第8話 母親
「ひぃって…そんな恐いかしらね?」
「いや、恐えからそんなんなってるんじゃねぇの?母さん」
第8話 母親
いざ母親と対峙する輝であったが、先程までとは打って変わって普通の態度であった。
「あら、意外と普通そうね?フレイからの隠し通信ではかなり恐がってるって聞いたんだけど…」
「成る程…それで俺への説教を無くしたって訳か…」
[えぇ、なにせ私高性能ですから。隠し通信ぐらいなんて事は無いのです。それにしても何故余り恐がらないのですか?あれだけ恐がってたのに…]
「どこから声が聞こえてんのかわからないけどこんな美人の事恐い恐いって…全く失礼しちゃうわね」
「俺はそのノリが恐えよ…ところでどうやってここまで来たんだ?それに何処まで説明されたんだ?後、フレイ俺は別に母さんを恐いなんて一言も言ってねぇぞ。唯、怒ると面倒クセェんだよあの母親」
[あぁ成る程…恐がってるのでは無く面倒くさがっていたのですね]
「そうだよ…口は聞いてくんねぇわ…飯は用意してくれねえわ…朝も起こしてくんねぇわで本当に面倒クセェんだよな…」
「あっれ〜もしかしてアッキーマザコン?」
と、響子からの恐怖からやっと復活した雷葉は早速輝をからかうのであった。
「ち、違えよ‼︎別にそんなんじゃ…あぁもぅ悪いかよ‼︎母親に甘えて‼︎お前だって普段は甘えてんじゃねぇの⁉︎」
「あ、輝くんそれは…」
「あたしならそんな事、無いよ。だってパパもママももう居ないから」
そう雷葉はサラリと言ってのけた。だがその内容はとても軽く聞き流せないような重い事であった。
「わ、悪い…知らなかったとは言えつい…」
「んーん、アッキーは悪く無いよ。悪いのはあたしのパパとママだよ…こんな可愛い娘を置いて天国に行っちゃうなんてさ…だからあたしは、精一杯楽しんで生きて生きて生き抜いて‼︎そして天国に行ったら思いっきり自慢してやるんだっ‼︎あたしの人生はすっごく楽しかったって‼︎だから悪いなんて思わなくて良いよ。全然気にしないから!」
そう言って雷葉は明るく笑った。しかし、何処か寂しげな笑顔だった。
「ごめんね…家の馬鹿息子が変な事言っちゃって…でもね一つだけ良いかしら?自分の親を悪いなんて思わないであげて。きっと先に行ってしまって一番後悔してるのは、多分雷葉ちゃんのご両親だから…」
「で、でも…置いてったんだよ?もっと一緒に居たかった…お話したかった…もっともっと褒めて欲しかった…なのに…なのに…」
響子に諭されて、笑顔であった雷葉は暗い顔になってしまった。そして泣き出してしまった。
「パパもママも…私の事なんて…どうでもよかったんだ…大事じゃなかったんだ‼︎だから…あたしを置いて仲良く天国に行っちゃったんだ…そんな親…ど」
「言わせないわよ‼︎それ以上は‼︎」
本格的に泣き始めた雷葉はとうとう親に対する文句まで言おうとしてしまった。しかしそれ以上の文句は、現役の母親が許さなかった。
「自分の子供が‼︎どうでもいい親なんか…大事じゃない奴なんている訳ないでしょっ‼︎もしそんな奴がいるなら…そんなの唯のクズよ‼︎あんたの親はクズなの?違うでしょ⁉︎そんだけ悲しんでるって事は…大好きだったんでしょ?そんな大好きな人達を悪いとか、どうでもいいなんて絶対言わないであげて…ね?」
そう言って響子は優しく雷葉を抱きしめた。
突然の熱いやり取りに楓と輝は、完全に取り残されていたが…
「ねぇ雷葉ちゃん?貴女さえ良ければ家に来ない?」
「ちょっ⁉︎母さん何言ってんだよ⁉︎」
「うるさいっ‼︎あんたは黙ってろ‼︎…でね、貴女のご両親の代わりには絶対になれないけどでも雷葉ちゃんが楽しく生きていくためのお手伝いをさせてくれないかしら。自慢じゃ無いけど家の家族は笑顔の絶えない楽しい馬鹿家族よ?どうかしら?」
