001 廃城奪取 その1
この作品には、駄文乱文、中途半端なシリアス、中途半端なコメディ、中途半端な設定、等々の成分が含まれています。
アレルギー体質の方は、目を通さずに別の小説を読む事をお勧めします。
魔王と勇者の戦いから60年。
かの戦争は多くの武勇伝を残したが、その代償として多くの人命と魔法技術を失った。
しかし60年と言う月日は長く、人類はふたたび繁栄した。魔族から奪取した新技術の存在以上に、彼らの熱心な復興活動によるものが大きい。
今や、人類はかつてないほどの大繁栄を遂げている。補助に過ぎなかったはずの機械が作業の中核を担い、量産された品々が生活環境を彩り、各国はその領土を年々広げ続けていた。
人種差別、暗い空、汚れた川、大量の奴隷と問題は山積みだが、繁栄の闇などそんなものである。栄えているのだから気にする暇人はいない。
剣と魔法の時代は、現代においてはもはや見る影もない。剣をもって武勇伝を立てよう、などという時代遅れな人間は少数だし、魔法はそもそも絶滅の危機に瀕している。
あらゆる奇跡は最新の機械によって再現され、戦場は金目当ての傭兵が主体となった。
そんな、間違いなく歴史の転換期と呼べる時代。
人と、人に似た人種が争う、そんなさなか。
巨大なドラゴンが、ある国を襲った。
*****
手に持った槍を構える。石突を地面につけ、膝と手で槍を固定。
戦略も何もなくただ突っ込んでくるしか能のない下級のドラゴンは、その槍の矛先に自ら突っ込み絶命した。
「……所詮は取り巻き」
槍をドラゴンの頭部から抜きつつ、少年が呟いた。
年は18、名をダーインという。彼は傭兵であった。
何年も前に身寄りを失った彼は、妹とともに傭兵となった。
戦場をかけるだけの毎日。だがある日今回の依頼が舞い込んできた。
『勇者召喚のための廃城の奪取』
勇者召喚。60年前に行われたそれは、どうも場所を選ぶ代物であったらしい。
「仕事をもらった身でいうのもなんだが、ドラゴンが巣食うような廃城でやらねばならない、というのはいささか問題だろう」
抜き取った槍で隣のドラゴンを切り払いつつ、呟く。
彼が戦う理由、奪取すべき廃城は、60年前の戦争終結後、破棄されたものだ。なんでも上級魔族の奇襲を受けて使い物にならなくなったのだとか。ツタとコケに覆われた城は防御機能を失うほど崩壊していた。壁や床が抜ける、どころではない。むしろ壁や床が残っていることが驚くポイントになるほど、崩れていた。
60年前の戦争で何があったのか、想像しようとして、やめた。魔法が当たり前の時代の戦争など、現代人が想像できるものか。
「そんなことより今だ。アガルタ、空のをたたく」
そういって、隣で何かをかみちぎっていたドラゴンに声をかける。
『わかった』
短くそう答えたドラゴンは、奇妙な姿をしていた。
まず鱗がない。全身はわずかな体毛があるだけで、あとはすべて皮膚が覆っていた。ドラゴン特有の角もなく、瞳は哺乳類のもの。もし身を丸めたのなら、遠目では気色悪い肉塊に見えるだろう。
今にも気持ち悪い臭いが漂いそうな、その生理的嫌悪を誘発するドラゴンは、大量のドラゴンが暴れまわるこの戦場においても、ひときわ目立っていた。
アガルタと呼ばれたドラゴンは翼を広げ、身を屈めてダーインを背に乗せた。
「まずは前方の群れだな。上からブレスを撃ちやがるうっとうしい奴らだ。蹴散らすぞ」
『全滅は?』
「やらない。僕ら以外にも飛行手段を持つ奴らはいる。単騎で挑むよりそういう連中に任せた方が損害が少なくて済む。……ほら、右手に『箒使い』の中隊がいるだろ。あれとか適任だ」
そういって、彼はアガルタの背中をたたく。
彼を乗せたドラゴンは垂直に上昇し、前方にいるドラゴンの群れに突っ込んだ。
群れは十匹のドラゴンで構成されている。それぞれ三メートル前後の大きさで、その口からは高熱のブレスを吐き出す。
(厄介だな)
先ほど言及した『箒使い』を思い浮かべる。
彼らもまた空を飛ぶものであり、その荷物には当然投下用の爆弾も存在する。
だが、地上はもはや混戦状態。敵味方入り乱れるこの場に爆弾など落とせば、どちらにも損害を出すだろう。
味方に損害を出せば戦況が悪化する。だが敵にそんなことを気にする知性はない。
ただただ、地上で動くものを焼き払うのみ。
無数と言ってもいいほどの数があるからこそなせる攻撃。
「あれがいなければ、あるいはもう少し簡単に済んだものを」
呟いて、ダーインは後ろを見る。
そこには古び、崩れ落ちた城がある。その城の屋根の上に、一体のドラゴンがいた。
5メートルほどのそいつは、今も低く野太い鳴き声を上げている。
あの声で、自身より小さなドラゴンを呼び出しているのだ。
