二十八話 後編
ハッピーニューイヤー!二十八話です!
どうぞ!
「撃て!撃てぇ!!」
茜の叫び声に呼応し、彼女の中隊のメンバーたちが、一斉に愛銃の引き金を引く。
ハンドガン、マシンガン、ライフル……様々な種類の銃火器から、多種多様な口径の弾丸が吐き出され、それらはほぼ全てヤマタノオロチ型に着弾し、爆煙を吹き上げる。
しかし、どの弾丸も、化け物の皮膚を貫かないばかりか、突き刺さりすらしない。
8本ある首のうちの3本が、浜崎中隊の方へと向けられる。
「ッ!総員退避!急げ!!」
隊長が放った命令が、メンバーたちの鼓膜を叩くのと、ヤマタノオロチ型が、火球を放つ予備動作を始めたのはほぼ同時だった。
即座に各々の判断で、隊員達が回避行動を取る。
直後、
ゴバッ!!と、基地の地面の土が、火球によって舞い上がった。
なんとか避け切れた隊員達だったが、あと少しでも遅れていたら、彼らの体は一瞬で消し炭になっていただろう。
「総員!配置パターンをDに変更!敵の動きに注意しながら、できるだけ火力を一箇所に集中させろ!」
的確に指示を飛ばしながら、彼女は懐から数枚の黒いカードを取り出す。
「(並の弾丸じゃ歯が立たねぇってか?上等じゃねえか!)」
それらを全て上へと投げ、半ば叫ぶように唱えた。カードに書かれた共通の文字を。
「召喚!スーパーバズーカ!!」
すると、空中に散りばめられたカードたちが眩く発光し、その形状を無骨なデザインの銃器に変貌させた。
全長約1、5メートル。黒光りするその円筒形の銃器たちは、その見た目に反しない重量のせいで、すぐに地面へと突き刺さる。
彼女が召喚したのは、歩兵用のバズーカ砲。無反動砲とも言われるそれを、彼女は地面から引き抜き、
「喰らえ!!」
ヤマタノオロチ型に向けると、躊躇なく引き金を引いた。
ドゴン!!と、砲身から、毎秒150メートルを進む程の速度で放たれた弾頭が、白い尾を引きながら、ヤマタノオロチ型の首の一つに着弾する。
これはさすがに堪えたようで、煙の中から、痛がるような素振りを見せながら、首の一つが出てくる。
茜は空になったバズーカを投げ捨てると、弾頭の入ったバズーカを地面から引き抜き、肩に担ぐ。
「まだまだ!」
再び引き金を引く。着弾。捨てる。
また新しいものを引き抜く。担ぐ。撃つ。着弾。捨てる。
これらを延々と繰り返し、ついに、首の一つの顔の上部分だけを吹き飛ばすことに成功する。
「おっしゃ!」
と、喜びもつかの間。別の首が茜の体を飲み込もうと恐ろしいスピード迫る。
しかし、
「これでも喰ってろ!」
後ろにステップを踏み込みつつ、開いた口の中にピンを抜いた手榴弾を放り込む。
そして、腰のホルスターから拳銃を引き抜き、間近に迫った蛇顔の両目に弾丸を撃ち、視界を封じる。
直後、ボン!と化物の顔が一回り膨らんだ。中で手榴弾が起爆したのだ。
案の定、歯と歯の間から煙が立ち込める。
怯んだ隙を見計らって、再び距離を取る茜は、ある程度の距離を保つと、右手で合図をした。
途端、いつの間にか武器をRPG―――ロケットランチャーに持ち替えていた浜崎部隊の全員が、一斉に引き金を引いた。
破壊の轟音と眩い光がその場を支配する。
「……やったか?」
RPGの圧倒的火力による総攻撃作戦。
ここまでやれば、大抵の業魔なら肉片が残っている可能性などゼロに等しい。
煙が晴れる。
そこにあったのは、
悠々と佇むヤマタノオロチ型の姿だった。
何一つ変わりなく。いや、むしろ尊に切断されたはずの首や、自分が吹き飛ばしたはずの首すら元通りになっていた。
「この、バケモンが……ッ!!」
茜の吐き捨てるような呟きは、周囲の喧騒と悲鳴にかき消された。
「が、は……ッ!?」
背中から思い切り叩きつけられた。
そう知覚した時には、雫の体はノーバウンドで20メートル以上吹き飛ばされていた。
口の中に血の味が広がる。
どこか内蔵に損傷を負ってしまったのだろうか。そんな心配すらできない状況の中、彼女はヤマタノオロチ型の強さに驚愕していた。
「(なんて強さ……これが大規模災害型!こんな化物を青山くんは相手取ってたって言うの!?)」
先ほどの攻撃で自分が飛ばされたと同時に、一緒に業魔の首から抜けた愛剣を杖代わりに、なんとか立ち上がる。
「(精鋭の私たちでさえ歯が立たないなんて……こんな奴相手にどう戦えばいいの!?)」
申し訳程度の治癒魔法を自分にかけ、どうにか戦闘可能な状態にまで持っていく。
しかし、そこで先ほど首を断とうとして失敗した首が、雫のことを、赤とも橙ともつかぬ色で光る目で見据える。
再び口を大きく開け、その口内に火球を生み出す―――先ほどの三倍は大きな代物を。
「ッ!!」
すぐさま剣に魔力を注ぎ込み、再び氷の大剣を作り出す。
「(氷が溶けきる前に断ち切れるか……!?)」
氷の大剣を両手で持ち、切っ先を正面に構えながら、雫は思考を加速させる。
しかし、それは杞憂となった。
ドゴン!!と、何者かが巨大な得物で、雫を狙っていた蛇頭の頭頂部を思い切り殴りつけたからだ。
軽い脳震盪でも起こしたのか、蛇頭が左右に揺れ、口内の火球はすぐに消滅した。
一方、当事者である得物を担いだ人影が、空中から雫の眼前へと着地した。
ブレイブコートを着た長身の背中。角刈りの頭。氷の装甲をまとった戦棍。
その人影の正体は―――
「隊長!ご無事ですか!?」
「八重樫くん…!」
彼も戦場のどこかで異変を感じ取ったのだろう。
かなり前線に出ていたはずの彼―――八重樫強志は、おそらく相当の無理をして駆けつけたのだ。
その証拠に、あちこち傷だらけなのもそうだが、先ほどから息が荒い。
息を整えてはいるのだろうが、一向に良くなる気配はない。
「なんですかあの化物は?隊長はご存知で?」
「……2年前、青山くんたちが討伐したはずの大規模災害型個体。ヤマタノオロチ型よ。」
強志の目が、驚愕に見開かれる。
全身から嫌な汗が流れ、柄を握る手がガチガチと震え始める。
「……本当ですか?」
「間違いないわ。」
肯定した雫は、再び剣を構えると、
「青山くんがいない今。私たちでやるしかないわ。」
「……そのようですね。」
強志も覚悟を決めたのか、巨大な氷の戦棍を構え直す。
「行くわよ!」
「はい!」
天川中隊のNo.1とNo.3が、大規模災害型を迎え撃つ。
たとえ、勝てない戦いだと分かっていても。
皆様、あけましておめでとうございます!
新しい年になって、私も気合十分!これからも全力で頑張って参りますのでよろしくお願いします!
次回の投稿予定日は1月4日になります。お楽しみに!