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その8

 朝焼けに染まる校舎は、まるで何も無かったかのように、いつもと変わらずそこに佇んでいた。


「そろそろ戻る時間か」


 昨日の昼過ぎに発生した緊急事態からずっとこの近辺を監視していたガウは、一人呟いて腕時計を見た。

 避難していた生徒や教師、そして周辺の住民達も夜遅くに避難解除が出された。赤い壁を作っていた強い結界も通常運転に戻り、いつもの当たり前の風景がそこには広がっていた。違う事といえば、そこここに軍人が居るということくらいだろうか。だがそれも、学校の登校時間前には解散し、全てが元通りになる予定だ。警戒態勢は暫く続くものの、この場所は既に安全とみなされた。軍は皆、この後『森』の境界まで移動する手はずになっている。

 ゆっくりと歩き出したガウは、第二部隊のダウナーに声を掛け、一足先にその場を後にした。



「ガウ、お疲れさん」

 第一部隊の本部へと戻ってきたガウに、たった今帰って来たであろうキースが声を掛けた。

 第一部隊の本部は、人数が十人しかいないせいか他の部隊に比べて極端に小さく、しかも平屋だったりする。それでもロッカールームにシャワー室、仮眠室に会議室、そして事務室とそれなりの規模を誇っている。

「お疲れ様です、キースさん。今回は急で驚きましたね」

 キースが軍服ではなく私服だった為、突然の事態に慌てて現場に直行したのだと窺える。そういうガウも、未だ学校の制服を着用していた。

「ガウお前、制服の替えは買ってあるのか?」

「はい、一応こういう時の為にと、入学する時に三着買っておきましたので、大丈夫です」

 軍服は対魔物用に生地や裏地に魔法で結界を施している為何度も洗って使えるが、他の服は一度瘴気に晒されてしまうと黒いシミのような物が出来てしまう。その為焼却処分の後、その灰を聖水で浄化するなどの処置を取らなければならないのだ。

 青い学校の制服にはまだシミは出来てはいない。それでももうしばらくすれば全体に黒く変色してくるのだろうと、気に入っている制服を捨てるのが少し名残り惜しく思うガウだった。


 二人連れだってロッカールームへと向かい、それぞれ着替え始める。

「昨日は買い物に行ってたんですか?」

「ああ、本当、参ったよ。ずっと買いたいと思ってたお目当ての物が漸く入荷したって連絡があったから楽しみにしてたんだが……。まあ、仕事だから仕方ないが……」

 いつも暇さえあれば機械いじりをしているキースは、電気街に買い物に行く事がとても多い。宿舎で作業をしている時とは違う外出用の私服を着用していた為、ガウは買い物に出ていたのかと思い問い掛ければ案の定、そうだという答えが返された。

 そんな楽しみを妨害されたキースは心なしか機嫌が悪いようで、着替え方が荒々しい。

 それに苦笑を浮かべ、ガウはすっと目を伏せた。

「どうした、ガウ。元気がないな。疲れたか?……それとも、学校の連中に自分の事がバレて凹んでるのか?」

 はっとしたように顔を上げ、ガウは困ったようにキースに目を向けた。

「……そうですね……。正直、学校に行くのは……ちょっと憂鬱かもしれませんね」

「そうか」

 そう短く返事を返し、キースはバリバリと頭を掻いた。こんな時、何と言って言葉を掛けていいのか、機械馬鹿なキースは上手い言葉が見つからず、ただぽんぽんとガウの肩を叩く以外に出来る事はなかった。

 不甲斐無い自分を恨めしく思いながらも、これからの任務に気を引き締めた。


「俺はこれからデレクと合流する。ガウも気をつけてな」

「はい。ありがとうございます。キースさんも、気をつけて」

 頷きながら、ロッカールームを後にしたキースの背を見送りガウは一人小さく溜息をついた。

「きっと皆、がっかりしてるんだろうな……」

 ロッカーに額を付け一人ごちたガウは、制服を見つめ謝罪の言葉を口にする。

 何度も何度も。




 既に『森』の境界で警戒態勢に当たっている第三部隊を確認し、ガウはゆっくりを歩みを進めると、この部隊の小隊長らしき人物へと声を掛けた。

「お疲れ様です」

 後ろから掛けられた声に振り返った軍人は、ガウの姿を確認し、驚きの表情を見せた。

 年若い少年が笑顔で自分に声を掛けたことへの驚きと、その少年の身につけている軍服が第一部隊の物であるという両方の驚きに、一瞬言葉を失くしてしまう。

 部隊にはそれぞれ違う色の軍服が支給されており、第一部隊の軍服は黒を基調として作られていた。日々夜の『森』を駆け抜ける第一部隊にとっては、闇に溶け込む黒はまさにうってつけである。

