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雷の戦女神(ヴァルキュリア)(凍結)  作者: yutaso
第三章 発現、魔女化能力
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四十九話

最新話です。

活動報告にあったのは、今回の話の主人公―――北方千秋さんの問いです。

そのへんも含めて、読んでみてください。

第12独立魔術師団本部。

中央基地の地下に存在する地下訓練場の控え室で、私―――北方千秋は私の所属する中隊の隊長である浜崎茜中尉に命じられた。

「模擬戦、ですか?」

「あぁ。」

わけがわからなかった。

朝6時に起床し、7時前後には既に全ての準備を整え、今日も一日頑張ろうと意気込んでいた私のスマートフォンに、自分のいる小隊の隊長である新井健太からのメッセージが届いた。

『中隊長から直々の命令だ。準備を整え次第、地下訓練場に向かってくれ。』

その指示に従って来てみれば肝心の新井隊長の姿はなく、代わりにものすごく出世でもしない限り縁もゆかりもないだろうと思っていた幹部メンバーが私を迎え入れてくれた。

混乱する私に浜崎中尉が告げたのは「模擬戦の相手を努めろ」といういろいろと内容の飛んだ命令だった。

「なんでまた突然……?」

「それはお前には関係ねぇことだ……と言いてぇ所だがそうもいかねぇよな。」

そう言った浜崎中尉は模擬戦の相手と事情について噛み砕いて説明してくれた。

私が今回戦う相手は天川中隊No.2の実力者―――望月拓哉少尉。

人格統合型の魔女化能力者で、氷で構築された外部骨格を駆使して戦う魔術師。

相棒の八重樫強志少尉と共に数々の戦果を上げている。

この名は私も知っていた。仮にも予備軍の人間が集う第0地区なのだ。そういった噂や武勇は直ぐに広まる。

普通に考えれば私が戦っても勝ち目がないどころか勝負にすらならない。一瞬でケリがついてしまう。

「私なんかで相手が務まるんですか?」

「はぁ?自惚れんなよ小娘。誰がお前みたいな新兵をまともな状態のアイツとやらせるかっつーの。」

デスヨネー。最初から薄々分かっていた事だ。

私のような新兵がいきなりそんなエース級の人とぶつかった所で意味なんかないことを。

それでも尚、今日、この対戦カードが実現した。

それには明確な理由があるはずだ。

「弱体化してたりするんですか?」

「……実際それより深刻だがな」

頭に?マークを浮かべる私に、会えば分かると告げた浜崎中尉は、次にルールについて説明した。

「銃の使用は禁止だ。使用していいのは体術とナイフだけとする。」

いきなりの衝撃発言だった。

銃がなければ戦えないなどと甘ったれたことを抜かすつもりはないが、私のいろいろと中途半端なナイフ捌きとなんちゃって近接格闘(CQC)だけとなると、かなり戦力を低下させる事になる。

