002 廃城奪取 その2
この作品には、駄文乱文、中途半端なシリアス、中途半端なコメディ、中途半端な設定、等々の成分が含まれています。
アレルギー体質の方は、目を通さずに別の小説を読む事をお勧めします。
「っち、きりがない!」
空を飛んでいたドラゴンの群れをあらかた蹴散らしたダーイン。機械製の箒にまたがった飛行部隊が、混乱するドラゴンどもを駆逐していく様子を眺め、彼は叫んだ。
「殺しても殺してもこれだ。飽きるほど殺したのにこれだ。このままじゃ槍かやる気が折れる」
すでに彼の握る槍は、穂先の刃がぼろぼろになっていた。鋼鉄以上の強度と丈夫さをもつレアメタルの穂先も、無数無限のドラゴンの鱗の前では刃こぼれせざるを得ないようだ。
(高かったのに)
そう心中で彼はつぶやく。しかし、その槍はそこそこの戦果を挙げていた。
『でも、普段の槍じゃ、すぐ折れてた』
アガルタの指摘通りだ。普段の槍は工場製の量産品で、それを今使っていたのなら、穂先どころか柄が砕けていただろう。
その槍が値段に釣り合うだけの結果を出した。それを再認識したダーインはため息をついて、廃城を睨む。
「このまま続けるよりかは、あっちを叩いた方が楽そうだな」
『あっち?』
「さっきから城のてっぺんで吠えてる五月蠅いの」
廃城の頂点、ドラゴンを招き続ける5メートルのドラゴンのことを、彼は言っていた。
それは無謀な行いである。ドラゴンそのものの力もさることながら、周囲を飛び回る手下どもの存在も驚異的だ。彼らは皆4メートルから5メートル近くの巨体を持つ。
そのブレスは鎧をまとった兵士を焼き殺し、その翼は獲物を追う鷹にさえ迫る。そんなドラゴンが、三十はいた。
たとえ同じドラゴンを乗り回そうと、単騎で挑んでいい相手ではない。死地に向かうようなものだ。
『いいの?』
アガルタの問いに。
「このままじゃ、どっちにしろ槍が壊れる。素手で戦争は難しい」
『さっきまで、あれは無視してた』
「そりゃ、殺そうが殺すまいが、報酬は変わらないからな。戦況がやばいとはいえ、いつかは回復するだろうと放置してたが。戦況か変わる前に武器が壊れたんじゃ、話にならない。せめて壊れる前に、戦況を変えないと」
言って、深呼吸を一つ。
「……さて、5メートル級は六か月ぶりか。腕が鳴るな」
きわめて軽く、ダーインは呟く。
それは、まるで給料日に酒屋へ足を運ぶ会社員のようであった。その顔にあるのは死にゆく兵士の焦燥ではなく、たまったうっぷんを晴すときのような、軽やかな笑顔であった。
「本命叩いてる最中に後ろとられるのもつまらん。先に周りのを全滅させるぞ」
『追い払うじゃなくて?』
「そりゃ、あのドラゴン……名前なんだっけ?」
『アプレ』
「そうそれ。そのアプレが呼んだドラゴンはアプレに服従する。あそこまで近いなら、おそらく本能まで支配されてるだろう。殺さない限り逃げることはない」
だからやるぞ。そう言って、アガルタに突撃を指示した。
アガルタはそのコウモリのような翼で空気を叩き、廃城に向けて加速する。
その速度は、アプレと呼ばれたドラゴンを取り巻く4,5メートル級ドラゴンを軽く凌駕するほどだった。700メートル近くあった彼我の距離は、10秒と経たずになくなった。
速度を変えず、群れに突っ込むアガルタ。それにまたがるダーインは、槍を構える。
穂先が正面のドラゴンをとらえた瞬間、ダーインは腕の力を弱めた。
これだけの速度だ。攻撃が当たった際の衝撃は今までの比ではない。腕の力を弱め、衝撃を逃さねば柄がへし折れるだろう。
(速すぎだ、バカ)
大方、ドラゴン狩りに飽きて、とっとと昼食をとりたいと思っての行動だろう。それ以外に、これほどの速度を出す必要性はない。廃城のドラゴンは強いが、ここまで速くなくても槍は通る。
彼女が短絡的であるのは彼も承知の上だ。だから言葉には出さない。本命を叩く前に槍がダメになるところだったが、指摘しない。
急加速によりダーインが振り落される。衝撃でダーインの肩が壊れる。それらの当たり前の危険性はそもそも考えもしなかったが。
槍が一体のドラゴンを仕留めた直後、アガルタは翼で前方の空気を叩き急停止した。絶命したドラゴンが、彼らの代わりに運動エネルギーを得て、そのまま前に吹っ飛んでいく。
「巻き込めたのは3匹か」
『2匹はまだ飛べる』
「それでも落下の衝撃もある。すぐに駆けつけてくることはないだろ」
言いながら、彼らは周囲のドラゴンを始末していた。
ドラゴンの群れの中、急加速と急停止を駆使し、無駄な衝突を避けるアガルタ。その速度を生かし、槍で着々とドラゴンたちを殺していくダーイン。
彼らがすべてのドラゴンを排除するのに、10分もかからなかった。
「さて、最後だ」
廃城の上でただ吠えていたアプレは、動きを止めていた。
ダーインたちの実力を察したのだろう。アプレは大きく息を吸い込んだ。
大きく、大きく、破裂しそうなほど息を吸い込むアプレを見て、ダーインは叫ぶ。
「デカいの呼ぶ気だ! 行くぞ!」
返答はない。その暇さえ惜しんで、アガルタが翔ける。
しかし。
