十七話
お待たせいたしました。17話です。どうぞ。
先輩たちと談笑を続けること数分。カーテンの奥から強面の医者―――副団長が入ってきた。
「よう。」
「あ、副団長!どもっす。」
「お疲れ様です。」
片手を上げて挨拶する副団長に、先輩2人が各々のリアクションを返す。
俺も2人に習って頭を下げた。副団長は俺を見ると呆れた顔を浮かべながら言った。
「君は怪我をするのが好きだね。」
「いや、そういう訳じゃないんですけど……」
と、否定はしてみたがそう言われても無理はない。
俺が天川中隊に配属されて2週間が経過しているが、この間に俺がここを患者として訪れたのは一度や二度じゃない。
訓練中(主に戦闘訓練)でズタボロになって運ばれてきたのが今回を含めて5回。訓練中に疲労が限界を超えて、倒れて運ばれてきたのが4回。計9回以上ここを訪れているのだ。
どこぞの格闘家でさえもこんなに怪我はしないと思う。
「まぁ、訓練に励むのはいいことだがあんまり俺の仕事増やさないでくれよ?」
「……すいません。」
「八重樫。お前も少し手加減って奴を覚えろよ。」
「申し訳ございませんでした。」
副団長には八重樫先輩も頭が上がらないようだ。
「あ、そうだ。副団長。俺らこれから飯食いに行くんですけど副団長も一緒にどうですか?」
望月先輩が夕飯に誘う。時刻はもう夕方で、俺の腹の虫も機嫌が悪くなり始めたところだ。
「そうだな。今のところ急患もいないし、書類もやったから仕事もないな……よし、行くか。待ってな。準備してくる。」
誘いを受けた副団長がカーテンの奥へと姿を消す。
俺はカーテンの向こうにいる副団長に声をかけた。
「あの、副団長。俺はもう大丈夫ですかね?」
「痛みはないんだろ?」
「はい。」
「なら大丈夫だよ。折れてた骨もくっつけたし、損傷した筋肉や内蔵も修復してある。心臓が止まったときはちょっとヤベーと思ったけどな。」
あっさりと自分の容態を知らされた俺は鳥肌を禁じえなかった。
副団長、望月先輩、八重樫先輩の3人と一緒に食堂で食券を買った俺は、カウンターに並ぼうとしてある人物を発見した。
背中まで届く長い黒髪に、背後からでもわかるあの独特な雰囲気。間違いないと確信した俺は声をかけた。
「天川隊長。」
「あ、誠くん。体は大丈夫?」
振り返ったのは予想通り我らが隊長、天川雫大尉だった。
「はい。大丈夫です。」
「そう、良かったわ。ってあれ、望月くんに八重樫くん。副団長も?」
「ちぃーっす。」
「どうも。」
「おう。」
「あなたたちもこれからご飯?」
隊長に聞かれて真っ先に返事を返したのは望月先輩だった。
「はい、そうっす。なんなら一緒にどうですか?」
「あら、いいわね。」
「俺も賛成だ。」
「俺も異論はありません。」
何やらいつの間に話が進んでいる気がする。まぁ、俺も大丈夫なのだが。
「じゃあ誠くん。お邪魔していい?」
「はい、大丈夫です。」
俺たちはカウンターで食券を渡したあと、四人用のテーブル席を取って雑談することになった。
「え?じゃあ青山くん今ここにいないの?」
レンゲでチャーハンをすくう動きを止めて隊長が聞き返す。
それに対し副団長は、口に含んでいた白米を咀嚼し、ごくりと飲み込んでから答える。
「あぁ、なんでも明日に向こうで会議があるらしくてよ。つい1時間前にヘリで出発しちまった。」
隊長と副団長の話によると、青山総団長は本部の会議に顔出しを要求され、現在移動中らしい。
あのめんどくさがりの団長にとってはさぞ苦行だろう。
「それよりどーよ北条くん。」
「は、はい?」
ラーメンをすすっている時にいきなり話を振られた俺は少し動揺する。
「天川中隊。入ってみてどうだい?そこの乱暴なお姉さんに嫌な事されてない?」
その発言に隊長が眉をひそめる。
「あら、浜崎さんよりはマシじゃない。」
「あいつは論外、厳しすぎる。」
浜崎とは浜崎茜中尉のことだろうか。確かあそこの中隊は地獄のような訓練を行うと聞く。今更ながら配属された健太が心配だ。
「で、どうよ?」
改めて聞かれた俺は、あれこれ混乱しながらも口を開いた。
「……先輩はみんな親切で、頼りがいがあって、ホントに入ってよかったなと思ってます。」
だが、俺の発言に横から口出しするものが現れた。カレーのスプーンを右手に持った望月先輩だ。
「嘘言わなくてイイって。今日だってそこにいるこわーい先輩に蹂躙されたばっかだろ?」
「人聞きの悪いことを言うな。」
