第七話
お待たせしました。第7話です。
今回はいつもより長めになっています。
それではどうぞ。
第12独立魔術師団本部の地下一階。
この階にある施設は一つだけ。その施設とは闘技場である。
直径300メートルの円形のリングを、まるで野球場のような階段状の観客席が囲む。
そこには観客―――といっても全員がここにいる兵士だが―――がぎっしり詰まり、戦いの時を今か今かと待っている。
そう、今日行われるメインイベント。「団長VS新兵4人」を見るために。
闘技場。青コーナー専用控え室―――
あのあと俺たちは、迎えの兵士に案内されながら、ここに辿り着き、人数分のジャージとあらかじめ送り付けておいた持ち物を渡された。
ジャージについては新品の軍服をいきなりダメにしないようにとの配慮らしい。なんともありがたい話だ。
あらかじめここに送りつけておいた荷物は、俺たちが学生の時から使っている武器や道具などが入ったカバンだ。
今回の試験は実戦に近い形で行うとのこと。最悪腕のいい医師がいるので死ぬことはないと、ここに来る途中に迎えの兵士に言われたときは背中に寒いものが走り抜けた。
というわけで俺たちは今、指定されたジャージに着替えて各々準備を進めている。
「まさか最初に団長と戦うことになるとはな。」
自分の両拳に包帯を巻きながら言う悠斗。
「あぁ。やっべ、震えがとまらねえよ。」
と言いつつも、自分の得物である剣を研ぐ信司
「みんな、今の内に魔力の上限を気にしたほうがいいよ。」
弾丸の入ったマガジンを、アサルトライフル「M16」に装填し、構えながら言う健太。
3人が各々口を開きながら、それぞれの準備を進めてる間、俺はベンチに座って自分の拳を見つめていた。
つい先ほど、俺は「青山」の名を聞いたとき、二つの疑問を抱いた。
一つは青山上級大尉と団長の関係についてだが、これは兄妹ということが判明したのでそれはいい。
ただもうひとつ疑問がある。
俺はオスプレイの中で健太が言った言葉を思い出していた。
『特に青山総団長は、「エリア12」を含む日本人の中で一番の美人だって噂だよ。』
あの時健太は、青山総団長が日本人の中で一番の美人だと言っていた。
だが、実際に今日会った青山総団長は男性だった。「青山」の姓がつく女性なら青山桜花上級大尉が思い浮かぶが、青山上級大尉は団長ではない。
ましてや、団長が持っていると言う「戦女神」なる称号は、名前からも分かる通り女性しか得ることができない特殊なものだ。
健太が確証のないホラ話に騙されていた、といえば全て終わってしまうのだが、どういう訳か何かある気がする。
じゃあ一体何が―――
「新兵!時間だ!リングに来い!」
俺の思考は、伝令兵の言葉によって中断された。
「考えても仕方ないか……よし、やるぞみんな!」
「「「おお!!」」」
俺達は覚悟を決め、リングへと向かった。
「(見せてやろうじゃねえか。あのだらしない団長に、俺達の実力を!)」
リングに出て、俺達は驚かされた。
かなり広い。直径300メートルと聞いたが、中々に広く感じた。
そしてそんなリングを上から照らす無数のライト。
そして何より驚いたのは、異様な静けさだった。
リングの周囲には階段状の観客席が設けられ、そこでは各々口を開いたり、騒いだりしている兵士たちがこちらから見て取れる。
先程俺たちを歓迎してくれた精鋭たちじゃない、ここで普通に働いている一般の兵士たちだ、
だが、本来そのような光景に無くてはならないはずの「歓声」が全く聞こえないのだ。
「驚いたか?」
突如聞こえた声に俺は、前を向く。
そこには既に、青山総団長の姿があった。戦いに備えるためか、ジャケットは着ておらず、上に身に着けているのは、黒いタンクトップだけとなっている。
「このリングはな、戦闘の際に生ずる余波によって観客に被害を及ぼさないための対策として、特殊な結界が張ってある。」
