第三話
お待たせいたしました。第3話です。
どうぞ。
「エリア12」の民間人が、軍に志願。
これは、何も珍しい事じゃない。
「エリア12」だけじゃない、他の元難民者の連合組織でもそうだ。
世界中の難民者がそれぞれの「エリア」に移住を始めてから、もう3年以上が過ぎている。
奪われた領土を取り返すため。愛する人を守るため。そして……憎しみを糧に、業魔を根絶やしにするため。
理由は人によって様々だが、それらの願いを叶えるべく「魔術連合国家軍」に志願する兵士は、今でも後を絶たない。
俺達4人も同じ、この春から軍に志願する「元」学生だ。
元々俺達は、「魔術師養成学校」の生徒で、その学校は前線で戦う魔術師を育成するために設立された、いわば専門学校だ。
卒業すれば、ほぼ間違いなく軍に配属され、前線で戦う戦士となるか、はたまたそれを援助する者になるかに分けられる。そんな学校だ。
そして、その学校には、ある特殊な「権利」を得られるチャンスが存在した。
その得られる権利とは、「高等部の全学年の中でトップの成績を取った上位4名が、卒業前に軍に志願する権利」だった。
そして俺―――北条誠と、多村信司、野上悠斗、新井健太の4人が、成績でトップ4を取り、今日晴れて「エリア12」を出て、イスラム共和国。通称「イラン」に存在する「第12独立魔術師団」の本部へと派遣される事になったのだ。
上空2000メートル。軍用輸送機「V-22」内部―――
「おおすっげー!俺オスプレイなんて初めて乗ったぜ!」
「ああ!こりゃあ感動モンだ!」
窓に張り付き、外の景色を眺めながら信司と悠斗の2人が、まるで子供のように騒ぎ立てる。
「ガキじゃねえんだからヘリごときで騒いでんじゃねえよ。バカバカしい。」
俺は普通に思った事を言った。
「う、うるせぇな!いいだろ別に!あとヘリじゃなくてオスプレイだし!」
「何も違わねぇだろ。」
「それにお前もまだ16だろ!?全然ガキじゃねえか!」
「てめーらみたいにヘリに乗ったくらいでギャーギャー騒ぐほどガキじゃねえっつの。」
「「なんだとぅ!?」」
それにな、と俺は言葉を続ける。
「俺たちは軍に志願した兵士なんだぞ?ヘリなんてこれからイヤっつーほど乗るだろうし、戦闘の時にいちいち騒いでたら身が持たねーだろうが。」
俺の至極全うな意見に口を詰まらせる2人。
「健太を見てみろよ。」
そう言って俺は、自分の隣に座っている健太を指差す。
緊張した面持ちで、何か手帳を読みふけっている
「お前らがバカみたいに騒いでる間に、健太は自分でメモした軍規をああやって復習してんだ。お前らもコイツを見習ったらどうだよ?」
それを聞いた2人は、ばつが悪そうに顔を伏せた後、自分の座席におとなしく座りなおした。
「(さて、これで静かになった。居眠りでもするかな。)」
俺は、一眠りしようと両手を組んで、眼を瞑った。
だが、状況は俺の睡眠を許してはくれなかった。
それまでは静かだったのに、健太が喋り出したのだ。
「そういえばさ、今から行く所ってさ……。」
「あん?」
「なんだよ?」
「……。」
俺は無視を決め込むつもりだった。
健太が、それを言うまでは。
「やっぱり……綺麗な人とか多いのかな?」
「ぶっ!?」
「はっ!?」
「ええっ!?」
俺は思わず目を見開いて、声を上げていた。
「い、いきなり何言い出すんだお前!?」
「そうだよ!びっくりしたじゃねえか!」
2人の意見はもっともだ。俺だってびっくりした。
「だって、気になるじゃないか。第12独立魔術師団は美人が多いって有名なんだよ?」
「はじめて聞いたぞそんな情報。」
「特に青山総団長は、「エリア12」を含む日本人の中で一番の美人だって噂だよ。」
「へ、へぇ……。」
「美人が多い……か。」
健太のアテのない情報に夢を見始めてる2人の目を覚ますため、俺は口を開いた。
「はっ、何かと思えば噂かよ。」
「何だよ誠?その言い方は。」
俺の言葉に気を悪くしのか、健太がすかさず反論する。
だが俺は理屈で押す。
「お前、確たる証拠もねえのにそんなこと言ってんのか?」
俺の発言に、健太はわずかに戸惑う素振りを見せる。既にこの有様だ、コイツの情報は嘘に決まってる。
