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「掃除機」10円
人類の繁栄と共に地球はますます暑くなっていた。温暖化は、時折人類に牙をむく。人類は知恵を絞り、自然をコントロールしようと考えていた。
研究所の一室。博士と助手は、何十年もとある研究をしていた。
「博士、とうとう完成しましたね」
「今までの苦労が報われるな」
「子供たちの未来も救われるでしょう」
突然、ドアが開く。武装した兵隊が雪崩込んできた。博士も助手も銃を突き付けられ、思わず両手をあげた。兵隊たちの顔は、ガスマスクで覆われていた。
「博士、その掃除機をいただこうか」
「長い研究のすえに手に入れた掃除機だ。渡してたまるか」
「この掃除機が、命よりも大事か?」
博士の喉元に、銃口が触れる。
「渡さない、渡したとしてもマニュアルが無ければ、使いこなせまい」
「ほう、面白い情報だな。マニュアルも一緒にいただこう」
「おい」
兵長が、部下に指示する。助手の喉元に銃口が当たる。
「あぁぁ」
助手は震えていた。
「やめろ、掃除機もマニュアルもくれてやる」
「はかせ……」
「どこにあるんだ?」
「その引き出しの中だ」
引き出しを引っ張りだす。マニュアルの表紙をめくった。
「これだな」
革の鞄にしまう。
「ずらかるぞ」
掃除機は、部下が持ち出した。研究所内に、兵隊の姿が消え、土足の足跡だけが残った。
「博士申し訳ありません」
「もう良い、また出直せばいい」
ここで、天気予報をお伝えします。今日未明、沖縄県が暴風域に入りました。強風、波浪、高波、長雨、土砂災害警報が発令されております。くれぐれもご注意ください。
台風41号は、明日の朝9時頃、鹿児島県南部に到着する見込みです。現場の、沖野レポーターと中継が繋がっています。
「現場の沖野です」
「沖野レポーター、そちらの様子はどうですか」
「すごい風です」
傘が風で飛ばされそうだった。
「雨も激しいですし」
「はい」
「え、何がどうなってる?」
「沖野レポーターどうかされました?」
さっきまでの長雨と強風はおさまり、青い空が顔をのぞかせた。
「た、台風は姿を消し、空が晴れています」
「台風はどこへ?」
今年の台風は、原因不明の消滅事件が相次ぎ、国民たちはラッキーだと思う者たちで溢れていた。
しかし、平穏はいつまでも続かなかった。兵隊によるク―デターが発生したのだ。テレビ局が二時間で制圧された。
「日本の皆さん、こんにちは」
誰だ。国民はきょとんとしていた。
「数々の台風は、私たちの掃除機が吸い込みました」
ばかかこいつ。国民は言葉の意味を理解できず。映像が、森に切り替わった。
「証拠をお見せします」
掃除機のスイッチを押すと、森が風で吹き飛んだ。その場に土しか残っていない。
「素晴らしい台風の力だ」
なんてことだ。国民は、従うほか無かった。
「日本人よ、降伏せよ」
兵隊たちによるクーデターは成功した。
薄暗い地下。鍛冶屋の音がする。武器の手入れを怠らない人たち。老若男女数百人が隠れていた。
「俺たち、レジスタンス組織ヴァルハラが、日本を奪還する」
リーダーは、仲間を鼓舞した。
「一体どうやって、あの台風に対抗するんだ」
「紹介しよう新しい仲間だ」
「こんにちは」
どこかで見たことがある二人だった。
ヴァルハラは動き始めた。国会議事堂、警視庁、消防庁、防衛庁が爆発した。
「さあ行くぞ」
リーダーは、本拠地のテレビ局を目指した。敵はプロの兵隊たちである。寄せ集め集団のヴァルハラは、一人また一人と戦場で散っていく。劣勢に立たされたが、圧政に耐えかねた一般市民も奪還に参加し、ぎりぎりの攻防をしていた。
テレビ局の入り口で、リーダーと男二人は、掃除機を持つ兵長と対峙した。
「お前らは下がっていろ」
兵長は、部下たちを下がらせた。
「まさか、まだ歯向かう者がいたとは、一秒で蹴散らしてくれる」
「ただ、やられるだけとは限らないぜ」
「博士、お願いします」
博士と助手は、それぞれ掃除機をスタンバイした。
「複数の台風とやり合う気か?」
「イエス」
「馬鹿な男よ、大人しく研究所にいれば死なずに済んだものを」
兵長は、掃除機のスイッチを押した。
「唸れ台風41号」
博士が掃除機のスイッチを押し反撃する。
「ハリケーンジョディ」
「なんだと!」
台風とハリケーンがぶつかり合い相殺された。
「ふふふ、やってくれたな。だがいつまで続くか」
「行け台風42号」
「ハリケーンキャロル」
一歩も引かない。風同士がぶつかり消えた。
「まだまだ、台風43号」
「ハリケーンマーガレット」
三度目も、引き分けだった。
「台風はたっぷりあるぞ、台風44号」
「ハリケーン……。弾切れだ」
兵長の持つ台風の数は、博士たちの予想を越えていた。風の怪物が、博士に押し寄せる。今まで、見守るだけの助手が掃除機のスイッチを押した。
「十万ボルト」
バチバチッ、巨大なイナヅマが兵長に落ちた。掃除機と兵長は焼け焦げた。
「終わったな」
「博士、今までお世話になりました」
リーダーが、二人の前に立つ。
「二人とも良くやった」
「悔いはありません」
周辺にいた全員、台風44号に飲み込まれた。
完




