十九話
おまたせしました。第十九話です。どうぞ。
「なんだ!?」
鳴り響いた警報。
突然訪れたイレギュラーな事態に戸惑う誠。
だが、そんな誠とは対照的に、拓哉は両耳に意識を集中させた。
「(この警報……まさか!)」
そして3秒後、そのまさかが的中してしまった。
警報が鳴り止み、代わりに副団長の声がスピーカーから響く。
『第10魔術師団のウズベキスタン基地からの救難信号をキャッチした。天川中隊、浜崎中隊、相沢中隊、峯岸中隊のメンバーは、至急、第0地区軍事空港に集合せよ。繰り返す―――』
「(やっぱりか!くそっ!)」
拓哉は険しい表情を浮かべながら誠に言う。
「聞いたな誠。出撃だ!早く着替えてここを出るぞ!」
「は、はい!」
ようやく自体を理解した誠が、慌てて着替えを再開する。
「(最近めっきりでなくなってたと思ったらこれかよ!クソッタレ!)」
ワイシャツを着た拓哉は、ジャケットとネクタイを引っ掴むと、着替えが完了していない誠に「軍港に行け」とだけ伝えると、脱衣所を飛び出していった。
一方、取り残された誠は、心臓が高鳴るのを感じていた。
「(ついに俺が、業魔をこの手で……!)」
長かった。
4年前のあの日から。父と母が死んで、食いちぎられた妹の腕を見た時から。
彼は業魔に復讐を誓って生きてきた。
「(始まる……これから始まるんだ、俺の逆襲が!)」
と、その時、同じく警報を聞いた隊員たちが浴室から出てきた。皆が皆険しい表情をしてる。
その中から誠に駆け寄ってきた複数の影があった。強志と信司たちだ。
「誠!」
「お前ら……!」
「誠、今の警報って……?」
だが、俺が答えるより先に、強志が問いかける。
「おい北条。拓哉はどうした!?」
「望月先輩は先に行きました!俺たちも急ぎましょう!」
そう言って外へ出ようとした誠のジャケットの袖を強志が掴む。
「待て北条。お前は残れ。」
それを聞いた誠は我が耳を疑った。自分は残れ。そう言ったのだ。
「な、なんでですか!?奴らが来たんですよ!?」
「お前はまだ実戦には出れない!そういう決まりだろう!」
第12独立魔術師団では新兵は三ヶ月の訓練を強制される。
新兵はその期間で、実戦に必要な実力、知識、判断力を身に付け、初めて戦場に出られるのだ。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」
「ダメだ!お前はまだここへ来て2週間だろ!今のお前には様々なものが足りないんだ!」
「実力なら俺だってB級クラスの魔道師!業魔の知識に関してなら、学校でトップでしたよ!何の問題もないでしょう!」
誠は怒りが沸騰していくのを感じていた。
親の仇が、憎むべき敵がすぐそばに来ている。今が反撃のチャンス。それをこの男は邪魔しようというのだ。
「そういう問題じゃない!お前は軍規も守れないのか!?その時点でお前は軍人失格だ!業魔と戦う資格なんてありはしない!」
それを聞いた誠は、自分の服の袖を掴む強志の手を強引に引き剥がし、後ろへと押しやる。
「軍規軍規ってうるせぇんだよ!そんなもんに縛られてる時点で、アンタは戦士失格だ!」
上官である強志にそう怒鳴りつけた誠は、そのまま脱衣所を飛び出していった。
「待て!北条!」
のれん奥に消えた誠から、返事は返ってこなかった。
ピピッ、という電子音がヘリのコックピット内に響く。
ヘリのコックピットに搭載された通信機器が、何らかの電波を受信したのだ。
「ん?」
電子音を聞き逃さなかった頑獣郎が、すぐさま装置を操作し、受信した電波の正体を調べる。
電波の正体は本部基地からの副団長からの暗号通信だった。
「オイ昇。本部基地から暗号通信だ。」
「なんだって?」
本を読みながら現地への到着を待っていた昇は、暗号通信などという物騒な響きに危機感を覚えたのか、本を閉じて先を促す。
「えーとなになに?……『ウズベキスタン基地からの救難信号を受理した。』だぁ!?」
「業魔か!?」
「あぁ、どうもそうらしい……。『第12独立魔術師団から、天川中隊、浜崎中隊、相沢中隊、峯岸中隊の四個中隊を増援として出撃させようと思うのだが、お前の意見を聞きたい。』と書いてある。」
それを聞いた昇は、すぐさま思考を開始した。
「(ウズベキスタン基地か……あそこは確かカザフスタン戦線の前線基地だったはずだ。)」
現在、アジアにおける業魔との最前線はキルギス、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、カザフスタンの5つだ。
本部基地のあるイランと隣接しているのはアフガニスタンとパキスタン。そしてトルクメニスタンである。
アフガニスタンとパキスタンが最前線。つまり戦争において敵に最も近い戦場一帯をであるため、この2つの国に建造された軍事基地が前線基地のある第一線。
イランにある本部基地が最前線の一歩手前、つまり第二線と言う事になる。
