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ドリーム☆マシン  作者: 暁倉カオル
5/5

第五話 「夢が現実を、滅ぼす。」

鬱屈した感情にさいなまれるタカヒロは、ドリーム・レベルをさらに上げるが・・・・

   ・・・・そのときの自分は、落ち着ける時間がどうしても欲しくてね。なんかとっとことっとこいきすぎたのもわかってるけど・・


 



   そうして自分の考えを整理したりしていく。



 



  まだ、この機械の味を、完全にはわかっていない自分も、そこにいるのではないかと。





   だから、今度はそれなりのリスクを背負う覚悟をもったうえで、もう一度あの世界に飛び込んでみよう。




   そうして、オレはもう一度、自分の頭に装着具をつける。



精神衛生値も正常。おまけに耐久レベルも回復度もはじめたときに比べればすごく上がってた。



 


   そうか、やったことは嘘ついてないんだと。


     


    それは、現実として、たしかに刻み込まれてるんだな。




 ・・・・なにもしなかったら、夢の中ですらなにもイメージ出来ていない自分がいることがはっきりしてくる。



 



  同じことを何度も繰り返し、同じような悔しい思いも繰り返すけど、



    


      今度はもっとすごいことをやってみたい。




   そう思って自分はレベル⑤の、最高値である「強制睡眠モード」を選ぶ。




   


   レベル④はすでにこれまでの体験で、耐久可との測定を受けているので、その前提で、だ。




     レベル⑤は、強制睡眠モードといって、ある程度、夢の構想を設定することはできるけど、本人の願いをかなえるために、本人が意図しないようなものも含めてスペクタクルを見せつけてくるらしい。





   リスクとしては、強制睡眠のせいで、現実と夢の区別がつかない感覚に陥りやすいことらしい。




   しかしそれがよいほうに向くこともあるようで、なにか身体を動かしたり、アイデアを浮かべるときなどは、これが非常に効果的なのだ。




   ・・・・いつもの合図を叫ぶ。「スタート!」






   これまでのレベルと違う。



    ステンドグラスも見えない。濁流に流されていく感覚だ。



      ん?ちょっと頭痛い感じするけど。すぐ消えたな。



 どこ?あれっ・・・そもそもなにしにきたのか、急に思い出せなくなってきた。




   でも、いつもと変わらない田舎の家なのに、自分のホームグラウンドだって感覚がある。


 こんな家、リフォームされて10年前後で、新しいだけで、なにも目新しいものもないのに。




   一日三回しかバスは通らない。コンビニも歩いて1時間はかけなきゃいけないのに。



 ふだん道を通るのは車か農作業をするひとくらいだ。





  そういう田舎者のさみしさやコンプレックスを、全力で刺激するここは、あんまり好きじゃない。






   もともと中学に入るまではそれなりの町並みをしていたところに住んでいたからか、ここのひとにも、この土地になじむのにも、すごく苦労した。




   



   名古屋や東京みたいにガヤガヤしているところも人混みがヤバくて孤独感を加速させていくからあんまり好きではないんだけど、田舎は田舎でなんもないから、ここだってじゅうぶん孤独を感じさせていたのに。







   おまけに帰ってくればたいてい母さんのでかいリアクション(機嫌が良かろうが悪かろうが)。





   家にいたって落ち着かないっていったいどういうことですか?





          おかしくないですか?





   ・・・・・うまくいかないことだらけで散りばめられている現実に、やっぱ納得いかないなー。






  べつに転校する前でもすごい幸せをいつも感じていたわけじゃないけどね。






    人間の孤独とか、無力感って、ほんとうは人がいるとかいないとか関係ないんだなぁ。





 そう、ここは朝のいつも通りの我が家の前だね。なんでここいるんだっけ? 






  時計は朝5時15分、家でできることって何だろうなと思ってると、スポーツ選手の体型をした人が自分に近づいてくる。


 




      えっ・・・




         黒井直樹さん・・・あの名投手だ!




      「おはよう。岡野君。」



 


  「あっ。はい。小さいころ、僕、あなたのファンでした!サインください!」



       返事がないな。





       



        なんで・・・だろう。



 


    「岡野君、どうしても頼みたいことがある。」


     なに?


 



  黄色の派手なサングラスを外した黒井さんはオレに縄をはいといってぽーんと投げて渡す。






    「いまから、縄跳びを1000回、どんな跳び方をしてもいいから、一日でやりとげてほしい。」



     うっ。それ相当やばいなぁ。



    これで、自分の強さを試す気なんだろうな。この人は。



 



    「わかりました。できる限りのことをやってみます!」


 




       「できる限り、ではダメなんだよ。」


 





        「・・・どういうことですか?・・・」






    

  「これを一日でやりきらなきゃ、人類は滅ぶ。」



   「・・・は・・・い?」



  



   「なんかの冗談だろうっていう顔をしているね。でも、本当のことだから。」



   「そんなもん、黒井さんがやれば僕よりは楽勝じゃないっすか。」



    


     「いや、オレではダメなんだ。」





         黒井さんが下を向く。




    どういう意味だ?



