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その4

 それは半年程前のことだった。

 夕闇が迫る時刻に、それは突然訪れた。第一部隊に緊急の連絡が相次いで入ってきたのだ。

 緊急連絡とはすなわち魔物が出現した為の出動依頼だったのだが、数カ所に同時に現れた魔物は既に国の『中』にまで入って来てしまっているという最悪なものだった。

 十人しかいない第一部隊はそれぞれ持ち場を与えられ、当然のことながらガウも出陣する事になったのだが、人数的な問題で一人で任務地へ向かうことになった。

 西の村外れに行くようにと言い渡されたガウは、瞬間移動の魔術を使い急いで目的地に向かったのだが、もう既に戦闘は始っていて、報告の通り魔物達が結界を超えて『中』へと入り暴れていた。

 魔物に銃は利かないのだが、それでも近距離から殺傷能力の高い銃弾や砲弾を何度も打ち込みこれ以上の『浸食』を防ごうと試みる軍勢は、第二部隊の隊員だった。

 辺りは既に夜を迎える寸前で、夕闇に包まれ視界がはっきりしないながらも駆けつけたガウの目に飛び込んで来たのは第二部隊の軍服を着た隊員の何人かが血を流し、地に倒れている姿だった。

 だがまだ『喰われて』はいない。

 もし一人でも魔物の餌食になってしまえば途端に魔物の力が増幅し、強い瘴気と邪気とでこの場にいる者達は命を落してしまうだろうとガウは剣の柄に手を掛けた。

 魔物の数は三十体程で、結界を破れる程の力を持ってはいたが、ガウにとってはウォーミングアップにもならないただの雑魚だった。

 目にも止まらぬ速さで抜刀し、風圧のみで次々と魔物を切り刻み、全ての魔物が地に伏した。

 一瞬の出来事である。

 ばらばらになった魔物の肉塊からぶわっと血飛沫と瘴気が溢れ出し、ガウは急いで持っていた聖水をぶちまけた。黄金色に輝く炎は辺り一面を染め上げ、やがて魔物ごと消えてなくなっていく。残されたのは魔石のみだ。

 本来ならば直ぐに回収する所なのだが今は怪我人の手当てが先だと、ガウは倒れている一人に声を掛けた。


「大丈夫ですか?」


 ガウの問い掛けに一部始終を呆然と見ていたその軍人は、はっと我に返り慌てて返事を返した。

「……あ、ありがとうございます……」

 強い瘴気に当てられ身体が思うように動かない軍人は、ガウの手を借りて上半身を起こし敬礼をした。

 だがその表情には驚きが見て取れた。

 まだ幼さを残すこの少年が、たった今、一瞬で魔物を倒したのだ。およそ軍人とは思えない様相の少年がよもや第一部隊の隊員であるとは、にわかに信じ難いことである。それでも目の前でそれを見せつけられてしまえば、納得する以外にない。だがその軍人はまだ頭の整理が出来ず、呆然としたままガウの顔を見つめていた。