ちなみにこの第二線。最前線が崩れた瞬間、即時に第一線となるため、戦術的には最前線と変わらない。
今回襲撃されたのは、カザフスタン方面における「第二線」に位置するのウズベキスタン。
なお、ここが襲撃されてる時点で「最前線」であったカザフスタン戦線は壊滅したと考えていいだろう。
「(ったく、第10魔術師団のボンクラ共は何やってんだ?)」
第10魔術師団は、魔術連合国家軍(以下、連合軍)直属の魔術師で構成された魔術師団の1つである。
構成員の出身地はバラバラで、皆が皆それぞれ違う系統の術式を使う。
昇が団長を務める第12独立魔術師団と違う点は2つ。
一つは構成員の数が圧倒的に多いこと。
そしてもう一つは、ほぼ全ての主導権を連合軍が握っていることだ。
このため、第10魔術師団は本部からの命令を待とうとするあまり、迅速に動くことができない。
今回はその隙を突かれたのだろう。
「(なんでもっとマシな人員を注ぎ込まないんだよ全く……ここが突破されればマズイ事になるのは分かってんだろうに……)」
このまま防衛網を突破されれば戦線が大きく後退し、イランにある昇たちの本部基地が、実質的には最前線となってしまうので、大変よろしくない。
「(どうする?今から俺が行って片付けるか?それとも……)」
そこまで考えたところで、脳内に女の声が響く。間違いなく彼のもうひとつの人格である青山焔の声だ。
『私としては彼らに任せたほうがいいと思うけど。』
「(……なんでそう思うんだ?)」
問いかける昇に、焔は当たり前のように答える。
『だって、こうやって敵が来るたびに私たちが片っ端からなぎ倒してたら意味ないでしょ?部下の成長を促す面で言うならここは任せたほうがいいと思うけど。』
青山昇は優秀だ。
彼がその気になれば、業魔で構成された10万の軍勢も灰に帰る。
彼がたった一人で敵を蹴散らすのはいくらでもできる。しかし、それでは彼のの配下にいる人間たちが実戦を経験することがなくなり、それでは集団として活動している意味を成さなくなってしまう。
「(……確かにそうだな。よし、ここは一つ、あいつらを信じてみるか。)」
そう決断した昇は、コックピットの頑獣郎に今から言うとおりに返信するように指示を出す。
「『了解した。今回の件はお前に一任する。頼んだ。』って入れてくれ。」
「分かった。」
頑獣郎が通信機器を操作し始める。片手で操作しているにもかかわらずかなりの速さだ。
だが、文章が八割がた完成した時に、昇が思い出したように声を出した。
「あっ!」
「どうした昇?」
「おやっさん!やっぱ追加事項加えていい!?」
「いや、構わんが……」
許可をもらった昇は、追加事項の内容を伝えた。
「じゃあこう追加してくれ。『なお、今回の戦闘では、今期入隊したばかりの新兵の参戦を許可する』ってな。」
『「!?」』
驚いたのは頑獣郎だけでなく、焔もそうだった。
「おいおい昇?そりゃ無茶ってもんじゃ……」
『そうよ!いくらなんでも無謀すぎるわ!』
ちなみにこの2人、息はぴったりだがお互いの声は聞こえていない。
「何が無茶なんすか?」
「いや何がってお前……確か新兵が戦場に出るんにゃ三ヶ月か四ヶ月の訓練がいるんじゃないのか?それに何で新兵を出す必要があるんだ?」
おやっさんのくせに意外と物知りだな、と昇は関心する。
『そう!三ヶ月の訓練を受けてからじゃないと実戦には出せない!これは軍規でも決められてることなのよ!?』
軍規とはその名の通り軍の内部における法律の事だ。これを破ることは当然罰の対象になるし、最悪の場合銃殺刑すら有り得るのだ。だが、
「確かにそうですよ。ですが……それはあくまで「書類上」でしょ?」
この青山という男、そういった軍規などを平気で破ることに定評があり、上層部からは最悪の印象を受けている。
だが、彼が軍規を破った結果が最終的に人類に利益があったりするので、上層部のお偉い方は裁きたくても裁けないのが現状である。
「それに、あいつらの顔見たでしょ?」
昇は、試験最中に見た新兵たちの瞳を思い出していた。それは焔も同じことで、特にあの金色の髪をした少年の目が鮮明に蘇る。
「あいつらならもう実力は十分だし、必要な知識も学校で習ってるはずです。おまけに気合とメンタルにおいてはトップクラス。むしろ下手な兵士より役立つと思いますけど?」
数秒の沈黙が場を支配し、やがて剛十郎が折れた。
「ったく……お前って奴ぁこれだからおもしれぇんだよな。よし、任せとけ。」
「あざっす。」
再び頑獣郎が装置の操作およびヘリの操縦に戻り、代わるように焔が呆れたように一言投げかけた。
『はぁ……実にアンタらしいわね。』
「(お褒めの言葉をありがとう)」
このやり取りから5分後。第0地区の軍港から4機の軍用輸送機「C-1」が発進した。
次回の投稿予定日は11月14日です。お楽しみに




