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雷の戦女神(ヴァルキュリア)(凍結)  作者: yutaso
第二章 初陣、ウズベキスタン基地攻防戦
34/61

二十九話

お待たせしました。第二十九話です。

どうぞ。

「先輩……なんですか、あれ?」

誠は目の前の―――300メートル先のウズベキスタン基地のど真ん中に存在するであろう「異形」を見て、疑問を隠せなかった。

対する拓哉は、額から嫌な汗を流し、金魚のように口をパクパクさせている。

「先輩?」

拓哉の両目には、あからさまな恐怖の色が張り付いている。

「……クソッ!!」

絞り出すように叫んだ拓哉の全身が、突如として輝きだした。

しかしそれも一秒足らず。拓哉は再び、幼い少女の姿へと変身を遂げていた。

誠へは目もくれず、そのまま基地に向かって走る。

「ちょ、先輩!!」

後を追う誠だったが、魔力で一時的に身体能力を強化しているのか、どんどんと距離が離されていく。

そんなスピードで走り続けている拓哉は、内心で焦りに焦っていた。

「(まずい!まずいのじゃ!)」

そう、彼は知っている。あの異形の正体を。

なぜなら、彼もいたのだから。

あの地獄に。

かつて、目の前の異形が、当時はまだ新兵であった彼に「絶望」の二文字を突きつけた、あの戦場に。

「(どういう経緯があるにしろ、あれはダメじゃ!存在してはならないのじゃ!!)」

300メートルという距離は、あっという間に縮まり、コンクリートの壁と鉄条網が行く手を阻む。

「でやぁ!」

右手に出現させた氷の「手」を振るい、壁を鉄条網もろとも切り裂く。

基地の内部に突入した拓哉の視界には、再び彼の前に姿を現した大規模災害型個体「ヤマタノオロチ型」が、その猛威を振るっていた。

「キシャアアアアアアアア!!」

人ならざる咆哮を上げる8つの首のひとつが、拓哉の方へと向けられる。

目と目が合った直後、怪物の口から下が飛び出て、その口元を舐め回す。

まるで、新しい餌を発見したかのように。

その化け物相手に、彼はこう言った。

敵意と憎悪をむき出しにしながら。

「2年ぶりじゃのう、この厄災め!」






基地に向かって走っている内に、眼前の異形の形状がどんどん明確になっていく。

最初は8匹の蛇が動き回っているのかと思ったが、そういうわけでもないらしい。

8本の首は、それぞれがすべて一つの胴体につながっており、その範囲内でのみ動いているようだ。

もっとも、全長100メートルを超える巨体が、一度に8体ものたうち回れば、それだけで被害は甚大なものとなる。

「なんだ……これ?」

基地にたどり着いて俺の口から出てきた第一声がそれだ。

あちこちに倉庫などの建設物や、アンテナなどがあったウズベキスタン基地は、今じゃ見る影もない。

アンテナはへし折れ、建物のほとんどが倒壊したのか、瓦礫の山があちこちに点在している。

配備されていたであろう戦車やヘリなどは、破壊されて炎上しており、原形を留めていない。

燃えているのは倉庫も同じで、おそらく弾薬庫などがあったのだろうか、派手な爆発があったと見える。

今も、現在進行形で、あちこちから悲鳴と怒号。そして爆発音が響くのは錯覚じゃない。

原因はもちろん、目の前で暴れている化け物のせいだ。

「クソッたれがぁぁぁぁあああああああああああああ!!」

周囲から砂鉄をかき集めた俺は、まず右手の物体変化魔法を使用して、1本の鉄剣を作る。

次に余った砂鉄を左右の足に集中。磁力で操作している砂鉄を足場に、俺自身の肉体を一センチほど宙へ浮かせる。

腰を落として、右手の剣を力強く握る。

そして、


ゴッ!と磁力で浮いた俺の体が、リニアモーターカーの要領で前方へと加速される。


俺が独学で編み出したこの電撃魔法「雷電ライトニング」の最大の特徴は、この汎用性の高さである。

このように砂鉄を利用してブーストをかけることでこんな芸当もできる。

俺の魔力と技量では大したスピードは出せないが、それでも並の自動車よりは早いはずだ。