「――――!」
その口から放たれたものは、咆哮ではなかった。
オレンジ色の、炎。それが、彼の視界を一瞬で埋め尽くす。
彼は思い出した。アプレと呼ばれるドラゴンが、先ほどまで相手していたものとは違うと。
今までのように、ただ力に任せて敵を薙ぎ払うのではないと。知性無き暴力の塊ではないと。炎を前に、気付いた。
アプレはドラゴンの中では弱い部類に入る。その炎こそ高温で、同じ大きさのドラゴンの中では最高温度であるが、筋力や飛行速度は底辺と言ってもいい。
その弱さを補うため、アプレには他のドラゴンを操るという能力がある。自身より小さいドラゴンを、咆哮が届く範囲で支配する。
かの者の脅威はブレスト咆哮。そして何より、弱いが故の狡猾さ。
それを、あまりにも遅く気づいた彼は、またがるドラゴンとともに炎に包まれた。
*
空中にいまだ残留する炎を見ながら、アプレは勝利を確信していた。
5メートルのドラゴンのブレス、しかも同じ大きさの中でも最高温度のそれは、騎兵が持ちうる限りの防火装備などたやすく食い破る。それに自ら突っ込んだあの人間が、生きていることなどあり得ない。
その人間を乗せたドラゴンは、別だろうが。いくらサイズが小さく、鱗を持たないからと言って、同じドラゴンがブレスの一撃で即死することはあるまい。
良くて中度の火傷、悪くても飛行に差し障りが出るほどでもないだろう。
あのドラゴンは焼け焦げた主人を乗せたまま、こちらに怒り狂うかもしれない。主人を殺されたことに、ではない。自身が燃やされたことに、怒るのだ。
それが普通のドラゴンの反応。彼らは生態系の頂点であるがゆえに傲慢で、プライドが高い。人間にどうして従っているのかはわからないが、そこに絆などない。あるのは、勝者と弱者という当たり前の関係のみ。
そして敗者であるところのドラゴンなどに、アプレの咆哮に抵抗する力はない。
そうして脅威だった一人と一匹は敗れ、アプレはふたたび4メートル級のドラゴンを呼び出し、縄張りを荒らした人間どもを排除する。
そうだ、と思いつく。あのドラゴンを使おう。敗者であろうと火傷を負おうと、あれが高い力を秘めたドラゴンであることは間違いない。その力があれば、今まで以上に多くの人間を殺せる。
ならば、とアプレは息を吸い込んだ。先ほどと同じように、勢いよく。
今度はフェイントではない正真正銘の咆哮。炎の塊との距離は10メートル。これほど近ければ方向の支配は本能にさえ及ぶ。たとえ、相手が2メートルという小柄な体に見合わぬ力を持とうと、効果は変わらない。
さあ、愚かなものよ。貴様が殺したものと同じ、傀儡となるがいい。
吸い込むことをやめ、アプレが咆哮を放とうとする、その時。
ふと、気付いた。
野生の本能が感じるそれを。前方の炎から感ぜられる生命反応を。
――――2つの、生命の息吹を。
「……G」
それは、一切衰えることなく、先ほど暴れまわった時と同じように、アプレの本能に警鐘を鳴らしていた。
あまりにも強く、あまりにも大きく。しかして一瞥しただけでは見逃しそうなほど静かに。それらは存在していた。
「GURAAAAAAAA!」
反射的に放たれる咆哮。生存本能がたたき出したそれは予定以上の支配力を持っていた。
代償としてのどに強烈な痛みが走るが、アプレは気にも留めない。
いや、気にする余裕などない。
大音量の咆哮が炎を消し去る。その中から現れたのは、無傷の人間とドラゴンだった。
火傷などどこにもない。人間の装備が焦げ付いているが、そんなものは損害に入らない。
奇妙なドラゴンに至っては、スス一つついていない。
「GIRYUAAAAAA!」
何故だ、何故だ、何故だ!
咆哮を放ち続けるアプレの脳内。ドラゴンとしては大きいそれが疑問を叫ぶ。
何故死なぬ、何故焦げぬ。そして何故、あのドラゴンは私の支配を受けない!
アプレの咆哮は強力であり、力が強くとも2メートルのドラゴンにはどうにもできない代物だ。
……あるいは、かの者はアプレが思う以上の力を持っているのかもしれない。いくら体が小さくても、その力が6、7メートル級のものなら咆哮が効かないは当然だ。
だから、それ以上の疑問。
いくらドラゴンが強くても、それに乗る人間が無傷なのはおかしい。
人が、ただの真っ当な人間が、ブレスに焼かれず生き残るなど、ありえない。
しかも、アプレは知らぬが、人類は先の戦争で魔法をほとんど失っている。強化魔法や防御魔法など一介の傭兵が取得できるはずもなく、ブレスを防ぐすべは存在しない。
ならば、何故?
答えはない。吠え続けるアプレに与えられたものは、言葉ではなく槍の一撃だった。
鱗を貫き、頭蓋骨を砕き、脳を貫いた槍は、ブレスを食らっていた熱で脳細胞を焼き、アプレを絶命させた。
はい、というわけでやっと書けました戦闘シーン。
前回の説明文だらけのやつと違って、今回は最初から最後まで戦いづめです。
でも武器槍しか使ってないです。攻撃方法も突きだけ。便利だしそれ以外やりようがないから、仕方ないと言えば仕方ないですけど……
次は剣か斧でも持たせたいですね!