「今、傷の手当てをしますから、動かないで下さい」

 やんわりと敬礼をする手を下ろさせ、魔物の大きな爪跡が生々しく残る脇腹から太ももにかけ、手をかざしながらガウは治癒魔法の呪文を唱えた。

 淡い緑の光と共に傷が癒えていく様に、軍人は息を呑んだ。こんなにも一瞬で傷が癒えるなど、有り得ないことだからだ。

 ガウの底知れぬ魔力に、先程から驚いてばかりの軍人は思わず溜め息を漏らしてしまう。

 そんな軍人の心情など知る由もないガウは、自分の任務に一生懸命励むことしか考えていなかった。

 気づけば辺りには他の部隊が駆けつけていた。負傷した者達を担架で運んだり、その場で応急処置をしたりと軍本来の業務を立て直しつつあった。

「どうですか? 他に痛む所とかありますか?」

 概ね治癒を完了させたガウが問いかければ、軍人は「大丈夫です」とハキハキと答え、ガウの手を借りながら立ち上がる。

 実際、怪我はすっかり治り痛みも何も感じられなかった。

「良かった……」

 ホッと息を吐き出したガウに、軍人は改めて敬礼をし、びしりと背筋を伸ばした。

「申し遅れました。自分は第二部隊、第三軍団砲兵小隊の隊長を勤めております、ブラムスであります」

「ああ、小隊長さんでしたか。お疲れ様です。僕は今回緊急連絡を受けてこちらの応援に来た第一部隊のガウです。よろしくお願いします」

 屈託のない笑顔でぺこりと頭を下げるガウに、ブラムスが大いに慌てふためいた。

「こ、こちらこそよろしくお願い致します」

 深く腰を折るブラムスに、ガウは兎に角恐縮してしまう。

 自分よりも遥かに年上の男が深々と丁寧に自分に向かってお辞儀をする様は、余りにも違和感がありすぎる。つい申し訳がない気持ちが込み上げしまうが、これが軍隊なのだとガウは自分自身に言い聞かせた。

 小隊長であるブラムスは中尉で、ガウはこの齢では異例の少将の階級を与えられているのだ。それでもいまいち階級の仕組みを理解していないガウとしては、全くピンときていない。


「お話し中失礼致します!」

 二人の背後から第二部隊の隊員が敬礼をしながら割って入ると、ブラムスも敬礼を返し報告を聞きつつ小隊長としての任務に戻る。

 幾つかの指示を部下へした後、ガウに向き直るとすぐに敬礼をして今後の第二部隊の任務を報告した。

「ガウ少将、これより第二部隊は、二十四時間の警戒態勢に入ります」

 当然の事だが、第二部隊よりも第一部隊の方が格上だ。なので、必然的にガウが上官になる。その為、報告をいちいちガウに通さなければいけないのだが、正直ガウとしては面倒だから省いてもらいたいと思っていた。

 実際、ガウが他の軍隊の指揮を取れるかと言われれば勿論出来る筈もない訳で、この場はブラムスに任せる他はないのだ。

「はい。では、よろしくお願いします。僕は結界の境で魔物が入って来ないように監視をしてますので」

 ガウは丁寧にそう返事を返すと、敬礼をする。余り敬礼をする機会がないガウは、少々ぎこちないものになってしまった。顔を赤らめ、おずおずと手を下げると直ぐに『森』の方へと走り出した。

 そんなガウを敬礼したまま見送ったブラムスは、詰めていた息をホッと吐き出した。随分と緊張していたのだと、漸く助かったのだと認識し、全身の力が抜けていく。


「ブラムス中尉、報告致します!」

 部下の緊張した声に、緩んだ気持ちを引き締めるとブラムスはびしりと背筋を伸ばした。まだまだこれから民への対応や軍の指揮など様々な仕事が待ち構えていると、気合いを入れ直し任務に戻った。



 すっかり夜も更け、魔物の襲来から数時間が経った頃、漸く避難命令が解除され民達が各々自宅へと戻って行く。

 まだ油断は出来ないと、ガウは朝まで結界の境の付近での任務を言い渡されており、そこで野営をする事になっていた。

「お疲れ様です」

 そんなガウの背後から、控え目に声が掛けられた。

「あ、ブラムス中尉。お疲れ様です。向こうはもう大丈夫なんですか?」

 数時間ずっと『森』を見据えていたガウは、ぱあっと明るい笑顔で返事を返し結界の『中』へと足を進めた。

 通常、結界の『外』に出れるのは第一部隊の隊員十人だけだった。一般の軍人が結界から外に一歩でも足を踏み入れれば、途端に瘴気と邪気に当てられ酷い時には死に至る事もある。

 勿論、結界の『外』から『中』に入る場合、その瘴気や邪気が身体に付着している訳で、ガウは軽く聖水を自分に降り掛け浄化してからブラムスへと足を進めた。

「はい、もう避難命令も解除され、我が軍も撤収作業に入っています」

「そうですか。それは良かった」

 にぱっと少年らしい笑みを見せガウがそう言うと、ブラムスが複雑な表情を見せた。それに首を傾げたガウは場違いな態度を取ってしまったのだろうと、早々に笑顔を引っ込め恥じらいの表情を浮かべた。

