十五話
お待たせいたしました。第二章、スタートです!
どうぞ!
―――屋外大訓練場。
本部基地の東側に存在する訓練場。
基地全体の4分の1の広さを誇るここは、連日昼夜問わず様々な部隊の人間が使用している。
魔法を使用した実戦訓練や、銃火器の試験発砲など、行われている行事をあげていけばキリがない。
今日ここを使用しているのは天川中隊と浜崎中隊だった。
周りに自分の先輩たちの気配を感じながら、俺は地面に仰向けになって空を見ていた。若干雲が目立つものの青々としたいい空だった。
だが、俺は日向ぼっこしていたわけでもなければ昼寝していたわけでもない。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
その証拠に俺の体のあちこちには生々しい傷が付いているし、肺はいつもより余計に酸素を欲しがる。
全身のあちこちからズキズキと痛みが走る。状態を起こそうとするだけで肉体が悲鳴を上げる。
「何をしている、さっさと立て。」
前から声が聞こえる。
声の主は、俺の目の前で自分の得物―――自らの身の丈ほどもある巨大な戦棍を肩に担いだ一人の男性だ。
角刈りの頭に猛禽類のような鋭い眼光と、彼の着ているタンクトップを押し上げながらその存在を自己主張する鍛えられた肉体。それらが相まってかなり攻撃的な印象を受ける。
ほんの数秒前、肩に担いだその戦棍で俺を殴り飛ばした目の前の男―――八重樫強志は、担いだ得物を構え直しながら淡々とした口調で言う。
「業魔を殲滅する?この体たらくでよくもそのような口が聞けたな。」
その言葉が着火剤となって、俺の中で炎が燃え上がる。
「だ…まれ…」
全身に走る痛みを無視し、腕を使って状態を起こす。
「そんな寝言をほざくのは、この俺に一発当ててからでも遅くないはずだ。」
「だま、れ……!」
激しい怒りは俺の新たな原動力となり、ズタボロの体を立ち上がらせる。
「悔しいか?ならばかかって来い。お前のような口だけの奴に負けるつもりはないがな。」
「黙れええええええええっ!!」
底を尽きかけていたはずの魔力が一気に膨れ上がり、俺の右手の甲が極彩色に輝いた。
北条誠が天川中隊に入隊してから既に2週間が経過していた。
隊に入ったばかりの彼を待っていたのは、ハードな訓練の毎日だった。
基礎体力向上のためのランニングや、筋力向上のための筋肉トレーニングなど、様々なメニューが用意されていたが、彼はそれを簡単にこなすことができた。
無論、キツく無かったといえば嘘になるだろう。実際にトレーニング中に倒れたこともあったのだから。
だが、それでもこれから業魔と戦うための下準備だと思えば、彼にとっては苦痛じゃなかった。
彼が苦手としたのは、実戦に近い形でやる戦闘訓練だった。
軍隊なのだから当たり前なのかもしれないが、戦闘訓練において隊員たちは、新兵だからといって彼に一切の手加減をしない。
それこそ一歩間違えば死んでしまうほどの攻撃だって平気で叩き込む。
入団試験の際に自分たちが総団長の青山昇に圧倒されたように、彼は戦闘訓練の度に所属する部隊の先輩たちに圧倒され続けていた。
肉体的にも、精神的にも。
今日も誠が傷を負う。
「ふん」
強志は向かってくる誠を鼻で笑うと、
「ぐぼぁっ!」
戦棍の先端を誠の鳩尾に打ち込んだ。誠の肺から空気が搾り出される。
「つ、はぁ…ッ!」
右手の魔法陣の光が弱くなって明滅し始める。
強志はその隙を突いて一気に誠と距離を縮めると、戦棍を両手で構え直し、後ろに振りかぶった。
「むん!」
直後、腕の筋肉が膨れ上がり、圧倒的な速度を持った戦棍が誠に襲いかかった。
メキィッ!と音を立てて誠の腹に直撃したそれは、彼の体をくの字に曲げ後方へと吹き飛ばす。
誠の体は空中を数十メートルほどまっすぐ滑空し、背中から地面に叩きつけられると、そのまま5回以上バウンドしてようやく止まった。
「げほっ、ごほっ!ごはっ!」
腹を抑えながら悶絶し、さらに咳き込む誠。
内蔵にダメージを負ってしまったのか、咳を抑えようと口元に当てた手に、赤い液体が付着していた。
右手の紋章はさらに力を失い、既に消えかかっている。
「終わりか。」
強志は退屈そうに戦棍を一振りすると、背中にあった革製の鞘に収めようとした。
「ま、だ……」
「!?」
後ろから声が聞こえ、強志が振り返ると、誠がよろよろとした動作で立ち上がっていた。
「……驚いたな。」
今の一撃はかなりの手応えがあった。
もしかしたら骨が折れているかもしれない。
よく見ると、さっきよりも擦過傷が多くなってるし、受身を取るのに失敗して自分の膝を顔にぶつけたのか、鼻から血が溢れている。
「まだ、終わって……ねぇ!」
彼の肉体はとっくに限界だ。だが、彼の戦意が倒れることを許さなかった。
その証拠に、強志を睨みつける誠の瞳は輝きを失わず、むしろ強くなっている。