  「俺にとって当たり前なことをやっても意味が無いんだ。



     奇跡ってのは、その本人にとって無理に思えるようなことをやらないと。だから、俺がやっちまったら、奇跡じゃない。」



  「・・・・・」


   で、どういう関係で人類が滅ぶか、まだ説明されていない。


 「これをやりとげないと、人類が滅ぶって言いましたけど、どんな風に滅ぶんですか。



     自分がこれをやって、どれだけの人類を救う力が発揮されるんですか?教えて下さい黒井さん!」





    「そいつは言えないんだ。悪いね。




    でも、君の今日の一日の過ごし方で、人類の存亡が決まるんだ。


   


  それだけは事実だからな。



   ・・・・それじゃ俺は人類最後の日を楽しんでくるわ。」






     「なにするんですか。」







   「隣町のバッティングセンターだよ。人生最後の日は野球で終える。故障とかもしたけど、そんなに悪くない人生じゃないかとも思うんだよ。じゃあな。」





    「ちょっとちょっと!黒井さん・・・」






   ・・・・なんでどいつもこいつも好き勝手なんだよ。





   オレとコミュニケーションとれよ。おまけに人類最後の日までこんなんか。





   黒井さん、しつこく言ってたけど、オレが縄跳びやらないと、ほんとうにこの世界が滅ぶの?






   ンなこと言ったって・・・運動神経も悪くてスタミナもないオレには、無理難題でしかないよ・・・・






  でも、それではここにきた意味は無い。いまからなら間に合うかもしれない。

 



    とにかく、やってみよう。やれるかぎりのことを。



     


      正直、人類が滅びるとは、思えないけど。





  黒井直樹の




  「俺がやったら全然すごくないけど、君ができたら奇跡なんだ。」





     って言葉が気に入ったから。





    世界がどうなろうが知らない。だから、やる。








  そうして、まわりの人から見れば無益にしか見えない縄跳びを、ただ黙々とやる。








    だんだん、気温が高くなってくる。がむしゃらにやったので、200回でもうバテバテだ。そして、家の方から、タカヒロー!!ごはんよ!の声。





     母さんだ。





  ほんとなら、ぶっつづけでやらなきゃいけないのに。




     でも、もうバテてる。ましてや高校時代運動部に入ってなかったし、

ペース配分もスタミナもへったくれもない。



 



    どんな一日を過ごしても、自分は母の料理には嘘はつけない。






     たぶん、この世がもうすぐ終わりそうだなんて、みんな実感ないんだろうな。




      


    当たり前の日常だもの。この食事の風景って。




    



    「タカヒロ、どうしたの?今日も呼んでからご飯食べにくるの遅かったよ。味噌汁とか、冷めないうちに早く食べなさいよ。」



 




    「母さん。ごめん。でも、僕は母さんの料理を食べたくないと思ったことは一度もないから。




   僕は母さんの料理信じてるよ。もう自分の身体になじんでて、当たり前の味だってくらいに。」



 




  「いきなり何を言い出すかと思えば・・・だったら早く食べに来なさいよ。」





     「はい。」



 「ところで、こんな朝はやくに、なんで縄跳びなんかしていたの?」



 「ちょっと太ったからね」



 「あぁ。でも暑いし、無理はしないでね。」

 



    「わかってる。それにさ。」



 「うん。」



 「ちょっと自分でやろうと思ったことを一日やりきろうと思ったから。」




   「うん。」



 「やれるかなー。やれるかなー。って不信感がどこかしらついてまわる人生だったからね。




   就職するまでのあいだに少しでもそういうのに立ち向かえる人生にしていきたいと思って。」


 




      「うん。」



 




  「さっきからうんうんうんうんしか言ってないけど、話し聞いてるの?(笑)」





    「聞いてるよ!私の親は私の話とか聞いてくれなかったし・・・





   だからこうして聞いてんじゃん。おまけにお父さんは私の話を否定して、こっちのほうがいいんじゃないかとかそういう言い方しかしないし。」



 


    いや、それ人の話を聞いてるとは言わないから。





     ってゆっても・・・オレも同じかぁ・・・


 



   金銭的に超絶困っているわけでなくても、はたから見れば離別、死別がなくても、うまくいかない、通じ合わない、もしくは各々の言いたいことをつい言ってしまったりする。




   相手の気持ちも知らないし、完全には知ることもできないで。そうして、いつしかそういうことを、みんな放っておいてしまうんだな。





   その積み重ねがよいほうにも悪いほうにも響いていくことを、理屈ではわかっていても、嘘は付けない。




   というか、嘘を言っても、心や体がついていってないから、すぐバレる。無理して、母親を全肯定することも出来ない。




    でも、よいと思ったことに嘘はない。だから、言っておきたかった。肌で、心で感じてることに、嘘があるはずがないから。




    「母さん、もっと自分の料理に自信持っていいと思う。」


 



    「どういうこと?」



 「いやぁ、怒られたりしてケンカとかいっつもするけど、自分は母さんの料理の味に嘘だけはつけないんだよね。美味しいなっていつも思うし。




   もうそのことが当たり前になってる。けっして食べることに抵抗があるわけじゃないんだよ。」




「わかってるけど・・・私が作った料理は軽んじられてるんじゃないかなって・・・」





「ごめん。わかってるんだけど、自分のやりたいこともあるんだ。それに、」



 「それに?」


 「ゆくゆくはこの家を出て行かなきゃいけないかもしれない。遠いところで仕事するかもしれないでしょ。」



 


「わかってる。」






「いつまでも母さんがいないとってメンタルじゃダメだと思う。」



 




「だからそのために私は・・・」



 



