第五十四話
半年ぶりの最新話です。
第四章が始動します。
2016年9月。
パキスタン上空を一機の大型軍用ヘリが飛行していた。
そのヘリには「第12独立魔術師団」の文字とロゴが入っている。
この機体に与えられた任務は、業魔の襲撃を受けたパキスタン基地からの救援要請を受理した第12独立魔術師団から派遣された「ある部隊」を現地まで送り届ける事であった。
コックピットから機内に音声が入る。
『間もなく、パキスタン基地上空に入ります』
それを聞いていたのは、3人の男女だった。
全員が漆黒のロングコート―――ブレイブコートに身を包み、腕に赤い腕章を付けている。
「そろそろ、か……」
プラチナゴールドの長髪を後ろで束ねた細身の青年が、一丁のリボルバーに弾丸を装填しながら呟くように言う。
「もう……これでアジアだけで何箇所目よ?たまには基地に戻りたいわ……」
それに応えたのはようやく顔から幼さが抜け切った一人の女性だった。
赤紫のショートヘアが印象的な彼女は、鋲の散りばめられた黒の穴空きグローブを嵌め、握り具合を確かめながら愚痴をこぼす。
「……」
それを我関せずと言った調子で黙って聞く黒髪の青年は、得物であろう日本刀を肩にかけた状態で壁にもたれ掛かっている。
「そう言うな摩耶。ここを切り抜ければ残っているのはインドだけだ。上も一区切り付けるだろう」
先の大規模災害型の騒動から数ヶ月経った現在も、業魔の侵攻が絶えなかったウズベキスタンを始め、トルクメニスタン、アフガニスタンと、主に中東地域を渡り歩いてきた彼ら。
最後のここ、パキスタン戦線を落ち着かせる事が出来れば、彼らにも猶予が出来るかもしれないのだが……
「はいはい、零次の勘が外れてない事を祈るわよ」
やれやれと言った様子で溜息を付く女性―――赤城麻耶の態度に、関谷零次は眉根を顰め苦言を呈す。
「……どうも信用ならないみたいだな」
「アンタの勘、戦場以外で当たった試しが無いんだもの」
その通り、零次の勘が戦場以外で当たった所を、彼女は見た事がないのだ。
零次やもう一人の青年とは長い付き合いの彼女だが、戦場以外での彼の勘は信用しない事にしている。
「失礼な事を言う奴だ。」
「ホントの事でしょ?」
「ほう?面白い」
零次は弾丸の補充の終わったリボルバーをくるくると指で回しながら、麻耶に言い放った。
「なら、賭けてみるか?」
「っ!……へぇ、面白いじゃない?」
その言葉に、ニヤリと笑みを浮かべる麻耶。
どうやら、二人の間で話は成立したらしい。
「「ここのイザコザが終わり次第基地に戻れる」に……」
「「ここが終わっても次の戦地へ駆り出される」に……」
お互いの賭ける対象を確認し合い、最後に何を賭けるのかを宣言する。
「それに俺は……」
「それに私は……」
戦地でもないのに、空気がピリピリと張り詰める。
そして、互いが息を吸うのも、声を発するのも。
なおかつ、賭けるものもほぼ同じだった。
数秒の沈黙を破り、放たれた両者の答え。
それは―――
「「シンの処女をもらう権利を賭ける!!」」
「いや待たんかいコラァァァあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
突如として大声を上げて立ち上がったのは、今まで我関せずを貫いてきた黒髪の青年だった。
どうした言わんばかりに零次と麻耶は問う。
「どうしたシン?いきなり大声を出して」
「そうよ、もうすぐ戦地に到着するのに今からそんな大声上げて大丈夫なの?」
「いやうるせぇよ!そうじゃねぇよ!!そうじゃねぇだろうがよぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!?」
シンと呼ばれたその青年は断固として異議を唱える。
「何を勝手に俺の事を手篭めにする前提で話勧めてるわけ!?百歩譲ってそれは許すとしよう。権利って何だ権利って!?お前らにハナからそんなもんが与えられてるとでも思ってんのかこの変態どもが!!」
その言葉に眉を顰めた二人はシンに対してこう発言する。
「人聞きの悪い事を言うな、シン。俺は変態じゃあない。仮に変態だとしても変態という名の紳士だ」
「そうよシン。私は変態じゃないわ。仮に変態だとしても、変態という名の淑女よ」
「訂正する所そこじゃねぇだろ!?つーか結局テメェら二人共変態なんじゃねーか!!!」
目の前にいる二人の変態に警戒心MAXのシン。
それを和らげる為に行動したのは麻耶だった。
「こっちにおいで、シン。私は何も貴方に危害を加えようってわけじゃないの……私が欲しているのはもう一人の貴女なのよ?むしろ今すぐにでもヤレる事をヤってしまいそうな零次の近くにいるほうが危険だと思わない?」
前を開けたブレイブコートの下はスポーツブラとスパッツだけという露出の多い格好で両手を大きく広げ、優しい表情で語りかける麻耶。
