第1話 変身
「今日も今日とて暑いなコンチクショー」
と、ぼやきながら本作の主人公火野輝は暗い夜道を歩いていた。
昨年の冬に訳あって仕事を辞めてしまい21歳にして早くも無職になってしまった輝は9月のまだ暑い時期に至るまでバイトで日銭を稼ぐ毎日を送っていた。
(そろそろまともな職を見つけないと母さんにキレられちまうな)
と思いながらもなかなか良い仕事を見つけることができないでいた。
あまり愛想が良くない…というか、かなり無愛想な彼は前の職場でもなかなか馴染めないでいた。それでも根は真面目で、どんな作業も嫌な顔もせずにこなしていたためか、それなりに信頼はされつつあった。
しかしとある上司とのトラブルが原因で少しずつではあったが慣れて来た仕事を辞めざるを得なくなってしまった。それ以来、連続した場所での仕事を避けるようになっていた。だがそれではいけないとも思ってはいるため職自体は探していたのだが…
(だけど今の生活って凄い楽なんだよなぁ)
とも思ってしまっていたためか、仕事探しは全く進展しないでいた。
(まぁその内なんとかなんだろ)
駄目人間全開な事を思いつつそんな彼を厳しくも優しく育ててくれた両親の待つ家へゆっくりと歩を進めて行った。
パキン
突如、何かが割れたような音が鳴り響いた。
不思議に思った輝は、周囲を見渡した。するとすぐに異常は見つかった。
「なんだ、ありゃあ…」
空が割れていた。
あまりの事に呆然となりながら、空の割れ目を見ていると…
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
という叫び声とともに、変な服装の女の子が降ってきた。次々に現実ではあり得ない事が起きてしまい、輝は考えるのをやめてとりあえず女の子を助けに行ってみた。
「大丈夫か?」
「は、はい。なんとか」
とりあえず日本語が通じる相手である事がわかり若干安心した輝は今度は空の割れ目について聞いてみる事にした。
「なんかさぁ、空がさぁ、割れてるんだけどさぁ、あれ何?」
「え、えーと…気の所為ではないでしょうか?」
「いや、流石に無理があるだろ」
いかにも怪しい女の子と話しているうちに徐々に割れ目が大きくなっている事に気がついた。すると女の子はいきなり表情が険しくなり、輝に
「ッいけない!早く逃げて‼︎」
先ほどまでとは打って変わってはっきりと言ってきた。
「逃げる?何から逃げるってんだよ。つーかお前よく見たらボロボロじゃねぇか。何したらそんなになるんだ…よ…」
言いながら輝は最後の、そして最悪の異変に気付いた。
割れ目の中から腕の様な何かが出ていた。
その腕の様な何かはとても大きかった。
それはとても人間が太刀打ち出来る相手ではなかった。
輝は恐怖した。あんな物に掴まれたら自分など一瞬で唯の肉の塊にされてしまうとゆう事を一目見ただけでわかった。いや、わかってしまった。それ程までに大きく、醜い腕の様なものであった。
「いや、腕でいいでしょ⁉︎と言うか早く逃げて下さい‼︎」
あ、声に出てた。とちょっと恥ずかしくなりながらやっとこの女の子の言っている事を理解した輝は、逃げようとするが…
「いや、お前は逃げないのかよ」
「私は…戦います‼︎」
「はぁ⁉︎馬鹿言ってんじゃねえ死んじまうぞ!」
「大丈夫ですよ。だって…私…」
そう言いながら女の子は…いや少女は目を瞑る。そして、何かを覚悟したように宣言した。
「魔法少女ですから‼︎」
「いやほんとそう言うのいいから」
そう言ってかなりカッコつけて魔法少女とか言った女の子の腕をとり無理矢理引っ張って逃げ出した輝であった。
「ちょっと何してるんですか‼︎離して下さい!」
当然、抵抗する女の子だったが…
「うっせぇ!そんなボロボロの格好してる様な奴を戦わせて自分だけ逃げるほど、俺は落ちぶれちゃいねぇんだよ!」
[この方の言う通りですよ、美月]
「そうだ言う通りだろって誰⁉︎」
突然、何処からともなく声が聞こえてきたため思わず、輝は立ち止まって突っ込んでしまった。
「だ、だけど今魔獣と戦えるのは私しか居ないんだよ⁉︎私が逃げたら誰かが傷付くんだよ⁉︎私はそんなの絶対に嫌だ‼︎‼︎」
[それでもです。今の貴女が戦っても良くて相打ちが関の山でしょう。貴女が死んでしまったらこれから誰が魔獣と戦うんですか?誰が人々を守るんですか?貴女は未来の為にも絶対に死んではいけないのです。]
「で、でも…」
「あー‼︎もう、面倒くせぇ。俺が戦ってやる‼︎それで文句ねぇだろ‼︎て言うかあの腕の様なものさっきから全然動かねぇんだけどあれもしかしたら死んでんじゃねぇの?」
「だから腕でいいんですってば‼︎」
[突っ込むところはそこではないでしょう…
残念ですが貴方では私を…ちょっと待って下さい。これは…いけるかもしれません。美月、変身を解除して私を彼に渡して下さい]
「え?どうゆう事?まぁフレイがそう言うなら従うけど…」
そう言って女の子…天野美月は変身を解除し
さっきまでの変な服装から女子高生の制服に戻った様であった。
「はい、コレをどうぞ」
[コレとは失礼ですね…]
「あっごめん、つい…フレイです。壊さないで下さいね?」
そう言いながらスマートフォンの様な形状の小型デバイス『フレイ』を美月から受け取った輝は
「いや、戦うって言ったけどさ…俺男だよ?あんな格好したら俺捕まるよ?捕まんなくても世間から白い目で見られるよ?あと俺の質問に答えて?あの…面倒くさいから化け物でいいや。あれ生きてるの?死んでるの?」
と、思っていた事を伝えた。
[生きています、間違いなく。一応こちらに落ちる直前に動きを極端に遅くする魔法をかけたので死んでいる様に止まっていますが、美月が変身を解除した事で直に動き出すでしょう。格好については…]
「まぁこの辺りはほとんど人も通りませんし…大丈夫ですよ。多分。」
「多分じゃ駄目なんだよ、多分じゃ‼︎」
そんなやりとりをしていると、後ろからパキパキパキッと嫌な音が聞こえてきた。恐る恐る後ろを振り返ると、
《ウォォォーーン‼︎‼︎》
「で、でたーーーーーー‼︎‼︎」
出てきた。出てきてしまった。大型の魔獣に普段はあまり出さない…今日に限っては割と出してる大声をあげてしまった輝であった。
「お、落ち着いてくだださいい‼︎」
[美月、貴女の方こそ落ち着いて下さい…それでは…まず貴方の名前を教えて下さい]
「そういや名乗ってなかったな…火野輝だ、よろしく頼むぜフレイ‼︎」
[火野輝…輝ですか。分かりました。それでは貴方が思い浮かべる変身の言葉を思い浮かべて下さい。そして私をかざし叫んで下さい。それだけで充分です]
「変身の言葉?そんなもん一つしかねぇよな…!」
そう言って輝は不敵に笑い、フレイを胸の前にかざし全力で叫んだ。
「変…身‼︎」
叫び声を上げた輝の身体は、眩い光に包まれた。
魔法少女バーニングハート
第1話 変身
初めての変身を果たした輝であったが、余りの自らの変化に戸惑いを隠せないでいた。
そんな輝に、凶暴な魔獣が牙を剥く‼︎
次回 「魔法」
迷いを振り切り、絶望を打ち砕け‼︎