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雷の戦女神(ヴァルキュリア)(凍結)  作者: yutaso
第三章 発現、魔女化能力
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四十三話

最新話です。

かなり長めに作ってあります。

今回は四話ぶりに誠が登場します!!

俺は今、非常に混乱している。

今のこの状況に、だ。

全身からは気色悪い汗が流れ、目は限界まで見開かれている。

俺のこの混乱の種は、突如部屋の鍵を開けて入ってきた一人の「少女」にある。



その少女は、



生気の消え失せた輝きのない瞳で俺を見つめ、



やがて満面の笑みを向けると、



「お久しぶりですっ、八重樫先輩!」



年相応の元気な「女の子」のように、そう言った。








時は、少しだけ遡る。








「はぁ~、食った食った~」

「……」

訓練がいつもより早めに終わり、他の皆より先んじて食堂で腹ごしらえを済ませた俺―――八重樫強志と、同期の戦友である望月拓哉は、自分の部屋に戻ってきた。

「さ~てと。食後にはアイスを食わなきゃな~」

なんて呑気な事を言いながら冷蔵庫の方へ向かう拓哉を尻目に、俺は備え付きのクローゼットの方へと向かった。

中のクローゼットを開け、スウェットを取り出す。

半袖のワイシャツとスラックスを脱ぎ、ワイシャツは洗濯カゴへ、スラックスはハンガーへと掛ける。

通気性のいいスウェット姿に着替えた所で、後ろから拓哉の声が聞こえてきた。

「あ!俺のスイカバーが無くなってる!!強志テメェ俺のスイカバー食いやがったな!?」

なんという濡れ衣だ、と心底思いながら、俺は返事をする。

「食うわけねぇだろ。大体俺は「ゴリゴリくん」派だ。」

「くっそー、知らない間に食っちまったってのか?」

「だとしたらそれ夢遊病に近いぞ?医者行くか?」

「まぁいい、とにかくスイカバーがないと俺の食事は終わらねぇ、ちょっと売店行って買ってくるぜ!」

「はいはいご自由に。」

拓哉が自室を飛び出し、開けっ放しになったドアを閉めて、鍵をかける。

それが終わってから、俺は自分のベットに横になった。

食べたものを消化するのには、右を下にして横になるのがいいと言うのを、聞いた事がある。

俺はそれに習って、右を下にして横になってから、しばらく読書をするのが日課となっているのだ。

枕元に置いてあった文庫本を手に取り、しおりの挟んだページを開こうとした時、

「……」

俺の視界に、ベッドが写った。

何も、そのベッドが特殊なわけじゃ決してない。

どこにでもある、普通のベッドだ。

ただ、本来のそのベッドを使っている人間の行方を、俺はこの一週間知らないままだった。

いや、違う。

彼がいる場所は分かっている。

だが、彼の安否は依然として不明だ。

「(北条……)」







俺の後輩、北条誠が消息を絶ってから、一週間が経った。

事のきっかけは、誠の身に突如として「後天性魔女化能力」が発現した事にある。

最初見た時は、まるで見えない何かに怯えるような仕草をしていた彼だが、あの金髪と目元に残った面影は、間違いなく、あの少女が北条誠であると言う事を知らしめていた。

その後、天川隊長を含めた各中隊長のメンバー、紅井副団長、そして青山団長のみの幹部のみで開かれたと言われている団長室での緊急会議の中、突如青山昇団長の人格を乗っ取って出てきた青山焔団長が「私が面倒見る」と宣言すると、そのまま団長室を出ていったという。

それ以降、誠とは一切の手段での通信が不可能となった。

携帯電話はもちろん、クラウド経由のメールも、スマホの人気アプリ「Line」を持ってしてもだ。

天川隊長が言うには、


「あの時の焔ちゃんの顔は「子供が新しいおもちゃを見つけた」時の顔だったわ。誠くんが心配ね……」


それを聞いた時、俺はすぐに理解した。

誠は、団長室にいると。

そして、彼は今、外部との連絡手段を一切絶たれている。

これはどう考えても普通じゃない。

そう考えた俺は、団長室に訪問した事がある。

誠の行方を知るために。

団長室には、青山昇団長がいた。

てっきりずっと封印されたままなのかと思っていたが、そういう訳ではないらしい。

俺は団長に問うた。

―――誠は今、何処にいるんですか?と。

しかし、団長は首を振ってからこう答えた。


「誠の居場所は、俺の部屋だ。だが、誠の安否は俺も知らない。俺がこうやって自我を保っていられるのは、仕事の時だけでな。自室に戻った瞬間、再び乗っ取られて感覚も遮断されちまうのさ。」


