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第10話 休息

「あぁ…毛布が気持ち良い…もう一生こうしてたい…」

「ふぁぁ…同感ですぅ…もう私…この毛布と結婚したい…」


第10話 休息


前回の戦いで、体力のほとんどを使い果たした輝は、今医務室のベッドで美月と並んで寝ていた。だが少し寝過ぎてしまったのか二人共目を覚ましていた。しかし…


「なんか…こうやって二人きりで話すのはなんやかんやで初めてだな…今はフレイもいねぇし…色々と聞きてぇけんど…あぁなんでこの毛布…こんなにふっかふかなんだよ…あぁ…超気持ち良い……」

「そうですね…私も寝始めてから今までぐっすり眠れましたから…こんなに気持ち良く寝たのは久しぶりです…あぁ…それにしても…気持ち良いですね…もうずっとこうしていたいです…」


二人共、少し薄めの毛布に完全に夢中であった。疲れもあったのだが、それ以上にこの毛布の手触りの良さに取り憑かれていた。それ程までに素晴らしい気持ち良さの毛布であった。


「二人共〜?起きてる…かし…ら…なんだかすっごいとろけてるわね…まぁそのままで良いからいくつか報告があるんだけど大丈夫かしら?」


そんな二人に報告をしようと楓が入ってきたのだが二人の至福の表情を見て、若干引いていたのであった。


「あっ…すいません…今、起きますね…」

「えー別にそのままで良いってんだから、そのままで良いじゃねぇか」


と、輝(21)は美月(17)に対して大人としては駄目すぎる発言をした。


「良いのよ、余り長くは話さないから…」

「どうだか…」

「輝くん?聞こえてるわよ?今回は短く済ませます!多分…こほんっ!それではまずは美月ちゃんの方からいきましょうか」

「はい。お願いします」

「うんうん、美月ちゃんは真面目でいいわぁ…どっかの雷娘や女男とは全然違うわね…それで報告の方なんだけど…まずフレイムハートとしての変身許可は剥奪させて貰うわ…いくら操られていたとは言え司令室に与えたダメージはかなり大きかったからね…こうでもしておかないと後でうるさく言ってくる奴らがいるからね…ごめんね美月ちゃん。貴女は何も悪くないのに…」

「いえ…今回の件は私の心の弱さが招いた事です…この処分は仕方ないですよね…」


美月は俯きながらも、自分の処分を受け入れた。輝はそんな彼女を見てなんとか励まそうと思ったが、言葉が浮かんでこなかった。


「まぁ実際ダメージを与えたのはそこで毛布にくるまってるかわい子ちゃんなんだけどね…まぁ次の報告に切り替えましょうか。美月ちゃんの専用デバイスとして開発が進められていたアクアなんだけど…なんとっ!完成予定が来週に決まったわよ!もし完成したら慣らし訓練は少し行って貰うけど…でも美月ちゃんならきっと直ぐに出撃出来るようになるわ‼︎」