 「気持ちも分かるんだけど、いつか僕が自立できるって信じて。



ほんとうに大事だと思ったことには、責任を持ちたい。



いつも、ほんとにごめん。実際自分は料理とかもぜんぜん出来ないし、それが情けないとも思ってる。でもいつかそうなれる僕を信じて欲しい。」



 「信じるって・・・私自身が不安で仕方ないんだよ。




    すぐやらかすし、あんまり人に認められないし・・・いつもさみしいし。自信ない。みんなそうなんじゃないかな?」





    「それは違うっていうか、度合いあると思う。それに、暗くなるようなことばかり考えても、いいことはない。






     自分は最低限の自信をもてるってラインがほしい。それって若いうちにしか、なかなかやれないと思うんだ。





     で、大学生活って、最後のチャンスかなってね。それに、」



 



      「それに?」


 




    「自身のないやつに女性はこない(笑)」

 




    「まぁ、そうだね。あたしはお見合い結婚だし、自分から恋愛したことないからわからないけど、自信のなさすぎるひとはイヤかな・・・」



 



     「それはずるいよ(笑)」




      



      「ってこれ朝する話?(笑)」



 思わぬところで言葉のキャッチボールができている。



 じゃぁ、痩せたいからいってくるねと言いかけたけど、




   その前に、ありえないかもだけど、ほんとうにありえないかもだけど、





    もしほんとうに最後の朝食だったなら・・・自分が使っている皿を、たいらげたあとの皿のよごれが急に気持ちが悪く感じたので、せめて食洗機のなかにくらいは入れておこうと思って。






   皿とかテーブルにおいたまま出発して、よく怒られてたってのもあるけど、母の料理を常に感じているのなら、せめてそれにかかわることくらいは自分も感覚で感じていると知って欲しかったから。




はやく、こんなことはさっさと終えてしまいたいけど、他のことだってやりたいし、それのみで生きていけるわけでもなし、オンリーワンって感じで人生に残したいわけでもないし・・・こんなの、任務は遅れた。








    でも、順序はきちんと守っているからか、なにも感じなくていい。




    ただ、目標の数だけ翔べばよい。単純作業とか、ワンパターンが大好物な自分にわりとあってるのかもね(笑)



 といっても、スタミナが、食べたからといっても、足がパンパンで、もうついてこなくなってきている。



 朝食のときと同じように昼食をすませ、600回を過ぎたあたりで、16時に一度エアコン全開で眠りにつく自分。






    電話の子機のアラームは18時にセットして1時間ちょっとできれば今日が終わればなんとか終えられるだろう・・・





    おっ・・・18時なんだね。疲れてるけどあとちょっとだから・・・まぁこんなことで人類が救えるなら安いもんですよね。



 「タカヒロ!ごはーん!!」



 

    えっ今日は早いね。まぁいいか。



 



   それはそうとして、窓を見ると、18時にしては妙に暗いしすこし涼しくなってないかな?



 





        げっ!!!





     や   ら   か  し   た

 




     あー。まぁでも・・・うん。なんとかなるでしょ・・・



 



   でも、考えてみたら、残り時間での400回やべーよな。まぁそんなことで人類滅んでもオレのせいにすんのが悪いんだ!



 



    てなわけで、人類最後の晩餐といきますか!



 



     「今日の夕飯はなに?」



    




       「ステーキだよ!」






       「ウソ!」

 



   「こんなところでウソついてどうすんの(笑)」



 



    「え・・・また礼儀作法?・・・」



 



    でたよ。岡野家母親専売特許『先回り教育』。



 そういやこの前もウザがってケンカになったよなぁ・・・



 



     そんな怒らんでもいいのに。



 






   こっちも疲れてるんだけど・・・ってあっちはあっちの事情、こっちはこっちの事情ってことですよね結局。






     わかってるって。わかってるけど、母親のみならず、ケンカしちゃう自分がめんどくさい。


 




   なによりもイヤなのはさぁ。自分のまずさも自覚してるからっつうか、痛いとこ直視する感じね。




  あれがもう耐えられない。こないだもケンカした挙句、「テキトーに箸使って食べな!」って怒鳴られて終わったわ(笑)



 でもさぁー。まぁいつも真剣にとってたら疲れるけど、女の子は極力引かせたくないね。



 




   この人も、女性だしね。気になるから言ってくれてるんだろうな。






    「せっかくだから。持ち方のコツとか教えてから、肉切りたいんですけど・・・」



 






   「あぁ・・・それは、力入れないで、こうやって・・・切る瞬間だけに力を入れて。」



 




     「えっ?力入れないで?」



 




    「そう、力入れないで。」



 



   礼儀作法ってかたくるしいから、てっきり力ガチガチに入ってるもんだと思ってたわ。


 






     あっ、スムーズに肉が切れていく・・・・






     こんなやりかたで、肉が切れるんだ。




    



   あっはっはっはっはっは。

 





   気がついたら自分の痛さに笑いが止まらなかった。





   情けないんだけど、べつに痛いからムカつかないなんて、はじめて。こんな感覚。それってすごくおもしろい。





   20年かけてようやく肌で感じられたことが嬉しい。



 







   信じてない自分も自分で、すごくバカなんだけど、それをいまこんなことで直視できてる自分は悪く無いなって思うんだ。





    大事を成さなきゃ報われることなんかないと思ってたけど・・・・



 





   こういう嬉しさで、一日つなげたりもするんだ・・・



 




