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雷の戦女神(ヴァルキュリア)(凍結)  作者: yutaso
第二章 初陣、ウズベキスタン基地攻防戦
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十八話

おまたせしました。第十八話です。

―――大浴場。

本部基地の7階に存在するそこは、全団員の数少ない憩いの場として機能している。

縦6列に並んだ洗い場と、日本人なら誰でもわかるあの山を描いた壁を有する、古き良き時代を彷彿とさせる「銭湯」タイプ。

そして、ジャグジーバス、薬湯、打たせ湯、サウナなどの多種の浴槽を充実させ、機能性を重視した造りの「健康ランド」タイプの2種類が存在し、1週間置きに男湯と女湯が入れ替わる仕様になっている。




食事を終え、隊長と別れた俺たちが向かったのは本部基地の7階にある大浴場だ。

健康ランドクラスの設備を整えており、脱衣所にはマッサージチェアなども存在する。

「よっしゃー、ふろだー!」

「ここの風呂ってホント豪華だよな。」

「むしろやりすぎ感があるくらいです。」

三者三様の言葉を聞きながら「男」と書かれたのれんをくぐり、脱衣所へ向かう。

既に何人か先客がいて、マッサージチェアに寝そべるなり、ドライヤーを使うなりしている。

空いているかごの一つを選び取り、床に置く。上着、肌着の順番で服を脱ぎ、かごの中へ投入していく。

そして履いていたトランクスに手をやろうとした時、

「おーい、誠!」

背後から声がした。とても馴染みのある声。

振り返るとそこには老け顔の少年と濃い顔の少年。さらに黒縁メガネの少年がいた。

「お!信司、悠斗!それに健太も!」

「久しぶりだな誠!」

「元気してたか?」

「その様子だと元気そうだね。」

俺の数少ない同級生。多村信司、野上悠斗、新井健太の3人だ。

それぞれバラバラの中隊に配属されてからめっきり顔を合わせなかったが、思わぬところで再会を果たしたものだ。

「おろ?君たちは確か誠の同期の……」

「はい、多村です。」

「野上っす。」

「新井って言います。」

俺の同期生に興味を示した望月先輩が、3人に声をかける。

「そっかそっかぁ、俺は望月拓哉。こいつの先輩だ。これからよろしくな。」

「…八重樫強志だ。」

「「「はい!」」」

早くも打ち解けているようでホントに良かった。と、俺は安心した。

まぁ、ノリのいい望月先輩の事だからすぐに仲良くなれるとは思っていたのも事実ではあるのだが。



洗い場で体を清めた俺は、手ぬぐいを持って湯船へと浸かった。

熱めの風呂のおかげで体が芯から温まり、疲れが外へ逃げていく。

固まっていた筋肉がほぐれ、力が抜けていく。

「あぁー、気持ちいなぁ~……」

俺と全く同じ感想を、望月先輩が真横でつぶやく。

「やっぱいいわここ!」

「あぁ、壁画の富士山がまたいいよな。」

どうやら信司と悠斗もここはお気に入りのようだ。

「確かに、ここの風呂は格別だな。」

「っあ~!この一瞬のために生きてるようなもんだぜまったくよぉ~」

リラックスの場でも表情を引き締めている八重樫先輩とは対照的に、紅井副団長はその強面がどうしたらそんなことに!?と言いたくなるほど表情を緩めている。

「強志さぁ、お前も風呂の時ぐらいは力抜いたら?」

「兵士たるもの、いついかなる時も緊急に備えなければならない。おまえが軽薄すぎるんだ拓哉。」

「おまえが堅物すぎんだよ。」

どっともどっちじゃねーか、という本音を胸にしまいつつ、俺は信司達に最近の調子を聞いてみることにした。

「そういやお前らさ。最近調子どうよ?」

「ん?調子?」

「それぞれの部隊に行ってから2週間経ったけど、何か感じたことってあるか?」

そこまで言うと3人は「「「う~ん」」」と唸りながら考える素振りを見せる。

「まぁ、実力の差ってのは痛感させられたな。」

最初に答えたのは信司だ。

「俺が配属された部隊に小林って人がいるんだけどよ、この人がまた強くてさぁ。何度もボロボロにされちまったよ。」

「え?お前がボロボロ?マジで?」

「マジマジ。いっくら竹刀振っても俺の打突なんてかすりもしねーんだもんよ。」

俺はかなり驚かされた。

親父さんに鍛えられた信司の剣の腕はかなりのモノで、素人目の俺にも分かるほどだ。

そんな彼が手も足も出ないなんて状況、俺には想像できない。

だが、実力の差を痛感させられたというのにはすごく共感した。

こんな頭してるせいもあって、昔から絡まれやすかった俺だが、喧嘩で負けたことは一度もなかった。

