第四話
お待たせしました第四話です。どうぞ。
「エリア12」は、トルコ共和国内に作られた6つの居住区の総称である
それぞれの居住区は円形の壁で囲まれており、壁上には必ず武装した兵士がいる。俺たちがいた第2地区もその一つだ。
だが、「エリア12」にはもう一つ、幻と言われた7つめの居住区がある。それこそが今、俺たちの眼下に広がる「第0地区だ」。
イスラム共和国に設立されたそこは、「魔術連合国家軍」に志願した日本生まれの魔術師たちが日々、業魔と戦うために牙を研いでいる。 (オスプレイのパイロット談)
―――イスラム共和国。「第0地区」軍事空港。
俺達はついに、憧れていたここの大地を踏みしめることができた。
「ついに来たな。」
「あぁ……。」
「っしゃぁ!腕が鳴るぜ!」
「緊張してきたなぁ…。」
各々が第一声を上げたとき、俺は目の前にある人物がいることを視認した。
「来たわね。」
オスプレイから降りた俺達を待っていたのは、女性だった。
「「「「!?」」」」
そしてその女性の出で立ちを見た瞬間、俺達はその女性に驚かされた。
理由は三つ。一つは、彼女が着ているコートだ。
自分達と同じ軍の制服―――と言っても女性用なので下半身はスカートだったが―――の上から、丈の長い漆黒のレザーコートを着ている。
このコートは、魔術師団の中で、優れた実績を称えられ、真の実力者のみが、着用を許された「ブレイブコート」と呼ばれる特別なコートなのだ。
そしてもう一つ、レザーコートの左胸には、銀色の糸で縫われた獅子が象られた記章がある。
この左胸の記章は「ライオンエンブレム」と呼ばれ、各隊の隊長を任された人間が「ブレイブコート」の左胸に縫いつける勲章といってもいい代物だ。
故に、今日たった今着任した自分達とは、立場上の差が、天と地ほどもあることが分かる。
そして最後の一つは顔だ。
長い黒髪と、整った顔立ち。そして、その目から発せられる凍てつくような眼光と雰囲気。
その美しさと威圧感のアンバランスさに、俺達は思わず見とれてしまっていた。
「あなたたちが今回入ってくる新人さんね?」
俺たち4人は、目の前の上司の言葉で我に返り、即座に姿勢を整えると、在学中に散々やらされた敬礼をし、俺から順番に声を上げた。
「はっ!「国立魔術師養成学校」高等部から来ました、北条誠です!」
何とか噛まずに言えた事を内心誇りに思いつつ、俺に続いて3人の挨拶が聞こえてきた。
「同じく、多村信司です!」
「野上悠斗です!」
「新井健太です!」
それを聞くなり、女性はうんうん、と頷き満足そうに笑った。
「元気がいいわね。いい返事が聞けてよかったわ。私の名前は天川雫。第12独立魔術師団の中隊長をやらせてもらってるわ。階級は大尉よ。」
その名を聞いた瞬間、俺は自分の記憶野にある「一人の人物」と目の前の女性を照らし合わせた。
教科書にも載っていたその名前。
「(天川雫……氷結系魔法を得意とする天川中隊の隊長!ロシア前線に派遣された際には、その作戦指揮能力を大きく評価され、「ライオンエンブレム」を獲得した……いきなりの大先輩じゃねーか!)」
俺が内心でビビりまくっていることなんて知るはずがない天川大尉は、美しい顔に笑みを浮かべながら言う。
「誠くん、信司くん、悠斗くん、健太くんね。あなた達も今日から立派な私達の仲間よ。これからよろしくね。」
「「「「はいっ!よろしくおねがいします!!」」」」
ほぼ反射的に返事をしてしまった自分を恥じていると、天川大尉が振り返る。
「それじゃ、団長達が待ってるわ。私についてきて。」
天川大尉に連れられて、空港を出た俺達の視界に入ってきたのは―――街だった。
アパートや団地。家屋が立ち並ぶ住宅街に、食料、生活用品などを販売している店舗。通勤用の路線やバス。タクシーなどの交通機関などが、当たり前のように存在するそこは、本当に街だった。
「あ、あの……これは?」
「あぁ、驚いた?ここは基地なのもそうだけど、同時に街でもあるの。」
でも、と付け加えて天川大尉は言葉を続ける。
「ただの一般人はここには1人もいないわ。ここは軍に志願した魔術師や魔女が、下はD級から上はS級まで住んでいる街なの。総人口は約500万人ね。」
俺達はその言葉に唾を飲み込んだ。
この町に住んでいる人間全員が、業魔と戦う人材だと言うのだ。
そんな話聞いた事がない。
天川大尉が空港の前にあったバスに乗り込んだので、俺達もあわてて後に続く。
「このバス1本で本部まで行けるわ。」
そういうと天川大尉は後ろから2番目の席に座った。
俺たち4人は一番後ろの広いスペースに並んで座る。
