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雷の戦女神(ヴァルキュリア)(凍結)  作者: yutaso
第二章 初陣、ウズベキスタン基地攻防戦
35/61

三十話

つい先ほど、1000文字ほどのデータが飛び、慌てて書き直したyutasoです。

今回はいつもと比べて長めなので注意してください。

それではどうぞ。

「はぁ?一時後退だぁ!?」

爆音と銃声の轟く中、トランシーバーの奥から聞こえてきた指示に、茜が思わず聞き返す。

『そうよ。今すぐ目標から離れなさい。後退したら一斉攻撃の準備。いいわね?』

「そんなこといきなり言うんじゃねえ!こっちは部隊が半壊してんだんだぞ!?」

そう叫ぶ茜の視界には、負傷した部下達が苦しそうに呻きながらも、必死にトリガーを絞る姿があった。

「場所が場所だから補給部隊はアテに出来ないし、そもそもこんな大規模災害型の出現なんて予測してすらいなかったんだ!こんな状態で後退なんかしたら今度こそ隊列がぶっ壊れちまう!」

『無理でもやるのよ!それが、私たちが生き残る唯一の方法なんだから!!』

「なんだよそりゃあ!?こんな絶望的状況を打破できる可能性があるっていうのか!?」

『そうよ!』

通信相手は即答した。

『少なくとも、現状はこれに賭けるしかないわ!』




「……具体的に私たちは何をすればいいの?」

大量の「腕」を地中から生み出し、首の侵攻を食い止めながら、秋穂が誰ともなく呟く。

しかし、それは独り言にはならない。

彼女の耳に付けられた補聴器のような機械から、女の子の声が聞こえたからだ。

『峯岸さんたちは、部隊を4つに分けて、4つの首の注意を引いてください。その間に我々の作戦を決行します。』

つまり「どうにかして作戦遂行までの隙を作れ」と言う事だ。

しかし、現時点で彼女の部隊が受けた損害を考えると、それはかなりの無理難題だった。

「……無茶苦茶ね、でもやってみせる。」

その声には、確かな闘志に満ちていた。




「なるほど、たしかにそれしかないわね!」

襲い掛かる首を跳躍で躱しながら、尊は小型インカムの声に耳を傾ける。

『でしたら、早速指示をお願いしますじゃ!』 

「オーケーよ!」

小型インカムのスイッチを切った彼女は、剣を持って奮戦する部下たちに叫ぶ。

「みんな!これから天川中隊が奴の動きを止めてくれるわ!」

ギョッとした表情の部下たちに、彼女はこう続ける。

「それまでなんとか奴の首の注意を引きつつ、力を温存しなさい!奴の動きが止まった瞬間、一気に首を切り落とす!!」




「浜崎中隊へは後退するよう言ったわ。」

「峯岸中隊も予定通り注意を引いてくれるそうだ。」

「相沢中隊も了解してくれたぞい。」

3人の先輩からの報告に、誠は安堵した。

万が一聞いてくれなかったらどうしようと思ったからだ。

もちろん、今回の作戦自体、誠は確証を持っているわけじゃない。

根拠のない仮説から成り立っている吹けば飛ぶような脆弱な作戦だ。

そんなもののために、兵力を割けと言う方がおかしいのだ。

それでも、各隊のみんなは誠を信じてくれた。

「(やるしかない……みんなの期待を裏切るわけにはいかないんだ!)」

胸中で密かに決意を固めた誠は、最後の指示を出す。

「俺が首の一つに突貫しますから、隊長達の3人は俺を援護してください。」

「了解だわ」

「了解」

「了解じゃ」

「よし、行きましょう!」

絶望的状況の中。

誠たちの反撃が始まる。





トルコ共和国。第12独立魔術師団本部基地。

ヤマタノオロチ型復活の報が届いたのは、目標出現から5分ほどの事だった。

いくら出撃した4中隊が凄腕のエースといえども、その4中隊が苦戦するという報告は、本部に残った2個中隊―――青山中隊と袴田中隊の面々を震え上げさせるには十分すぎる話だった。

