四十四話
最新話です。
今回は日記に挑戦してみました。
青山焔の基地内放送から5分後。
天川雫は、団長室の前まで到着していた。
今の彼女の表情には緊張と不安の色が出ている。
あの放送が流れる直前に。
彼女の携帯端末にあるメールが届いたのが原因だった。
『大事な話があるから、団長室まで来てね~!よろしく♪』
それを見た瞬間、彼女は一つの確信を得た。
そう。
このドアの向こうに、自分の部下である、北条誠がいるという確信を。
「(今日のあの放送やメールを見る限り、誠くんが関係しているのは明らか……心配だわ。)」
今から一週間前、焔が誠の面倒は自分が見ると言い張って以来、彼とはいかなる手段をもってしても連絡を取る事が出来なくなった。
それに加え、部下である八重樫強志の言っていた事も気になる。
「(昇くんには意地でも知られたくなかった誠くんとの生活……一体何をしたって言うの?)」
このドアの向こうには、おそらくもう各中隊長や新兵達は勢揃いしていることだろう。
コンコンコンと、ドアをノックする。
―――はぁい?
「天川です」
―――どうぞ~
許可を得た雫は、ドアノブを掴む。
「ふぅ~…………よしっ!」
考えても仕方ない。この向こう側に真実があるのだから。
そして彼女はドアノブを捻り、開けた。
混沌への扉を。
「はぁい!待ってたよ!」
まず雫を迎えたのは、団長の机に座ってニコニコと笑顔を絶やさない焔だった。
部屋には案の定、各中隊メンバーおよび、副隊長。そして誠の戦友の3人がいた。
「やっぱり、みんなも呼び出されてたのね。」
「ったりめぇだろ。」
そう答えたのはチョコスティックを口に咥えた浜崎茜だ。
「そして、アンタも呼ばれた理由はもう検討がついてる。だろ?」
「……えぇ。」
そこに相沢尊が相変わらずふわふわした声で
「十中八九誠くんの事だよね~?」
と言えば峯岸秋穂が無表情のまま、
「……誠くんの貞操は奪われた」
などと早とちりし、
「峯岸さん、まだ早いわよ」
冷静にそこを指摘する袴田楓。
彼女たちの会話を聞く限り、ここに呼び出されたたのは誠に関する事であることに揺らぎはなくなった。
問題は彼女―――いや、彼が今どうなっているかだ。
「ん?」
ふと、その時。
彼女の視界に二人の人物が入った。
背の高い少年と、白金の長い髪を持つ幼い少女。
間違いなく雫の部下、八重樫強志と望月拓哉(何故か魔女化状態)である。
「八重樫くん、望月くん。」
強志は片手で顔を抑えており、拓哉にいたっては体育座りをして、全方位に負のオーラを撒き散らしていた。
「た、隊長……」
「……」
強志は雫に反応したが、拓哉は負のオーラが凄すぎて、反応しない以前に雫の方が近づくのをためらった。
おそらくこのまま拓哉の半径3m以内に入れば悲しみの向こうへとたどり着くことになってしまうであろう。
「貴方達……何があったの?」
「それは……」
「……」
しかし、強志が何かを言う前に口を開いた人物がいた。
「さぁお姉ちゃん!役者は全員揃ったわ!」
「そろそろ聞かせてもらおうじゃねぇか。お前の1週間の成果って奴をよぉ」
団長の実妹である青山桜花と、無二の親友である紅井薫だ。
それに同調するように、彼らも口を開く。
「そうです!誠に会わせてください!」
「アイツは、アイツは今どうしてるんですか!?」
「僕たちは彼が心配なんです!」
それを聞いた焔は「まぁまぁ」と手で抑えるような動作をし、こう言った。
「そんなに心配しないでも大丈夫だよ。誠くんなら、私の部屋で待機してもらってるから。」
「それなら早く―――」
「ただし。」
薫の言葉を遮り、焔は机の引き出しからあるものを取り出し、机の上に置いた。
「誠くんに会うのは、これを見てからよ。」
「?」
強志と拓哉を除く皆が、それを認識するために机を囲むようにして集まり、机の上に置かれたものに注目する。
「……日記帳?」
そう。それはどこにでもありそうな、なんの変哲もない普通の日記帳だった。
「そうよ。これはただの日記帳。だけどこれには―――」
そこで焔は言葉を切ってから、何かを決定づけるように宣言した。
「誠くんがここ1週間の出来事について書いたものよ。」
「!!」
北条誠の、ここ1週間の出来事。その記録。
それは、ここにいる誰もが、一番知りたかった情報だ。
その情報が今、目の前に転がっている。
「……よし。」
そう言ったのは、薫だった。
薫は恐る恐るといった調子で日記を手に取り、皆が見やすい位置まで持っていく。
「……みんな、行くぞ?」
