二十五話
お待たせしました。第25話です。
赤点取りまくって補習地獄です。今回のテストは最悪でした。
ですが、投稿はやめません(遅れるかもしれませんが)
それではどうぞ。
健太は、突如として現れた目の前の男が誰だか認識出来ずにいた。
ようやく活動を開始した脳が、記憶野から視界に映る人物を一致するデータを集める。
彼は、つい数時間前、本部基地の銭湯で知り合った―――
「八重樫……さん?」
「ちょっと待っていろ。すぐに終わらせる。」
そう言った強志は、肩に担いだ戦棍をワニ型に向けた。
体制を立て直したワニ型は、邪魔者の襲来に腹を立てていた。
もし、ワニ型が人語を解することができたならこう言うだろう。
「まずはお前から食ってやる」と。
だから、強志はこう言い放った。
「お前、自分の立場を理解しているのか?この場において、捕食者はお前じゃない。この俺だ」
その意味が通じていないのは明白だが、まるで挑発に乗ったようにワニ型が襲いかかってきた。
先程のような、巨体に似合わない驚異的なスピードでの跳躍だ。
口を大きく開けて飛んでくるワニ型を、強志は右にステップを踏んで回避。
そのまま左方向に回転し、遠心力と腕力、そして自分と戦棍の重量を最大限上乗せし―――
「おぅらァ!!」
気合の咆哮と共に戦棍を、ワニ型の横っ面に叩きつけた。
ゴキン!という音を立てながら、ワニ型が7~8メートルほど吹き飛ぶ。
「おいおい、こんなものか?あまり俺を失望させるな。」
彼が主に扱う術式は、氷結魔法の類ではなく、肉体強化魔法と言うひとつの技法である。
遥か昔、少林寺拳法と言う体術から派生したその技術は、己の肉体的性能を魔力によって補強する事で、本来ならば有り得ない力を行使できるというものだ。
しかも、効果は筋力の強化だけにとどまらず、スタミナの増加、自然治癒力の向上、骨格の強度増加などなど、うまく扱えば超人になれるそんな技術なのだ。
無論、欠点はある。
まず、ある程度の基礎体力がないとこの術式は使用できない。
これには理由があり、この技術は、戦いのために肉体を鍛えている者が、ある日突然やり方に目覚めるという不思議なものだ。
なにせ体術から派生した技術だ、それはすなわち戦うための術式に他ならない。
おそらく、本当に必要としてる者にしか宿らない術式なのだろう。
そもそも魔力自体が原理不明の異能の力なのだから、そんな術式があっても何らおかしくない。
そしてもう一つは、その術式の複雑さである。
超人になりうる力を手に入れる反面、より繊細かつ高度な術式が必要となり、これを頭の中で一から組み上げようとすれば、軽く3時間はかかってしまう。
また、魔力の消費量―――特に強志は男性なので―――にも気を配る必要があり、本当に必要な場所で使えるようにしておくのがセオリーである。
体制を整えたワニ型が、足を屈める。
跳躍の予備動作だ―――と健太がぼんやりした頭で思考した時には、強志の体は既に上だった。
一歩遅れてワニ型が跳躍する。狙うのは上に跳んだ一匹の餌。
口を大きく開き、強志を飲み込もうとしたワニ型は―――
「ふんっ!!」
振り下ろされた戦棍に頭を思い切り殴られ、そのまま地面に叩き落とされた。
「これで終わりにしてやる。」
そう呟いた強志は、空中で戦棍を高々と掲げ、魔力を込めた。
その瞬間、パキィン!と言う音と共に、戦棍を何か透明なものが包み込んだ。
戦棍にまとわりついたそれは、どんどん巨大化し、やがて戦棍を包んだモノの正体が分かった。
それは、氷だ。
強志の魔力が変換されることで出現したその氷が、元の質量をはるかに凌駕する事で、鋼の戦棍は、巨大な氷の戦棍となって生まれ変わっていた。
全長3メートルを超えるであろうあまりにも巨大な戦棍は、やがて重力に引かれて落下を始める。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ドゴグシャァァ!!と言う轟音を立てながら炸裂した一撃は、ワニ型の肉を潰し、骨を砕き、脳と思われる部分までをも破壊する事で、ワニ型を危険生物からただの肉塊へと変貌させた。
戦棍を包んでいた氷が溶け出し、水となって肉塊を濡らす。
すっかり元の大きさに戻った戦棍を、一振りしてから、背中の革製の鞘に収める。
瞬く間にワニ型を討伐した強志は、周囲に敵の気配がないことを確認すると、健太がいる方へと振り向いた。
強志は健太の傍まで歩み寄ると、片膝をついて手を差し伸べた。
「おい、大丈夫か?」
「は、はい……」
震える手で、差し出された手を握った健太は、強志の腕力で強引だが立ち上がることができた。
「……」
強志は、健太の目を見た。
ゴーグルごしに見える健太の瞳には―――まるで地獄の淵を覗き込んだような、深く暗い恐怖の色に染まっていた。
強志には見覚えがあった。
この瞳は―――初めて戦場を知った瞳だ。
突然この世界に出現した謎の魔物、業魔。
