「…いや、これは私が話すべき事だよ。…少し昔話をしようか…」
フレイに心配されながらも蓮は、ゆっくりと…少し悲しそうに話し始めた。
「ある所に正義感の強い科学者がいました。その科学者はある日魔力と言う力が全ての生物に宿っている事を見つけ出しました。科学者はその力を、何とか人の役に立たないかと研究を重ねました。その研究途中に上空にその魔力が集まっている特殊空間があるのも見つけました。その場所を魔界フィールドと名付けた科学者でしたが、有効活用出来ないでいました。そんな中、政府の偉い人から沢山の研究資材や人員を貰えるようになった科学者は、毎日寝る間も惜しんで研究に没頭しました。そして遂に、魔力を人の身で様々な用途に使える様になる装置の開発に成功しました。しかし、その装置にはまだまだ欠陥が多く、とても実用的な物ではありませんでした。それがわかっていた科学者は、改良の為に手を加えようとしていたのですが、その装置は偉い人に取り上げられてしまいました。科学者は危険だと言い、改良させてくれる様に頼み込んだのですが…それを聞き入れては貰えませんでした。それでも科学者はめげずに研究に励んでいたのですが…」
そこまで話し終えた蓮は、段々と険しくなって行く表情をより一層険しくした。
「…偉い人達はその装置の使用実験を、科学者に何も言わずに始めていました。そして被験者に選ばれたのは……科学者の奥さんでした…生まれつき高い魔力を持っていた彼女は偉い人に騙されて、装置の実験に使われてしまいました…途中までは上手くいっていたのですが…科学者が危険だと言っていた通り、事故が発生してしまい、被験者であった彼女は帰らぬ人になってしまいました…事故の事を知り、奥さんが亡くなった事に付いて当然、科学者は激怒しましたが…しかし権力には敵わずに実験の事、そして自らの研究の事まで全て無かった事にされてしまいました…
多くの物を失った彼の心には、もう正義とか誰かの為とか…どうでも良くなってしまいました…代わりに彼の心には、自分から数々の物を奪っていった人達に…いや、世界そのものに憎しみを抱いてしまいました。そして世界を滅ぼす為に魔力をたった一人で研究し続け、とうとう魔獣の種と言うものを開発しました。しかし…偉い人にこの開発が気づかれてしまい、再び取り上げられそうになってしまいました。ですが科学者は、その偉い人の目の前で魔獣の種を飲み込み…自らの身体を魔獣として、偉い人を取り込んでしまいました。そして、全てを破壊する為に飛び立とうとしましたが…その目に映ってしまったのです。最後に残された自分の大切な者の怯える姿が……それを見てしまった彼は、自分が何をしたかったのか…何をしたのかを自覚してしまい、悲しげな咆哮を上げながら上空にある魔界フィールドに入り込み、消滅するため自爆しようとしました。しかし…それは許されず彼の身体は、バラバラに分解されていき、今日まで続く全ての魔獣の原型となってしまいました…それから暫くは政府の特殊部隊とかが魔獣の対応をしていたんだけどね…どうしても限界があった…それから暫くしてその科学者の娘…私が、残っていた研究データを基に、魔法少女システムを開発。その後は、本部で話した通りだよ……ごめんね?つまらない話を長々と…眠くなっちゃったよね?そろそろ遅い時間だし…それに…」
「…ちょっと待って下さいよ…蓮さん…」
蓮の全ての話が終わり、途中から俯きながらも真剣に聞いていた輝は、ようやく重い口を開いた。
「…魔界フィールドが何なのか…魔獣が何故生まれたのかは、よく解りました。ですが何でそれを俺なんかに話したんですか?俺はつい先日…しかも偶々魔法少女になった様な奴ですよ…それなのに何故…」
「…うん。それはね…君が初めての男性から魔法少女になった人、だからかな…何だろうね…もちろん美月ちゃんや、雷葉ちゃんも頼りにはしてるけど…それ以上に頼りに出来るから…かな?…それにね、偶々とは言え君のお陰で美月ちゃんは助かった。それだけじゃないよ。その後に襲われていたかもしれない沢山の人を救ったんだよ。これは誇っても良い素晴らしい事なんだ。だから自信持って…ね?…それと近い内に、私の父と戦う事になるだろうからね…輝くんはその時の切り札だから…期待してるんだよ?」
「え?でもあの話からすると、亡くなった…と言うか消滅したんじゃないんですか?」
サラリと父との戦いを見越した発言をした蓮に対し、輝は驚いた様子で尋ねた。
「いや、最後の方は実は私の願望が入ってるんだよね…でも私を見た時のあの目はとても悲しそうな目だったから…そうであって欲しいって今でも思っている。だから本当はこの予想は外れていて欲しい…父は自分のした事を、悪い事だって思っていて欲しい…どんな理由があっても、人が人を殺す様な事は絶対あってはいけないんだ…その事をちゃんと自覚して消えていったんだって…でもこの願望は恐らく叶わない…だってあれだけの性能のデバイスを作れるのは、私を除けば一人しか居ないから…」
「あれだけのデバイス…まさか!」
「そう…あれを…シャドウハートを作ったのは…私の父…だろうね…」
あまりにも残酷な事実に、輝は言葉を失った。最後まで話を聞いた当初は、輝はこの科学者の事をとても悲しい男だと思っていた。誰かの為に研究し、その成果と最愛の女性まで奪われ、全てがどうでも良くなり世界に復讐しようと狂って、そして散って行った哀れな男…そんな感想を抱いていたのだが、その男が生きていて、あまつさえ世界を滅ぼそうと行動しているならば話は別である。
輝は認識を改めた。この男は、悲しい男ではあるが容赦する相手ではない…人に仇なす悪党であると…。
「…わかりました…要するに止めれば良いんですね?その野郎を…許せねえな…こんなに想ってくれている人がいんのに…確かにされた事は…正直同情しか出来ねぇ…けどよ…だからって…何の罪もねぇ人まで巻き込むのは違えだろ…安心して下さい、蓮さん。あんたの親父さんは、必ず俺が止めて見せます。それがこの力を認めて貰った俺に出来る…唯一の礼だからよ…」
「輝くん…ありがとう…でも無理はしないでね?君に何かあったら…とっても悲しいから…ね?」
[言ったところで、無駄ですよ…全く…、マスター?お母様を悲しませる様な行動は呉々も慎んで下さいね?あまり馬鹿な事ばかりやっていたら、常に馬鹿マスターと言いますからね?]
「わかってるっての…相変わらずうるせぇな…そんじゃそろそろ、暗い話はこんくらいにしときましょうか。で、実は楓さんの魔法少女時代ってちょっと気になるんすけど、話して貰って大丈夫っすか?」
そう若干悪い顔をしながら、蓮に尋ねた輝に内心でちょっと呆れながらも、苦笑しながら話し始める蓮であった。
「あんまり話さないでって言われてるんだけど…まぁ良いか、まずなんて名乗っていたのかだったけど……」
楓のあまり話して欲しくないらしい話を、とても楽しそうに話す蓮であった。
その顔には先程までの辛そうな顔はすっかり消え去り、柔らかな笑顔を浮かべていた。
二人の話は夜が明けるまで盛り上がったのであった………
仲良くなりたい…だけど…なにも…言えない…どうしたらいいのか…もうわからない…
次回 「水心」
僕は一体どうしたら…