観客席に指を向けながら、団長は説明を続ける。
「物理、魔法問わず全ての干渉を拒絶する強力な結界だ。まぁ、そのせいで観客の声も聞こえないんだけどね。」
その説明が終わるのと同時に、俺達は臨戦態勢に入った。
悠斗はファイティングポーズを取り、両拳に魔力を集中させた。
信司は腰に携えた剣を引き抜き、剣を握った手を伝い、刀身に魔力を注いだ。
健太はアサルトライフル「M16」の安全装置を解除し、団長に銃口を向ける。
そして俺は、自分の両手に力は込めず、魔力のみを注ぎ込んだ。
その途端、悠斗の両拳はボウリング球くらいの氷のグローブに包み込まれ、信司の剣は炎を纏い、俺の両手は100万ボルトの電撃を発生させる。
「さて、それが君達の得物かな?」
その問いに、俺達はそれぞれ自信満々に答えた。
「まぁ、氷結手甲って名づけてます」
悠斗の得意とする氷結系魔法、氷結手甲。拳の周囲に氷の塊を出現させる魔法だ。悠斗はこれを使って近接戦闘を行う「魔闘士」と呼ばれる類の魔術師である。
応用としてはそれらを更に巨大化させ盾としたり、刺などを出現させ殺傷力を上げたりすることが出来る。
「親父から受け継いだ剣術の一種で炎剣って言うんです。」
信司の火炎系魔法。炎剣。名前の通り、炎を纏った剣を使った魔法だ。
信司の家は昔から「魔剣士」の家柄で、剣術道場も開いていたらしく、厳格な親父さんの元、血のにじむような修行に励んでいたそうだ。
「言わずと知れたアメリカ軍の正式採用自動小銃「M16」です。」
健太が扱うのは銃器。主にアサルトライフルが多い。だが、彼も魔法を使わないわけじゃない。
彼が使うのは創造系魔法の物質創造。物体、物質をゼロから新しく作り出す魔法で、彼はこの魔法を得意とする魔道師だ。
彼はこの魔法で、弾丸をゼロから生み出しているのだ。しかもマガジンの中に直接。
つまり、彼が扱う銃器は弾切れこそするが、リロードが必要ないのだ。
ほとんど隙を見せずに撃ち出せる弾丸。これこそが彼の強みだ。
なお、先ほど彼は魔道師と言ったが、戦闘スタイルのカテゴリとしては魔銃士に分類される。
「……独学で手に入れた電撃魔法って所ですかね。」
そして俺、北条誠が使うのは自ら編みだした電撃系魔法で、名は雷電と名づけている。
「俺たちはこの剣で!」
「この拳で!」
「この銃で!」
「この魔法で!」
「「「「貴方を倒す!!」」」」
その言葉を受け取った団長は、薄く微笑むと俺達に言い放った。
「さぁ、遠慮は要らない……てめーら全員、殺すつもりでかかってきな!!」
第12独立魔術師団本部。地下一階。闘技場「幹部専用特別観客席」
四年前までは日本に存在したであろう「東京スカイツリー」の展望台のようなデザインで、闘技場のリングの真上に存在するそこは、ブレイブコートを着用した者と、それとは別に許可された者しか入ることを許されない空間だ。
と言っても実際のそれと比べれば遥かに狭く、わずか15畳ほどの広さしかない。
だが、それでもブレイブコートを着用した7人の幹部。天川雫、袴田楓、浜崎茜、相沢尊、峯岸秋穂、青山桜花、紅井薫の7人が入るには十分だった。
彼ら7人は、周囲を取り囲む強化ガラスと防護結界に守られながら、試合が開始するのを待っていた。
「まさか青山くんの言ってたことがこういう事とは思わなかったわ。」
雫が顎に手を当てながら言う。
新兵4人を迎えに行く直前、彼は彼女に「試験をやるかもしれない」と言った。
だが、まさかその試験内容が「新兵4人を自ら相手取る」ものだとは夢にも思っていなかったのだ。
「問題は新兵の身の安全だよね~、あいつうっかり焼き殺したりしないかなぁ?」
「ハッ、アイツの炎に耐えられないような軟弱者は、ここで焼き殺された方がいいさ。下手に生きて苦しむようならあたしがトドメ刺してやる。」