「こ、根拠が無いわけじゃないよ。」
「へぇ?言ってみろよ。」
俺に促された健太は、その「根拠」をぶつぶつとつぶやいた。
健太の言う根拠は、第12独立魔術師団は、魔術連合国家の中でも頭一つ飛びぬけて優秀な集団である。
そしてその証拠が団名の中の「独立」と言う文字であり、この文字は、独自の判断で行動を許された証である、と言う説明から始まった。
そして第12独立魔術師団が優秀な集団であり続けられる理由としては、所属している「魔女」の数が多く、その数はなんと魔術師団全体の半数以上であると言う事が、例として挙げられる。
元々「魔力」とは、太古より女性のみが先天的に体内に宿す異能の力の事で、この力をあらゆる方法で変換、発動させることで「魔法」となっていたのだ。
それを変えたのが1905年に始まった「魔力開発計画」。そしてそれが原因で1950年に起こった「魔法革命」だ。
女性の体に先天的にしか宿らない魔力を、男性の体に宿すにはどうすればいいのか?という疑問は、長きに渡って問われ続けていた。
そして、1890年1月24日より始まった業魔たちとの争いの影響を受けて、その「疑問」は人類にとって最重要の「課題」となり、研究が全世界で進められた。
45年に渡る研究と実験の結果、ついにある一人の研究者が、男性の肉体に―――後天的ではあるが―――魔力を発現させる方法を発見する。
この偉大な発見は「魔力開発計画」の終了に直結し、その方法は全世界で行われた。
そのおかげで21世紀になった時点では、既に男女問わず先天的に魔力を持って生まれた子供たちが多数派であり、その子供たちには俺たちも含まれているのだ。
しかし、いくら男女問わず先天的に魔力を持っていたはいえ、男性が保持できる魔力の上限は、女性のそれと比べて遥かに劣っている。
このため女性は男性よりも多くの魔力を備えている。女性たちはその魔力を行使し遥か以前から、戦いに身を投じてきたのだ。
故に、女性は戦力的価値が高く、魔術連合国家では割と特別な扱いを受けているのだ。
「つまり、女性が全体的に多い―――」
「ちょっと待て健太。なんで女性=美人ってなんだよ?」
俺の至極全うな意見に、喉を詰まらせた健太。同時に勝利を確信する俺。
「じょ、女性は普段から綺麗でありたいだろうし・・・」
「ふぅん?じゃあお前は第12独立魔術師団に所属している女性が、全員アイドルを狙えるような、ピチピチの若くて可愛い女の子だとでも?年齢がバラバラじゃない保障がどこにある?」
「ま、魔術師団の魔女達は全員、美容には気を付けてるって話だし、魔法とか色々駆使して美形を保っていてもおかしくは無いだろうし……」
「いくら魔女って言っても、魔力の上限が多いだけで、全員がレベル高いわけじゃねえだろ?なんでも美容関係の魔法ってのは、A級でもないと使いこなせないらしいけどな?」
魔術師にはランクと呼ばれるものが存在し、これが優秀な人間は、比例して実力も高いことが多い。
小学校から高等学校の過程終了時までの内容であるF級からE級 の下級魔術師から、ひと握りの天才のみがたどり着けるS級の賢者までランクが存在する。
俺の言うA級は上級魔術師と呼ばれる分類の最高位に位置し、この領域に達するには並々ならぬ努力が必要とされている。
そして俺はつーかさ、と言葉を付け加え、健太に問う。
「お前、美容には気をつけてるって言う情報はどっから持ってきたわけ?もしかしてお前、一度魔術師団本部に行った事でもあるの?それとも姉貴かなんかが魔術師団に所属しているとか?でもお前兄弟いなかったよな?」
「そ、それは……。」
言葉に詰まった健太にトドメを刺す。
「お前の言う情報ってのは裏はちゃんと取れてるんだよな?」
「うっ……。」
俺の理屈に押されて健太は完全に黙ってしまった。
これで俺の勝ちが決定したわけだが、なぜ俺がここまで健太の意見を食いつぶそうとするのか。
ぶっちゃけ言おう。俺は女が大嫌いだ。
その理由としては、あくまで俺の個人的な観点から見た場合だが、世の中の女共は「態度がデカく、とにかく偉そう」なのだ。
