プロローグ
ガキン、ズブリ。グシャリ。
人が作り出す、無機質で残酷な音群。
無骨な金属の棒が、互いに衝突し、火花を散らす。閃く鏃が、唐突かつ理不尽な死を運ぶ。
無骨な金属の棒が、人体の肉に入り込み生命を脅かす。
嗚呼、これこそが戦場。命の市場。命の賭場。命の晴れ舞台。
争いをやめることの出来ない愚かなる人の、歴史そのもの。
そうして、演目は進み、戦場の高台に真っ白なローブに身を包んだ集団が現れる。
「魔砲撃部隊、前へ、前へ、前へッ!」
「守備隊、展開完了。詠唱、始め!」
荒れた土地に密集し、兵士たちによって守護される彼ら。
彼らは、魔術師。その身に宿した魔と引き換えに、この世に奇跡を表すもの達。
彼らこそ、この命の舞台に相応しき立役者。この演目の、メインキャスト。
彼らは自らの役を全うする為、手にした杖を掲げ、魔を呼ぶ呪文を詠う。
さながら、ミュージカルで心震わせる歌曲の様に、その詩を詠う。
そうして、いつしか滔々と詠まれていた声が止み、
「準備よし。目標、敵陣司令部!」
「撃ぇえ!!」
手にしていた木の杖から、数々の光が生まれ、一斉に敵陣の本拠地に殺到する。
その光のいと美しきこと。
赤、緑、黄、青。
様々な色が飛び交い、この戦場に花を添える。
そのこの世のものとは思えぬ情景に味方はこみ上げる興奮と歓喜を抑えることなく雄叫びを上げ、敵兵士はその光景に焦燥を滲ませ、心の一端をからめとられる。
誰もが、この戦場の勝者を確信し、疑わず、さりとて戦いの手を止めることをしなかった。
そう、その時が来るまでは。
────ズガガガァァアアア‼
突如、殺到する光群を遮るように、荒れた大地がその身を起こした。
大仰でも何でもなく、大地がその身を起こした。
パサついた粉塵を巻き上げ、陣を守るべく、地面が隆起し壁を作る。
まるで、威圧するかのように立ちはだかった地を見上げ、兵士たちは目を見開き驚愕を口にする。
「な、何だあの規模は!! 大地が、持ち上がった!?」
「解りません!」
「あんなの、個人が放てる規模じゃねぇ!!」
「集団詠唱か!?」
「そんなもん、すぐに魔力の融合反応でわかる!」
「じゃ、じゃあ何だってんだ!? おかしだろあの規模は!! 山が一つ、地図が書き換わってんだぞ!?」
戦場の地の一端が持ち上がり、巨人のごとく彼らの光群と行軍を遮る。
地響きを立てその身を起こす雄大なその姿に、敵味方、人と植物分け隔てなく意識を惹かれる。
大地の隆起が止まり、戦場に一瞬の静寂をもたらす。
大地の隆起によって巻き上げられた粉塵が、あたかも舞台の幕の様にすべてを覆う。
「まさか……!!」
剣戟の音が止み、誰かが、誰もが瞠目した。
誰かが、誰もが、誰に促されるでもなく、その言の葉を吐き出す。
「大地を呑み、戦場の生き血を啜る……!!」
この世界に伝わる最も古く、強く、誉れ高く畏怖されるその言葉を。
「……人の矮小を嗤い、暴虐の限りを尽くす力の象徴、龍。その名を冠す、文字通り人智不当の宝物」
――――力の象徴、龍具。
刹那、甲高い音が木霊する。リィン、リィン。キィン、キィン、と。
それが合図であったかのように、戦場が呑まれた。
龍の咢に。
「あ、アァアぁアァアあアあああああ‼」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だうs――――」
敵味方、関係なく。
湖に投石した波紋が広がるように、次々と身を刺し貫かれる。刀剣の如くに隆起した大地によって。
その様は正に、蹂躙であった。
これぞ、力の権化。
これぞ、暴虐の具現。
これが、その後に語られる、五龍戦争の幕開けであった。