なるほど、と思った。

大した徹底ぶりだ。

人格がはっきりと分かれているタイプの魔女化能力者は、片方が意識すればもう片方の人格を遮断する事ができる。

自室にいるであろう誠には接触すらさせないという魂胆だ。

と、その直後。

青山昇団長の全身が発光し、輪郭がぼやけ、数秒の後に現れた青山焔団長に、


「昇が何か余計なことを口走ったみたいだけど、これ以上知られるわけにはいかないわ。悪いけど、帰ってくれる?」


なんて事を満面の笑みで言われれば、大人しく引き下がるしかなかった。

以来、団長には一度も会っていない。

いや、団長室に入れてもらえないと言ったほうが正確だ。

どうやら彼女は俺を、危険人物として認識したらしかった。







彼の夢は、この世にはびこる業魔の殲滅だ。

決して、女の子に目覚める事なんかじゃなかったはずだ。

「北条、お前は今……どうしてるんだ?」

思わず呟いてしまった、



その直後だった。



ガチリ、と。

部屋の鍵が開いた音が、強志の耳朶を打った。

それは、何者かが外部から鍵を開けたという事に、他ならない。

「……ん?誰だ?」

一瞬、拓哉が帰って来たのかとも思ったが、それは違う。

ここから売店に向かい、スイカバーを購入して帰ってくるのは、距離的に考えると、いくらなんでも早すぎる。

財布でも忘れたのかとも思ったが、これも違う。

先程、食堂で彼が財布を使うのを見たからだ。

では誰が……?

その疑問は、開いたドアと共に解けた。

そこにいたのは、一人の少女。

少女は何も言わずに靴を脱ぎ、部屋に上がってくる。

光の加減や方角のせいで、暗くて見えなかったが、明かりに近づくたびに、その姿が明確になっていく。

ダークグリーンのスカートと、黒のニーハイソックス。半袖の白いワイシャツに、赤いリボンが付いたその出で立ちは、紛れもなくここ、第12独立魔術師団の女子用の夏期制服姿だった。

顔は俯いていて見えないが、セミロングの金髪と、服の上からでも分かる丸みを帯びた女性らしい体つき。

間違いない。

彼女―――いや、彼は。


「北条!北条じゃないか!」


俺は思わず、ベッドから飛び降りていた。

先程まで安否を気にしていた少女―――否、少年がこうして無事に帰って来たのだから。

大丈夫だったか?何処に行っていた?と、声をかける前に、


ピシィ!と。

俺の脳裏に電撃が走った。

それは、ひとつの懸念。ひとつの疑惑。







本当に、何事もなかったのか?







天川隊長の話を聞く限り、青山焔団長が何か良からぬことを考え、誠の身にそれを施していたことは明らか。

途端、嫌な予感が全身を包む。

どうか、無事であってくれと心の中で願う。

しかしその願いは、


「なん……ッ!?」


少女が顔を上げた瞬間に砕け散った。

一切の歪みを感じさせない輪郭。

よく通った鼻筋に、桃色の唇。

餅のように弾力がありそうな、ハリとツヤのある肌。

そんなものに、俺の目はいかなかった。

俺が真っ先に捉えたのは、瞳。

一週間前まで、生き生きと輝いていたその茶色の瞳は、


まるで死んでしまったかのように輝きを失っていた。


そして、その少女は、


満面の笑みで、こう言った。



「お久しぶりですっ、八重樫先輩!」






脳が、揺れた。












「ふんふんふーん♪」

望月拓哉はツイていた。

普通に走ったんじゃ間に合わないと踏んだ彼の判断は、やはり正解だった。

通常形態と違い、有り余る魔力を持っている魔女化形態で、速力と持久力を強化し、ダッシュでスイカバーの売っている売店まで向かったおかげで、彼ははなんと、ラスト一個となっていたスイカバーを入手することが出来たのだ。