   「母さん。料理、いつもより美味しいよ。なんていうか、丁寧に口に運んで味わって食べてるからかなぁ・・・」



 




   自然と自分のよいと思った感覚が、言葉として出てくる。もっと早く気づいてたら、今ごろバラ色な未来か・・・はわかんないね。



 






   でも、今日感じたり、やったことは、間違ってない。今日のオレ、イキイキしてた。





    



    「ありがとう。」



 



   同じ言葉なのに、ぜんぜん軽々しくない。うんうんってテキトーにうなずいてるときの相槌とは違うのがあきらかにわかる。


 



  少しずつしか、気持ちって通じないんだな・・・でも、少しずつ進んだものほど、確実で、嘘をついていないなって思える。



 



   おっちょこちょいで失敗が多いから、いつも自分が嫌な思いにさいなまれていってたけどうれしくないことがこの先あるのかって不安があるからだもんな。


 



   



    そんな現実があっても生きていける大人は、すげえわ。






      少しずつの現実を、もう少し信じるためにも、やりきろう!

 





   へとへとになってもやりとげたとき、きっと見えるものがあるから!



 



   ・・・・あー。遠い。でも、でも、こんちくしょー!



 届かん・・・・急ピッチでやったはいいものの・・・



 




   のこり35分・・・・とどかねぇし、無理だわ・・・あと143回・・・・足も動かん・・・・



 




    こんなことゆってるけど、もっかい確認したいけど、人類滅ぶのかな?しつこく神様に聞きたいね。

 




    ぜんぜんそんな予兆は・・・・



 えっ?


 




   急になんか石みたいなのが降ってきたぞ?


 

 



    これマジの隕石?



  夜なのに、パッと気持ちが悪い火を帯びた光が遠くで消えたあと!激しい地鳴りがした!


 






   なにがおきてるの?地震?爆撃?


 







   そのとき、1隻の巨大戦艦が、圧倒的な科学力から生み出されたレーザー光線をつぎつぎにオレたちの惑星に浴びせてくる。


 





  誰なんだ、こんなことをたくらんでいるのは。


 






   「タカヒロ!たいへん!たいへん!」



 





   「いったい何が起きているっていうんだよ!」



 




  「わたしにも、お父さんにも、テレビでもわからないのよ!」



 






  真っ暗な闇から、小さい隕石が降ってきたり、レーザー光線で爆撃されたり・・・






    違う惑星の人間?

 



 いや、でもそんな奴等とオレの縄跳びになんの関係があるっていうんだ?



 たかだか、オレがやる運動だろ?







 ふつうの、なんのへんてつもないただのダイエットのつもりでやることってだけだろ?






ぜんぜん関連性がわからない。





  オレに魔力か神通力でもついってるっていうわけ?


 




   それがなぜ・・・・?



 





   状況はオレにもみんなにも説明してくれない。



 





   そのとき、メガネをかけた自分の目から、あきらかにこれまでの隕石やレーザーなどとは違うなにか黒さを帯びつつも巨大なものが遠くに近づいてきているのがわかった。






   チラチラと、炎をあげているのだろうか?巨大でかつ高速な物体なので、自分たちとどれだけ距離が離れているかもわからない。




   



   たぶんそんなことを感じる余裕もなかったんじゃないだろうか。



 もう縄跳びだなんて言っている余裕は、もうどこにもなかった。





   こんな状況ではなおさら縄跳びなぞできる気持ちにはなれない。






  しかし、その巨大な物体は、確実に大地へと根を下ろし、自分たちに災いをもたらそうとしていることだけは理解できた。



 でも、どうしようもない。怖さがまた自分を支配していく。おおわれていく。


 






   たくさん失敗はしてきたけど、今度はなに?







   人類がオレのせいでほんとうに滅んじゃうの?

 






「タカヒロ!タカヒロ!どうしたの!こんなときに縄なんかもって!はやく逃げなさい!」



 「いや、違う。母さん!ごめん!自分はこれでやらなきゃいけないことがあるから・・・」



 手元にあるデジタル時計は午後11時47分を表示していた。


 




   「いいからはやく逃げなさい!」



 




     「わかった。」







     事情を話しても、わかってくれるはずがない。

 





  オレはとうていこの時間では無理なのをわかっていても、縄を手放すことができなかった。そして、逃げた。



 「どうにか父さんも私もあんたも、逃げられたみたいね・・・」



 そうして、オレたち3人家族は、ときがたつのも忘れるくらい、炎やがれきのないところを探して、走った。





   車を使えば良いじゃないという声もあるだろうが、不規則にくるレーザー爆撃や隕石を考えると、がれきなどによる障害物の存在に寄って車での移動のほうがリスクが高いと父さんが判断したからだ。




   むしろ障害物がないところが、見当たらない。



 






   ・・・・あった。かつて、転校前に自分が住んでいた、アパートの近辺だ。






     

街はほとんどやられてしまっている。


 




   ひどい有様だ。



 




   ここに、戻ってきたのか・・・こんなときに・・・



  そういえば、同級生の、淳平君、和夫君、剛君、晋太郎君、どうしてるかな。小学校のとき、好きだった、美玲ちゃん、あとオレのことよくからかって見下してきた嫌な女、あいつがいちばん印象に残ってる。いちばん嫌だったやつなのに(笑)





   どうしてるかな、転校してから会った子は数少ないけど、元気にしてるかなぁ・・・無事だといいなぁ・・・








     みんな、死なないでよ・・・生きててくれよ・・・



 頼むから・・・


 