その問いに、全員が緊張した面持ちで頷いた。
そして今、誠の日記が開かれる。
7月17日。
この体が女になったその日。
俺は焔さんの部屋でしばらく生活する事になった。
手始めに服をすべて引き剥がされて、焔さんの所有している女性用下着を無理やり装着させられた。
嫌悪と屈辱で頭がおかしくなりそうだ。
これから俺はどうなってしまうのだろうか。
7月18日。
思ったようにご飯が食べられない。
「女の子になったんだから食欲が違うのは当たり前でしょ?」と言われて、自分が女の子になってしまったのだと言う事を再認識させられた。
だが、俺は挫けない。
戦女神には憧れるが、女の心に目覚めるのなんかゴメンだ。
7月19日。
今日は焔さんといっしょに第0地区まで服を買いに行くことになった。
俺は拒んだが「これからは女の子の私服も持ってなきゃダメだよ」と言われて、半ば押し切る形で連れて行かれた。
「自分で何を着るか選んで」と言われ、適当に選んだ夏物のワンピースを着た自分の姿を試着室の鏡で見たら、不覚にも見とれてしてしまった。
これが今の自分の姿なのだから信じられない。
とりあえず他にも夏物の服を何着か購入した。
7月20日。
胸の動悸が収まらない。
事の発端は、今日シャワーを浴びていたら全裸の焔さんが「背中流してあげるわ」なんて言いながら侵入してきて、背中を流すついでに色んな所を触られた事にある。
焔さんの手は触れられ、弄ばれる度に、全身に電気が走るような奇妙な感覚が現れ、自分の口からこぼれたソプラノの喘ぎ声を聞いてからずっとこの調子だ。
……自分の声に興奮してしまっているのか?
だとしたら恥ずかしい事この上ない。こうして日記を書いている今も、俺の顔は真っ赤になっているだろう。
そういえば、その時に感じていたのは激しい羞恥だけで、不思議と初日のような嫌悪感は無かった。
何故だろう?
7月21日
きぶんがいい。
今日、街にお出かけしてたら、「きみ可愛いね」って男の人になんぱされた。
おれは男だからって言って断ってきたけど、可愛いって言われると、すごくきぶんがいい。
焔さんにほうこくしたら、「貴女は女の子なんだから、かわいいって言われたらそりゃうれしいでしょ」って言われた。
そっか、俺、可愛いんだ。
7月22日
ひさしぶりに、のぼるさんと会った。
でも、のぼるさんはなにも言わないで、ずっとおれのことみてた。
もしかして、おれに見とれちゃったのかな?
えへへ、てれちゃうな。
7月23日
ほうじ ょう ま こ
わ たし の な まえ
かわい い す てき な なま え
「「「「「…………」」」」」
ここまで読み進めて、皆は何も言えなくなっていた。
皆が、顔中に嫌な汗を出している。
日記に綴られていたのは、皆の知っている北条誠が、別の誰かになっていく様子だった。
「焔……お前、北条君に何をした?」
鋭い眼光で焔を睨みつける薫。
そんな視線を軽く受け流しながら、焔は言う。
「まだよ薫。その日記、今日の記事はまだ読んでないでしょ?」
「……」
言われて、薫は次のページをめくるために、指先で紙を掴んだ。
「………みんな、開くぞ。」
唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
皆、緊張しているのだ。
「……よし!」
意を決して、次のページをめくった瞬間―――皆は絶句した。
7月24日
私の保護観察期間が終わり、明日から、正式に仕事に復帰出来る事になった!
と、言うわけで今日はみんなと久しぶりに再会できる事になってます!
その前に、団長室でみんなと会う前に部屋に戻って先に先輩たちに挨拶してきた。
二人共すっごい驚いてたけど、何かあったのかな?
そういえば、先輩たちが私のこと「誠」って呼んで気付いたけど、みんなには新しい名前を発表してないだよね。
今思えばなんで私のパパとママは誠なんて男の子みたいな名前にしたんだろ?
焔さんに新しい名前つけて貰ってよかったな。こっちの方が可愛いし♪
あ~、みんなと会うのは一週間ぶりだなぁ、元気にしてるかな?
「さて、それじゃあ主役を呼ぼうか!真子ちゃ~ん!!」
皆が声を上げられない状況の中、団長室に、焔の声が聞こえる。
数秒後、ドアが開く。
その先にいたのは、
「皆さん、お久しぶりです!」
一人の、女の子だった。
楽しんでいただけたでしょうか?
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