お題で30分:食事
休み時間とは至福の時。朝のホームルームと一時間目の間のこの時間。存分に伸びをし、ツイッターに走る。しかし、それは突然遮られた。
「おまえ、朝飯抜かしてんじゃないのか?」担任が私の目の前に来て言った。「朝飯抜いちゃいけない事ぐらいおまえだってわかるだろ? な?」
つくづく面倒臭い。担任独特の、言わば教え口調というやつか。それが堪らなく嫌いだ。私の価値観を、世間で通じるものにすり替えようとしているのがお見通しだからだ。全部決めつけて、本当の意味で生徒に向かい合おうとなんてしないで、ただ押しつけるだけ。いかにも頑固でじじくさい。
現に今だって、私は朝食を抜いたとも抜いてないとも言っていないのに抜いた事にしている。まあ図星なんだけど。だが、抜いたと言えば担任はもっとまくし立てるに決まっているので、ここは食べた事にしておく。
「朝飯抜くとなぁ! ……聞いてるのか梶原?」
「朝は食べてきました。これ以上私の時間を邪魔しないで下さい」
イライラした私は素っ気なく返したが、それが気に障ったらしい。スマホをやめ、ちらと担任の顔を窺うとまなじりがつり上がっている。面倒な時間が伸びたか。
「さっさとそれを言わんか! 朝飯を抜いてないならそれでいい! せいぜい味わえ!」
それだけまくしたてて、そのまま教室から出て行ってしまった。ラッキー、……と思いきや、もう一時間目まで時間がない。それで早く引き揚げたのか担任め。
けだるい月曜日の授業を終えて家に帰ると、キッチンで母親が夕食の支度をしていた。ソファに寝ころびながら、ふと朝の事を思い出した。なんとなく母親にそれを伝えると、私は盛大に批判された。少し嘘をついた位で大袈裟な……。
「どういう意味?」
「まあ、ちょっと手伝ってみなさいよ、久しぶりに一緒に作ったっていいじゃない」
まさかその為に批判したんじゃないよなと訝りながらも手伝いをする。
「確か、あんたのとこの藤井先生って、奥さんに先立たれたんだったわね?」
「確かね。でも、あの人だって料理できるから関係ないよ。朝食には」
「料理が好きだからこそ。あんただって昔はよく手伝ってくれたじゃない」
きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぎながら手伝っていたっけ……ふと思い出す。
「料理って一緒に作ると楽しいし、美味しいし! 料理好きな先生だから多分、奥さんがいなくなってからは食事支度もつまらなくなっちゃったんだろうなあ」
一理、ある。一緒に作るとおいしいね! 毎回のようにそう言っていたのを覚えている。だからこそ、私は今でも野菜を切るのが早いのだ。ずっと手伝いをしていたから。
「そうやって、楽しんで食事ができる内にちゃんと食べなさいって言いたかったのよ、本当は。朝食を抜くと良くないなんて、わざわざ言う事じゃないもの」
「……明日の朝は私の分も作っといてね」
「あんた、話聞いてた? 早起きして一緒に作るのがいいんじゃないの」
久しぶりに美味しい夕食だった。そんな事を思いながら、私は目覚ましを早めにセットした。