「ガウ少将……私には高校生になる息子がおります」

「……はあ……」

 突然の会話に、ガウはまたまた首を傾げた。

 そんなガウに一度目線を合わせると、懐からパスケースを取り出し写真を一枚引き抜いた。

「息子は今、十六でして」

 そこまで聞いて、ガウはぱあっと顔を輝かせた。

「僕も今十六歳です! そうですか、息子さんと僕、同い年なんですね!」

 きらきらとした笑顔を見せたガウは、ほんの少しの期待をしてしまっていた。

 ガウは学校での友達が極端に少ない。それはもう既に『非国民』のレッテルを貼られていたせいなのだが、軍人の息子ならば容易に友達になれるのではないかと、友達をいっぱい作りたいガウとしては期待せずにはいられなかった。

「これが私の息子です」

 少し照れながら写真を差し出すブラムスに、ガウは喜々として写真を覗き込んだ。

 だがそこに写っていたのは、紛れもなくクラスメートのルードだった。

「名はルードと言います。もう、1年近く会ってはいませんが……」

「え?」

「仕事が忙しくて……家に帰れない日々が続いていて……元気でやっているのか、それだけが気掛かりです」

 軍人の、しかもそれなりに上の立場になれば仕方のないことなのだろうと、ガウにもそれは理解が出来た。それでも、その現実を突きつけられた事につい胸が痛んでしまう。

 そして、同級生であるルードが日々元気に過ごしている事を伝えてしまいたくなる衝動に駆られた。それをぐっと堪え、ガウは喉から声を絞り出した。

「そうですか……」

「その……ガウ少将は、ご両親とは……その……別々に暮らしておいでなのですか?」

 言い難そうに言葉を紡いだブラムスに、ガウはにこやかに返事を返す。

「ああ、僕の両親はもう他界していますから。今は第一部隊の兵宿舎で皆と一緒に生活しています」

 明るくそんな事を言うガウに、ブラムスが驚きと共にくしゃりと顔を歪めた。

 どうしてそんな顔をするのかと、ガウは先程からブラムスの様子が少しおかしい事に疑問を抱く。

「あなたのように、まだ幼い少年が、何故……」

 呟くように落とされた言葉は最後まで続けられなかったが、ガウにはなんとなくその意図が伝わった。

 これは憐れみなのかそれとも心配なのか、まだ然程人の心を読み取る力が未熟なガウには解らなかったが、一つだけはっきりと言える事があった。

「僕の故郷は、もう既に魔物に襲われ、無くなってしまいました。今はここが僕の居場所です。僕は僕に出来る事をして、ここに居続ける努力をしています。だから、他の人が倒せない魔物を、僕が魔物を倒せるというのなら、倒します。それが僕の役目であり、ここに居られる理由ですから」

 辛そうに歪められたブラムスの表情に、『ああ、憐れみか……』とガウはそう理解し苦笑した。

「あの、僕、そろそろ定期報告の時間なので、失礼してもいいですか?」

 こういう感情を向けられるのには慣れていたガウは、気持ちを切り替え本来の職務を思い出し告げると、返事を待たずに踵を返した。

「はっ! お時間を取らせてしまい、すみませんでした」

 びしっと敬礼をするブラムスに軽く会釈をするとガウはそのまま結界の外へと歩き出した。

 携帯を取り出し隊長へと繋ぐと、沈んだ気持ちをおくびにも出さずにガウは殊更明るい声で報告をする。

 ガウにとって心から安心出来る声を聞き、ガウは一人、朝までの任務を滞りなく遂行した。






 そう遠くない記憶を思い出し、ガウは今の現状に目を向けた。

 ルードの周りに集まるクラスメート達の直ぐ傍で、ガウは身体を縮こまらせ心臓に悪い話を聞く羽目になっている事に、ただただ逃げ出したい衝動に駆られていた。


「まあ皆、落ち着けって……。ちゃんと話すから」

 ぎゃあぎゃあ喚く連中を黙らせて、ルードが話を続ける。

「親父がその彼に、俺の写真を見せてな……今、十六歳の息子がいるって言ったら、自分も同い年だと話してくれたって言っていた。俺も親父に会ったのはもう随分と久しぶりだったから、昨日その話しを親父から聞かされた時は、正直、興奮したよ。噂が本当だった事と、同い年で、現役軍人、それも第一部隊の隊員だ」