そのため敵の数は増える一方。攻めていた傭兵部隊は城のドラゴンと外から来たドラゴンに挟み撃ちされ、混乱状態になっていた。
彼らがいまだ戦争を行えているのは、意地か、それとも普段の訓練の賜物か。
「せめて制空権を盗らないとな。地上も大切だが、空を取られたままは痛い」
だから、目障りな群れを蹴散らす。
手に持っていた槍を構える。
腋に挟み固定し、前方へ向ける。
「アガルタ、突撃しろ!」
返事はない。代わりに急加速をする。
慣性の法則により後方へ行こうとする体を押さえつけ、前を見据える。
群れの中でもひときわ大きいドラゴンを見つけた。おそらくはあれがリーダ的存在だろう。
(あのドラゴンのブレスが引き金になって、ほかのやつもブレスをはいてるのか)
その証拠に、普段は気が向いたらはいてるようなブレスも、そのドラゴンがブレスを放った時は全員まとめて吐き出している。
「アガルタ!」
言葉はない。何年もの付き合いで築き上げた絆でアガルタが指示を理解する。そこのことを彼女の首が向きを変えたことで知る。
よそのドラゴンが放ってきたブレスを躱し、目的の群れから放たれたブレスを躱し、勇敢にも突撃したものは躱してアガルタの尻尾が叩き落し。
中央にてこちらを睨むドラゴンへ、衝突する。
ぶつかった矛先から腕、そして体中に衝撃が走った。
その衝撃と、腕が訴える若干の痺れから、この突撃が成功したことを理解した。
振り返れば、鱗ごと心臓を貫かれたドラゴンが、断末魔の咆哮を上げつつ落下していく姿が見れただろう。
(どうでもいい)
戦場で誰を殺した、誰に勝っただを気にしている余裕はない。見るべきは次の標的であり、それは戦争が終わるまでやめてはならない。
「残りは『箒乗り』に任せる。アガルタ、このままほかの群れも蹴散らすぞ」
『わかった』
短い返答とともに、奇妙なドラゴンは次の標的へ狙いを定めた。
ドラゴンは、特に上級のドラゴンは生態系の頂点であり、その個体数は極めて少ない。縄張りも広いため、3匹以上の同種のドラゴンを見かけることはまずあり得ない。あるとすれば繁殖期くらいだろう。
だが、この年は違った。
見上げるほどの巨大ドラゴンが5匹出現した。場所は大陸の西に存在するオルタニア王国の領土内。5匹とも、確認されている中で最も強力なドラゴンであった。
それ自体は、実を言えばさほど問題ではなかった。もちろん大事ではあるが、解決不可能なほどではない。
隣の帝国を警戒しつつ、駆逐のための軍を編成する程度の財力は、かの王国にもあったのだ。
さすがに1年2年では解決しないだろうが。10年ほどあれば駆逐できただろう。その間に国は打撃を受けるかもしれないが、また元通りに直していけばいい。
問題なのはそれからだった。
もっとも王都に近い場所に出現した巨大ドラゴン。これを殺すために送り出した傭兵大隊が全滅した。
しかも、生き残りの話によれば、全滅は巨大ドラゴンが原因ではないという。
むしろ彼らは巨大ドラゴンをあと一歩のところまで追い込んだのだとか。『最初の戦いなのだから景気付に』と奮発した報酬のおかげで、傭兵たちは普段以上の活躍を見せていたという。
それが現れるまで、傭兵たちは向こう10年何して過ごそうかと思いをはせながら戦っていた。
あと一歩。それこそとどめの一撃を与えるだけ、というところで。
空から、光が降ってきたという。
むろん、星が降ってきたとかそういう話ではない。隕石で全滅は笑い話にはなるが問題にはならない。
降ってきたのは、ドラゴンだった。
今まで相手にしていたドラゴンより一回り大きく、7つの首を持っていたという。その色は赤。
そのドラゴンは巨大ドラゴンを踏み潰し、口から吐き出した炎で傭兵たちを地面ごと蒸発させた。
まさか、と王宮の者たちは思ったという。
7つの首を持った赤いドラゴン。それは60年前魔王が乗っていたというドラゴンそのものだった。笑い飛ばしたくもなる。
だが、笑いごとではないことを、調査に向かった兵士の報告と、提出された証拠写真によって知った。
今も、王宮のドラゴン殲滅本部の資料には、そのドラゴンの写真が載っている。
超望遠カメラでとらえられた白黒の写真には、山一つに匹敵するほど巨大な、7つの首を持ったドラゴンが写っていた。
セミが鳴く時期になってまいりました。熱中症が怖いです。
お久しぶりです、もしくは初めまして。鈴ノ風と申します。
早速ですが謝罪を。
申し訳ありませんでした!
本当なら主人公が雑魚ドラゴンをバッタバッタと薙ぎ払って一話終わるつもりだったのですが、まさかこんな説明だらけの話になるとは。
ちょっと欲張りすぎました。
次回からは、もうちょっと戦闘シーンを入れたいと思います。
このお話の完結を祈りつつ、この辺で〆させていただきます。
それでは