俺の気配に気づいたのか、首の一つがこちらを向く。

距離が30メートルを切った所で、俺は砂鉄を操作し、そのまま跳躍した。

「うおおおおおおおおおおおッ!!」

スキージャンプのように射出された俺の体が、空中で弧を描き、蛇の頭上へと着地した。

敵が何かする前に、俺は次のアクションを起こす。

「ウラァ!!」

俺は、右手に持った鉄剣を逆手に持ち替え、化け物の額に突き立てた。

ドスッ!と言う音が俺の鼓膜をたたき、突き刺した個所から噴き出した赤い液体が、軍服のジャケットを濡らす。

だが、そこが限界だった。

「ッ!?」

突如、俺の体が真上へと跳んだ。下からの謎の力が、蛇頭を押し上げ、その力が俺の体にまで働いたのだ。

だが、それよりも俺を驚愕させる出来事が起こった、



真下。



俺が先程までいた場所を、直径5メートル大の火球が通り過ぎた。

あと少しでも遅れていたら、俺の体は一瞬で灰になっていたに相違ない。

空中を浮遊していた俺の体が、突如後ろへと引かれた。

何者かが俺の服の襟を掴んで引っ張っているのだ。

慣性の力に従って、俺の体が降下を始め、やがて化け物から50メートル離れた地点に着地した。

「北条君!ケガはない!?」

俺の服を掴んでいたのは、天川雫隊長だった。後ろには望月先輩もいる。

「た、隊長!望月先輩!」

「危ない所じゃったな。」

二人は俺の無事を確認すると、再び化け物に視線を向けた。

その先では、氷の装甲を纏った戦棍を肩に担いだ八重樫先輩が、こちらに一目散に逃げて来た。

おそらく、先ほどの下からの衝撃は、火球が飛んで来ることにいち早く感付いた先輩は、俺を逃がすために化け物のアゴを下から突き上げてくれたのだろう。

「みんな、無事か!」

「あぁ、何とか大丈夫じゃ。」

「何ですかあの化け物……見たことありませんよ!?」

俺の問いに答えたのは隊長だった。

「……大規模災害型個体よ。」

大規模災害型個体。その名は学校で何度も聞いた。

魔術師団そのものを壊滅に追いやるほどの脅威。

出現が確認された場合、その個体を中心とした30キロ圏内が立入禁止区域に指定され、さらに100キロ圏内の街や居住区に避難勧告が発令される。

そして、大規模災害型個体は過去に一度しか出現していない。

しかも、隊長や望月先輩は、目の前の化け物が大規模災害型であると言う事を確信している。

つまり、今、俺の目の前にいるのは―――

「ヤマタノ……オロチ…?」

「正解じゃ……」

瞬間、俺は全身の毛が逆立つのを感じた。

後から遅れて鳥肌と冷や汗が出てくる。

「マジかよ……単独で魔術師団をぶっ潰すようなバケモンが、何でこんな所に!?」

「そんなこと、私が聞きたいわ。」

「一つ確かなことは、あの化け物は、俺たちで仕留めないといけないってことさ。」

八重樫先輩が、まるで自分にも言い聞かせるようにそう口にした。

「しかし、どうやって倒せばいいんじゃ?弱点を突こうにも、あんなに暴れられたら近づけんぞ。」

「首を飛ばそうとしても他の首が邪魔をする。心臓を突こうとしても場所がわからない。胴体を吹き飛ばすには火力も戦力も足りない……」

「万事休すね……」

先輩たちが頭を抱えている間、俺は、先ほど自分が行おうとしていた行動を思い出した。

俺は、額に鉄剣を突き刺した後、そこからさらにアクションを起こそうとしたのだ。

しかし、具体的な行動に移る前に、俺の体は宙へと飛ばされていた。

もし、あのまま次の行動が成功していたら?

もし、その行動が、化け物の動きを、一時的に止めることができたとしたら?

もし、その隙に、こいつの首をすべて落とすことができれば?

「皆さん」

俺は、3人の先輩に声をかけた。

振り向いた先輩たちに、こう続ける。

「俺に作戦があります。今から俺の言うとおりにするよう、他の中隊に伝えてくれませんか?」








次回の投稿予定日は、1月8日です。お楽しみに。

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