 そこでルードはガウに視線を向けた。

 前半のルードの言葉……『写真を見せた』発言で、すっかり固まってしまったガウはルードと視線を合わせ「ははは……」と乾いた笑いを漏らした。

「ねえ、それで名前は? 出身地とかは?聞いてないの?」

 ルードに負けないくらい興奮しているクラスメートはもっと詳細が知りたいと、再びルードに詰め寄った。

「ああ、名前は聞いていない。出身地は、皆も知ってるだろう? 第一部隊の隊員は皆この国の出ではないってことは。例に漏れず、その彼も同じだろう」

 ガウは未成年であるが故に、名前は公表されていない。

 それでも、自分に関わった軍関係者は勿論名前を知っている。初めて会う人には、ちゃんと自己紹介をしなさいと隊長から言われているからだ。

 勿論、あの時ガウはブラムスにも自分の名前を教えた訳で……そう考えるとただ単にルードが名前を聞いたのに伏せているだけなのか、それとも本当に名前を聞いていないのかのどちらかになる訳だ。

 ガウからしてみれば、今この場で正体を明かされても何の問題もない。寧ろ、その方が信じてもらえるし『いじめ』からも解放される。


 ただ一つ、ガウには正体をバラされたくない理由があった。

 それは……。


「なあ、ガウ。この学校に現役の軍人がいることは、知ってるだろう」

「え?」

 思考の渦に押し流されていたガウは、グレンの問い掛けにはっと我に返った。

 そして考える。確かひとつ上の学年に、第四部隊に所属している現役軍人がいると聞いたことがあったと。それが誰なのかは解らないが、その事実にガウはこくこくとグレンに頷いてみせた。

「俺としては、彼がその第一部隊の隊員の一人だと思っているんだが……」

 その話を聞き逃さなかったルードが、すかさず会話に加わってきた。

「だが、俺達の一つ上だぞ? それに普通は兵学校へ行くもんじゃないのか?」

「ああ、それはそうなんだが……。良く考えてもみろ、第一部隊の隊員といえば、皆優秀だ。飛び級してもおかしくはないだろう? それに、兵学校へ行っても、実技の授業は出来ないだろうよ。ただでさえ、魔物を素手で倒せる程の腕力だ。他の生徒と一緒に実技の授業をやっても無意味だしな。ましてや実技の多い兵学校ではそれこそやることがないだろう」

「ああ、確かにな。そういえば、その一つ上の現役軍人の先輩は、体育の授業はいつも見学してるって言ってたな。まあ、一般人と一緒に体育なんてやっても体力の差は歴然だろうがな」

 ルードは話ながら、やはりちらりとガウを見やる。その視線に、ガウはいちいちドギマギとしてしまい、視線を明後日の方向へと向けていた。

 やはり名前を聞いているのかもしれないと、ガウの中で焦りが生じる。


「うんうん、確かに、あの先輩が第一部隊の隊員かもしれないよな!」

「背も高いし、良い身体してるしな!」

「頭だって良いし、何より、顔が良いわ!」


 グレン達の会話にうんうんと頷くクラスメートに、ガウは兎に角項垂れた。

 ガウが正体をバラされたくない理由はまさにこれである。第一部隊の隊員の『イメージ』を壊したくはないからだ。

 クラスメートの『イメージ』はやはりこういうものなのかと、余りにも自分とはかけ離れている事に流石にガウは申し訳ない気持ちが溢れて来る。バレてしまった暁には理想と現実のギャップに、きっとまた酷い言われ方をするのだろうと恐怖する。今現在ただでさえ心がズタズタにされているのに、これ以上の仕打ちは本当に勘弁してほしいと心底思うガウであった。