小言ではあるがヒソヒソと辺の奴らが呟く事で、不安はさらに深まっていく。

「なあ……あいつら大丈夫なのかよ?」

「苦戦してるのはデカ物だけだしな……もしほかの奴らもいたらもしかすると……」

「おい、第10魔術師団が潰れた上にこっちの派遣部隊も全滅なんて笑い話にもならねえぞ!?どうするんだよ!!」

「笑い話にならない事くらい誰だってわかるだろ!!冗談でも言っちゃいけない事くらいあるんだよ!!」

空気は一気に重くなり、あたりに痺れるような雰囲気が漂う。

ただでさえ嫌われている椅子やテーブルを端に寄せられた会議室での整列は、全員をイラつかせ、中には立ち上がり口論をはじめる者、座って怯え始める者もいた。

しかし、そんなことも無理はない。

自分と同レベル、または近隣の実力をもった部隊が、突如現れた大規模災害型個体に圧倒されているのだから。

そんな様子を見た二人の女性が、この状況を見てさらに不安感を募らせる。

一人は青い髪をポニーテールにした10代の少女―――青山桜花。

もう一人は美しい金髪の髪と透き通るような碧眼を持つ女性―――袴田楓。

二人共、この場に残った中隊の隊長を務める人物だ。

「どうしましょう楓さん……みんなおかしくなっちゃってますよ……」

「そうね……」

当然だが、彼女たちも大規模災害型個体の復活を予期していたわけでは無い。

むしろ、いきなり復活されて焦るなという方が無理な話なのだ。

「やっぱり、私たちも援護に行ったほうがいいんじゃ……?」

「何言ってるのよ?雫達が戦ってる今、私達までここを動いたら誰がここを守るのよ?」

「そう、ですよね……」

正論だった。

遠方で戦う仲間を放っておくことはできない。

しかし、だからと言って本部の守りを開けてしまってはあまりにも危険だ。

今現在、副団長の紅井薫がイギリス某所の会議場にいる桜花の兄―――昇に連絡を取っているが、仮に彼がもう向かっているとして、部隊が全滅する前に間に合う保証はない。

「(お兄ちゃん……お願い……みんなを助けて……)」

「(雫……死ぬんじゃないわよ……)」

桜花はここにはいない実の兄を、楓は遠方で戦っている親友の顔を思い浮かべながら、祈る事しかできなかった。




数分後、全部隊の準備が整った。

浜崎中隊は前線から一度後退し、ロケットランチャーや対戦車ミサイルなどで装備を固めた状態で待機中。

峯岸中隊と相沢中隊の面々が、力を温存しながらも懸命に足止めをしている。

そして天川中隊のメンバーは、誠たち4人を除く全員が化物の後ろ側に回り込んで、総攻撃のため魔力を貯め、さきほどそれが完了したところだ。

峯岸中隊と相沢中隊の面々が戦っているので、無駄な時間は使えない。

誠は、右手の甲に物体変化魔法の陣を出現させ、磁力で砂鉄を操作し、一本の鉄剣を作る。

さらに先ほど見せた「砂鉄のブースター」を足に纏わせる。

「準備はいいですか?」

そう聞いた俺の視界に映ったのは、巨大な氷の剣を構えた隊長と氷の戦棍を肩に担ぐ強志。

そして、魔女へと変身し、両手に氷の外部骨格を出現させた拓哉の姿だった。

「ああ!」

「いつでも行けるわ!」

「さっさとはじめるぞい!」

「よし、行きます!!」

叫ぶのと同時に、誠は前進を開始した。

砂鉄のブースターによって、己の肉体が一気に40キロにまで加速される。

次いで雫、強志、拓哉の3人が全力で走る。

魔力によって一時的に走力を強化してるのか、砂鉄のブースターで加速する誠とほぼ同じ速度で彼の後ろに続く。

ヤマタノオロチ型が動いた。

首の一つが、誠めがけて火球を吐き出した。

直径5メートル超の巨大な火球が、誠を焼き尽くさんと迫る。

「わしに任せろ!!」

誠の背後にいた拓哉はその場で勢いよく跳躍し、彼の真上を通過すると、火球の射線上で魔導シールドを展開した。

直後、


ドォン!!と摂氏1200度は下らない炎の鉄球が、拓哉の展開したシールドに着弾した。


激しい爆煙をまき散らしながらも、なんとか誠を守りきった拓哉だが、体制を立て直すのに失敗し、そのまま地面を転がる。

「先輩!」

「わしに構うな!行けぇ!!」

その言葉を聞いた誠は、さらにブースターに加速をかける。

目標との距離が50メートルを切った時に、今度は首の一つが口を開けて迫ってきた。

「次は俺だ!!」

戦棍を担いだ強志が、肉体強化魔法で強化された身体能力を最大に活かし、真横から迫ってくる蛇頭の横っ面まで一気に肉迫した。

「おらァァァあああああ!!」

グシャッ!!と言う音が響き、蛇頭が真横へと殴り飛ばされる。

「行け!誠!」

「はい!」

強志が時間を稼いでいる間に、誠と雫がさらに前へと進む。

30メートルを切ったところで、二人は目標である首の一つへと跳躍した。

しかし、後一歩のところで別の首が左から伸び、誠を喰らおうとする。

「させない!!」

空中に魔導シールドを展開した雫は、空中で体を捻って方向を転換すると、そこを新たな足場とする事で左から押し寄せた首に一直線に飛んだ。

「せいっ!!」

裂帛の気合と共に、両手に握られたクレイモアの刃が、首の根元に突き刺さる。

激しく出血しながら苦しみ出す首を無視し、雫は叫んだ。

「今よ誠くん!やっちゃいなさい!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

誠はあらん限りの力を込めて鉄剣を蛇頭の額に突き刺した。

そこから瞬時に脳内で術式を組む。

「コイツでどうだあッ!!」

次の瞬間、誠の体内にあるほぼ全ての魔力が、術式と共に高圧電流へと変換される。

その電流は、突き刺さった鉄剣を伝導体として、流れ込んでいく。


大規模災害型個体「ヤマタノオロチ型」の体内へと。


「キョシュアアアアアアアアアアアア!!?」

流れた電流はすぐに化物の神経へと到達し、全身に壮絶な激痛を発生させると同時に自律神経を制圧することで、化物の動きを止める。

誠はこの瞬間を待っていたとばかりに、喉が裂けるのを覚悟で叫んだ!!