機嫌の良かった彼は、ついでに「ゴリゴリくんソーダ味」を購入し、このように鼻歌交じりに自室へ帰還している所なのだ。

「るんるんるーん♪」

早く帰ってスイカバーに思い切りかぶりつきたい。

そんな事を考えながら、ついに自室を視界に捉えた。

「む?」

そこで彼はおかしな光景を見た。

扉が開けっ放しになっているのだ。

確かにドアを閉めずに部屋を出て行きはしたが、強志だったら開けっ放しで放っておくことはしないはずだ。

「(どうしたのじゃ?)」

わずかばかりの懸念を抱きながら、彼は開けっ放しになっているドアから部屋へと入った。

「おーい強志、戻った……ぞ……」

彼はそこで、



部屋の中に驚愕に目を見開いている強志と、夏服に身を包んだ金髪の少女を見た。



「まこ、と……?」

その声に反応した少女は、後ろを振り返り、その輝きの失われた瞳で拓哉を凝視すると、

「あ、望月せんぱーい!お久しぶりです!元気してました?」

と、笑みを浮かべながら話しかけてくる。

手に握ったビニール袋を落とさないのが奇跡だったと、後に彼は語る。

それほどまでに、彼の―――北条誠の変化は劇的だった。

「わぁ~、何でだろ?一週間しか開けてないはずなのに、すっごい懐かしい感じがするなぁ」

少女―――誠は無邪気な様子で部屋の中を見回す。

そして、その隙に拓哉はアイスを冷蔵庫にしまい、右腕を強志の肩に引っ掛け、小声で話す。

「(おい!これは一体どういう事じゃ!?)」

「(知らん!俺に聞くな!鍵を開けて入ってきたと思ったら誠で、こんな状態だったんだよ!)」

「(一体どうしてあんな風に……まさか、焔団長の仕業か!?)」

「(その可能性が濃厚だろうな……とにかく、どこまで「洗脳」されているのかを確かめなければならない!)」

「(そ、そうじゃな……)」

話がまとまったところで、強志が声をかける。

「あ~、北条?」

「ん?八重樫先輩?どうかしたんですか?」

「こ、こういう事を聞くのも何なんだが……お前、本当に北条か……?」

その問いに誠は頬を膨らませると、

「えっ、ひっどーい!後輩の顔を忘れちゃったんですかぁ?」

「いや、だってお前……」

強志が何か言う前に、少女はこう答えた。

「私は正真正銘、天川中隊所属の北条ほうじょう真子まこですよ!」

「「!?」」


いま、二人は聞きなれない単語を聞いた。いや、聞いてしまった!!


「ちょっと待て誠!お主は一体何を言っているんじゃ!?」

「そうだ!お前のフルネームは北条誠だろ!?」

その呼びかけに、誠―――いや、真子はこう言った。

「誠って言うのは古い名前ですよ。女の子なのに「誠」じゃ、全然可愛くないじゃないですか。だから、焔さんに新しく付けてもらったんです♪」

何と言う事だろうか。

青山焔は、彼女の人格はおろか名前までも改ざんしてしまっていたのだ。

「と、言うわけでこれから私の事は「真子」って呼んでくださいね?先輩♪」

「「……」」

二人はもう、絶句するしかなかった。

そして、二人の脳裏に浮かんだのは、天川隊長の言葉。


「なんでも誠くんには、戦女神の才能があるんだって。そのためには男と女の人格が共存する必要があるらしいのよ。今回焔ちゃんがそういったのはその為なんだって。」


そして、叫ぶ。





「「いや、女性の人格と共存させるっつーか、男の人格が思いっきり上書きされてんだろーがァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」




「それの、何が悪いッ!!」




突如として、二人の耳朶を打った声の正体は、今回の事件の黒幕。

そいつは、開けっ放しの玄関に仁王立ちしていた!


「「青山……焔……ッ!!」」

「あ!焔さん!」

嬉しそうに焔の元へと駆け出す彼女の姿は、まるで母親を見つけた娘のようだ。

「お帰り、真子ちゃん。ちゃんと挨拶できた?」

「うん、大丈夫でしたよ!」

「待て団長!アンタ一体どういうつもりだ!!?」

「そうじゃ!誠が完全に洗脳されとるじゃろうが!!」

しかし、二人の怒号などどこ吹く風。

焔は自信満々に宣言した。

「うるさいわね!北条誠は既に、北条真子としての人生を歩むと、自らの意思で決めたのよ!!」

「「なん……だと……?」」

再び驚愕する二人に、青山焔は言う。

「これから各中隊長、および彼女の同僚を団長室に呼び出すわ。貴方達にも、来て貰うわよ。」

「じょ、冗談じゃねぇ!おい北条!嘘だろ?嘘だと言ってくれ!」

「なぁ誠!嘘なんじゃろ?青山団長に命令されて仕方なくやってるんじゃろ?」

しかし、


「いえ、私は自分の意思で女の子として生きるって決めたんです。あと、誠じゃなくて真子、ですよ?」


今の彼女に、彼らの言葉は届かない。

「そ、そんな……バカな……」

「嘘じゃ……こんなの嘘じゃ……」

敗北感に打ちのめされ、膝をつく彼らに、焔は勝ち誇ったようにこう宣言した。

「決まりね。それじゃあ行くわよ。今日が「北条真子」のバースデーだわ!ふふふふっ、あーっはははははははははは!!!」



二人の鼓膜を叩き、部屋中に響く焔の笑い声は、二人の敗北、青山焔の勝利、北条誠の死、そして、北条真子の誕生を示していた。




以上、青山焔団長の教育の成果でした。

次回はみんなにお披露目です。

はたして、皆の反応は?

そして誠はどうなってしまうのか!?


次回(六月入ってから)もお楽しみに!!

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