バスが走り出すのと同時に天川大尉が口を開いた。
「まぁ、主に軍として活動している人はあまりいないんだけどね。」
「え?じゃあここにいる人たちは普段何してるんですか?」
疑問に思った健太が質問を投げかける。
「この街で、各々が職に就き、それぞれの生活を営んでいるの。もちろん、業魔と戦うための訓練は怠ってないわ。でも彼らはあくまで補充要員よ。主に活動するメンバーは軍に所属しているの。私達みたいにね。」
今度は信司が質問した。
「そんなに補充要員が必要なんですか?」
その質問に天川大尉は当たり前のように答えた。
「ええ、必要よ。前線で戦う魔術師はの戦死者数は年間で軽く800人を超えるわ。それでも少ないほうで、結成当初は3000人以上の死者を出したの。いつ何が起こるかわからない。それがここ「第0地区」の恐ろしさなの。」
その言葉に俺達は鳥肌が立った。
そして今度は悠斗が恐る恐るといった形で質問する。
「それで……軍に所属して表立って活動している人たちって何人いるんですか?」
「そうね…」と天川大尉は顎に指を当てながら答える。
「大体10万人くらいかしら?」
「「「10万!?」」」
俺以外の3人は声を出して驚いた。
まぁ大体は予想できていた。ここに来てから驚かされてばかりだったが、街を見たとき。いや、オスプレイの窓から街を見た時点で分かっていた。
「ご、500万人もいてたった10万人しか軍として活動してないんですか!?」
「あくまで「主に活動しているメンバー」が10万人ってだけよ。軍には志願しているから、軍人じゃない事は無いのよ。」
天川大尉はこう言うが、実際、ここにいる連中は一般人と変わらない。
確かにここにいる500万人は補充要員ではある。だが同時に業魔と戦うことを恐れた腰抜け共だ。
本当に業魔に憎しみを抱いているのであれば、ここに来た時点で全員が前線に駆り出されなくてはならない。
いやむしろ、自ら死地に飛び込み、刺し違えてでも倒そうとするはずだ。つまり、彼らはここで生活を営んでいる時点でおかしいのだ。
「な、なるほど……。」
悠斗が納得したところで、最後に俺、北条誠が質問した。
「本部に着いてから、俺達は具体的にまずは何をするんですか?」
「それについては私は知らないわ。でもそうね……まずは自己紹介かしら。」
「自己紹介?」
「ええ。私以外の5人の幹部。それから団長に自己紹介。その後は団長が決めるわ。」
「そうですか……。」
『次は、魔術師団本部前。次は、魔術師団本部前です。』
「お、次のようね。」
天川大尉はそういうと「次でおります」とかかれたボタンを押した。
バスを降りた俺達に待っていたのは、高さ5メートルほどのコンクリートの壁と、それと同じくらいの大きさを誇る鉄の門だった。
「すっげぇ…。」
「城門みたい…。」
「まるで要塞だな。」
「まるでじゃなくて本当に要塞よ?」
悠斗の言った言葉に、天川大尉はそう付け加える。
「さて、と。ここを入る前にみんなに確認よ。」
「「「「?」」」」
天川大尉はこう言った。
「ここに入れば、もう普通の日常は送れなくなるわ。死と隣り合わせの絶望の中を必死に生き抜いてもらうことになる。」
俺たち4人は黙って聞いている。
「退くなら今しかないわ。もし退いても、誰も止めはしない。誰も責めたりしない。それでも……あなた達は本当にここをくぐる?その覚悟はある?」
その言葉を最後に長く続いた沈黙。それを破ったのは、俺だった。
「愚問ですよ、天川さん。」
「!」
「俺は……俺達は軍に志願した兵士です。死ぬ覚悟はとっくに出来てます。それでも俺達は、業魔を根絶やしにするって決めたんです。」
俺に便乗する形で他の3人も口を開いた。
「ええ、誠の言うとおりです。俺達は業魔共を一匹残らず殲滅して、奪われた日本の領土を奪還するために、ここにいるんです。」
「やられたらやりかえせってのが、死んだ親父の口癖でしてね。業魔共は人類にここまでやってくれたんだ。当然の報いは受けてもらいますよ!」
「僕はやります……必ず業魔を倒して、家族の仇をとりたいんです!」
俺たち4人の胸の思いを聞いた天川大尉は、一度顔を伏せ、息を深く吸い込み、吐き出した。そして顔を上げると、そこには、嬉しそうに微笑んでいる天川さんの顔があった。
「いい覚悟ね……4人とも。」
そして天川大尉は門へと振り返った。
「開門!!」
天川大尉が叫ぶと鉄の扉がギギギと開き、俺達を出迎えた。
「歓迎するわ!ようこそ!新たな戦士達よ!」
「「「「はっ!!」」」」
―――この日、俺達は兵士になった。
次回の投稿予定日は9月30日になると思います。
お楽しみに。