そんな業魔に無慈悲に殺されていく仲間や先輩。
フラッシュバックする4年前の―――業魔復活時に起きた全世界の混乱の記憶。
その人の頭の中で、こう言った様々なモノが混ざり合うことで、この瞳は現れる。
「(俺も……初めて戦場に立ったときは、こんな目をしていたのか……)」
と、そこで自分が感傷的な思考をしているのに気がつき、即座にかぶりを振る。
「(今はそんなことを考えてる暇はない。一刻も早くここから離脱しなければ。)」
改めて健太の顔を見る。
一見、変わっているのは瞳の色だけかと思ったがそうでもない。
額には脂汗が滲み出て、唇は小刻みに震えている。
呼吸も荒々しいくて落ち着きがない。
「(やはりダメか。今のコイツはこれ以上戦えない。となれば、やることは一つだ。)」
強志は、今にも発狂しそうな健太を見、ひとつ確認をした。
「お前……走れるか?」
「は、はい……なんとか…」
それを聞いた強志は、一度だけ頷き、北ゲートの方向を向いた。
「そうか……なら、急ぐぞ。」
「はい……」
返事を聞いた強志は、ゲート方面へと走り出した。
おぼつかない足取りながらも、なんとかそれに続く健太。
「(新井……強くなれよ。)」
心中で、そっと呟いた強志だった。
『あの……青山大佐?』
マイクから放たれる議長の声には呆れと怒りが滲み出ている。
当然だ。せっかくスポットライトを当ててやったというのに、当の本人は爆睡ときた。
これは、怒らない方がおかしい。しかし、そんな声には一ミリも反応を示さない青山大佐殿の口元から聞こえてきたのは、
「ぐー……おやっさん…もう飲めねぇっすよぉ~……ぐー…ぐー…」
『青山大佐!!』
ついに怒りが限界に達した議長がマイク越しに怒鳴りつける。
夢の世界から強引に引きずり出された昇は、よだれで汚れた口元を拭うのも忘れて飛び起きた。
「うわっ!?え?なになに!?」
『何でこんな時に限って居眠りしているのですか!?この大事な時に!』
日本語で話す彼の言葉は議長には分からないが、状況が掴めてないのは分かった。
しかし、それはつまり話を聞いていないことと同義である。
『もう変わってください!女性のあなたの方が、スムーズに事が進む!』
と、議長は昇に、焔を呼び出すよう説得するが、言葉の壁がそれを阻む。
「え?なに?わかんねぇよ?」
『~~~っ!!』
頭に来た議長は、昇でもギリギリ分かるように、交代しろ―――changeと何度も繰り返した。
「え?チェンジ?チェンジ……変える?何を?」
と、首を傾げた直後だった。
―――お前と私をだよこのバカ!!
再び昇の全身が赤く発光し、外見、人格が焔へと変貌する。
表に出た焔は、開口一番に頭を下げた。
『申し訳ありません!うちのバカがとんだご無礼を……』
『い、いえ……そんなご丁寧に謝らなくても……』
これが先程までポカンとしていた青山昇であれば、議長は容赦なく罵詈雑言を浴びせかけるだろう。
しかし、そんな昇のせいで日々苦労してるであろう焔にも、同じ仕打ちなど出来るはずがない。
『えっと…すいません。私、実は昇に感覚共有をシャットアウトされてまして、どんな話をしていたか分からないんですけど、そのへんをもう一度教えてくれませんか?』
感覚共有とは、文字の通り二つの人格で感覚を共有することである。
これは「男の人格と女の人格の両方を持っている魔女化能力者」が扱う技法で、脳内で意識するだけで簡単にオンとオフの切り替えが出来る。
いかに魔女化能力者と言っても、肉体は一つしかないため、両方の人格がいっぺんに表に出てくることはない。
だが、この技法で表で活動している人格が得た情報を、裏の人格と共有することは出来る。
こうすると、いわば「二つの脳を同時に動かしている」ような状態で物事を進めることができるため、戦いの場においては非常に便利だ。
しかし、一度スイッチをオフにされてしまうと、裏の人格は外界から完全にシャットアウトされてしまい、何も出来なくなってしまう。
ついさっき、昇が惰眠を貪っていたのも同じ理屈だ。
昇に感覚共有をオフにされてしまったために、中々入れ替わることができず、昇の自堕落を許してしまっていたのだ。
なお、彼女は、寝起きでうまく回らない昇の脳の隙を突き、力技で表に出てきました。焔さんマジぱねぇっす。
『えーとですね、つい先ほどから、大規模災害型に関する議論が繰り広げられていたのですが、このままでは埒があかないとのことなので、そこで、ヤマタノオロチ型を倒したあなたから話を伺おうかと……』
『あー、なるほど。分かりました。』
焔は席から立ち上がり、マイクを握りなおすと、会場全体の代表たちに話し始めた。
大規模災害型個体「ヤマタノオロチ型」との戦いを鮮明に思い出しながら。
次回の投稿予定日は12月21日です。
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