 そんな第一部隊の最年少である隊員、ガウを初めて目にした第三部隊の小隊長と思しき軍人は、びしっと背筋を伸ばし敬礼をする。

 余り敬礼に慣れていないガウにとって、こういう遣り取りはとても苦痛で、最近では目礼のみで遣り過ごしていた。それに訝しげに眉を寄せた軍人は、つい口をついて出そうになる言葉をぐっと飲み込んだ。

 ここは軍隊なのだ。

 上下関係の厳しいこの軍隊ではガウの方がずっと地位は高いので、黙って受け入れる他はない。

「一応、報告までにこちらに声を掛けさせて頂きました。では、失礼します」

 特に自分の名も名乗らずそのまま『森』へと歩き出したガウの背を見送り、小隊長と思しき軍人が苦々しく言葉を零す。

「ふん、第一部隊だからと随分な態度だな」

「それはこちらの台詞だ。お前なあ、上官に対して一言も言葉を発しないというのは、流石に拙いだろう。まあ、お前がここの小隊長か何かだと思って声を掛けたのだろうとは思うが……これでは私の隊の印象が悪くなる」

 厳つい顔に立派な体躯、堂々としたその態度と年齢もそこそこ中年なその軍人は、一見して小隊長に見えてもおかしくはない。実際、彼の周りには報告にくる兵士が引っ切り無しに詰めかけていた。

「はあ、すみません小隊長。少しばかり驚いてしまって……」

 だがその実、小隊長はその厳つい顔をした軍人の隣に立つ、小柄な人物だった。身体は小さくとも剣の腕は隊の中では一番で、体術も彼に敵う者はいない。だからといって第一部隊に入れる程の強さもなく、第三部隊の小隊長に甘んじている状態だ。

「確かにな。高校生の隊員がいるとは聞いていたが、本人を目の前にすると、流石にな……」

「ええ、背は自分と変わらないようでしたが、随分と……その……幼い印象でしたからね」

 言い難そうにそう言うと、ガウの去った『森』の方へと目を向けた。

「それでも、本当に第一部隊の隊員なのだね。あの『森』へ当たり前のように入って行った」

「そうですね。自分達では、とてもじゃないが無理ですよ。あの結界の外にだって出れやしない」

 神妙な面持ちで黙り込んだ二人は、報告に来た兵士の声で直ぐに任務へと戻って行った。




 早朝の『森』の中は特に変わりなく、魔物の気配もなければ動物達が怯えている様子もない。それでも注意深く辺りを観察し、神経を研ぎ澄ませて『森』を通り抜けたガウは、暫くの後『外』へと辿り着いた。

 何もない荒野がただただ広がる『外』は、それでも所々に緑も見られ小さな花も咲いている。

 『外』から来たであろう今回の魔物は、確かに人間を喰らっていたのだろうとガウは確信していた。それも二体、結界を破って『中』に入って来たのだから一体何人が犠牲になったのかと考え、暗い表情をする。

 荒野を真っ直ぐに歩き出したガウは、少し遠目に見える『結界道』へと目を向けた。それぞれの国にたった一つしかない国と国とを結ぶ『結界道』は常に強力な赤い壁を作り、中を通る人間達を魔物と瘴気から守る役目をしている。

 今現在、昨日の緊急事態を受け、その結界道は封鎖されている状態だ。万が一、またあのような魔物が現れたら『結界道』を通る人達が襲われ兼ねないからだ。昨日はたまたま襲われることはなかったが、今日はそうとは限らない。暫くは閉鎖される事になるだろうと思いつつ、物流が途絶える事を懸念して早々に封鎖が解除されるのだろうと考える。

 この国は豊かだが、他国は違う。この国の援助なしにはたちまち立ち行かなくなってしまうのだ。農業や水源、産業において、全てがこの国を中心に回っているこの世界は、既に終わっているのかもしれないとガウはずっと思っていた。