それほどまでに望月少尉は弱くなっているのだろうか。

「浜崎中尉。お時間です」

「分かった」

呼びに来た兵士に軽く答えた浜崎中尉は、再び私に視線を向ける。

「いいか?相手がどんな状態だろうと怯むな。全力で倒しに行け。」

「はい、分かりました。」

私がそう頷いたのは素直に「そうでもしなきゃ勝てない」と思ったからだ。

いくら弱体化しているとは言え相手は天川中隊の二番手を張るエース。生半可な覚悟で挑めば負けは確実だ。

そんな覚悟を決め、私はリングへと上がった。

リングといっても、直径500メートルのだだっ広い場所だが。

かつての闘技場から改装されて以来、基礎訓練場と実戦訓練場の二つに分かれたと聞く。

正確に言えば実戦訓練場は闘技場をそのまま再利用しているだけで、基礎訓練場を新たに新設しただけなのだが。

基礎訓練場は主に相沢中隊などが武道の稽古に使用している場所で、地面は木製の床で出来ている。

しかし、私が今いるリング―――実戦訓練場の地面は砂などで構成された普通の地面だ。

限りなく戦場に近い環境で、それでいて屋内で訓練を行うという趣旨の元で生まれたのがこの地下訓練場なのだ。

そんな、だだっ広い決戦の舞台に脚を踏み入れ、私は―――











北方千秋は、リングの中央にいる一人の幼い女の子を発見した。













「え?」

千秋の声に反応したのか、その少女がこちらを向く。

「お姉ちゃん、だあれ?」

少女は無垢な瞳で千秋を見つめ、同時に彼女が右手に持っている物を見て恐怖に顔を青ざめた。

「っ!」

慌ててナイフを太もものナイフシースに収納する。

状況が全くわからない。

「えっと……そういう君は?何故ココにいるの?」

「分かんない……」

「えっ?」

千秋が少女の素性を問うと、少女はそう答えた。

「私はひな。望月ひな。パパとママに連れられて、車の中で寝てたらいつの間にかここに……」

「そっか……」(ん?望月?)

その苗字は彼女がこれから戦う者の姓ではなかったか?

