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一夜限りの大抜擢

作者: 日下部良介

9月11日に誕生日を迎えた、呂彪弥欷助さんへのギフト小説です。

 愛しの横浜球団がCS進出に向けてペナントレースを戦っている。

 そんな折、僕が子供とキャッチボールをしていると、いきなり見知らぬ男に声を掛けられた。

「君が必要になった。来たるべき日に迎えに来る」

「何のことですか?」

「その日が来れば判る」

 そう言うと男は立ち去った。



 今日は横浜球団にとっての大一番。

 僕も家族でスタジアムへ応援に行った。

 相手は昨年の覇者だ。

 勝てばCS進出。負ければ4位転落。


 スタジアムの入り口で僕は数人の男に両腕を掴まれた。

「ちょっと! あなた達は何なんですか? 僕はこれから家族と…」

「迎えに来ると言っただろう」

「はあ?」

 有無も言わさず彼らは僕を連行した。

「あなた!」

「お父さん!」

 妻と子供が呼び止める。けれど彼らはお構いなしだ。

「後で必ず行くから、取り敢えずスタジアムに入っていてくれ」

 僕は妻と子供にそう言い残すのが精いっぱいだった。



 夫が連れ去られて不安な気持ちでいっぱいだった。けれど、私は子供とスタジアムの席に着いた。そして、間もなくゲームが始まった。

「お父さん遅いね」

 子供も心配そうにしている。

「大丈夫よ。もうすぐ来るから」

 そう言って子供を抱き寄せた。


 試合は横浜球団が1点をリードして最終回に入った。しかし、相手は昨年の覇者。今シーズンも首位を独走しているチーム。最終回、ノーアウト満塁と攻め立てた。私たちはいつの間にか夫のことも忘れて横浜球団の応援に夢中だった。

『横浜球団、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、伊納に代わりまして呂彪。背番号18』

「呂彪? 誰だそりゃあ?」

 スタジアム中がどよめいた。いきなり聞いたこともない選手の名前が告げられたからだ。

「まさか…」

 でも、そんなことがあるはずはない。たまたま同じ名前の選手が居たんだわ。私は自分の夫の名前が呼ばれたのではないかと思った。でも、そんなはずがあるわけない。夫は普通のサラリーマンだし、子供とキャッチボールをするくらいで野球をやっていたなんて聞いたことがない。


 そうこう考えているうちに、ブルペンから背番号18を身に付けた選手が出てきた。

「お父さん!」

 子供が叫んだ。私は辺りを見渡した。夫がようやく戻って来たようだ。しかし、どこにも姿が見当たらない。

「ねえ、お父さんはどこ?」

「あそこだよ!」

 子供が指差したのはグランドの中だった。横浜球団の背番号18を身に付けてマウンドに向かう選手。私たちの方に向かって手を振った。それはまさしく、夫の呂彪弥欷助だった。

 夫は後続の打者を三者連続三振に切って取った。試合終了後、私たちは選手控室に呼ばれた。夫は今後も球団でプレーするように勧められたのだけれど、これっきりにして欲しいと断ったそうだ。


 試合の翌日、うちの口座に莫大な金額が振り込まれていた。マスコミでは一夜限りの救援投手の話題で持ちきりだ。けれど、そんなことはまるで他人事のように今日も夫は子供とキャッチボールをしている。

「お父さん、もっとちゃんと投げてよ」

「おう! 悪い、悪い」



 数日後、妻に聞かれた。

「どうして、球団に残らなかったの?」

「君や子供と一緒にいる時間が少なくなるだろう」

 僕の答えに妻は満足そうだったけれど、あの時の報酬には未練があったようだ。そのお金は子供の名義にして別の口座に移してある。あの時のことは次第に忘れ去られるだろう。それでも僕は家族と一緒に居られることが一番幸せだと思う。

 




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― 新着の感想 ―
[一言] わあぁぁぁ…… ステキな一夜をありがとうございます! まさかの大役! しかも、スカウト! それを……カッコ良すぎ(照)。
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