  アパートのあったところを見ると、他の建物は焼け焦げてもいるが、あきらかにはそうではない様子が深夜を過ぎた当たりでも理解できた。



 なにかが積まれている・・・・



 




   ヒトだ。それもおそらく、生命力をすでに失った、生き物の体液が流れっぱなしの、死体の山。




   生臭すぎるにおい。何者かに惨殺されたようだ。





  そのなかには、かつて住んでいたアパートの大家さん夫婦もいるのがわかった。





     ただ、死体の山の中で手がかすかに動いているのが見えた。


 オレたち家族3人は、必死にそのわずかでも生きようとする動きに、こたえようと、必死におびただしい『無力の塊』から、「生命」を取り出そうとする。







    ようやく、3人で救いだしたと思った瞬間、その片腕はちぎれ、からだがズルズルと出てきて、2メートル近く積まれた死体の中間地点にはさまっていたところから落ちた。




   もうすでに息絶えていたのだ。


 自分たちは、身体を引っ張りだすことに必死で、途中でその人間の脈もはからず、死んでいたことに気が付かなかったのだ。





   顔も、身体も服も、血のりがこびりつき、なにも見えない。でも、せっかく引っ張って、姿を見れるのだから、父さんはオレたち2人といったん離れ、焼け野原のなかから水のありかを必死に探すことになった。






    そのあいだ、ゴシゴシと血のりをとっていく。


 





  1時間後、誰かの車を借りパクしたカタチで父さんが戻ってきた。


 「まいったね。川はだめだったよ。焼け死んだりしたひとが大勢川に身体を突っ込んでいたよ。大やけどで耐えられなかったんだろう。





 だけど、地下水をくみ上げてある水路できれいなところがあってね、もぬけのからの家からバケツをいくつか頂戴してね。まず、この人に水をかける前に、お前も母さんも水を飲め。」


 





  母さんは泣きつかれてもう、声が出ない。オレはただ、現実が受け止めきれず、放心状態。


 




  「はやく飲むんだ!!生きてる人間がなにもしないでどうする!!」


 





  父さんの怒鳴り声で2人ははっとする。気がつけば、水をごくごく飲んでいた。






    いっそ死んでしまいたいとも思ってしまう。こんな生き地獄。





   しかし、そのいっぽうで水を飲んでいる。身体はまだ生きることを求めていることに、オレは涙を流していた。


 




   まだ死にたくないという気持ちが、この期に及んで残ってるんだと。


 「しかしやけに静かだな・・・よそからきた父さんたちが事情を知らないのは当然だが・・・





   これだけひとが殺されたり、爆撃らしきことで焼け死んでるのに、自衛隊や警察はなにをしてるんだ・・・




   さぁ、タカヒロ、手伝え。この水を一部お湯にして、この人の顔や身体をできるだけキレイにしてあげるんだ。こぼれてるが、それでもなにもしないよりはマシだろう。」


    



      「はい。」


 




   父さんと自分はミニバン車からバケツを取り出し、タバコのライターで火をつけ、キャンピング用にとふだんもっていた道具を使いながらお湯を沸かしていく。






   母さんは再び黙々と血のりをとっていく。お湯をある程度の量で沸かすと、オレも血のりをとるために必死に手伝う。





 ・・・・その90分後、ようやく身体や顔がわからなくなるほどの血のりはとれ、本来の人間の顔が見える。


 




    待って・・・この顔・・・いやだ・・・


 





    引っ越す前に大の仲良しだった、淳平君じゃないのか。


 





  違う、違うはずだ。彼だけは、きっと生き残っているはずなんだ。名前がわかるとこないのか。


 







   オレは必死に、この男性の着ているジーンズの右ポケットのふくらみを取り出した。財布だ。






     そこに保険証か財布が入っていれば、誰かが分かる。





   知りたくないけど、彼ではないのかもしれないのだから。その可能性に賭けるしかなかったんだ。


    ・・・・・・・・・





   トドメにトドメを指すような現実に、オレはただ、立ちつくしていた。







   その運転免許証も、保険証も、まごうことなき彼のものだった。






   オレはただ、地面を何度も拳で叩きつけるくらいのことしかすることもないし、できることもなかった。


 






   自分と同じ生き物の変わり果てた姿に、気持ち悪さとおそろしさで強烈な吐き気が口まで押し寄せる。






   どうして、こんなことに・・・






   「オエッ!」








   ただ、焼け野原となった地面に自分の弱さをそのまま吐き出すしか無い自分に、またむなしさがつのる・・・



     もういいだろ・・・・



  1時間ほど仮眠をとったが、どうも寝付けない。ろくに眠れもしなかった。当然ともいえる。



 時計は朝5時を迎えようとしていた。



 これだけの大惨事のあとでも、オレたち3人は生き残ったってわけか・・・




   でもこれからどうやって生き延びればいいんだ?


