二十話
おまたせしました。第20話です。どうぞ!
ウズベキスタン。
ユーラシア大陸の中央に位置し、全国土面積は44万7400平方キロメートルで、国土面積は世界56位を誇る。
中央アジアに位置する旧ソビエト連邦の共和国だった所で、北にカザフスタン、南にトルクメニスタンとアフガニスタン、東でタジキスタン、キルギスと接している。
2012年に業魔が復活する前まで国土の西部はカラカルパクスタン共和国として自治を行っており、東部のフェルガナ盆地はタジキスタン、キルギスと国境が入り組んでいた。
そんなウズベキスタンの上空を、4機の軍用輸送機「C-1」が通過する。
登場しているのは全部で約200名。第12独立魔術師団が誇る天川中隊、浜崎中隊、相沢中隊、峯岸中隊の全四個中隊で編成された大部隊だ。
その中に今期入ったばかりの新兵、北条誠たち4人の姿があった。
目的地であるウズベキスタン基地は目と鼻の先だ。
死への恐怖、戦いの前の緊張、願いが叶う感動、精神の昂ぶりで現れる興奮。
様々な感情が渦巻く中、少年たちの最初の戦いが始まろうとしていた。
―――軍用輸送機「C-1」(天川中隊所属)内部。
本部基地を出てから既に数時間が経過。
離陸したときは既に落ちていた陽が、再び天高く登り、真上に到達して、地上に明るい光をもたらしている。
誠は自身の体が震えているのを感じていた。
これから始まる業魔との戦いに恐怖してるのではない。
むしろその逆、心が奮い立ち、抑えきれなくなった興奮が震えという形で外に出ているのだ。
「落ち着かないか?」
隣でそう問いかけるのは、彼の先輩である八重樫強志だ。
彼は新しい戦棍のグリップを握り、その手応えを確認していた。先ほどの訓練で今まで使ってた戦棍がおしゃかになったからだ。
先ほどひと悶着あった2人ではあるが、その影響は消えている。いや、消している。
これから始まる戦いの緊張を感じ取り、「そんなことをしてる場合じゃない」と言う事を悟ったのだ。
「はい……」
「まぁ、初めての実戦だ。無理もない。」
そう言った強志の額にも、一筋の水滴が流れている。彼も緊張しているのだ。
だが、ガチガチになっている2人とは対照的に、周囲の隊員は何かしらおしゃべりに夢中になってる。
帰ったら何食おうかだの、彼女とは上手くいってるか?だの、様々な会話が聞こえる。
だが、彼らも緊張してないわけじゃない。
むしろ逆。これから始まる戦いの緊張から少しでも逃れたいから、このような会話をしているのだ。
緊張しているのを誠に悟らせないためか、強志が引き攣った笑みを浮かべながら言う。
「しかし、隊長の言葉が現実になるとは思わなかったな。」
「えぇ、あれは驚きました。」
誠は先ほど、軍港に鎮座していたこの輸送機に乗り込もうとして、他の先輩たちに止められた。
隣にいる強志が、脱衣所で誠に言い放ったのと全く同じことを言ったのだ。
お前にはまだ早い、と。
だが、そんな彼に出撃許可を出してくれたのは、天川中隊の隊長である天川雫だった。
彼はとても感動した。だが、同時に疑問に思った。
輸送機が離陸する直前、彼は大尉に問うた。
なぜ俺に許可をくれたのかと。
すると彼女は、口元に笑みを浮かべながら自信満々にこう答えた。
―――青山くんなら、こうすると思ったんだ。
そしてその言葉が、離陸から5分後に青山総団長から届いた暗号通信によって実現することになるなど、誰が予想できただろうか。
「まぁ、四年前の天川隊長と青山団長はの同じ高校の先輩後輩だったらしいしな。隊長には団長の考えが分かったんだろう。」
「え!?そうなんですか!?」
予想だにしていなかった言葉に大声を上げてしまう誠。自然と周囲の視線が集まる。
「あ、すみません……」
とりあえず頭を下げてから、再び強志に確認する。
「……マジなんですかそれ?」
「俺も最初はタチの悪いホラ話だと思っていたんだがな。」
そう言うと強志は懐から携帯端末を取り出してタッチパネルを操作すると、一枚の画像を誠に見せた。
「これを見てから、信じざるを得なくなっちまった。」
「これは……」
それは、今はもう見れない京都の世界遺産。東大寺大仏殿前で撮影されたと思われる写真だった。
そこに各々のポーズで写っている6人の少年少女。
夏休みなどを利用して行ったのだろうか、全員が夏物の私服を着ている。
その中で、見覚えのある黒髪ロングの少女と、これまた見覚えのある赤い髪の少女が左右から青髪の少年と腕を組んでいる。
黒髪の少女が満面の笑みを輝かせてるのに対して、赤髪の少女は何やら文句を言っているのだろう、目尻がつり上がり、口が開いている。
その狭間で青髪の少年が苦笑いを浮かべている。
「拓哉の奴からもらったんだがな、京都の東大寺に行った時に撮った写真だそうだ。」
「この黒髪の子が……?」
「あぁ、隊長だ。」
「あらあら、懐かしい写真ね。」
「「ってうわあああああああああ!?」」