先程も言ったことだが、女性は俺たち男性よりも多くの魔力を先天的に持っている。だから当然魔術の扱い方にも長けているし、高度な魔術も簡単に覚えられる。
だが、それをいい事に女たちは嘲笑や哀れみの目で俺たちを見ているのだ。
どれだけ可愛い顔をしていても、どれだけ優しい性格をしていても、女共は俺たち「男」と言う人種をどこかで見下している。
俺はそれが気に入らないのだ。
「ほらな?確かなウラさえ取れてない曖昧な情報。噂なんて所詮そんなもんだ。2人もそんな根も葉もないモノに振り回されんじゃねーよ。」
そう言いながら俺が、2人に顔を向けると、信司、悠斗の2人は何か言いたげな表情でこちらを見ていた。
「…なんだよ。」
俺が問うと、2人は声を揃えて言った。
「「お前……夢が無いよな。」」
「はぁ!?なんだよいきなり!」
俺が反論すると2人は即座に言い返してきた。
「だってホントにそうじゃん。」
「あぁ。夢くらい見たほうがいいぞ?お前も。」
2人は妄想に胸を膨らませながら言葉を続けた。
「これから行く職場が、ホントに美人さんが多い職場だったら最高じゃん!ましてや彼女なんて出来たら言う事なしじゃん!?」
「休暇を貰って「エリア12」に里帰りした日にゃ、街の中で華やかにデート……くぅ~!想像しただけで胸が躍るぜ!」
「はぁ……くっだらね。」
アホだ。とてもこいつら2人には付いて行けん。そう確信した俺は、そんな言葉を知らず知らずの内に吐き出していた。それを聞き逃さなかった悠斗が攻撃を仕掛ける。
「そうやって「くだらねえ」の一言で片付けるから夢が無いって言ってんだよ!」
「てめーらがバカすぎてそれ以外かける言葉が見当たらねえんだっつの!」
その口論に信司も参戦する。もちろん悠斗サイドで。
「何で夢を持とうとしないんだ!お前それでも人間か!?」
「夢ならあるさ!業魔を殲滅するって言う大きな夢がな!」
「「それ夢って言わないし!!」」
大体な、に続く形で俺は言葉を切り出した。
「冷静に考えろ?仮にお前らが言う通り美人が多かったとするぞ?必ずしも彼女が出来るわけじゃねえだろ?ましてや、いつ死んでもおかしくないような職場だ。お互い恋愛なんかにうつつを抜かしてる場合か?お前らこそ夢ばっか見てないで現実を見ろよ!」
国語があまり得意じゃなかった俺が割と頑張って作った作文だが、それらを軽く無視し、2人はさらに反論する。
「これから過酷な現実が待っているからこそ夢やジンクスに走るんだろうが!」
「それで何かが変わるわけじゃねえだろうが!最終的にモノをいうのは自分の実力と運!それから気合なんだよ!」
「そうやって夢が無いこと言ってるから、お前は未だに彼女いない暦ゼロ年なんだよ!」
「前々から言ってるが俺は女が嫌いなんだよ!大体2人揃ってフラれた奴に言われたくねえんだよ!」
「「そんなこと言ってたらいつまで経っても童貞卒業できねーぞぉ?」」
堪忍袋の緒が切れた俺は立ち上がると拳を握った。俺の得意とする電撃系魔法の魔力が体中を駆け巡り、全身をわずかにビリビリと痺れさせるのが分かる。
「上等だテメェら!そこまで言うんなら拳で語り合ってやらぁ!」
「なんだ?やろうってのか?おもしれえじゃねえかこの野郎!」
「俺もいい加減決着つけてもいい頃だと思ってたんだよ!いい機会だ!ぶっ潰す!」
信司、悠斗の2人も、それぞれ得意な火炎系魔法と氷結系魔法の準備を整えてる。
だが、戦いのゴングがなる前に、輸送機を操縦していたパイロットが、機内放送でアナウンスを流した。
『おいクソガキ共。喧嘩するんならもうすぐ着くから、そこでやれ。』
「「「なにっ!?」」」
頭にある怒りを無理やり押しとどめて、俺は窓を見た。
すると眼下に広がるのは、森や草原。山などが乱立する地帯にポツンと「エリア12」のように円形に囲まれた都市だった。
「これは…もしかして……!」
「もしかすると……?」
「……着いたのか?」
俺たちの言葉に反応し、パイロットが続ける。
『あぁそうだ。テメェらがこれから配属される第12独立魔術師団。その本部基地がある「エリア12」。幻の「7つ目」の居住区。「第0地区」だよ』
次回の投稿予定日は9月28日です。お楽しみに。