それがここに来てからはどうだ。試験の時も訓練の時も、俺はここに来てからというもの一度も白星を上げることが出来ていないのだ。

なるほど、上には上がいるものだと実感と共に共感した俺は、次に悠斗へと聞いてみた。

「悠斗は?」

「俺?俺はひたすら氷結魔法の反復練習だよ。俺が配属されたのが防御が中心だからな。」

なるほど、と俺は思った。彼が配属したのは防御を中心とする峯岸中隊。

前衛を務める兵士を守る役目を担う重要な部隊だ。故に、峯岸中隊で最も重要視されるのは「いかに強く、頑丈な障壁をどれくらいの速さで作り上げられるか」だ。

障壁の強度は、生み出されるために使用された魔力の上限で左右される。

ただでさえ魔力の上限が少ない俺たちだ。一枚のデカイ壁ならまだしも、何枚もの障壁を作っていたんじゃあ魔力が簡単に底をつく。

それを防ぐには障壁を張る練習を何度も何度も繰り返し、できるだけ魔力を使わないで障壁を張る方法を見つける以外にはない。

「お前らみたいに肉体的なあれはないんだけど、気力というかそのへんで結構キツイな。」

「ふぅん……」

「そういうお前は?」

と聞かれた俺は、何を答えていいのか迷った。

「俺もお前らと同じだな。違うって言ったら魔法を使った実戦形式の戦闘訓練だけど。」

「「マジで?」」

「うん、そうだよ。」

答えたのは俺ではなく望月先輩だった。どっから出てきたアンタ。

「今日も背後のコイツが誠を殺しかけたばっかだ。ったく、俺がどんだけ苦労して止めた事か。」

2人の顔が青くなり、何かに想像をめぐらせるように目を泳がせた後、八重樫先輩に目を向けた。

嘘ですよね?と問いかけるような視線を向けられた八重樫先輩は、目を真横に逸らした。

「「(ホントなんだ!)」」

あぁ、本当だ。現実性を欠いているのは俺自身でも分かっているが。というかコイツらの考えてる事は凄く分かり易い。顔に浮き出ている。

すると、

「そうなんだ……みんな大変なんだね。」

それまで黙っていた健太がいきなりこんなことを言いだした。それに俺たち3人は同時にこう言った。

「「「いや、多分お前ほどじゃねえよ?」」」

「?」

ワケがわからないと言いたそうな表情を浮かべる健太。

そんな健太に望月先輩が問うた。

「そうそう。前から気になってたんだけどさ、浜崎中隊ってどんな訓練やってるわけ?」

「それは俺も気になっていた。ぜひ聞かせて欲しい。」

「え?先輩方も知らないんですか?」

俺の問いには八重樫先輩が答えてくれた。

「俺達の同期にもいないことはないんだが、聞いても教えてくれんのだ。」

「「世の中には知らなくていい事もある」とか言いやがってよ。んなこと言われたら余計に気になるじゃんよ。」

どうやら相当ヒドイ仕打ちを強いられているのだろう。果たしてこのまま健太に喋らせていいのか?という不安がよぎる。

「そうですね、じゃあ僕が入隊した直後から話をしましょうか。」

俺は後に後悔する。

あの時健太をもっとちゃんと止めていれば良かったと。



健太の語った地獄の影響で場の空気が最悪になってから数分後。

この場から退散するように洗い場へ戻ったり、ぬるま湯に浸かったりと、固まっていた皆がバラバラに動き出した。

現に俺と望月先輩は既に脱衣所で体を拭き、衣類を身につけ始めている。

「なんかこう、凄かったな。」

「はい……」

凄かった。としか表現のしようがない程の内容だった健太の話は、今も耳の奥にちゃんと残っている。

思い出すだけで身震いがするのでさっさと記憶の隅に追いやることにする。

そういえば俺は前から気になっていたことがあった。いい機会だ、今聞いておこう。

「先輩。」

「ん?何?」

望月先輩はワイシャツのボタンを止めていた手を止めて俺に向き直った。

「俺、以前から気になってたんですけど……」

「うん?」

「俺、先輩の事を戦闘訓練で一度も見たことがないんですけど、先輩はどこで何をしてるんですか?」

それを聞いた望月先輩はキョトンとした表情を浮かべ、それはすぐに何かに思い立った表情に変わった。

「あー、そういやお前にはまだ言ってなかったな。」

「何がですか?」

問い返す俺に、望月先輩は口を開いた。

だが、

「俺は―――」

それより先の言葉放たれることはなかった。


ビィー!!という警報が脱衣所―――いや、本部基地全体に配備されたスピーカーから大音量で鳴り響いたからだ。



次回の投稿予定日は11月の10日です。お楽しみに。

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