四十八話
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2016年の7月30日午後7時。
訓練を終えた俺―――八重樫強志は、兵舎村に足を運んでいた。
兵舎村とは一般の兵士が寝泊まりするための宿舎が一箇所に集い、団地のような構造になっている場所である。
屋外大訓練場に2つ。そして屋外大訓練場と同じ、全体の4分の1の敷地面積を持つ一般兵器倉庫、武装実験場エリアに2つずつ存在する。
屋外大訓練場の兵舎村にはAエリアとBエリアが存在し、俺の泊まっている部屋があるのはAエリアだった。
なお、Aエリアには天川中隊が部屋ををまとめて取っている場所が存在し、俺が寝泊まりする部屋もそれの一つだった。
俺は自分の部屋の前で立ち止まり、ドアノブに手をかける。
鍵は開いている。同居人が締めないからだ。
あとはドアノブを回せば自ずと扉が開く。
だがそこで、俺は躊躇した。
開けたくない。この扉を開けたくない。
この扉を開けて、中に入るくらいなら俺は野宿でもいい。
そんな思いが常に俺の頭を渦巻く。
しかし、悲しいことに俺の職業は軍人だ。
軍人にとって、上からの命令は絶対。
命令に逆らうことは許されない。
この部屋に入り、待ち受けている同居人の面倒を見る事が俺に課せられた任務なのだ。
「すぅ……ふぅー……」
深く息を吸い、吐く。
心を落ち着け、覚悟を決める。
そして、
「ッ!」
意を決して扉を開く。
ドッ!と。
俺の腹のあたりに衝撃があった。
例えるなら弾んだバランスボールがお腹にぶつかるような軽い衝撃。
訓練で疲れたとはいえ、俺の体はこの程度では倒れない。
腹筋と重心をつかってその衝撃を吸収する。
そして俺は衝撃のあった下腹部のあたりに視線を向ける。
一人の幼い女の子が、俺に抱きついているのが見えた。
銀色の長い髪を持った10歳前後のその女の子は、俺の顔の方を見上げると、年相応の笑顔でこう言った。
「パパ!おかえり!!」
今の俺の不愉快な心情を悟られないために、あらゆる感情を殺し、造られた笑顔を向ける。
「あぁ、ただいま。ひな。」
地獄が。
始まる。
「あぁ、あなた。おかえりなさい」
「あぁ真子。今帰ったよ。」
台所で夕飯をこしらえている真子にそう返しながら、俺はひとり用のソファに倒れこむように座る。
「ふぅ~……」
「パパ!お仕事お疲れ様!」
俺がネクタイを緩めてくつろいでいるとひな―――トラウマの復活して完全幼女形態となった望月が飛び込んでくる。
俺に一瞬たりともやすらぎの時間を与えるつもりはないらしい。
「おう、ひな。パパが仕事行ってる間、いい子にしてたか?」
「うん!今日はね、ママと一緒にお買い物してたの!」
「お~そうかそうか。どこに行ったんだ?」
「お洋服買ったんだ!後でパパにも見せてあげる!!」
「うん。楽しみにしてるよ」
傍から見れば平和な家族の会話だ。
だが、俺にとってはこの会話が何よりも辛い。
「さぁ、ご飯が出来たわよ。ひなちゃん。運んでくれる?」
「は~い!」
台所で格闘していた真子がひなを呼ぶ。
ひなは俺の上から飛び降り台所へ向かうと、料理の盛りつけられた皿を危なっかしく運んでくる。
これが望月の悪ふざけの一環ならとっくにぶっ飛ばしているが、そうじゃないからタチが悪い。
今日の夕飯は若鶏の唐揚げと特製の海鮮サラダ。あさりの味噌汁と白米のご飯だった。
「さて、じゃあひな。手を洗いに行こうか。」
「うん!」
俺はソファから立ち上がると料理を運び終えたひなを連れて洗面所に向かった。
「~♪」
上機嫌に鼻歌を歌いながら手を洗うひなを見て、思わず口から重く重く重く重く重~~~~~いため息が出た。
「ん?どうしたのパパ?」
すぐに俺の異変に気づき振り返るひな。
もしこれが演技なら絶対にぶち殺してやる。
そう俺に思わせるほどの純粋な瞳で俺を心配してくる。
俺はすぐさま取り繕った。
「いや、なんでもないよ。ちょっと疲れただけだ」
主にお前のせいでなという本音を胸にしまいつつ、俺はひなに言う。
「そっか。元気出してね?」
「あぁ。ありがとうな」
心配されればされるほど俺の心がすり減っていく。
そんなことなど露程も知らないひなは、手を洗い終えるとすぐに食卓の方へと向かっていった。
俺も手を洗って後に続く。
俺と真子。そしてひな。
3人が椅子に座ったのを確認してから、俺が言う。
「よし、それじゃ。いただきます。」
「いただきますっ!」
「いただきま~す!」
食事の前の挨拶を済ませて箸を取ると、俺はテーブルの中央に置かれた大皿の上にこれでもかと乗せられた若鶏の唐揚げを一つ摘み、口に運ぶ。
サクッ、と。
一口かじった瞬間、俺は複雑な気持ちになった。
外はサクッと、中はジューシーに。