立ち上がった誠は拳を握ると、不安定な足取りで男に向かって歩きだした。
最初はゆっくりと一歩ずつ進むが徐々に足を早めて、小走り、ランニング、全力疾走とギアが上げていく。
だが、強志の体が誠の拳の射程圏内に入る前に、
グシャアッ!!と。
振り下ろされた戦棍が、誠の肉体を戦意もろとも踏み潰した。
渾身の一撃を喰らった誠は、うつ伏せに倒れたまま動かなくなった。
右手の甲にあった紋章は完全に消滅している。
「終わりだな。誰か、こいつを介抱してやれ。」
強志は戦棍を背中の鞘に収めると、そのまま背を向けて歩き出した。
それと入れ替わるように、今まで固唾を飲んで見守っていた誠の先輩たちが力尽きた誠に駆け寄る。
と言っても、彼だってちゃんとした誠の先輩だ。
「(まぁ、自己紹介で高らかに宣言したとおり、気合と根性だけは一人前だな。)」
心の中で後輩に対する評価をつけながら、強志は歩を進める。
「(だが、戦いは気合でどうにかなるものじゃない。やつもそれを学んだだろう。)」
その時だった。
ドゴゴゴゴゴゴン!!という聞いたことのない轟音が鼓膜を震わせ、背後に凄まじい光が発生した。
まるで夕日に背を向けた時のように、自分の影がくっきりと前方に映し出される。
コンマ数秒遅れて背後から突風が吹く。
「なんだ!?」
強志が振り返ると、そこには力尽きたはずの誠が立っていた。
両腕はだらしなく垂れ下がり、背中にも力が入っていないのかやや前行姿勢だが、それでも立っていた。
さらに誠を中心とした半径3メートルの地面には、黒い焦げ跡が残っている。
介抱しようと駆け寄った誠の先輩たちが慌てて離れてゆく。
「……落雷?」
先ほどの轟音と光。そして誠の周囲が焦げている事から強志はそう仮定した。
だが、今日の天気は晴れ。積乱雲なども発生していないのにどうして落雷が発生するのか。
考えがまとまる前に、誠にさらなる変化が起きた。
誠の全身から青白いスパークが吹き出す。それのコンマ何秒か後に誠の周囲から黒い何かが吹き荒れる。
電撃魔法に精通した彼が磁力操作によって集めた砂鉄だ。
砂鉄たちは誠のすぐそばまで近寄ると、7本の棒状に形成される。
そして今まで消えていた右手の魔法陣が極彩色の輝きを取り戻す。
誠は右手で空中に静止する7本の砂鉄の棒に順番に触れていった。
すると棒状の砂鉄たちは、触れられた順番から形を整え、7本の鉄剣へと姿を変えた。
誠はそのうちの1本を左手で掴み、切っ先を下に向けた。
そして空中に静止していた6本の鉄剣が、まるで誠を護るように彼の周囲に展開する。
「(物体変化魔法。話には聞いていたがこんな芸当ができるのか。)」
内心で感心しつつ、強志は背中に収めた戦棍を再び抜き放った。
「(そして空中に展開している鉄剣。あれはおそらく磁力で操作して浮かせているのだろう。なかなかに高度な魔法技術だな。)」
誠が顔を上げ、剛士を睨みつける。先程より強い闘志の宿った誠の眼差しと、無機物を見るような強志の冷たい視線が交差する。
強志は戦棍を構え、誠は鉄剣を握る手に力を込める。
「…来い」
「ォォォおおおおおおおおっ!!」
強志がそう言い放ち、誠が声を張り上げながら一気に駆け出し、誠に追従して宙に浮いた鉄剣たちも移動を開始する。
両者の距離が10メートルを切った所で、誠の周囲に展開していた鉄剣たちが先行し、目の前の敵へと襲い掛かる。
「せいっ!」
強志は戦棍を横薙ぎに振るった。迫っていた鉄剣のうち2本が砕け散る。
その隙を狙って迫ってきた3本の鉄剣を後ろに飛び退いてかわす。
地面に突き刺さった3本の鉄剣が、見えない手で引き抜かれたように宙に浮くと、再び強志へと襲い掛かった。
今度は強志を取り囲むように迫る鉄剣たち。どうやら全方位から蜂の巣にするつもりだ。
「ふん、小賢しい。」
四方八方から一度に迫り来る4本の鉄剣。強志は戦棍を豪快に振り回し、襲い来る鉄剣すべてを迎撃した。
「ほう?」
だが、その隙を付いて鉄剣を握った誠が懐に飛び込んできた。
左手に握られた鉄剣を逆袈裟に振り下ろす。
しかし、鉄剣の刀身はバキィン!という音を響かせながら、鉄剣が刀身の中間からへし折れてしまった。
誠の鉄剣が彼の右肩を切り裂く刹那、強志が脳内で氷結系防護魔法の術式を組み上げ、部分的に氷の鎧を発生させていたからだ。
「考えは良かった。」
強志は余裕の表情で戦棍を構える。
「だが終わりだ」
強志が両手で戦棍を高々と振り上げ、踏み込みを入れて思い切り振り下ろした。
だが、その一撃は誠の体を押しつぶすことはできなかった。
ズガン!と。
誠を襲うはずだった戦棍が、振り下ろされた途端、粉々に砕け散ったからだ。
次回の投稿予定日は11月の初めになります。詳細は決まり次第活動報告にて発表しますのでよろしくお願いします。
次回もお楽しみに!