「いやいやいや!?お兄ちゃんはそんなことしませんって!茜さんも何真顔で恐ろしいこと言ってるんですか!」
無邪気な顔でトンデモナイ事を言ってのける尊と、真顔で当たり前のように言う茜に、その「アイツ」の実妹である桜花が、青い髪のポニーテールを振り乱しながら慌てて否定する。
「……新兵の活躍に期待。」
相変わらず無表情の秋穂だが、どこか楽しそうな雰囲気を漂わせている。
「あの坊やたちも可哀想に、あれじゃ当分火を見ることはできないわ……。」
「だからお兄ちゃんはそんなことしませんって!」
早くも新兵の哀れな負け様を思い浮かべた楓が目元にハンカチを当てながら言うので、桜花が再び否定する。
さらにそこで副団長が、
「なぁ、この試合。どっちが勝つか賭けをしないか?」
「副団長!?」
厳格ながらも真面目そうだった印象を跡形もなく粉砕した。
「あら、いいわね。」
「へぇ、薫もたまには面白そうなこと言うじゃねぇか。」
「あたしもやる~」
「……私も。」
「じゃあ私も。」
意外とみんな乗り気だ。
「副団長!あなたどさくさに紛れてなんてこと言ってんですか!」
「あ?だって普通に見るだけじゃつまんねーだろ?あとこれ強制参加だからお前もやれよ。」
「ええー!?」
瞬く間に全員の参加が決まったところで、それぞれが賭けの対象を選択する。
「じゃあみんな誰に賭ける?」
「あたしは昇にかける~」
「あたしもだ。あのガキどもが勝てるわけねぇ」
「……青山くんに一票」
「私も青山くんね。可哀想だけど、坊やたちじゃ勝てないわ」
「私もお兄ちゃんに。」
あまりにも青山団長に票が集中したので、紅井も思わず「新兵人気無いなおい!」と叫んでしまった。
「まぁ、そういう俺もアイツに入れるんだが。」
「「「「結局かい!!」」」」
紅井副団長にツッコミが入る中、雫が口を開く。
「じゃあ私は新人達に入れるわ。」
雫の発言に全員が「お?」と言うような顔をする。
「雫、ひょっとして大穴狙い?」
「誰かが新兵にベットしないと賭けが成立しないでしょ。」
楓が不思議そうに尋ね、雫は当たり前のように返した。
「流石、空気が読める人は違いますね。」
「……桜花ちゃん?私何かあなたの恨み買うことした?」
「別になんでもありませんよ?高校時代はお兄ちゃんの先輩で当時から頭も良くてスポーツやらせりゃ完璧で生徒会長までやってて様々な方向からアプローチをかけた挙句お兄ちゃんのファーストキスを強引に奪い去って行ったあなたでも今じゃ上司ですしね。」
桜花が不貞腐れたような顔と早口で、一度も噛まずに一息でこういうことを言いだした時、彼女はほぼ間違いなく、
「もしかして桜花ちゃんヤキモチ焼いてる?」
「なっ!?」
こういう事だ。
「なっ、なんであたしがあんな馬鹿でアホでノロマで鈍感でおっちょこちょいなお兄ちゃんのためにヤキモチなんて焼かなきゃいけないんですか!そもそもあんなやつ好きじゃないし!」
赤面で言っても全く説得力がないが、それを指摘するのはあまりにも酷だろう。
「あ、そうだ。」
突然、副団長が口を開いたのでみんなが振り向く。彼は口角を釣り上げながら言った。
「この賭け、負けた奴は今日の昼飯おごりな」
雫の全身が凍りつく。そして全員が雫にゆっくりと振り向き、それぞれ声をかけてきた。
「ねぇねぇ天川先輩!あたしラーメンが食べたいな!」
「じゃああたしは唐揚げ定食にしよ。」
「……カレーライス希望。」
「雫、やばかったら私も払うから、ね?」
茜、尊、秋穂の3人が事前に食べたいものを注文し、楓はフォローを欠かさない。
「さて、あの新人君たちはどこまで戦えるか見ものですね、天川大尉。」
副団長が声をかけると、雫は黙って窓を見る。
眼下には得物を展開した4人の姿が見えた。
「(お願い!勝ってみんな!!)」
心からそう願う雫だった。
次回の投稿予定日は10月5日です。
お楽しみに。