そういうのは激辛麻婆豆腐をご飯の上にかけていた八重樫先輩だ。
「俺は彼の底が見たかっただけだ。自己紹介であれだけのことを言うだけの覚悟があるのか。彼の言っていた事が本当か、それを確かめただけに過ぎん。」
そう言う八重樫先輩だったが、
「でもだからって肋骨4本と頭蓋骨の骨折。鎖骨にヒビ。肉離れ8箇所。大腸と小腸に軽度、肝臓に重度の損傷って言う普通なら再起不能の重傷を負わせる必要はないんじゃないかな?」
こう言われてしまった途端、下を向いて黙ってしまった。
不可視のはずの負のオーラが、この時だけは可視化されたように見えた。
「あーあ、副団長。流石に言いすぎっすよ。」
「こうなると彼ってば長いのよね……」
「何言ってる。事実を言っただけだ。」
「や、八重樫先輩?俺は気にしてないですから。そんな落ち込まなくても……」
俺が声をかけてもまるで反応を示さない。やがて少し顔を動かして言う。
「………北条。」
「は、はい?」
どんよりした雰囲気をまとった八重樫先輩が消え入りそうな声で言う。
「……………すまない。」
「い、いえ!大丈夫です!大丈夫ですから!」
この後、彼が完全に立ち直るのに10分ほど要した。
「あー、だりィなぁ~」
くだらなさそうに首をゴキゴキと鳴らしながら、ヘリコプターの助手席で昇は呟いた。
彼の手元には数枚の書類をクリップでまとめたものがある。
昇はA4コピー用紙に印刷された「対業魔における今後の方針について」と書かれた用紙を見てため息混じりに言う。
「はぁ~、ったく。なぁにが「対業魔における今後の方針について」だよ。どうせまた各魔術師団の愚痴を延々と聞かされるに決まってんだ。」
と、そこでヘリの操縦席に座っていたパイロットが口を開いた。
「まぁまぁ、そう腐るなよ。これも立派な団長のお仕事だろ?」
口を開いたパイロットは、筋骨隆々という言葉を絵で書いたような中年男性だった。
東洋人しては黒めの肌と岩を削り取ったようなゴツゴツした顔立ち。
指定の軍服に白髪のオールバックという出で立ちのこの男からは、並々ならぬ雰囲気が伝わってくる。
彼の名は釜谷頑獣郎。
第12独立魔術師団の中でも最年長の団員だ。階級は大尉。
彼は補給部隊の隊長を努めており、戦地へと兵士を派遣したり、物資を運搬したりするのが仕事だ。
ちなみに誠たちをオスプレイに乗せ、本部まで連れてきたのも彼だ
今回も、総団長の送迎と言う任務を絶賛遂行中である。
だが、勤務態度はお世辞にもいいとは言えず、仕事中であっても平気で酒をかっくらうほどだ。
最年長ということもあってか皆からは「おやっさん」と呼ばれ慕われている。
「おやっさんは気楽でいいよ。ただ乗り物操ってりゃいいんだから。」
「何言ってんだ、俺だって若い頃これの資格取るのに苦労したんだぜ?」
大佐と大尉。階級は恐ろしく離れていても、昇は彼を人生の先輩として尊敬している。
「そうだ昇。酒飲んでいいか?」
「飲酒運転ダメ、絶対。」
こういう所がたまにキズだが。
「えー、いいじゃねーかよぉ。もう我慢できねーんだよぉ。」
「今日だって朝から迎え酒とか言ってどぶろく飲んでたじゃねーか!」
「まぁ、昼にも缶ビール飲んだんだけどな。」
「何本?」
「三本。どうだ?セーブしただろう?」
得意げな表情を浮かべる頑獣郎。これほど飲んでも肉体が拒絶反応を起こさない。彼の肝臓には一体どれほどの分解酵素が含まれているのだろうか。
「あんたそのうちポックリ逝くぞ?」
昇が忠告しても、大丈夫大丈夫と言いながら足元にあったクーラーボックスを開け、缶チューハイを取り出してしまう頑獣郎。
はぁ~、と昇がため息を吐いたその時。ガクン!とヘリが謎この急降下を始めた。
一体何が!?と状況把握に務める昇だったが、原因はすぐに判明した。
「―――って操縦桿から手を離してんじゃねえクソジジイぃぃぃっ!!」
「あ、やっべ!」
頑獣郎は慌てて操縦桿を握りなおす。
体制を立て直した後、素早くボタンを操作してオートパイロットに切り替える。
「いっけね。オートにすんの忘れてた。」
「ふっざけんな!ここ最近で一番ビビったわ!!」
すぐさま猛抗議に移行する昇。まぁまぁとそれをなだめながら缶チューハイを一気に呷る頑獣郎。
2人のやりとりはその後、30分ほど続いたそうだ。
本格的に風邪をひきましたが、書き溜めのストックはあるので投稿はやめません。
次回の投稿予定日は11月6日か7日です。お楽しみに




