第二話
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それでは第二話です。お楽しみください。
2012年5月13日
後に「五月の大厄災」と呼ばれるようになるその日。「それ」は世界各地で同時多発的に起きた。
謎の自然現象「漆黒の入道雲」
どの方角、どの距離から見ても漆黒に見えるその暗雲は、またたく間に地球全土を飲み込んだ。
そして、1995年に全滅したはずの業魔はその雲と共に出現し、人類に再び牙を向けた。
いつかこの日が―――再び業魔が現れる日が来るのではないか?
そう考え、警戒を怠らず、かなりの対策を練ってきたヨーロッパ、アフリカの国々は、この非常事態にも関わらず、迅速かつ柔軟に対応し、被害を最小限にとどめる事に成功した。
だが「もう戦争は終わった。業魔などもう現れないに決まっている」と安心し切ってしまい、何の準備も対策もしていなかったアジアやアメリカなどの国々は、復活した業魔に完全に虚を突かれ、対応が大幅に遅れた結果、その国々の人々は業魔たちの餌食となり、領土は占領されてしまったのだ。
俺達が住んでいた国。日本もまたその占領された国々の一つだった。
一億二千万人近くが生活していた日本の人々の内、約四分の三が業魔の餌食となった。
この不測の事態に、国際連合はヨーロッパ、アフリカの国々を中心とし、生き残った人々の救出作戦を発動。
難民となった世界の人々を一時的に保護する事で、その場をやり過ごした。
この事件の犠牲となった人間は、世界の総人口の半数に到ったという。
それから半年後、国際連合は解散を宣言。
バラバラになっていた世界の国々を「魔術連合国家」という一つの巨大な国とすることで、一大勢力を築いた。
そして、それまで難民の集団だった俺達「元」日本国民には「日本国連合」という名が与えられた。
俺達「日本国連合」は、高さ約20メートル、厚さ8メートルの壁によって囲まれた円形の都市を6つ、居住区としてトルコ共和国に設立。そこに移住し、生活を始めた。
「エリア12」
それが、生き残った日本国民が暮らす6つの居住区の総称だった。
そして「五月の大厄災」から4年がたった今。
占領された国土の上空には、未だに暗雲が立ちこみ続けている。
「にしてもお前気が早すぎんだろ。いくら今日からだって言ってもよぉ。」
ルームメイトである少し老け顔の少年が、歯ブラシで歯をブラッシングしながら俺に問いかける。
「うるせぇ。少し早めに起きちまっただけだ。」
俺は朝食用の、栄養調整食品郡の中でそれはそれは名が知れているメーカーが作るブロックスティックをかじりながら答える。
「でも、軍服まで着替え終えてるってのは流石に早すぎじゃねえか?」
洗面台に立ち、頭髪料で髪形を整えながら、眼が大きく、堀が深めのいわゆる「濃い」顔立ちをした少年が老け顔の少年に便乗して言う。
「お前らも知るさ……新品の軍服を纏った時の感動に勝るものは他に無いぜ?」
俺がそう自信満々に答えると「確かにそうだね。」と後ろから優しい声が聞こえた。
振り向くとそこには、童顔で黒縁の眼鏡をかけた少年が、俺と同じく新品の軍服を身に纏い、衣擦れの音を楽しんでいる所だった。
「今から武者震いがするよ……。」
「だろ?だろ!?やっぱお前もそうだよなぁ!?」
仲間が増えた嬉しさからつい叫んでしまう俺。
「そんなに叫んだらクレーム来るぞ?」
歯のブラッシングを終えた少し老け顔の少年―――多村信司は警告した。
「あ、そうだな……。」
以前こんなふうに騒ぎ立てた事があって、その時に来たクレームは三日三晩止まなかった。あの時の面倒臭さを思い出した俺はすぐに声のボリュームを下げた。
「幸い、お隣さんはまだ寝てるみたいだな。」