「ほ、本当ですか⁉︎やっ…やったー‼︎」


先程まで俯いていた人間とは思えない程に喜ぶ美月を見て輝は率直な疑問をぶつけた。


「いや…随分と喜んでるみてぇだけどよ…またあんなのと戦う事になんだぜ?お前はそれで良いのか?」

「はいっ!魔法少女は私の夢でしたから…ちょっと子供っぽいですけどね…」


そう言って美月は照れた様な笑顔を輝に向けた。その顔を見た輝はあまりにも純粋な笑顔になんだか恥ずかしくなってしまった。


「お、おぉそうか…別にいいじゃねぇか。夢があるだけでよ。おまけに叶っちまったんだ。最高じゃねぇかよ、そんなの」

「いえ、まだ正確には叶ったとは言い切れないんですけどね…火野さんは何か夢とかあったんですか?」

「あっ私も聞きたいわ!教えて輝くん!」


美月と楓に自らの夢を聞かれた輝は、自嘲気味に笑いながら答えた。


「俺には夢はない…でもな、夢を」

「あぁ無いのね。分かったありがとう。まぁ美月ちゃんへの報告はこれくらいかしらね。次に輝くんなんだけど…ちょっと別室で話したいから起きて貰って良いかしら?」

「へ?だ、だってそのままで良いって…」

「あぁあれは美月ちゃんに言ったのだけど…21歳って聞いてるし、こう言う報告の場面では毛布から出るのが普通な事ぐらいわかってるって思ったんだけど…ねぇ?」

「えぇ…まぁ普通に考えりゃそれもそうだよな…まぁ良いや。あ、その前に1ついいか?」

「何かしら?」

「便所行きてぇんだけど…フレイ貸してくんねぇか?流石にこのまま行くのは…なぁ?」


急に催してしまった輝は男に戻る為、楓にフレイを求めるのだが…


「………ごめんなさい輝くん…今、フレイは整備中でここに居ないの…悪いけどそのまま行ってくれないかしら?あ、トイレならここをでて左に行って直ぐのところにあるから。本当にごめんね?」

「な…んだ…と…」


絶望的な宣言をされた輝は、その表情を一気に曇らせた。


「いやいやいや…幾ら何でも…いや…やっぱ…いや駄目だろ?犯罪だろ?俺の見た目下手すりゃ小学生だぜ?いやいやいや…あぁ…駄目だ…限界が………チクショー‼︎」


男としての意地が、尿意に負けた瞬間であった。そして輝はトイレに向けて、涙を浮かべながら走り去って行った。


「そんなに悩むもんかねぇ?どうせ自分の身体なんだから良いじゃない…ねぇ、美月ちゃん?」

「…男の人の意地でもあったんじゃ無いですかねぇ…あぁまた眠くなってきました…おやすみなさい楓さん…すぅ…」

「ん、おやすみ美月ちゃん。色々とお疲れ様。さて…輝くんでも迎えに行きますか」


美月が寝付いたのを見届けた楓は、輝を迎えに行こうと医務室を出た。すると廊下には、トイレを済ませて、すっきりしたような…何かを失ったような…そんな何とも言えない表情の輝が窓から見える景色を見ながら黄昏れていた。


「…まさか、初めて見る現物が自分のだとはな……つれぇ…辛すぎて涙も出てこねぇ…こんな事なら、もっと積極的に彼女作ればよかった…あぁ…モテた事無かったわ…あは…あははは…」

「えぇと…まぁ見れただけ良かったじゃない‼︎ね?ポジティブにいきましょっポジティブに‼︎」


とてもブルーになっている輝に、フォローになっているのかわからないフォローを入れる楓お姉さんであった。


「あはは…ですよねぇ…一生みれねぇ奴も居ますもんねぇ…その内の一人にならなくて良かったなぁ…あははは…」

「もぅっ!どうすれば戻るのよコレ⁉︎」


色々と面倒くさい感じになっている輝にとうとう楓は泣き出しそうになってしまった。そんな時、眼鏡をかけた白衣の女性が現れた。


「えぇっと…楓?どうしたのこの状況?」

「れ、れん〜これちょっと何とかして〜‼︎」


そう言って楓は、れんと呼んだ女性に泣きついた。


「ちょっと…もぅ…その子が輝くんだよねフレイ?」

[はい、お母様。しかし…どうしたのでしょうか?あそこまで落ち込んでいるマスターは初めて見ますね…]

「ん?フレイか⁉︎お前どこ行ってたんだよ‼︎お前がいなかったから俺は…おれはなぁ‼︎」

「はいはい、ストップ。そんなに食い気味でこられたら、説明出来るものも出来ないよ。ほらちょっと落ち着いて…深呼吸でもしてみたら?」

「……それもそうだよな。悪い…。すぅーふー…よしっ落ち着いてきたな…で、フレイ、お前整備って聞いてたけど、もう大丈夫なのか?」

[はい、マスター。整備と言っても簡単な調整だけでしたから…それよりもマスターの方こそ大丈夫ですか?随分と落ち込んでいた様ですが…]