 自分の故郷が無くなった時、ガウの中で一つの世界が終ったように、この世界はとても危うい所を歩いているように感じていた。

 この国の第一部隊が倒れれば、世界はただ崩壊へと向かうのだと、きっと誰もが気付いている。それでも足掻く人間達は、強かであり、愚かでもあるのだろうとガウは思う。

 守るものを始めから持っていなかったガウにとっては、この世界は余りにも色の無い、空っぽの箱のようなものだった。

 今はただ、自分の居場所を守る為に魔物を倒すだけの生活を送っている。自分を大切に思ってくれている第一部隊の仲間たちに嫌われたくない一心で、ガウは強くなったのだ。



「隊長、只今到着しました」

 自国から随分と離れた荒野の真ん中で、第一部隊の隊長であるレオンハルトが一人佇んでいた。

「ああ、すまないな。ろくな休憩も取れず、こんな所まで来させてしまって」

「いえ、仕事ですから」

 そうにこやかに笑うガウに、申し訳なさそうにレオンハルトは苦笑いを浮かべた。

「今回の魔物は、恐らく北の小国を襲って、そのまま我が国へと真っ直ぐに向かったらしい」

「え? わざわざガルック国に? どうしてですかね?」

 レオンハルトの指し示す方角に目を向けて、ガウは思わず首を傾げた。ここからでもはっきりと見える隣国を通り過ぎ、わざわざ強い結界を誇るガルック国へと魔物が向かう理由が解らなかったからだ。

 食欲を満たす為だけならば、こんな遠くのガルック国よりも近い所が沢山あっただろうにとただ疑問を浮かべた。

「今回、昼間に二体、結界を破って魔物が『中』へと入り込んだ。昼間に結界を破る程の強い魔物が出るなど、本来ならば考えられないことだ。それもわざわざ我が国を標的にしている。魔物とはただ本能のみで動くものだ。食欲を満たす為だけにだ。だとすれば、今回の事は『誰か』の思惑があって成された事ではないのかと、私は思っている」

 レオンハルトの言葉に、ガウは兎に角首を傾げるしかなかった。

 魔物は常に飢え、人間の血肉と恐怖や煩悩などを糧にしている。欲望という本能のみでしか動かず、そこには知恵や打算、無論考えなど皆無に等しい。

 それを『誰か』が裏で糸を引いているように言うレオンハルトに、ガウは問い掛けずにはいられなかった。

「そんな事をして、誰が得をするんですかね?」

 世界の中心であるガルック国を攻撃すれば、当然の事ながら困るのは自分達人間なのだ。それが解っていて、何故そんな事をする必要があるのか。よもやこの世界を破滅させたいと思っている人間がいるのかと、少し宗教じみた考えを廻らせたりした。

「ガウも聞いた事はあると思うが、随分と昔に『悪魔』と呼ばれた魔物がいるのを知っているか?」

 レオンハルトの言う『誰か』を単にガウは人間だと解釈していた。だがそれが大きな間違いだと言外に指摘され、漸く合点がいく。

「はい、何となくですが……」

 言い難そうにガウは声を落として返事を返す。

 この話は第一部隊の間では、禁句タブーとされている。

 その昔、とはいっても十数年前のそう遠くないはない昔の話だが『悪魔』と呼ばれた魔物は、人々に絶望を与えていた。沢山の国がその『悪魔』率いる魔物の襲撃に遭い、滅ぼされ、人間を喰らった魔物達はその勢力をどんどんと増して行った。

 魔物達はやがて、人間の中でも最強の武人を多く輩出していた『黒龍族』の国を襲った。黒龍族は全ての武力と魔力を駆使し『悪魔』と対峙したが、その圧倒的な力の前に敗れてしまう。だが、国が滅びる最期の瞬間ときに、国王が全ての黒龍族の民の力を、そして命を集め『悪魔』を退治したのだと伝えられている。

 その後、魔物は力を失い暫くは平穏な日々が続き、人間は生活を立て直すために必死になり、今の繁栄を手に入れた。その裏には、魔力の高い者が人柱になるなど犠牲になったものは少なくない。そしてガウもまた、ガルック国に来る前までは滅びた自国の人柱として生きていた。