「今だ!やれええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!!」



その怒声を引き金に、すべての中隊が行動を開始した。

浜崎中隊は持てる全ての火力を用いて首に砲撃を開始し、相沢中隊は温存していた力をすべて解き放ち、一気に首を落としにかかる。

峯岸中隊はボロボロになった盾や壁を修復しつつ支援に回り、天川中隊はその巨大な胴体へと一斉に攻撃を開始した。

誠は残り少ない魔力を使ってすぐに脱出。急いで距離を取った。

程なくして、光と音が世界を支配し、あとに残っていたのはおびただしい量の土煙だけだった。


「やったの……?」

爆煙で視界が遮られる中、雫は一人呟く。


「っしゃ!やったぜ!」

爆煙で視界が遮られる中、茜はガッツポーズを決める。


「首は全て落ちていた。間違いない、仕留めたわ!」

爆煙で視界が遮られる中、尊は先程の戦いを思い出しながら、勝利を確信する。


「……この勝負、私たちの勝ち。」 

爆煙で視界が遮られる中、秋穂はほくそ笑む。


そして、煙が晴れる。




「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」




「うそ、だろ?」

直後、ヤマタノオロチ型のすべての首から放たれた火球が、彼らの五感を塗りつぶした。







「う……うぅ……」

ほぼ全ての建築物が倒壊し、更地に近くなったウズベキスタン基地で、誠は自分の五感が生きていることを知覚した。

「げほっ、ごほっ!」

異物が器官に入り込み、咳が出る。ほのかに血の味も混じっていた。

「みんなは…ヤマタノオロチ型はどうなった?」

現状を確認すべく上体を起こした誠の視界に飛び込んできたのは、


眼前に佇むヤマタノオロチ型と、その周囲に倒れ伏す兵士たちの姿だった。


ある者は完全に意識がなく、またある者は時折苦しそうにうめき声をあげる。

「そんな……そんな……っ!」

目の前の残酷な現実を目の当たりにしながら、誠の頭の中では、ある事柄が浮かんでいた。

「俺のせいなのか……?」

口から出たそれは、作戦立案者が背負いし業。

「俺が選択を間違ったから……こんなことに?」

怒り、憎しみ、悲しみ、後悔。様々なモノが混ざり合ったソレは「絶望」という形で誠の心を蝕んでいく。

ふと、大規模災害型と目があった。

獰猛な輝きを放つその瞳を見た瞬間、彼の中で何かが弾けた。

「おあああああああああああああああッ!!」

空だったはずの魔力をどうにか精製し、なんとか組み上げた術式に注入し、微弱な磁力という形で外界に出力する。

集まったわずかな砂鉄に右手の物体変化魔法を用いて、ひと振りの黒いナイフを創り出す。

ナイフの柄を両手で握りしめ、刃先を化け物に向ける。

こんな貧弱な得物で勝てる相手じゃない。

彼一人の脆弱な実力で勝てる相手じゃない。

でも、

「死ねない……」

それでも、

「死ねない……!」

彼にはまだ、戦う理由がある。

「お前らを根絶やしにするまで、俺は死ぬわけには行かないんだ!!」

先程まで目が合っていた首の一つが、大口を開けて、口内に火球を生成しはじめていた。

今までの中で一番の大きな火球を。

おそらく数秒後の彼は、あの火球に飲み込まれて死ぬだろう。

それこそ、骨までもが灰になり、跡形もなく消滅するだろう。

しかし、誠は退かない。

最期のその瞬間まで、業魔に立ち向かおうとする意志を見せつける。



その彼の姿勢に、戦の女神は微笑んだ。



突如、眼前の蛇頭が爆ぜたのだ。何の前触れもなく。ボン!と。

「え……?」

間抜けな声を上げる誠の前に、人影が降り立った。

きっちり着こなされた制服の上から、漆黒のコートを纏う一人の女性。

青い髪をアップスタイルで纏めた、長身の美女。

誠へと振り向いたその女性は、桜色の唇を動かしてこう言った。



「おまたせ、北条誠くん?」



青山焔。

戦女神ヴァルキュリア」の名を冠する第12独立魔術師団最強の戦士が、戦場に降り立った瞬間だった。

次回の投稿予定日は1月12日です。お楽しみに。

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