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君の名は  作者: 空井 純
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清水と老犬の14日間

映画や名作の『君の名は』とは全く関係ありません

 のどかな昼過ぎ。今日の山田動物病院は手術の予定もないので、午後の時間はゆったり過ぎる予定だった。誤解されやすいが、多くの動物病院は午前12時に一度診療を終わり、午後は16時くらいに始まることが多いが、この間は昼休みではなく、主に手術の時間で、中では忙しく動いているのだ。

 しかし、今日は予定が入っていないので、獣医師はそれぞれカルテを書いたり、前から気になっていた病気や検査について調べたりして、看護師たちは普段手が届きにくいエアコンのフィルタなどこまかな清掃などをしてくれていた。

 そんな折、インターホンが鳴る。ピーンポーン。検査で預かっていたプードルが、自宅のインターフォンと間違えたのか、わんっわんっわんっと激しく鳴いた。

「おいおい、おまえんちじゃないんだから守らなくていいから」

 プードルに話しかけ、たまたま裏口近くにいた獣医師の清水がインターホンを取る

「はい、どちら様ですか」

「お休み中すみません」

 お休み中ではなく、手術時間なんだけどと思うが、今日は実際休んでたなぁなど関係ないことを考えていた清水に、来訪者が話を続ける

「あの、外を歩いているワンちゃんがいて、迷子みたいなので、連れてきたんですけど」

 ああこれかと、少し面倒な気持ちになる。が、インターホン越しの話しではらちがあかないだろうことは明白なので、裏口を開けて来訪者と犬を招き入れた。

 犬を保護したという40代の主婦風の女性は、申し訳なさそうに入ってくる。あまり動物病院にも慣れていない様子で、きょろきょろと院内を見まわして、どうしたものかという感じでいる。連れているのは白っぽい中型の日本犬、ザ、雑種という風貌の犬だ。緊張気味の日本犬特有の無表情な様子から、人懐っこいタイプではなさそうだと判断する。

「すみません。ワンちゃんが一人で歩いていて、首輪も綱もついていたからだれか探しているのじゃないかと思って。ほっておいたら交通事故にあってしまってもかわいそうだから連れてきたんですけど、どうしたらいいですかね」

 女性に詳しく事情を聞くと、女性は動物は飼っておらず、この病院の患者さんではなかった。そして、たまたま近所のスーパーに買い物に来たところ、この犬がリードを引きづったまま歩いているのをみかけ、事故にあっては大変と捕まえて連れてきたということらしい。清水と女性が話している間も、犬は、どこかに動くでもなくボーッとしているのか、呆然としているのか、尻尾をだらりとおろしたまま、たたずんでいた。

 病院に迷子犬や迷子猫を連れてこられても病院で引き取るわけにはいかない。そんなことを繰り返していたら病院中が居候だらけになってしまう。だから、通常は一時的に保護して、警察と愛護センターに連絡をし、飼い主を待つことにある。しばらくしても飼い主が現れなければ、保護した人に引き取ってもらうか、どうしても引き取れない場合は愛護センターに引きとてもらうことになる。だが、今回はリードを引きづっており、首輪もしている、しかもよく見れば首輪には狂犬病の鑑札も付いているのが確認できた。そこで清水は、まあ飼い主はすぐ見つかるだろうとたかをくくり、女性に連絡先は聞いたものの、あとは病院で何とかしますと言って引き取った。

 もちろん女性はホッとした表情で帰って行った、きっと『動物病院の先生はやっぱり動物に優しいのね』と思ったに違いない。

 のんびりした午後の毒気に充てられ、安請け合いしてしまった清水の詰めは甘かったと言わざるを得ない。この世に絶対ということはないのだ。


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