四十二話
今回は繋ぎですかね。
どうぞ
数分後。
本部基地の食堂には多村信司と小林修一が食券購入のために並んでいた。
ちなみに修一は、今現在は魔女化を解いている。
本来の彼の姿は、スッと伸びた鼻筋が特徴的なかなりの美男子だ。
こんな所にいなければファッション雑誌か何かでモデルでもやれそうだ。
ちなみにそんな彼の前に並んでいる信司は、頬が赤く腫れている。
先ほどの殺人ストレートの代償が未だ残っているのだ。
「さ、さっきはゴメンな?」
「いえ、だ、大丈夫っす。」
まさか殴られて壁に刺さった時ちょっと興奮したなんて言えない。
そんなことを言えば今度こそ息の根を止められる。
「ええと今日はそうだな……日替わり定食Bにしよう。」
「じゃあ俺は焼き鯖定食な。」
さっさと食券を購入し、列から離脱すし、カウンターで食券と番号札を引換えてもらった。
さて席を確保しようとした、その時。
「お、信司じゃねぇか。」
信司が振り返ると、同じく食券を片手に持っている2人の少年がいた。
相変わらずリーゼントを貫いている野上悠斗と、亜麻色の髪をした峯岸大貴の2人だ。
「おぉ悠斗。お前も訓練終わり?」
「あぁ、訓練後に食う飯は格別だからな」
「全くだ」
各中隊において訓練メニュー及び、訓練終了時間はバラバラである。
故に、夕飯の時間もバラバラで、このように食堂であっても遭遇することが滅多にないのだ。
ちなみに彼ら2人が顔を合わせるのは実に2週間ぶりだ。
「お、大貴!」
「あ、修一くん!」
そして、顔を合わせることが滅多に無いのは彼らも同じである。
「久しぶりだなぁ大貴!」
「修一くんこそ!まだ生きてたんだね!」
「あはははははは、っておいおい、満面の笑みでヒドイ事言ってくれるじゃねぇの?」
「冗談だよ冗談!にしても本当に久しぶりだね。」
「ホントだよなぁ。2ヶ月ぶりくらいかな?お姉さん元気?」
「今は元気だよ。ちょっと前に高熱出して大変だったけど」
満面の笑みでそんな会話を交わす2人。
彼らにとっては、1ヶ月や2ヶ月は本当に「久しぶり」なのだ。
そして皆、その久々の出会いを大事にする。
なぜならそれが、今生での最後の出会いになるかもしれないからだ。
「そっちもう食券持ってる?」
「あぁ、持ってるよ?」
「じゃあみんなで食おうぜ。そのほうが楽しいだろ」
「いいなそれ、先輩もどうすか?」
「そうだな、せっかくだしそうしよう。」
「そうだね、滅多に無いからね。」
と、話がまとまりかけた時。
「久しぶりだね。僕たちも一緒していいかい?」
信司と悠斗が振り向くと、ダークグリーンの軍服を完璧に着こなした新井健太がいた。
彼の手には食券も握られている。
そして後ろには、見知らぬ少女もいる。
かくして、久しぶりに「魔術師養成学校」推薦の特待一期生達が揃ったのだった。
各自全員の料理が運ばれて来た所で、皆が一斉に手を合わせて食前の挨拶をする。
「「「「「いただきまーす!!」」」」」
ここで働く兵士達は皆、食事―――食べられる事に感謝している。
彼らは戦闘がない日は、ほぼ毎日訓練漬けになっている。
そんな中での数少ない楽しみ。それが食事である。
第12独立魔術師団の基地には合計で4つの食堂がある。
屋外大訓練場に2つ。一般兵器倉庫に1つ。そしてここ、彼らがいる本部基地に1つ。
さらに現在は、屋上に展望レストランが建造予定中だ。
ここの料理は下手な外食チェーン店より美味いと評判で、毎日訓練終わりにはたくさんの人で賑わっている。
美味い料理が食べられる魔術師団は、実はかなり珍しい。
他の地域は食べるものを補給する事すらままならないほど、過酷な状況に追い込まれているからだ。
だから、この動乱の世でもその部分では、彼らは恵まれているのかもしれない。
そんなわけで皆が食事を進め、会話が弾む中、信司がついに気になっていた事を口にした。
「おい健太、そういやお前が連れてるその女の子誰だよ?」
「そうそう。さっきから気になってたんだ。」
言われてから健太が「しまった」といった顔をする。
完全に千秋の紹介を忘れていたからだ。
その為か千秋も先程から落ち着いた様子じゃない。
「あぁ、ごめん。完全に忘れてたね。」
健太はスプーンを置き、千秋に手を差し出して言った。
「彼女の名前は北方千秋さん。3日前に第0地区の非戦闘員からこっちに招集がかかって、僕の部隊に配属されたんだ。階級は二等兵。」