 


 しかし、事態はさらにオレたちを追い込んでいく。


 オレはやがて、その音から、危険を察知した。



 眠気でぼんやりしているので、不正確なのだが・・・



 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・・・



 人の足音のようだ。それも、大勢の。








 しかも、これまでからの経緯からいって、味方とは思えない。あの死体を山積みにしていった者たちではないだろうか。






   だんだん姿がぼんやりと見えてくる。間違いない、軍隊だ。


 




   やばいんじゃないか。



 




   背筋が凍りつく。



 



     軍隊の足がとまる。遠くから明らかにこっちを見ている。


 




    軍人のひとりがなにか言っているように見えた。



 





   全員ではなく、手勢として30人くらいがこちらに向かってきている。








      

「父さん、母さん、起きて!逃げるんだ!こっちに軍隊がきてるんだよ!おそらく僕らを殺しに来たんだ!僕にはわかる!」




 




    3人はあわてて逃げようとする。しかし、もう遅い。軍隊のひとりが父さんの胸部を撃った。



 即死だった。心臓を貫かれたのだ。



 母さんからしてみればケンカは絶えないものの、20年以上暮らしてきた夫とこんなカタチで別れることが、耐え切れなかった。








   「動くな。地球の人間は一人残らずすべて殺せという命令だからな。悪く思うなよ。」

 





  覆面をかぶった兵士の1人がオレと母さんに銃をつきつける。


 





   ああ、ほんとうにこれで、終わりなんだ。もうこれ以上生きる理由がない。どうせいっしょに母さんも死ぬんだ。




 ブォーン!



 




  なにごとかと思い、振り向いてみると、オレたちに銃を向けた兵士は銃で撃たれていた。車は直進し、銃撃を避けながらこちらに向かってくる。







  どこかで見かけたことがあるサングラスの男は、1人で25人ほどを機関銃で確実に倒していった。






    黒井直樹だ。

 オレはまっさきに、黒井さん!と声をふりしぼるように叫ぶ。


 彼は車の席から音響メガホンをとりだして言う。


 「悪いねぇ。あんたらの不愉快な仲間は、殺らせてもらいましたわ。





    こんな弱い者いじめは、見ていられないんでねぇ。どうです兵隊さん。私に殺される前に、自分の命は未来に投資しておきませんかね?」


 

しかし、オレたちを囲んでいた残りの3人ほどの軍人たちも、最後の抵抗とばかりに、オレに銃を向ける。

 







   「おっと。それはこっちのセリフだな。お前、こいつらを助けにきたんだろうが、無理だぜ。






   俺達の仲間をたくさん殺してくれたようだが、この2人が殺されたんじゃぁ、その目的も意味は無ぇだろう。さぁ、おとなしく白旗あげな。




  お前の実力なら上層部にかけあって、兵士として命だけは助けてやらんこともない。」





     「わかった。銃を捨てるよ。」



 機関銃を手の届かない位置に放り投げ、無抵抗なことを証明するように手をあげる。




 「ンなわけねぇだろっ!」





     そう言って、プシューッと催涙スプレーを連中にぶつける。





    そして、わやくちゃになった間に、軍人たちをつぎつぎに左ポケットに隠していた自動拳銃で襲いかかる。







  とはいえ、覆面をしている『奴等』のほうが、マスクをしているし効果は薄い。





   何が起きたのだと慌てさせるだけの話だ。すぐに立て直してくる彼らは銃撃してくる。






    それをものともしない黒井は元アスリートの反射神経を生かし、たくみに銃撃を避けていき、オレと母さんを車に載せて車をひたすら走らせた。



 「ん・・・んっ・・・」



 




   車は止まってるみたいだな。



 「起きたかい?」



 




   「はい。」


 





      「身体は?」







     「まだちょっと変な感じがします・・・ゴホッ、ゴホッ・・・」

 






    「ごめんな。ちょっと咳が出るだろう。」


 




   「はい。」



 




     「君のお母さんは?」



 




   「無事です。生きてます。」



    




        「そうか。良かった。」








      次の言葉が出てこない。

 





   ほんとうに人類は滅んだんですか?



 たったそれだけのことが、こわくて、聞けない。



 「どうした?」



 寝ていた黒井が運転席から左にいたオレに顔を向ける。



 



   「いえ、なんでもありません・・・」



 




   「言ってしまったら自分の存在に不安を持ちかねない状況であることを実感するからかい?」




 




    「黒井さん・・・」








    「・・・・」



 



  「岡野君、実はね、君がこんなことをしなくても、人類はきっと滅んでいたよ。なぜなら君の精神力と体力では、1000回をあの日にやることはほぼ不可能だと最初から決まっていたからさ・・・」



 「それじゃあ!僕は関係ないじゃないですか!」



 




    「だが・・・」








     「君は人類の再生を託されたんだ。」



 



   「誰によって、ですか?・・・」



   


     「それは俺にもわからない。」



 




       「・・・・」



 





    「それでも、君はこの世界での存在を求められた。だからここにこうして生きていられてるだろ。」



 




    「・・・・実感がありません・・・・」







     「無理もない。だから、生きている限りは、その意味を考えながら生きることもしないとな。」

 





   「そもそも、こんな状況がもう、すでに耐えられませんよ・・・」



 



   「それもそうだ。」



 「だが、そう言ってられる状況じゃないのは君も理解できるね?」



 




    「はい・・・」





    「あと2時間ちょっとで、追っ手が来るだろう。」


 




   「ここは、どこ・・・ですか?」

 






   「君の家があったところだ。いまは焼け出されてしまったがな。なにも残っていないよ。」



 「そうですか・・・想像はついていましたが・・・そもそもここにどうやってきたんですか?がれきとかの障害物がたくさんあったし・・・」



 「さっきと乗ってる車が違うのがわかるだろ。」



 