溢れ出て来る肉汁はとても濃厚で、鶏の旨みをこれでもかと口内にもたらす。
率直に言おう。
「メチャクチャ美味い。」
「ホント!?良かった~。口に合わなかったらどうしようかと思ったのよ。」
俺の感想に安心した真子はフゥ、とため息を漏らす。
その顔には幸せそうな笑顔が張り付いている。
俺が複雑な気持ちになったのはここだ。
料理は美味い。こうやってあれこれ考えてる間にもアッツアツの唐揚げを一個まるごと口に放り込んで咀嚼しているし、それと同調するように白米のご飯を口に運んでいる。
だが、料理が上手くなっているという事はつまり、事態がさらに悪化の一途をたどっていると言う事だ。
美味い料理が食べられるのを素直に喜ぶべきか、美味い料理が食べれてしまうことを嘆くべきか。
「ひなちゃんはどう?」
「あ、あひひ!?」
「あぁ!?ひなちゃん、ちゃんとフーフーしなきゃダメでしょ?」
「わ、わしゅれてた……」
「もう、ふふふっ……」
冷まさずに食べようとしたひなが痛い目を見ている。
本来ならばざまあみやがれクソ野郎と言ってやりたい所だが俺がそう言ってやりたいのは「望月拓哉」という悪友なのであって彼女ではない。
結局その後は、今日買い物に行ってきたと言うファッションセンターの話をしながら食事を楽しんだ俺たちだった(肝心の俺は楽しめてないが)。
午後10時。
ひなを寝かしつけた真子が、起こさないように慎重にベッドを離れる。
そして食事が終わり、何も置かれていない食卓の椅子に腰掛けると、向かい側に腰掛ける俺に向かって言った。
「今日も終わりましたね、八重樫先輩」
と、ここで解説というか現在の二人の状況を復習してみたいと思う。
望月拓哉―――望月ひなは、完全にアウト。
人格は愚かこれまでの記憶も何から何まで全て改ざんされ尽くした状態である。故に、自分が軍人であることも、天川中隊のNo.2である事も忘れている。
しかし、北条誠―――真子の場合は違う。
彼女の今の状態は7月24日時点の一週間の洗脳期間終了直後なのだ。
そしてその時の彼の記憶状態は「業魔を誰より憎む少年」から「業魔を憎みつつも、自分の名前にコンプレックスのある少女」にすり替えられた状態。
つまりそれ以外の記憶―――つまりこれまでここで過ごしてきた3ヶ月の記憶は(ところどころ改ざんされているとは言え)ちゃんと残っているのだ。
故に、真子はひなの正体が魔女化状態の望月である事も、過去彼の身に何があったかも全て知っている。
全てを知った上でひなの前ではあのような態度を取っているということだ。
もっとも、彼だって「自分は元から女性である」と思い込んでいる状態が続いているため、いつ完全に女性化するかも分からない。
そんな状況に、俺としては生きた心地がしない毎日が続いているのだが。
「あぁ、終わったな」
「大丈夫ですか?日に日にやつれて行ってる気がするんですけど……」
「6割はアイツのせいだが残り4割はお前の新妻ぶりのせいだよ」
「に、新妻だなんてそんな……照れちゃいますよぉ……」
「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「あぁっ!?ごごごごごめんなさい!謝りますからそんな長いため息吐かないでぇ!」
よくため息を吐くと幸せが逃げると言うが、それは誤りだ。
だって、ため息が出るときは幸せの「し」の字も無い時なのだから。
「それで、どうですか?望月先輩を元に戻す方法、見つかりましたか?」
「まぁ、可能性のある事案が一つある。」
「本当ですか!?」
「あぁ。」
正確にはお前と望月を元に戻す方法だがな、と心の中で付け加えつつ、俺は言った。
「模擬戦だ。」
「模擬戦?」
聞き返す真子に、俺は今日会議で決定した事案を伝えていく。
「あぁ。今日また例の幹部メンバーたちで会議があって、お前と望月を、誰かと模擬戦させることになった。」
「え?どうして私もなんですか?」
お前も同じ状況下だからだよと言いたいがそうもいかない。
「お前、戦闘時の魔力が不安定って言って最初焔団長の所で世話になってたんだよな?」
「まぁ、はい。」
「今はもう流石に安定してるだろ?見てれば分かる。今のお前が実戦に出せるかどうかをその模擬戦で見極めるのさ。」
「なるほど……じゃあ望月先輩は?」
その問いに俺は肩をすくめながら言う。
「ただのショック療法だよ。模擬戦で実戦の感覚を思い出せれば少しはマシなんじゃないかってだけだ。」
「あぁ……」
どうやら納得してくれたようなので、俺は真子に明日の指定された時間に地下訓練場(元闘技場)に来るように伝えた後、就寝した。
次回の投稿予定は……ってもう言わなくていいですよね。
二次創作にかまけてしまって申し訳ありません。
こちらの方でもぼちぼち再開していくんでよろしくお願いします。




