第五十三話
約2ヶ月ぶりの最新話、楽しんでください
破壊の矢が炸裂し、世界が真っ白に染まる。
爆炎がその場を支配し、爆風が吹き荒れ、爆音が轟き、衝撃は地響きとなって闘技場全体に響き渡る。
先程まで北条真子が立っていたそこには、もくもくと土煙が立っていた。
それを見て、青山桜花は確信した。
殺った、と。
自身の魔力のほぼ全てを込めた一撃。
大抵の業魔であれば今の一撃で300匹は殺せる自信がある。
先程、真子は魔導シールドを展開していたが、その選択は間違いだ。
魔導シールドは防御対象が物理攻撃か魔法攻撃かで対応が大きく変わる。
物理攻撃であれば衝撃を吸収しても破壊されないだけの術式を継続できるだけの魔力があれば何とでもなる(これも熟練者でなければ難しいが)。
だが、魔法攻撃を受け止める場合はワケが違う。
魔法には必ず、属性が負荷される。
火、水(主に使用するのは上位互換である氷だが)、土、風、雷、光、闇。
魔法攻撃を防ぐ場合、これらの属性をも防御対象に入れなくてはならない。
そして、属性を防ぐ為にはその分の魔力も必要だ。
衝撃と属性。この2つが共に高い水準を誇っていた先程の破壊の矢。
属性を防ごうとすれば、衝撃は真子の体へと伝わり、彼女の五体をそれこそ無数の肉片へとしまうだろう。
しかし、衝撃を殺そうとすれば真子の体は灼熱の炎に焼かれ、塵すら残らないはずだ。
だからといってあの状況でこの2つを同時に防ごうとすれば残量魔力を全て使い尽くし、枯渇死するのが関の山。
どう転んでも、真子に勝機は無かった。
「はは、はははっ、ふはははははははははははははははは!!」
桜花は高笑いした。
見る者が顔を青ざめさせるような、凶悪な顔で。
勝負に勝った。敵を倒した。
それが何より嬉しくて。
そして、
「はははははは、ははは、ははは―――」
ドサッ、と。
桜花は倒れた。
ほぼ全ての魔力を使い果たした反動がモロに肉体に返ってきて、彼女の意識を奪ったのだ。
だが、その顔は満足そうな、穏やかな表情をしていた。
そして、
だからこそ、
彼女は、土煙が晴れた後の光景を目にすることが出来なかった。
「……っ」
誠はうっすらと目を開けた。
目の前にあったのは未だに残る土煙と、うつ伏せに倒れた桜花。
そして、前へと突き出された、己の右手。
右手の甲の魔法陣が極彩色の輝きを放つのを見て、彼は全てを悟った。
死を覚悟した誠の体は最後の悪あがきを無意識のうちに行っていたのだ。
物体変化魔法。
対象の物体、物質の形状、性質を変化させる誠の切り札。
間一髪。
あの絶望的状況の中、誠は奇跡的に生還したのだ。
「た、助かった…………」
心の底から安堵した誠の肉体から、今度こそ全ての力が奪われた。
その場に力なく倒れ伏し、瞼は猛烈に重くなる。
「(このまま、寝ちまおう……)」
誠は睡魔に逆らう事無く、意識を手放すのだった。
そして、闘技場の天井部にある円盤型の特等席は、不気味なほど静まり返っていた。
理由は単純、皆が声を上げられないのだ。
「「「「「……」」」」」
桜花が全ての魔力を用いて放った破壊の矢。
それらを魔導シールドと物体変化魔法で切り抜けてみせた北条誠。
その場にいる誰もが、目の前の現実に唖然としていた。
開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だ。
最初に我に帰ったのは、紅井薫だった。
彼はすぐ壁に設置された通信機を起動し、待機していたはずの医療班に指示を飛ばす。
「おい何してる!?早く2人の救護に回れ!!」
それから数秒して、闘技場に医療班の制服を着た数人の団員が殺到した。
彼らは迅速な動きで2人を介抱する。
すると、緊張が解けてきたのか次第に幹部たちの口が開き始める。
「まさか、あの桜花と引き分けるなんてな……」
「彼、もしかしてホントはかなりの逸材なんじゃな~い?」
「……つよそう」
そんな中、楓がからかうように言う。
「雫、貴女凄い子を隊に引き入れちゃったわね?」
「そ、そうね……」
雫も驚愕を禁じえないようだった。
後天的に使用可能となった魔女化能力による魔力量の向上に加え、物体変化魔法の汎用性。
