003 廃城奪還 その3
この作品には、駄文乱文、中途半端なシリアス、中途半端なコメディ、中途半端な設定、等々の成分が含まれています。
アレルギー体質の方は、目を通さずに別の小説を読む事をお勧めします。
「…………なんだよ、あれ」
男は、思わずそんなつぶやきを漏らした。
その眼は瞬く間に大物を狩りつくした少年と、彼がまたがるドラゴンに向けられている。
「なんなんだよ」
茫然と、二度目の呟き。
今あった出来事が、信じられなかった。
「…………」
数分前まで、男はドラゴンを殺し続けていた。その手に握るメイスで、殴殺していた。
殴って、殴って、殴って、殴り疲れて。
地面に倒れたとき、男は死を覚悟したと同時に、こんなところで死ぬことに悔しさを覚えていた。
戦場は地獄だ。強さ弱さではどうしようもない絶望的な『死』に満ちている。どんなに腕に覚えがあるものでも、運の良し悪しであっさり死ぬ。
「…………るな」
男は腕に覚えがあった。あったからこそ、こんな死に方をする自分を恥じた。
まるでただの一兵士のように、誰彼にも気にされることなく死んでいくことが。
己という存在が、戦場に転がる無数の死体の一つになることが、悔しかった。
まるで、お前には何の価値もないと言われているようで。
絶望さえ、覚えた。
「…………けるな」
悔しさと羞恥と絶望に歯噛みし、諦めの視線をたまたま空に向けたとき。
颯爽と空をかけ、雷電のようにドラゴンを駆逐する、少年を見た。
それは、まるでおとぎ話の英雄のように。
光と神の祝福じみたものを感じさせた。
その輝きに、一瞬だけ胸を高鳴らせ。
輝きが己のみすぼらしさを増長させるものであると悟り、興奮は憎悪に変わった。
「ふざ、けるな!」
死さえも覚悟したのに。
己の無力への悔しさも、誰にも気づかれず死ぬことへの羞恥心も、世界から見放されたかのような絶望も、あの少年は知らないのだ。
自分がこれだけ歯がゆい思いをしたのに、あの少年は何の苦労もなくドラゴンを駆逐した。
同じ傭兵であるはずなのに、己とは全く違う。若く、輝かしい功績さえ手に入れて。
(昔話の、騎士みたいだ)
そんなふとした感想さえ、嫉妬に変わっていく。
「なんで、今になって、そんな」
英雄みたいなやつが、いるのだ。
もう、世界はそんなものお呼びでないのに。
もう、世界は似たり寄ったりの量産品であふれているのに。
もう、世界は戦場に傭兵を求めるようになったのに。
「お前、なんか」
お前なんか。時代遅れの、英雄なんか。
「いらないんだよ――――!」
喉を枯らし、痛み続ける肺で、叫ぶ。
憎悪と嫉妬と、ほんの少しの羨望を込めて。
けれど。叫びにどれほどの想いがこもっていようと。
英雄には届かない。少年にも届かない。
叫びは戦場の喧騒に飲み込まれ、ただの雑音の一つとなった。
それを聞きとどめるものも、耳にするものも、いなかった。
*
地上で、いかなる想いと叫びが駆け巡っているかなど、今この瞬間に思考する暇はない。
そういった暇つぶしは、暇なときにすればいい。
戦いが終わった後。
携帯食料と水筒の水で軽い食事をとりながら。
疲れた足を引きづって帰路につきながら。
千ゼル銀貨数枚の安い宿屋の寝心地の悪いベッドで横になりながら。
あの時はこんなことがあったのだろうかと、想像を膨らませればいい。
(今は違う。その時じゃない)
眼下では未だ戦いが続き、空中でも、統制を失ったドラゴンを追い回す傭兵たちの姿があった。
リーダー格であるアプレを殺しても、戦争は終わらない。
統制を失おうとドラゴンはドラゴンだ。凶暴な生態系の王者だ。
周りをうろつく人間を、放っておくほどおとなしいドラゴンなど、この世にはいない。
それに、先ほどまでの乱戦もある。どのドラゴンも腹を空かせているだろうから、もしかしたら人間を餌と認識しているだろう。
「それなら、終わるはずもないか」
『?』
「いや、何でもない」
ともあれ、これから行うべき行動は一つ。
残ったドラゴンを殺すか追い出すかして、城を奪還し安全を確保する。
『派手に壊れた』
ダーインがこれからの行動の指示を出していると、ふとアガルタが呟いた。
「ああ、本当に。派手に壊れたな」
呟きがたった今大破した槍を指しているのだと気付いて、彼は苦笑する。
最後の一撃。アプレの頭部を破壊した際の衝撃で、槍はもう使い物にならなくなっていた。
穂先は砕け破片すら見つからず、柄も半ば以上粉々になった。残った半分以下の柄も、ヒビと焦げで見る影もない。
「まあ、壊すつもりでやったから仕方ないけどさ。これじゃもうただの荷物だ」
『邪魔』
「だろうな」
ぽいっと、ごみをゴミ箱に放り込むように、ダーインは槍のなれの果てを空中に投げた。
その挙動には一切のためらいも、思い入れも感じられなかった。
あったとしても、それは高いものを失ったという、財布の心配に過ぎない。
どんなに戦場を共にしようと、どんなに命を救われようと、彼にとって道具は、道具でしかないのだろう。
「あと武器は……やっすい槍が数本か」
『終わるまで持つ?』
「きつそうだけど、まああとは放っておいてもどうにでもなるだろうし。適当にそこらへんぶらついてれば、問題ないだろう」
『わかった』
返答したアガルタは、若干の疲労を感じさせながら、空中を旋回した。
数時間後。ドラゴンの群れは壊滅した。
廃城は無事奪還され、傭兵が引き上げるのと入れ替わりに、学者や魔法使いが廃城の調査を開始した。
傭兵ギルドがその後国に提出した報告書には、今回の戦いの大まかな流れと成果、被害が書かれていた。だがその中に、歪なドラゴンを駆る少年の名は、一切なかった。
いかに英雄的活躍を成し遂げようと、彼はあくまで数ある傭兵のひとりにすぎない。彼の姿を心にとどめるのは、彼の勇姿を目撃した一部の傭兵たちだけであり、世界ではない。
それが現代の戦争。一人の英雄など見向きもされず、無数の兵隊や傭兵が注目を浴びる時代。
少年もその一人として埋もれ、活躍は記録されることはなく、戦いは終わった。
……数日後、彼の名が記録どころか王の目に留まることになるなどと、予想できる人間は、だから誰一人としていなかった。
書いてて、英雄に嫉妬する一般兵の物語は、多分一生かけないんだろうな。と感じました。
お久しぶりです。やっと続きかけました。鈴ノ風です。
いやー、オチって一番書きにくいですよね。
とりあえず、これで序章が終了です。
世界観の簡単な説明と、ちょっとした戦闘シーンも終わり、いよいよ物語が動き出します。
召喚された勇者、仲間との軋轢、立ちふさがるチート。
……と言葉を適当に並べましたが、ほとんど話なんてできてないのが実情なんですよね。
プロットなんて数行だけ。オチ以外はほぼ無計画。
行き当たりばったりなお話ですが、それでも楽しんでもらえたら幸いです。
それでは。