    「はい・・・でも、いつの間に?」






     「車を乗り換えたんだよ。さっきのは、本来警官がバレないよう監視用に使ってたやつだ。」


 「そのままじゃやばいだろ。ただでさえ目撃されてるのに」



 「まぁ・・・・」



 「だからオレは君とお母さんもいっしょに載せて、いったんオレが強奪したやつらの飛行艇で、ここまで飛んできた、というわけさ。」



 「ってこれ・・・僕の父さんの車じゃないですか?」



 「そうだ。車体はボロボロだが。最悪の場合、ここが君たちの死に場所になる。最悪な人生の終わり方だろうが、あそこで死ぬよりはお父さんも喜んでくれるだろうさ・・・・うっ・・・・」

 




   「黒井さん・・・・・!!!」



 



   「悪いな・・・・俺もそう長くはもたなさそうだ・・・」




 「聞きたいことが多すぎますけど・・・僕たち家族をこのタイミングで助けたのは、なぜですか?」



 「君に死んでもらったら困るからに決まってるじゃないか。」






    「あのとき・・・・あんな真実かわからないようなことを言って・・・去ったのはなぜですか?」


 




   「君がそもそも、縄跳びすらしないと思ったからさ。こんなぶっ飛んだ話・・・」



 




    「ふつうそうですよね・・・」




 「でも君は1000回には届かなかったものの・・・・ある程度の回数を跳んだね。




   1000回に届いたとしても、君が人類を救えたかはわからない。結局詳細はそのぐらいしかわからなかったけどな。



    いや、これでは詳細とも言えないよ。情けないね、俺は。」







     「・・・そんなこと・・・ありませんよ・・・」



 




  「俺は君がいないあいだ・・・なぜ君がこんなことをやると、人類が救われるのか・・・君が跳んだその回数のぶんだけ、人生をやり直すチャンスが残されていることがわかったんだ。説明はとんでもなく長くなるから、最低限のことは伝えたぞ。」


 




    「はい。」



 





     「君は少なくとも、600回以上は跳んでそうだな。」



 




   「見てもいなかったのに・・・わかるんですか?」







     「その顔をみれば、じゅうぶんに伝わってくるよ。」 



 「ありがとうございます・・・」


 






   「あ、そうそう、最後に大事なことを言うのを忘れていたよ・・・俺はおしゃべりだからな・・・・



  ついつい自分の言いたいことばかりしゃべってしまって、大事なことは先送りだ・・・




   いいかい・・・よく聞くんだ・・・俺は君がなぜ何回も人生をやり直せるかを調べていたんだが。





   これがなければ、君の人生を、人類が壊滅する前からやり直すことが出来なと言われていたんだ・・・・それがコレさ・・・ううっ・・・」


 





   黒井は脇腹をずっと抑えている。服で止血をしているが、いっこうに止まる様子がない。







    「鍵・・・・この車の・・・・」








      「そうだ。これは君のお父さんの車の合鍵だ。」








    「でもどうして・・・!?」



「まぁそこは想像にお任せするよ。安心してくれ・・・・君が心配するほどの悪行じゃない・・・・






   とにかく、この鍵を使って、エンジンをかけてくれ。いくら君が車校に通っていて仮免許をとったばかりといっても、エンジンをかけることくらいはできるだろう。好きなときにやればいい。ただし、君が死ぬ前にな(笑)」



   「はい。」


 




     そんな情報、どこで調べたんだ。






    「そうすればどうなるかはわからないが、人類が滅びる前の世界に戻れる。ただ、そこで何度も任務を課されることは間違いない・・・






   そうしたらまた今回の繰り返しだ。いいね。必ず君の命が尽きるまえに、この車のエンジンをかけるんだ。





   さっき調べたけど、エンジンも動く。俺が使っても違う世界にゆけはしなかったけれど、君なら行けるはずさ。いってもらわなくちゃ困るがな。」







   「黒井さん!!僕も、最後に伝えたいことがあります!!」



「なんだい・・・」








「僕は小さい頃、あなたの大ファンでした!!故障してからも・・・





    引退して路頭に迷ったとマスコミに叩かれても、あなたがマウンドに立とうとする姿が好きでした・・・苦しいはずなのに・・・楽しそうで・・・」









      「なんだい・・・最初に会ったときも言ってたじゃないか・・・・





     でも、今の君が言ってると、重みはだいぶ違うな・・・




    そりゃあ、苦しさと楽しさが背中合わせになることはあっても、楽しいとラクがいっしょじゃないからな。




    いまの君に言われることは、すごくうれしいよ。俺から野球をとったら何も残らんからな。





    そのあとはひたすら、カタギじゃないことばかりやっていたし・・・だから嫁さんにも息子にも見捨てられたんだ。



        すまん、なんか辛気くさい話になっちまったな。」

 



 





    「いえいえ。息子さんも奥さんにも、僕は生きていてほしいです。」







      「もう奥さんじゃないって(笑)まぁ、そんなことはいいんだ・・・ありがとう・・・親権もとられちまったからな・・・いまはどうしているのかすら、わからない・・・君くらいの年になって成長した姿くらいは見て、死にたかったよ。」




 「黒井さん・・・・死なないでください!僕は、生まれ変わったらプロ野球選手になりたいんです!






