1.独白
私の家の中。両親と妹が死んでいた。
切り刻まれた父さんは寝苦しそうな格好で横たわって、それはあまりいい表現じゃないけど、帰り道に見た田んぼに転がっていた案山子みたいで……。
母さんも恐怖に歪んだ顔をしていて、固まっていて、抜け殻のようで、馬鹿馬鹿しいほどに、簡単に死んでいて……。
埃一つ無いほどきれいに整頓されている部屋の真ん中に、横たわる妹。
そこにあるべき体から吹き出たはずの血液がどこにも無い。服には赤いシミが限りなく広がるというのに、その先がなにもなくて。ホラー映画で見るような赤い光景を見ないで、少しほっとした。
そんなずれた事に考えがいっている私の視界の端で、誰かが動いた。
そう、誰かが。私達家族四人以外の誰かが。
この家の、こんな状況で、居合わせる人。
その人は、いた。
この光景を見ても、その光景を目撃してしまっても、まるでどうでもいいというような、つまらなそうな眼。
きっと、犯人のくせに。
私の家族を、殺したくせに。
何かが抜け落ちてしまった私の感覚は麻痺してしまい、おかしな質問をしてしまう。
何をしたの?
「さあね」、とその人は嘯く(うそぶく)。
あなたが殺したの?
「そうだよ」とその人は言った。
なんで、殺したの?
「そうでもしないとやっていけないからかな」
――私も殺すの?
「多分ね」、とその人は言った。だから、きっと私は死んでしまう。
だから、気になることを一つだけ。
……まさか、血を吸ったの?
その人は答えず近づいてくる。
あまり、怖くなかった。
あまり、悲しくなかった。
あまり、悔しくなかった。
家族がいなくなってしまったなら、もう、どうでもいいや。
多分、私はこの時そう思っていた。
何もかもが、もうどうでもいい。
自分がそんな考え方をすることに、少し驚いた。
もう少し、家族思いな人間だと思っていたのに。家族が死んでるのに、私は、私は涙さえ出せない。
気がつけばその人は座り込んでいた私の前にひざまずき、そっと腕を回し
ていた。
抱きしめられているのか?
何をされているのだろう。何をされるのだろう。
その人は口を私の首筋に押し当てた。
――あなたは、だれなの?
そこでやっと、初対面の相手に初めにする質問をした。ちゃんと発音できていたか怪しいが、それでもその人には聞こえていたらしく、答えてくれた。
「あんたが考えてるような、吸血鬼なんかじゃあ、ないよな」
その人は口を開き、私の首筋にかみついた。
そこで私は、目を閉じた。