もしもこれらを使いこなす事が出来たなら―――彼は間違いなくA級の魔術師になれる。
いや、もしかしたらそれ以上に―――
「(腕が鳴るわね……!)」
と、雫が指導者魂を震わせていた時だった。
「…はっ!?わしは一体何を…………?」
全員が一箇所を注目した。
先程まで爆音に驚いて頭を押さえてうずくまっていた、幼い少女。
望月拓也。
その言動は、今の今まで「ひな」と呼称されていた少女のものではなく、間違いなく「彼」のものだった。
「もち、づ、き…………?」
震える声でそう呟くのは、八重樫強志。
今まで死んでいた瞳に、希望の輝きが灯る。
「む?おう、強志!どうした、なにか様子が変じゃぞ?それに先輩方もどうなさったのじゃ?そんな信じられないものを見るような目をされても困るのじゃが……」
困惑する望月に、浜崎茜が質問をぶつける。
「お前、記憶が戻ったのか……?」
「記憶?戻った?はて、何のことやらさっぱり―――」
間違いない。彼は、望月拓哉は、自我を取り戻していた。
それが分かった瞬間、真っ先に行動に出た人物がいた。
「望月ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
「のじゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!?」
そう、今日の今日までストレスマッハの生活を強いられてきた八重樫強志だった。
彼はすぐに望月の体を抱き上げると、思い切り抱きしめた。それこそ、先程まで現実逃避のためか本気にしていた父親のように。
「望月!よくぞ……よくぞ、帰ってきてくれた!俺は……俺は…………ッッッ!!!」
「八重樫くゥん!?そ、そんなに抱きしめられるとわしゃ照れちゃうなーって違うわ!何なんじゃ離せい!ええい離せい!」
「ふざけるな!!俺はもうお前を離したりしない!誰が離れるか!意地でも離れるか!もう二度とあっち側になんか、行かせてたまるかァァァああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「いやマジでどうしちゃったのかなァァァ!?おーーーい!すまんが誰かわしに状況を説明してくれぇぇぇ!!これは一体どういう状況じゃ!?何でわしはこいつに男泣きされながら抱きしめられなきゃいかんのじゃあああああああああああああ!!!」
恥も外聞もかなぐり捨てて男泣きで幼女を抱きしめる強面の青年。
客観的に見て、これ以上に「ワケあり」な光景があるだろうか。
あるならぜひ、見てみたい。
「……」
そんなカオスから目を背けた、薫は闘技場の光景を見ながら物思いに耽る。
「(まぁ、何はともあれ……)」
闘技場の一部立て直し(2回目)
故意に殺人未遂を犯した青山桜花の処分(お仕置き)
北条誠のメンタルケア。
やらなければならない後始末は、たくさんある。
それでも、
「これで一件落着ってか?」
やれやれと肩を竦ませながら言う薫に、幹部たちは頷くのだった。
気付けば黒一色の世界にいた。
凹凸など、何一つないただただ黒く、冷たい地面。
光もなく、地平線ですら曖昧なその空間は、虚無とでも呼べようか。
現実のものとは思えないこの光景。
誠はここが夢の中だと思った。
だが、
「厳密には違うよ。」
「ッ!?」
振り返った先に、彼女はいた。
第12独立魔術師団の夏期制服を身につけた、金髪の少女。
鏡の前で何度と無く見てきた、その容姿。
「ここはアナタの中。魔女化能力者だけが持つことの出きる内面世界。人格が別れている魔女化能力者は、任意で意識だけをこの空間に飛ばして、もう一つの人格と接触するの。」
「……北条真子か」
誠の問いに少女―――真子は頷いた。
「うん、そうだよ。はじめまして、だね……誠くん」
「気安く呼ぶんじゃねぇよ」
「えっ……?」
あまりの冷たい反応に唖然とする真子。
対する誠は心底嫌そうにこう言う。
「聞こえなかったのか?その姿で、気安く俺に話しかけるんじゃねぇ、って言ったんだ」
真子は、心外だとでも言わんばかりに言い返す。
「そ、そんな……!私だって、貴方から生まれた存在なのに―――」