 キーンコーンコーンコーン


「あ、予鈴だ!」


 朝のホームルームが始まる時間になり、漸くこの話から解放されガウはホッと息を吐き出す。

 結局の所、ルードがガウの正体を知っているのかどうかは判らず仕舞いで、ガウは今日一日を悶々と過ごす事になってしまった。

 

 そんな今日一日も第一部隊の高校生隊員の話題のせいか、ガウは『非国民』と罵られる事もなく久しぶりの平穏な学校生活を送る事が出来た。

 ほんの少しルードに感謝しながら帰りのホームルームを迎えたのだが、何やら担任の様子がおかしい事に生徒たちは首を傾げた。


「あー、その……大事な手紙があるから……なるべく早めに保護者のサインをもらって提出するように……」

 ちらちらとルードの方を見ながら、おどおどとした様子で手紙を配る担任に疑問を抱きながら生徒たちは手紙を受け取った。

 そして合点がいく。

 その手紙の内容は、先日の『騒動』についての保護者説明会だったからだ。だが、保護者側としても、この騒動について公にしたくはない筈だ。相手は権力を持った軍人同士のいざこざだ。一般の生徒たちの保護者からしてみれば火の粉を被りたくはない訳で、内々で処理してもらえれば一番良い。また、軍人の子息側の保護者からしても同じ事だった。

 そんな大人の事情もそれなりに理解している生徒たちは、やはり腑に落ちないと兎に角首を傾げた。

 他の生徒たちは然程この手紙に危機感を持ってはいないようだが、教師からしてみれば大変な事態なのだろう。軍の関係者と対立し兼ねない状況なのだ。また誰かの首が飛ぶのではないかと気が気ではない。

 それはガウも同じ気持ちだった。

 この手紙を『保護者』に渡すということは、副隊長にあの騒動の事を話さなければならないということになる。

 さっと顔の色を失くしたガウは、ヤンにサインをしてもらおうと即座に答えを出した。勿論、説明会には欠席で。

 よしっ!と心の中で一つ頷くと、ガウは足早に学校を後にした。




 兵宿舎へと帰って来たガウは、早速ヤンの下へと向かう。

 いつもならば帰って直ぐ宿題に取りかからなければ夜の見回りに間に合わなくなるのだが、今は何より手紙のサインの方が優先事項だった。

「ヤンさん!」

 宿舎の食堂に真っ先に向かったガウは、ヤンの姿を見つけ破顔した。

「ガウ!」

 だがヤンの表情は、暗いものだった。

 ヤンの他にデレクも食堂にいたのだが、そのデレクの表情も険しいものであった。

「どうかしたんですか?」

 いつもならば食堂で何かしら頬張っているヤンが、今日はどうにも様子が違う。それを心配してのガウの発言に、ヤンは言葉に詰まり視線を落とした。

 そんなヤンの代わりに口を開いたのはデレクだった。

「ガウ、ちょっとヤバい事になった……」

「ヤバい事?」

「ああ、隊長に、あの事がバレた」

 あの事?とガウは首を傾げる。が、直ぐに答えを見つけ青褪めた。

「……えっ! ……まさか……」

「……『非国民』の話も、多分聞いちまってると思う……」

 ガウは手にした手紙を思い出し、益々青褪めた。まさかこの手紙って……。

 余りにも手回しの早いこのやり方は、間違いなく隊長の仕業だろうと確信を得る。

「あの……それで……隊長は?」

 恐る恐るヤンへと問いかけたガウの声は、震えていた。

「……教育委員会に乗り込んでった……」

 ふらり……とガウは眩暈を覚え、食堂の机に手をついた。


 一番知られたくない人物に知られてしまった事に、ガウもヤンもデレクも、ただただ暗い表情で俯くしかなかった。



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