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「掃除機」10円小説家で検索

掲載日:2014/04/13


「掃除機」10円


 人類の繁栄と共に地球はますます暑くなっていた。温暖化は、時折人類に牙をむく。人類は知恵を絞り、自然をコントロールしようと考えていた。


研究所の一室。博士と助手は、何十年もとある研究をしていた。

「博士、とうとう完成しましたね」

「今までの苦労が報われるな」

「子供たちの未来も救われるでしょう」

突然、ドアが開く。武装した兵隊が雪崩込んできた。博士も助手も銃を突き付けられ、思わず両手をあげた。兵隊たちの顔は、ガスマスクで覆われていた。

「博士、その掃除機をいただこうか」

「長い研究のすえに手に入れた掃除機だ。渡してたまるか」

「この掃除機が、命よりも大事か?」

博士の喉元に、銃口が触れる。

「渡さない、渡したとしてもマニュアルが無ければ、使いこなせまい」

「ほう、面白い情報だな。マニュアルも一緒にいただこう」

「おい」

兵長が、部下に指示する。助手の喉元に銃口が当たる。

「あぁぁ」

助手は震えていた。

「やめろ、掃除機もマニュアルもくれてやる」

「はかせ……」

「どこにあるんだ?」

「その引き出しの中だ」

引き出しを引っ張りだす。マニュアルの表紙をめくった。

「これだな」

革の鞄にしまう。

「ずらかるぞ」

掃除機は、部下が持ち出した。研究所内に、兵隊の姿が消え、土足の足跡だけが残った。

「博士申し訳ありません」

「もう良い、また出直せばいい」


 ここで、天気予報をお伝えします。今日未明、沖縄県が暴風域に入りました。強風、波浪、高波、長雨、土砂災害警報が発令されております。くれぐれもご注意ください。

台風41号は、明日の朝9時頃、鹿児島県南部に到着する見込みです。現場の、沖野レポーターと中継が繋がっています。

「現場の沖野です」

「沖野レポーター、そちらの様子はどうですか」

「すごい風です」

傘が風で飛ばされそうだった。

「雨も激しいですし」

「はい」

「え、何がどうなってる?」

「沖野レポーターどうかされました?」

さっきまでの長雨と強風はおさまり、青い空が顔をのぞかせた。

「た、台風は姿を消し、空が晴れています」

「台風はどこへ?」

今年の台風は、原因不明の消滅事件が相次ぎ、国民たちはラッキーだと思う者たちで溢れていた。


 しかし、平穏はいつまでも続かなかった。兵隊によるク―デターが発生したのだ。テレビ局が二時間で制圧された。

「日本の皆さん、こんにちは」

誰だ。国民はきょとんとしていた。

「数々の台風は、私たちの掃除機が吸い込みました」

ばかかこいつ。国民は言葉の意味を理解できず。映像が、森に切り替わった。

「証拠をお見せします」

掃除機のスイッチを押すと、森が風で吹き飛んだ。その場に土しか残っていない。

「素晴らしい台風の力だ」

なんてことだ。国民は、従うほか無かった。

「日本人よ、降伏せよ」

兵隊たちによるクーデターは成功した。


 薄暗い地下。鍛冶屋の音がする。武器の手入れを怠らない人たち。老若男女数百人が隠れていた。

「俺たち、レジスタンス組織ヴァルハラが、日本を奪還する」

リーダーは、仲間を鼓舞した。

「一体どうやって、あの台風に対抗するんだ」

「紹介しよう新しい仲間だ」

「こんにちは」

どこかで見たことがある二人だった。


 ヴァルハラは動き始めた。国会議事堂、警視庁、消防庁、防衛庁が爆発した。

「さあ行くぞ」

リーダーは、本拠地のテレビ局を目指した。敵はプロの兵隊たちである。寄せ集め集団のヴァルハラは、一人また一人と戦場で散っていく。劣勢に立たされたが、圧政に耐えかねた一般市民も奪還に参加し、ぎりぎりの攻防をしていた。

テレビ局の入り口で、リーダーと男二人は、掃除機を持つ兵長と対峙した。

「お前らは下がっていろ」

兵長は、部下たちを下がらせた。

「まさか、まだ歯向かう者がいたとは、一秒で蹴散らしてくれる」

「ただ、やられるだけとは限らないぜ」

「博士、お願いします」

博士と助手は、それぞれ掃除機をスタンバイした。

「複数の台風とやり合う気か?」

「イエス」

「馬鹿な男よ、大人しく研究所にいれば死なずに済んだものを」

兵長は、掃除機のスイッチを押した。

「唸れ台風41号」

博士が掃除機のスイッチを押し反撃する。

「ハリケーンジョディ」

「なんだと!」

台風とハリケーンがぶつかり合い相殺された。

「ふふふ、やってくれたな。だがいつまで続くか」

「行け台風42号」

「ハリケーンキャロル」

一歩も引かない。風同士がぶつかり消えた。

「まだまだ、台風43号」

「ハリケーンマーガレット」

三度目も、引き分けだった。

「台風はたっぷりあるぞ、台風44号」

「ハリケーン……。弾切れだ」

兵長の持つ台風の数は、博士たちの予想を越えていた。風の怪物が、博士に押し寄せる。今まで、見守るだけの助手が掃除機のスイッチを押した。

「十万ボルト」

バチバチッ、巨大なイナヅマが兵長に落ちた。掃除機と兵長は焼け焦げた。

「終わったな」

「博士、今までお世話になりました」

リーダーが、二人の前に立つ。

「二人とも良くやった」

「悔いはありません」

周辺にいた全員、台風44号に飲み込まれた。





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