「それが何だってんだ?俺から生まれた奴の面倒を、なんで俺が見なきゃいけない?どこにそんな義理がある?」
「義理もなにも関係ないよ!元々一つだった貴方の中に、後天的に覚醒した魔女化能力によって生まれたもう一人の貴方。それが私なの!」
「だから?」
「だ、だから……そう!私と貴方は一心同体!貴方がどれだけ抵抗しても、貴方は私を受け入れるしかないの!」
真子の言っている事は、全て真実だった。
これは、確定事項。既に決まった事に、誠が一人で延々と駄々をこねているだけなのだ。
「テメェ……!!」
誠はそれこそ湧き上がる怒りや憎しみを押さえ込んで、苦虫を噛み潰したような顔をする。
真子には分からなかった。どうして彼が、そこまで自分の事を拒絶するのか。
「……どうして?」
「なに?」
「どうして貴方は、そこまで私を拒絶するの?」
それが、引き金だった。
「どうして、だと?」
誠の顔から、全ての感情が消え失せた。
しかしそれは、彼が真子の発言に失望し、会話する意欲すら失ったのではなく、
むしろその逆。嵐の前の静けさと同義であった。
「どの口が……」
手に力が篭る。
拳を握る。
血管が蠢く。
目尻が釣り上がる。
「どの口がほざいてんだテメェ!!」
「っ!?」
突然の激怒に、思わず尻込みする真子。
対する誠はタカが外れたのか、畳み掛けるように連続で言葉を発した。
「お前は本当に俺の一部なのか?本当に俺から生まれたのか?もしそれが本当なら、よくもまぁいけしゃあしゃあとそんな事がほざけるよな!?それとも何か?お前は俺が……いや、俺たち男がお前ら女どもに受けた仕打ちを知らないとでも言いたいのか!?」
真子はすぐに分かった。誠が、自分を拒絶する理由が。
彼女だって、元々は北条誠の一部だったのだ。察しはつく。
「……訓練校時代の事?」
「あぁ、そうだ!あの時俺は女っていう生き物に絶望したんだ。生まれつき魔力の上限が高いから、昔から業魔と戦ってきた「女」は神聖だから、そんな先天的特徴や過去の栄光をタテにお高く止まりやがって!!そして男も男だ!あそこまで下に見られてんのに、悔しいとすら思わねぇ!それが当たり前だとか思ってやがる。俺はなぁ、そんな風に女がでしゃばってるのが一番嫌いなんだよ!!」
「そんな、そんな考え方おかしいよ!男の人だってちゃんと存在意義が―――」
「綺麗事並べて誤魔化そうとしてんじゃねぇぞ!!!」
カバーに回ろうとする真子に対し、誠の中の怒りの炎は、留まる事を知らない。
「所詮この世は弱肉強食。男だろうが女だろうが、人類だろうが業魔だろうが、それは同じだ!強い奴は生き残って楽をするし、弱い奴は虐げられるか、死ぬかのどっちかだけ!どうあがいたって覆せない魔力上限の差は、そのまま絶対的なヒエラルキーへと繋がる!普通に考えてみろ?そんな世界で、男の居場所がどこにある!?魔法なんてものがある以上、男なんざクソの役にも立ちゃしねぇ。せいぜい奴隷扱いがいいとこだ。だからこそ俺達は人の二倍、三倍の鍛錬をした。玉座の上にふんぞり返った女どもを地に引きずり落とす事だけ考えてな!中等部卒業時に俺たちに追い抜かされた女どものあの顔を見た時は心底スカッとしたね!ざまあみろってな!そして誓った。俺は女なんかに頼らないで、俺だけの力で業魔を殲滅してやるって」
「そんな……」
「だから……だからこそ、テメェみてぇな奴が俺の中に生まれて来られちゃいい迷惑なんだよ!!」
「っ……!」
真子はショックだった。
もう一人の自分となら、分かり合えると思っていた。
しかし、現実は違った。男の自分は女の自分を、これでもかと言わんばかりに拒絶した。
そして、これからも変わる事は無いのだろう。
このまま、女というものを本当に理解しない限り。
そして、
最後まで理解しようとすらしないまま、
誠は決定的な一言を、真子に叩きつけるのだった。
「お前なんか……俺じゃない!!!」
え?最後どっかで聞いたセリフで終わった?ちょっと何言ってるか分かんないです(震え声)
後もしかしたらこのお話が第3部のラストになるかもしれないので、その辺ちょっと覚悟しといてください。
それではまた次回(いつとは言ってない)!