「北方です。よろしくお願いします。」
健太の紹介を受けて、頭を下げる千秋。
皆が口々によろしくと挨拶を返す。
「二等兵?はぁ~……ついに後輩が出来たのか……」
「俺達まだ一番下っ端だぜ?」
羨ましそうに言う信司と悠斗に、大貴と修一がフォローをかける。
「大丈夫だよ悠斗。生きてればそのうち後輩が出来るから。」
「その通りだ。だから修練に励め。」
「「う~ん……」」
「「え?ちょっと待て?」」
と、ここで二人がストップをかける。
頭に?を浮かべる健太に、問う。
「「僕の部隊」って……」
「お前まさか……?」
そこまで言われて悟った健太は、眼鏡の位置を直しつつ、ドヤ顔でこう宣言した。
「どうも、浜崎中隊遊撃小隊長の、新井健太です。」
これには信司達だけでなく先輩達も驚いた。
「え!?浜崎中隊の小隊長!?」
「入隊してわずか3ヶ月でか!!?」
「えぇ、まぁ。」
すると信司と悠斗の二人は、
「キィーッ!何だか置いてかれてる気分だ!」
「あぁ、俺達も負けてられないな!」
と、目の前の山盛りの料理を貪り始める。
そんな様子を見てあははと笑う健太。
そんな彼の顔に、小さな、しかし明確な影が落ちるのを、千秋は見逃さなかった。
そう。
入隊3ヶ月で、何故、彼は小隊長にのし上がったのか。
確かに、彼の実力はここ数ヶ月の間で驚く程成長を見せている。
基礎的な身体能力はもちろん、ナイフにおける戦闘術はさらに上達した。
ハンドガンをはじめとするあらゆる銃器の扱いにも完璧に精通し、そして何より、今日までにあった十数回に渡る実戦で培った経験が、直感や判断力をも鋭利に研ぎ澄ましている。
しかし、それだけではダメだ。
小隊長になるためには、実力もそうだが、それよりも重要視されるものがある。
それは「恐怖」。そしてそこからもたらされる「危機回避能力」だ。
自らの死の恐怖。仲間や同胞が死ぬことへの恐怖。
そういったモノを誰よりも知る者が、その恐れから「危険」を学び、恐怖そのもの「のみ」を払拭する事で戦場という極限の状況下で、生き残る活路を見出す事が出来るのだ。
そして、
彼は、十分に「恐怖」と、それから絶望を味わっている。
なぜなら彼は、2ヶ月半前に起こった惨劇「ウズベキスタン基地攻防戦」で、かつての先輩―――旧・遊撃小隊の隊員達が次々と死んでいくのを見ながら、たった一人生き残ったのだから。
「(隊長……。)」
つい昨日。
ここに来たばかりで、右も左も分からない自分に、懇切丁寧に色々な事を教えてくれた若い隊長に興味を持った彼女は、ふとこんなことを聞いたのだ。
―――何故、隊長はそんなに若くして隊長になれたのですか?と。
今思えば不躾な質問だったと思う。
それでも健太は、嫌な顔一つせず答えてくれた。
自分の、おそらく永遠に残るであろう心の傷を。
話の最後に、彼はこう締めくくったのを千秋は覚えている。
―――同情はいらない。でも、知っていて欲しい。君がこれから赴き、そして戦う場所は、こう言った事が平気で起こる地獄だと言う事を。生半可な覚悟と実力では、絶対に生き残る事は出来ない。でも、心配しないで。僕は君を、死なせたりなんかしないから。
その言葉には、とても同年代の少年が放つ言葉とは思えないほど、千秋の心に重く、深く、響いた。
そして同時に、彼女は納得した。
この人は、隊長にふさわしい人間だと。
この人になら、ついて行けると。
と、千秋の思考が記憶の海に潜っているその時。
ピーンポーンパーンポーン、と。
業務連絡を伝えるための電子音が、食堂のスピーカーから流れてきた。
「ん?」
「何だ?」
「なにか連絡かな?」
信司、悠斗、健太の3人を含めた、食堂の全員が耳を傾ける中、スピーカーから流れた聞き覚えのある女性の声は、こう言った。
『大事なお知らせがありま~す。各中隊の隊長、および相沢中隊の多村信司、峯岸中隊の野上悠斗、浜崎中隊の新井健太、以上の3名は、至急、団長室に集まってくださ~い』
瞬間、三人は悟った。
いや、思い出したのだ。
そう、今日は……
今日は、7月24日。
彼ら三人の、もう一人の戦友にして仲間。
北条誠が、一切の行方をくらませてから、ちょうど一週間が経った日である。
次回は望月くんと八重樫くんを出したいと思います
お楽しみに