 そんな人類の敵である『悪魔』の話をガウは思い出して、ぶるりと身を震わせた。

 と同時に、もうひとつ思い出した事がある。

 それは、『悪魔』のことを、レオンハルトだけは『魔女』と呼んでいた事だ。一度だけしか聞いてはいないが、そう呼んだレオンハルトの表情が、ガウにとってはとても印象的だったのを覚えていた。哀しみと、そして怒りに震える、そんな表情を浮かべていた。

 それはひとえにレオンハルトが『悪魔』を見たことがあるからなのだろうと推測された。そのせいか、ガウは激しくうろたえる。


「まあ、いつかはこうなると思っていたが・・・思ったよりも早かったな」

「隊長……」

 ふうっと息を吐き、レオンハルトは心配げに言葉を紡いだガウへと顔を向けた。

「北の小国の偵察にはヤンが行っている。私はこの後、報告の為にここを離れる。今の話も、軍事会議でするつもりだ」

 特に表情を崩すことなくそう告げたレオンハルトに、ガウは何故だか急に居た堪れない思いがこみ上げた。

 だからなのか、口をついて出た言葉は『悪魔』の存在を認めたくないが故の足掻きに近い意味合いを込めてしまっていた。

「まだその時ではないように思いますが。混乱を招くだけかもしれないですし」

「確かにな。だが、それでも早い方が良い。準備をしっかりしておかなければ……。まあ、軍の上層部のみで留めておくつもりだ。時期が来れば、自ずと民達も気付くだろう。その時に公表すれば良いだけの話だ。何と言っても、我々第一部隊以外に、『悪魔』を止めることは出来ないだろうからな」

 荒野を見据え、レオンハルトは静かに言葉を紡ぐ。

「僕達に……倒せるんでしょうか?」

 目を伏せ、震える身体を押さえつけるように腹に力を入れ、そっと呟くように問い掛けた。

「随分と弱気だな、ガウ。……だが、心配いらない」

 確信を得ているように大きく頷くレオンハルトに、ガウは何故そう言い切れるのかと、不安げに瞳を揺らした。

 それでも、自分の居場所を失うのが怖いガウは、その言葉を信じ、言い聞かせる。

「はい。隊長がそういうのなら、僕は信じます」

「ああ」

 真っ直ぐに前を見据え、返された返事は力強い。

 それに少しばかり安堵し、震える拳を心の中で叱咤し、ガウは浅く笑ってみせた。



「ああ、そうだガウ。実は今度、王城警備隊の総隊長の一人息子が婚約を発表してな。後日、そのお披露目パーティーが開かれるらしい」

「……はあ……パーティーですか……」

 今までの緊張感に満ちた話しは一体どこに行ってしまったのか思う程、この場に余りにも相応しくないいきなりな話題にガウはつい曖昧に返事を返してしまう。

「一応、私とアーロンも招待されているのだが、第一部隊の隊長と副隊長が同時にパーティーに出るのは些か憚れる。特に今回の件もあるしな。丁度アーロンの婚約者も出席するらしいからエスコートを兼ねて、アーロンに行ってもらう事にした。私は不参加だが、ガウ、従姉妹のマリアも招待されていてな。何でもその総隊長の息子の婚約者殿が学校の先輩らしくてな……一人で行くのも寂しいだろうから、ガウ、マリアをエスコートしてやってはくれないだろうか?」