「あぁそれは…もういい…忘れる事にする…だから気にすんな」

「ふふっ…フレイったらそんなに新しいマスターが心配?はいこの子をどうぞ。ちょっと生真面目で口煩いかも知れないけど、私の自慢の娘よ。大事にしてあげてね」


そう優しく言って、フレイを手渡した女性は輝に自己紹介をし始めた。


「初めまして、火野輝くん。私はここ、M.G.S.Cの開発主任の東条蓮とうじょう れんって言います。フレイ達デバイスを作る…いや、生み出したのは私よ。何かわからない事や困った事があったら何でも言ってね。私の出来る範囲で答えるから…」


楓とは正反対に落ち着いて丁寧に自己紹介してきた女性…東条蓮に対し輝は(おぉ頼りになりそうな人だ…)と思った。


「それじゃあ早速良いですかね?まず…M.G.S.Cって何でしょうか?」

「えっ?もうとっくに説明されてると思ったんだけど…でもここじゃ話しづらいだろうから私の研究室で話そうか。良いよね、楓?」

「何よその目は…仕方ないでしょっ!色々と忙しかったんだから!まぁでも私の話もそこですればいいか…それじゃあ研究室へレッツゴー‼︎」

「……あの人って昔からああ何ですか?」

「うん…昔からあんな感じだよ…でも悪い子じゃ無いし、どんな時でもまず自分より他人の心配をするような、私の親友だよ。それよりも男性には戻らないのかな?ちゃんと戻れているのか確認したいのだけれど…お願いできるかな?」

「あぁ…そうですね…俺としても早く戻りたいです…そんじゃフレイ、頼むわ」

[了解しました。マスター]


初めて男に戻った時と同じ様に、念じた輝はたちまち元の姿に戻っていった。


「ん…はぁやっぱこっちのが落ち着くな…」

「よし…ちゃんと戻れているね。どこか違和感とかないよね?もし問題があったら早めに教えてね?何かあってからでは遅いから…」「はい。なんか色々と気に掛けて貰ってすいません…」

「良いんだよ。フレイがね?君の事すごく気に入っているみたいでね。整備中もずっとマスターは…マスターは…ってね?」

[お、お母様!早く行かないと楓に部屋を荒らされますよ!]

「はいはいっ、それじゃあ行こうか。こっちだよ、着いてきて」

「はいっ!行きましょう!」

(まさかフレイが俺の事をな…嬉しいじゃねえの…それにしてもこの人なら頼っても大丈夫そうだな…南条さんはどっか頼りねぇからな…いや待てよ…こう言う人に限って、部屋が汚かったりとか…人体実験してたりとか…なんか変なとこあんだよな…最後まで気を抜かずに行こう…)

「着いたよ。ようこそ私の研究室へ。ちょっと散らかってるかも知れないけど…」

「いやどこが?」


汚い部屋を予想していた輝はその部屋の余りの綺麗さに少し驚いた。


「そうかな?ほら…机の上に書類が少し散らばってるし…あ、この本も出しっ放しにしてたな…片さなきゃね。あぁ輝くんはそこの椅子に座ってて?今コーヒー淹れてくるから」

(やべぇなこの人。マジで隙がねえ…そう言えば…)

「あれ?そう言えば南条さんはどこ行ったんですか?先に走っていったと思うんですが」

「ん?あぁ多分迷ってるんだと思うよ。多分そろそろ…ほら連絡が来た…もしもし、今どこ?うん…わかった。今迎えに行くから、ちょっと待ってて。ううん良いよ、もう慣れたから。ふふっ…それじゃあね……ふぅ。と言うわけでちょっと行ってくるね。後…はいコーヒーどうぞ。ミルクと砂糖はそこにあるから、好きに使っちゃってね。そのクッキーも食べちゃって良いからね。それじゃあ行ってきます」


そう言って蓮は研究室を後にした。

残された輝は程よい暖かさのコーヒーを口にしながら感動を覚えていた。


(…ベタな展開ってなかなかねぇもんなんだな…てかうめぇなこのコーヒー…それにクッキーも…うん、ちょうど良い甘さだな…はぁ…そういやなんか食うの久々だからやたら美味く感じるな…)


蓮の淹れたコーヒーと手作りのクッキーを味わいながらまったりと二人が来るのを待つ輝であった………


とうとうM.G.S.Cについての説明を受ける輝は、ここで人生の重要な選択を迫られるのであった。


次回 「選択」


どちらを選んでも誰も責めないよ?

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