髪型が整え終わり、洗面台から戻ってきた濃い顔の少年―――野上悠斗が安全を確かめる。
「お前……その髪型で行くつもりか?」
俺は悠斗の頭を見て言う。
「なんだよ?何かおかしいか?」
「いやおかしいか?ってお前……。」
悠斗の髪型は、頭髪料で前髪を高く盛り上げて、両サイドの髪を後方へ流して撫で付けたもので、俗に言うリーゼントという奴だ。
「その髪形は無いだろう。」
「な、なんでだよ!?」
「古臭いし、印象悪いし。」
「うるせえな!これは俺のポリシーだっつの!」
「いや、その髪形はやめたほうがいいよ。」
俺に便乗して童顔の少年―――新井健太までもがそう言う。
「け、健太!お前まで!?」
「まぁ、印象は問われないだろうから個人の自由だけど、はっきり言って―――」
俺と健太の声が重なった。
「「ダサい。」」
「なっ!?」
悠斗はあり得ないといった表情でこちらを見てきた。
だが仕方ない。事実なのだから。
朝の支度が終わり、軍服に身を包んだ俺達は「エリア12」で俺達が住んでいる6つの地区の内の1つである「第2地区」にある学生寮を出て、北にある駅に向かってバスで移動していた。
軍の空港に向かうために、電車を使うからだ。
「しっかし……ここともしばらくお別れか。」
「名残惜しいよね……。」
信司、健太の2人が街を眺めながら、ぼんやり呟く。
「あぁ…。」
俺もそれには同意した。本当にこの街にはお世話になった。
治安も悪かったし、喧嘩もよくしたけど、それも今じゃいい思い出だ。
だが、思い出に浸ってる場合じゃない。今日から俺達は奴ら―――業魔と戦う兵士なんだ。
「だが、思い出に浸ってる場合じゃねえぜ。」
俺の隣の席で悠斗が言った。
「みんなで、必ず業魔を殲滅しようじゃねえか!」
「そうだな!よし!俺も頑張るぞ!」
「うん。やろう!」
それぞれが自らを奮い立たせる中、俺も決意を新たにした。
「あぁ、俺はなってやる……業魔共を根絶やしにする、最強の兵士に!」
そして、イスラム共和国某所。
時を同じくして、青山昇は朝食をとっていた。
今日のメニューは白いご飯に、卵を乗せた卵かけご飯に、焼き鮭と豆腐の味噌汁。
日本人らしいチョイスだった。
―――野菜はどうしたのよ?
脳内から話す女の声に、彼は―――脳内で直接語りあう事で―――食事を続けながら答える。
「(たまたま、野菜の持ち合わせがなかったんだよ。)」
―――やだ、栄養バランスが崩れちゃうじゃないのよ。
「(一日野菜をとらなかったくらいで簡単に崩れるかっての。)」
―――あんたが摂る栄養は私にも影響するのよ?
「(だから一日抜いたくらいじゃ崩れないっていってるだろ。)」
―――そんな保障はどこにも無いじゃない。
「(あー分かった分かったよ。いちいちうるせえな。次からちゃんとストックしとくから。)」
その言葉に満足したのか、女の声は聞こえなくなった。
そんなやり取りが終わってから程なくして食事を済ませた彼は、食器を片した後、備えつきのクローゼットを開けると、ハンガーにかけられた軍服を取り、着始めた。
だが、彼の軍服姿は正装のそれではない。
ダークグリーンのスラックスに軍靴と、下半身は正装と同じだが、上半身は黒い柄の入ったTシャツに、長く使ってよれよれになった軍用ジャケットを、ボタンを閉じずに着て、袖を肘の上まで捲るという、よく言えば独特な、悪く言えばただただだらしない格好だ。
―――相変わらずだらしが無いわね。
「(うるせぇ。どんな格好しようが俺の勝手だ。)」
そう答えてから、彼は玄関でブーツを穿くと、自室のドアを開けた。
これから来る、新入生を歓迎するために。
次回の投稿予定日は9月の26日を予定しています。
お楽しみに。
2014年 7月7日 加筆修正