 普段はとても無口なレオンハルトが今日は随分と饒舌だと、不思議に思いながらその顔に見入ってしまっていたガウは言われた内容をしっかりと理解していなかった。

「どうだろう、ガウ」

 再度問われて、ガウはまた曖昧に答えてしまう。

「はあ……」

「そうか、行ってくれるか! マリアもきっと喜ぶ」

 急にテンションの上がったレオンハルトに、ガウは何の話しだったっけ? と慌てて内容を思い出す。

「あ、ちょっと待って下さい。えーと、何でしたっけ? パーティーが、どうとか?」

「何だガウ、今更行かないと言っても駄目だからな。私はもう了承の言葉を聞いた。だから撤回は許さない」

「えーと、取り敢えず、もう一度内容を聞かせて下さい。お願いします」

「マリアをエスコートして、婚約お披露目パーティーに参加してくれと言ったんだ」

「ええええええええええええ!!!!!!」

「もう、決まったからな。詳しいことはまた後日だ。じゃあ、私は報告の為、一旦本部に戻る。後は頼んだぞ」

 そういうと、スタスタと自国の方へと歩き出した。

「ちょっ、待って下さい! 隊長!」

 ガウの荒げた声に挨拶するように片手を挙げ、レオンハルトは瞬間移動の魔法でその場から直ぐに姿を消してしまった。

 残されたガウは、途方に暮れる。

「……マリアさんって……僕、まだ一回しか会った事ないんですけど……」

 呟いた言葉は荒野の乾いた風に、無情にも掻き消されてしまった。



■ ■ ■ ■ ■



 ガウが荒野で色々悶えながら任務を全うしているそんな頃、学校ではグレンがピンチに陥っていた。



「どういうことよ、グレン君!」

 グレンへと詰め寄る女生徒の迫力に、思わず一歩後退る。

「そんな話、初耳よ!」

 次いでルナまでグレンを追い立て逃げ場を失い、冷や汗が背中を伝う。いつの間にか周りを囲まれ、壁へと追いやられている事に流石のグレンも生きた心地がしない。

「ああ、いや、確かそんな話を聞いたなあって……思っただけで……」

「聞いたって、ガウ君から?」

 勢い込んで聞いてくるルナは、自分はそんな話をガウからは聞いていないと憤慨しているのが見て取れた。それに慌てたグレンは急いで言葉を付け足した。

「ああ、いや、そうじゃなくて……。ガウが第一部隊の隊員になった時に、養子縁組みで一悶着あったらしいんだ。その、隊長と副隊長の間で」

 それがどうした、そんな事は聞いていない、と言わんばかりにルナと女生徒たちに睨まれ、グレンは早口で説明を続ける。

「それで、ガウは副隊長であるガルデイス家の養子になって、隊長であるレオンハルト卿の従姉妹と婚約をさせられたらしい。ガウの為に、ガウの居場所を必死に作ろうとしたんだろうね。まあ、養子に出来なかったレオンハルト卿が必死に考えた末の婚約だったとも言われてるけどね。結局の所、ガルデイス卿が長男だから家を取る事になるし、ガウは最終的に婿養子に入る事になるだろうから、レオンハルト卿からしてみれば、自分の家の養子よりもその方がガウの為に良いと判断したんだろう」

「何それ、ガウ君の感情は無視って事? それにその従姉妹だって、急にそんな事言われて、はいそうですかって事にはならないでしょう!」

「そうよそうよ!」

 むうっとグレンを睨むルナと女生徒たちに怒りの矛先を向けられて、筋違いも良いところだと兎に角グレンは項垂れた。

「そこは問題ないみたいだけどね。彼女は随分と乗り気みたいだし、ガウも恩人のレオンハルト卿の顔を立てられると喜んでいるらしいし」

 やれやれといった感じで返事を返すと、ルナがまた噛み付いてくる。

「な、何でそうなるのよ!」

 それに畳み掛けるように、矢継ぎ早にグレンが口を開いた。

「それに、その従姉妹殿は物凄く可憐でね。多分ガウもまんざらじゃないと思うよ」

 ついにんまりとした表情で言ってしまい、ルナと女生徒たちの怒りが最高潮に達する。

「なっ! 何なのよ、それ! 本当、男って、どうしようもないんだから!」

 ダンっと片足を床に叩きつけ、ルナはフンッと鼻を鳴らすと、踵を返しすぐさま教室を後にした。その歩き方はズンズンといった様相だった。それに続き、女生徒たちも解散する。

 漸く解放されたグレンは、流石に最後の言葉は失言だったと反省しつつ、大きな溜息を吐き出した。


「あいつ、任務が終わって学校に来たら、大変な目に合うんじゃないのか?」

 一部始終を見ていたルードが小さく言葉を零すと、うんうんと周りで傍観していた男子生徒たちが大きく頷く。

 漸く非国民のいじめから解放されたガウが、今度は違う苦難を味わう羽目になってしまうこの皮肉に、グレンはただただ心の中で謝罪する他なかった。



こんな拙い小説をお読み下さって、本当にありがとうございます。今回はちょっと短いのですが、更新させて頂きます。恋愛要素の多い話になる筈が、不発に終わってしまいました。不甲斐ない結果になってしまい、かなり凹んでおります。次回こそはと思っていますが、どうなることやらです。

余り王道の恋愛とかは書けないと思いますが・・・というか、こんな文才のない私では面白いものなど書けないと思いますが、次回も頑張りますのでお付き合い下さればと思います。よろしくお願い致します。

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