写真に見とれていた誠と強志は、目の前にいた雫に気付かなかった。
「た、隊長!?」
「いつからそこに!?」
「え?「これを見てから……」のあたりからかしら?」
「かなり前から居たんですね……」
雫は強志の手元から携帯端末をもぎ取り、画像をまじまじと見つめ始めた。
「懐かしいわね……。これは青山くん達が修学旅行で京都に行った時ね。」
「なるほど、俺はてっきり夏休みか何かだと……ってちょっと待ってください?」
雫の言ったことが本当だと色々と語弊が生じる。危うく納得しかけてしまった誠は、問いただす。
「隊長って青山団長の先輩なんですよね?何で学年が違うのに同じ修学旅行に参加してるんですか?」
「あぁ、これはね―――」
雫が口を開いた直後、機内にアナウンスが流れた。
『望月拓哉少尉から通信。目標地点を視認した。戦闘準備に移行されたしとのこと』
すぐに機内の空気が張り詰めた。全員が各々の得物を取り出す。
昔を懐かしんでいた雫も、即座に顔を引き締めた。
「…続きは帰ってからね。」
「は、はい!」
そう言うと雫は強志に携帯端末を返し、自分の座席へと戻っていった。
と、ここで誠にさらなる疑問が降ってきた。雫はすでに自分の座席にいるので、彼は隣にいる強志に問うた。
「八重樫先輩。望月先輩はどこですか?」
今思えばかなり長い時間この機体に乗っていながら何故気付かなかったのだろうと思う誠だったが、とりあえずそれは置いておく。
「さっきも伝令があったって……」
「あぁ?あいつか。」
聞かれた強志は人差し指を上に向けながら言った。
「あいつならこの機体の上だ。」
……………………………………………………。
言葉の意味が理解できずポカンと口を開ける誠。それも当然だ。普通なら人間が飛行中の輸送機の上にいるなんて有り得ないからだ。
どんなメカニズムでそんな芸当ができるのだろう。という疑問が誠の脳内に湧き上がる前に、強志が言う。
「おっと、別にふざけてるわけじゃないぞ?奴も氷結系魔法の使い手でな。足元に氷を張る事で、自分の身体を機体に固定してるのさ。」
つまり自分の両足と機体の装甲を氷で固定することで、機体の外でも飛ばされないという事だ。
「そんな芸当ができるんですか?」
「と言うかあいつの場合、こうやって輸送機などで移動してる際はいつも機体の上部で周囲を監視してるぞ?」
知らなかった。よもやそんなことができる人だったとは。
「やっぱブレイブコートを着てるだけあるな……」
拓哉への印象を少し改めた誠だった。
天川中隊が使用している「C-1」の機体上部に望月拓哉の姿はどこにもなかった。
その代わりにそこにいたのは一人の幼い少女だった。
白金の長い髪を持つその少女は子猫のように華奢で小柄な体格をしており、外見年齢で言うなら10歳か11歳程度だ。
少女は自分の足元の装甲板に氷を張り付け、身体を固定し、この機体が離陸してからずっとここで仁王立ちしている。
Sサイズの軍服の上から漆黒のコートを羽織っていることから、彼女もまた幼い外見とは裏腹に相当な実力者なのだと言う事が分かる。
「(むぅ……今の所変わった様子はないのじゃ。)」
彼女の役目は飛行中の輸送機の周囲の索敵、及び警戒。そして迎撃である。
本来、索敵や警戒は輸送機に搭載されているレーダー機器でどうにでもなる。
しかし、輸送機は武装を搭載していないため、空中戦闘を得意とする業魔が出現した場合、一方的に蹂躙されてしまう。
故に、無防備な飛行中の輸送機を誰かが守る必要があるのだ。
「(最近はめっきり姿を現さなかったのじゃがな……ま、それだけ前線も厳しいということかのう)」
天川中隊。いや、もっと言えば第12独立魔術師団は、基本的には第二線を防衛する組織であって、前線で戦っているのは魔術師団の中でも特殊な部隊だけだ。
「(まぁ、これでわしらも給料分の働きはできると言う事じゃが)」
と、その時。
「(……着いたの)」
ついに彼女の視界に、遠目に見える景色―――業魔の群れが見えた。
彼女は耳についたインカムのスイッチを入れて、声を発した。
「望月から操縦席へ。目的地を肉眼で確認した。戦闘準備に移行するのじゃ。」
数秒の後、インカムから「了解」の声を聞いた彼女はインカムのスイッチを切った。
そして彼女も機内の仲間と同じく、戦闘準備に移行する。
即座に脳内で術式を組み上げ、両手に魔力を注ぎ込む。
すると彼女の両手に、手首を覆うように巨大な氷の掌が出現した。
爪が恐ろしく尖り、指の一本一本が太いそれは、まるで獣のような形状をしている。
氷で出来でいるはずのそれは、驚くほど指の関節がスムーズに曲がる。
彼女からしてみれば、一種の外部骨格を手に入れたようなものだ。
「(さて、派手に暴れるとするかの!)」
気合を入れ直し、彼女は眼下に広がる戦場を睨みつけた。
次回の投稿予定日は11月18日です。お楽しみに!