と、その時だった。

『北方二等兵!何をしている!戦いは既に始まっているんだぞ!!』

天井に設置されたスピーカーから浜崎中尉の怒鳴り声が響いてきた。

「え?戦いって……いったい誰と戦えって言うんですか?ここには私とひなちゃんしか―――」

そこまで言って千秋は気づいた。気付いてしまった。

まさか。そんなはずは。

自ら確信している事柄を、そんな曖昧な言葉で濁そうとする。

しかし、逃れ用のない現実を、スピーカーの声は突きつけた。



『お前の敵は目の前の望月ひな―――否、魔女化能力を発動した望月拓哉だ!!』



千秋は数歩後ずさった。目の前の幼い女の子が、天川中隊のNo.2である望月の真の姿だと言うのだ。

信じられないと言うのもそうだが、あまりにも様子がおかしい。

彼女には敵意どころか自分の正体も分からなくなっている節がある。

これはどういう事だと考え、やがて彼女はすべてを悟る。

彼は何らかの事情で記憶を失っていて、偽の記憶を掴まされながら今日まで凌いできたのだ。

それを実戦に近い形の模擬戦を行うことで部分的に覚醒させようというのが、今回の目的だろう。

実際は違うのだが、彼女の考察は大体正解だった。

「(要するに私はモルモットのモルモットってわけか……!)」

それが気に入らないとか、そんなことは考えない。

軍に入った以上、覚悟はしてた事だ。

ある目的を達成させるための捨て駒。所詮兵士など軍という全体から見ればその程度なのだ。

しかし、彼女が受け入れられないのは。




「お、お姉ちゃんどういう事……?私が、お姉ちゃんの敵……?」




偽の記憶だろうがなんだろうが。

こんな幼い女の子を脅かす真似をしなくてはならない事に、千秋は途轍もない拒否感を感じた。

「(そんな、無茶苦茶よ!今の彼女は記憶を失っている!戦えるはずがない!!)」

体が震える。

常軌を逸した上司の言葉に、疑問が湧く。

不安そうに自分を見る少女の瞳に、心が揺らぐ。

しかし、上から降る声はそれすら許さない。


『早くしろ!これは命令だ!!』


命令。

その言葉を聞いたとき、自然と震えが止まった。

自分でも恐ろしい程の精密度で右手がナイフを握り、抜き放つ。

「お姉ちゃん……?」

千秋を見るひなに、彼女は冷徹に告げる。

「ごめんねひなちゃん。私は貴女を倒すしかないみたい。」

一歩前に踏み出す。

ブレーキをかけようとする心を押し殺し、その後はスムーズにひなの元へと進む。

躊躇しないように。一度でも止まれば、その時点で終わる。もう絶対に動けない。

だから止まらない。止まれない。

「や……やだよ……」

明確な恐怖を感じ取り、目に涙を貯めたひなは、

「いやぁぁぁああああああああ!!」

悲鳴を上げながら一目散に後ろに走る。

「ッ!!」

その姿に心が悲鳴を上げる。

やめろと叫ぶ。

そのナイフを地面におけと警笛を鳴らす。

それらを黙らせる。

命令だから仕方ない。軍人だから仕方ない。

そう言って自分に言い聞かせ、割り切る。

心を殺す。

「……」

その後は恐ろしく早かった。

第0地区で鍛えた脚力であっという間に彼女の元に追いつくと、ジャンプで彼女を飛び越え目の前に降り立つ。

「ひっ!?」

突然の事に驚きと恐怖が入り混じった悲鳴を上げるひな。

そんな彼女に、威嚇でナイフを振る。

彼女の視線の先を、銀色の刃が通過した。

「ぁ……ぁあ……」

とすん、と。

ひなの腰が抜けて、その場に尻餅をつく。

そんな彼女にも無感動のまま、千秋はナイフを逆手に持ち替える。

「いや……いやぁ……」

ついにその翡翠色の瞳を持った目から大粒の涙が流れ落ち、顔はこれから訪れる死の恐怖に歪んでいた。

「助けて……パパ、ママ!助けてぇ!!」

泣き叫びながらいやいやと首を振るひなに、なんの感傷も抱かない千秋。

その瞳から、輝きなどとっくに失われていた。

任務を遂行するために心を殺した彼女は「ピンチに陥った状況で元の記憶が覚醒し、自らの攻撃を防ぐ」のを前提にし、ひなを全力で殺しにかかっている。

「いやだよ……死にたくないよ……いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだぁ!」

恐怖に泣き叫ぶひなの声を聞き、千秋は不愉快そうに眉を顰めて歯を食いしばった後、ナイフを逆手持ちした右手を振り上げ―――










一気にそれを放り捨てると、ひなの事を思い切り抱きしめた。










「え……?」

呆然としていたのはひなの方だ。

先程まで自分を殺そうとしていた女に、いきなり抱きしめられているのだから。

「おねえ、ちゃん……?」

恐怖が消え、純粋な疑問を浮かべながら問うひなの耳に、

「うっ……うぅ……ぐすっ……ぁあぁぁぁぁ……」

千秋の嗚咽が聞こえてきた。彼女は泣いていたのだ。

腕を振り上げた瞬間。

ひなは無意識のうちに防御態勢に入っていたのだ。

その体勢―――「その場に体育座りして交差させた両手を頭の上に掲げる」というまるでいじめられっ子のようなポーズを見た。

それが限界だった。

千秋はナイフを放り捨て、ひなを力いっぱい抱きしめた。

怖い思いをした彼女を慰めたいという気持ちもあったが、それ以上に怖い思いをさせてしまった罪悪感が、彼女の心を蝕み、最後の最後で絶対的なブレーキとして機能したのだった。

「無理よ……」

心におった傷口から地が流れるかのように、両目から大量の涙を流しながら、言う。

「私には……私には無理よ!ぅぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!」

慟哭にも似た泣き声をあげ、彼女を一層強く抱きしめる。

「おねえちゃん……う、ぅぅ、うええええええええええええええええええええええええん!!!」

ひなもまた、今までの恐怖から解放された安心感からか、再び大粒の涙を流しながら千秋に抱きついた。

「おねえちゃん……怖かった……怖かったよぉ……!!」

「ごめんね…………ホントに、ごめんね……!!」

二人の涙はしばらく収まらなかった。





もちろん、これを見た幹部メンバー全員が頭を抱えたのは言うまでもない話。

いかがでしたでしょうか?

あんな「カリスマガード」されたらナイフなんて振り下ろせませんよね。

ひなちゃんはもう、戻らないのでしょうか……?


次回の投稿予定日は活動報こk(ry


さて次回は真子ちゃんが模擬戦をやります。

乞うご期待!

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