突然の提案に、若干迷う様な素振りを見せる雷葉だったがすぐに何かを決めた様に、笑顔でこう答えた。
「それじゃ…お願いしようかなっ…え〜と」
「あ、ごめんね、名乗るのも忘れてたわね。火野響子です。これからよろしくね?雷葉ちゃん」
「響子…響子ママ‼︎よろしくね‼︎」
響子を母親とこの短時間で認めた雷葉は、嬉しそうに抱きついた。その光景を見て居た司令室のほとんどのメンバーがはやくねっ⁉︎と思ったが約1名は違っていた。
「うぅ…雷葉ちゃん…良かったねぇ。お姉さん、嬉しくて涙が止まらないわぁ…うぅグスッ…あっフレイ、ティッシュちょうだい…」
[はい、どうぞ]
「いやいや待て待て待てぃっ!実の息子を前にしてなんじゃそりゃっ⁉︎えっ俺への説教は?なんか言う事あったんじゃねぇの⁉︎」
「いや別に…ぶっちゃけメールとかも面白半分で送ってたし…て言うか21にもなって別にそこまで心配なんかしてないわよ?それとあんまり大声出さないでくれる?雷葉ちゃんが恐がってるじゃない」
「響子ママ、あのお兄さん恐い」
「あぁもぅごめんねぇ…ほら家の可愛い雷葉ちゃんをこんな風にして…あんたはしばらく晩飯抜きよ!その代わり雷葉ちゃんの好きな物作ってあげるからねぇ♪」
「わぁい!あたしが好きな食べ物はね〜」
ブーッブーッ
雷葉が自分の好物を響子に教えようとした時、突如警報音が司令室に鳴り響いた。
「これは…司令!泣いてる場合じゃ無いですよ!Q地点に大型の魔力反応を検知しました。間違いありません!魔獣です‼︎」
「随分と直ぐに現れたわね…輝くん!行けるわね⁉︎」
「え、魔獣?輝なんなのそれ?」
「いや説明されてねぇのかよ!まぁいぃ…南条さんはとりあえず母さんへの事情の説明をお願いします‼︎」
「あ、あたしも行くよっ‼︎」
「いやお前はここに残れ…そんな涙でぐっちゃぐちゃな顔じゃまともに戦えねぇだろ。ここはオレに任しとけ。なーに速攻でケリ付けてくっからよ、それまで母さんの事頼むわ」
[マスター…大丈夫なんですか?]
「あぁ大丈夫だ。問題ねぇ!そんじゃサッサと終わらせますか…変…身‼︎」
と、思いっきりカッコつけて変身した輝であったが、自分が変身したらどうなるかをすっかり忘れていた。
「あ、輝…その姿は一体何なの…こ、こんな…」
「ん?あぁそういや言ってなかったな…これが俺の新しい姿…らしいぜ…」
抱きついたてきた。母親が雷葉を抱えたまま。物凄い勢いで。
「あぁもぅこんな可愛くなっちゃって‼︎いやあ男の子も可愛かったけどやっぱ女の子よねぇ‼︎と言うか最近は全然可愛くなかったし…いやあ今日は最高ねぇ‼︎まさかこんなに可愛い娘が二人も増えるなんて‼︎」
「えーっと…母さん俺の事大事なんだよな?今可愛く無いとか聞き立てならない事が聞こえてきたんだが…」
「馬鹿ねぇ…可愛いのと大事なのはまた別なのよ。そもそも大事じゃなければこんなとこまで飛んで来ないわよ。今から戦いに行くんでしょ?絶対帰ってきなさいよ。あんたの好きな物も作ってやるからね」
「…響子ママを悲しませないでね…アッキー兄ちゃん」
「いつからお前の兄貴になったんだよ…まぁいいわ、そんじゃ言ってくる!母さん…それと、雷葉!」
「…!行ってらっしゃい‼︎」
そうして雷葉は笑顔で輝を送り出した。
「え?私には?まぁいいか…ヘックシ!」
特に何も言われずに出ていかれた楓は、寂しく鼻をかむのであった………
再び出撃する事になった輝は蓄積された疲労により思うように戦えないでいた。
そんな輝に容赦無く魔獣が襲いかかる!
次回 「苦戦」
苦境の最中、新たな力が目覚めるッ‼︎