しかしそこで、間髪入れず零次が口を挟む。
「惑わされるな、シン。俺の声は聞こえているだろう?キミに話しかけているんだ。ソイツに心を開いたが最期、骨の髄までしゃぶりつくされるぞ?今までソイツの餌食になってきた女性兵士が何人いると思っているんだ。その点俺はシンにしか興味はないし、女性を相手にどうこうする趣味もない。今からでも遅くはない。早くもう一人の君になってこっちへ来るんだ。」
ブレイブコートの下もきっちりとダークグレーの軍服を着こなした零次も同様に両手を広げて、まるで迎え入れるかのような態度でシンに語りかける。
しかしながら、両者共々下心が丸見えなので、
「やっかましい!!どっちもどっちだろうが変態ども!!」
と、シンに拒絶されてしまうのだった。
しかし、このままでは事態が解決しないのも事実。
猛毒の百合か、腐海の薔薇か。
シンに残された選択肢は二つに一つだった。
当然、どっちも選びたくないシンはひたすらに首を振り続ける。
と、そんな時だった。
『っ!?レーダーに反応あり!飛行型の業魔と推定!数は6!急速に接近しています!!』
コックピットからの悲鳴にも似た報告がスピーカーより放たれた時には、既に3人は行動に移っていた。
ヘリのハッチを強引に開けるという自殺行為を零次と麻耶が平然とほぼ同時に行い、上空と地上との気圧差によって3人の体が空中へ放り出される。
しかし、彼らの前ではこんな行為も意味がない。
「ふっ!」
麻耶は自分の足元に半透明の魔法陣を出現させると、それを足場に跳躍した。
いや、それはもはや滑空と言ったほうが適当かもしれなかった。
ズドン!!という爆音にも似た音を空へ轟かせ、約500メートル程の距離を一気に駆け抜ける。
そして、
「ハァッ!!」
その先にいた六体の鳥型の内の一体に蹴りを叩き込み、首の骨をへし折って瞬殺した。
一瞬で屍となった鳥型の業魔から浮力が失われるより先に、麻耶は次の行動に映った。
前蹴りを放ったその姿勢のまま、もう片方の足で屍を踏むと、今度はそこを足場にしてもう一体の鳥型へと迫る。
「ギャアアア!!」
敵と判断した鳥型が、麻耶に対してその鋭く巨大な爪を突き出す。
しかし、それが麻耶の体を引き裂く事は無く、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」
シュババババババァッッ!!と。
爪はおろか、肉と骨、ほぼ全てを一瞬にして砕かれてしまった。
先ほど、彼女が一瞬の内に繰り出した拳のラッシュの速度は一発あたり時速400キロオーバー。
回転数にして毎秒100発という驚異的なスピードである。
「ガ、ァ……!!?」
一瞬にして瀕死のダメージを負わされた鳥型に、麻耶は無慈悲なトドメの一撃を刺した。
「オラァァァ!!!」
ドパァン!!と。
麻耶の右ストレートを受けて鳥型の肉体が弾け飛んだ。
全方位に同族の肉と血の雨を撒き散らすその敵に、さらなる敵対心を燃やした鳥型の残り四体が、容赦なく麻耶に襲いかかる―――
その直前。
四体の内二体の頭を、一発の銃弾が綺麗に貫通した。
「「!!?」」
痛みを感じる前に絶命した鳥型の二体は知る由もなかっただろう。
空中に投げ出された状態でスナイパーライフルを構えた零次が狙いを定めていた事を。
そして、状況が掴めずに滞空するしかない最後の二体の前に、黒髪の青年が現れる。
鞘から抜き放たれた鋼の刀身は鋭く光る銀色ではなく、
血のような、紅。
「死ね、鳥公」
直後。
その場に紅の残光を残して振り抜かれた刀が、鮮やかな弧を描いて鳥型二体の首を跳ね飛ばした。
空中で刀身に付いた血を払いながら、インカムを使ってヘリコプターに繋げる。
『ここまででいい。そっちは直ぐにこの空域から離脱してくれ』
『りょ、了解!』
パイロットからの通信と共に、ヘリコプターが進路を変える。
姿勢を変えて、眼下を見下ろす。
既に基地は攻撃を受けており、上空二千メートル地点から見ても分かる程に大量の黒い異物が基地へと群がっていた。
『敵の数は……目測で7000から8000と言った所か?』
『一先ずは何とかなりそうね』
「なりそうじゃない。俺達が何とかするんだ」
インカムから聞こえる二人の部下の声にそう返し、シン―――木村慎は愛刀を握り直す。
そして、
「木村小隊!任務開始!!」
赤木麻耶、関谷零次、そして木村慎。
彼らこそ、第12独立魔術師団前線実動特殊部隊。
通称「木村小隊」。
日本国連合最強の武装集団である。
如何でしたか?
元々から出す予定のあった彼らを出す事が出来て私としては満足です。
今はもう完全に不定期なので、次回がいつ更新されるかは謎です。
ですが、なるべく早く投稿できるよう頑張りますのでよろしくお願いします。
それでは、また。