   アトピーだとか、胃腸が弱いとか、そんなことはもう言い訳にしません!自分の窓からあなたのピッチングフォームのマネをしてるだけの自分じゃなくて、あなたを越えたピッチャーになって見せます!」



 「エンジンをかけて運転して、君が何歳の時点で人類滅亡前に戻るかわからないのに、か(笑)・・・・





   こんなときでも君は面白いことを言う・・・どこまで本気なのかはわからんが・・・




   でも、野球じゃなくても、その気持ちを忘れずに生きてくれよ。俺だってかなえてきたことばかりじゃなかった・・・





   もっとスゴいピッチャーになりたかったしな・・・打ちのめされたことのほうが多い。






    それでも、できる範囲で現実を生きたつもりなんだがね。夢をみるから、期待しちゃうから、ツラいんだけどな・・・




    現実っていつも遠いだろ?夢と。




     夢や期待が甘いぶん、遠ざけられているように感じる。」







「はい。今なら少し、そのことがわかります。」



「でも、それは、遠いのが当たり前なんだ。というより、ずっと着くことはないとも思う。」



「君は、近づけるよろこびをもっと知って生きてほしい。夢と現実の格差が大きすぎるせいで、見えなくなるのも分かる。






   でもそれでは生きていておもしろくないんだ。夢や空想は、心のなかでしか触れられないけど、




   現実は、触れられる良さがある。チクチクしたり、やけどしたり・・・夢だけでは触れられないことが人生たくさんある・・・」






     オレはもう、なにも言えない。





「へらず口が多い俺も、そろそろしゃべり疲れてきた・・・そろそろコーチも迎えに来てくれるだろ。こんなシッチャカメッチャカな状況になっちゃったけど、君に会えて、息子を守ってる気になったから、嬉しかったよ・・・・ほんとうにありがとう・・・そろそろ俺をラクにしてくれ・・・お母さんを大切にしろよ・・・俺のぶんまで幸せにな・・・」






      「黒井さん!!!」

 





   ・・・・黒井は力尽きた。



     悲しさが自分を包み込む。









   やっぱり無理だ。どうしても立ち上がれない。気力がない。もう痛いことや悲しいことを重ねたくない。



 また、奴等が近づいてきている。





   今度ははっきりとわかる。


 





   催涙スプレーの影響も残っているし、疲労感でやれることは限られている。幻覚が見えてきて、自分の意識が分裂していく。



「どうした岡野!黒井さんとの約束は忘れたのか?」



「そんなこと言ったって、僕には無理だよ・・・」



「じゃあどうしてなんであんなにたくさん縄跳びをしたんだ?」


 





   もはや自分自身とすら、コミュニケーションがとれていない。





    

「岡野君はもうじゅうぶんやったよ。かわいそうだね・・・こんなにまでなって、人類を守れだなんて・・・



   しかもわざわざ自分で人生をやり直す回数増やしちゃったんだもんね・・・」






    「ここで人類救ったら、ヒーローだよね、オレ。」









    「こわいよ!もうラクにしてくれよ!」









      根拠の無い愚かさ、自分可愛さ、自己顕示欲、いい子ぶって誰かにほめられたいと叫ぶ見返り要求、・・・・キリがないその他、都合の良い期待という名の夢がぐるぐると自分の中をまわる。






   それも、生きているうちにしか抱くことができないんじゃないかと、自分はそのとき思った。








   そのチャンスをもらったなら!!!!


 





   「動くな!そのなかに貴様らがいるのはわかっているぞ!!」








   例の覆面の奴等が窓越しに銃を突きつける。





    「くっそぉ・・・なんでこんなときに・・・やっと、立ち上がるほんとうのこころが芽生えたと思ったのに!!!」




 と、右手でハンドルを叩いていた。








   「出てこい!エンジンをかけても無駄だぞ!その瞬間銃弾は車の窓を貫いて、お前の脳みそは活動を止めちまうぞ?





    横で寝ているお前の母親も同じだ!30秒数えるまでに出てきたら助けてやる。いち、に、さん・・・」


 





     「思ったことを言っていいですか。」


 




    「なんだ!」








   「父さんや黒井さんを殺したようなお前らが、淳平君を殺したお前らが、そんな甘い話を現実にするわけないだろ!!!」



 






        すばやく、自分でも信じられないすばやさで一瞬のスキをついてエンジンをかけアクセルの回転数を自分でも信じられない早さで上げる。




 




  しかし、爆走への口火を切ると同時に、「くそっ・・・」という銃を突きつけた奴の声とともに、銃声が響き、オレの頭を貫いた。







  貫通したので、痛みすらまともに感じない。








    再びオレの視界がぼやけていく。今度こそほんとうに終わりだ。これでようやくオレの人生終わるんだ。



 




    結局車を発進させたけど、いいことはなにひとつとして無かったのかな。







     でも、母さんは守ったよ。


 






   母さんは守ったって言っても、親より先に死ぬことになるんだから、とんだ親不孝者だよ、オレは・・・








   いや・・・待って、いまの自分はハンドル持ってる。






     それも見えないトンネルを。ここが死後の世界なのか?








   高速道路だな。この感じは。ん?インターチェンジに勝手にすいよせられていく。



ETCらしきものが見える。「カードをお入れください。『再生ジャンクション』へとご案内いたします。なお、このカードは残り857回使えます・・・」





てことは・・・


 すぐそこに、自分の家があるのが分かる。母さんもいっしょに連れてきていることを振り向いて確認した。









     戻ってきたんだ!!!この世界に!!







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