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その2

 早朝の澄んだ空気の中、いつもと変わらない筈の学校のグランドで、非現実的な光景が広がっていた。



「さて、生徒諸君!」


 満を持して、生徒会長が野次馬である生徒達に向かって声をあげた。

「ここにいるのは、皆、知っての通り、非国民である!」

 うおおおおっと集まった生徒達が声を上げ、拳を天へと突き上げた。 

 殆どが男子生徒ではあるが、中には狂ったように声をあげる女生徒もいる。

「さあ、審判の時だ!」

 これから何が始まるのかと浮足立つ生徒達。

 遠巻きに見ている多くの女生徒達も興味津々といったように顔を上気させ、興奮している。

 余りの光景に、思考がついていかないルナはただその場に立ち尽くす事しか出来ないでいた。


 生徒会長が一際大きな剣を掲げると、スッと抜刀する。まさか殺すつもりなのかと、一同が固唾を呑み込むと、女生徒からは悲鳴があがる。

「殺しはしない……だが、制裁は受けてもらおう!」

 いきなり出て来た本物の剣に、流石に竦み上がってしまった男子生徒達は声も出せないでいた。だが、生徒会の一人が「やっちまえ!」と声を張り上げると、波が広がるようにワアッと声があがり始める。


「やっちまえ!」

「やれー!」

「制裁だ! やれー!」

「生徒会長、万歳!」


 興奮しきりで腕を振り上げる生徒達に、生徒会長はにやりと不敵な笑みを見せると張り付けられている非国民へと顔を向けた。


「ひいっ!」

「助けて!」


 引き攣った顔で恐怖に怯える面々に満足げに頷くと、生徒会長は一人の男子生徒を見遣る。

 剣呑な目を光らせ獲物を見据えるようなその視線を、男子生徒はただ受け入れていた。


「おい、貴様。随分と余裕じゃねえか」

 張り付けられて、剣を向けられても尚、声をあげるどころか顔色一つ変えない男子生徒に、生徒会長は訝しげな表情を見せ食って掛かる。

「…………」

 だがそれさえも、軽くあしらわれてしまう。

 ぐっと喉から声を絞り、何の返事も返さない男子生徒に腕を振り上げた。

 ガッと鈍い音が辺りに響き、男子生徒の口から血が流れる。

 何の前触れもなく勢い良く剣の柄で男子生徒の頬を殴りつけた生徒会長は、満足げに口角を上げた。

 そんな生徒会長を前に、血の混ざった唾を地へと吐き捨てると睨みつけるように瞳を眇めた。


「貴様っ!」


 怒りで顔を紅潮させ、生徒会長は一気に自分を見失う。感情のままに何度も殴りつけるが、その男子生徒はその度に顔を上げ、無言の抵抗を続けた。

 なかなか屈しない男子生徒に野次馬である生徒達から徐々に不満が漏れ始め、やがてそれが形になる。


「会長、そんな奴、やっちまえば良いんですよ!」

「そうだ、やっちまえ!」

「殺せ!」

「そうだ、殺しちまえ!」

 だんだんと過激になっていく生徒達に、後には引けなくなって来る。

 だがその横では、縄で縛り上げられた違う非国民が必死に懇願する姿があった。


「なあ、やめてくれよ! もうやめてくれって!」

 ガウである。


「ふん、お前もこいつみたいに懇願してみたらどうだ? 命だけは助けてやるぞ?」

「……本当に馬鹿な野郎だ……。こんな事をして、ただで済むと思っているのか?」

「な、なんだと! 誰に向かってそんな口を利いている!」

 ガッとひと際大きな音を立てて殴られた男子生徒は、流石に脳震盪を起こしかけた。それでもぐっと堪え、また同じように顔をあげて生徒会長を睨みつける。


「もうやめろって! あんたこそ、誰に向かって手を上げてるのか解ってんのか!」

 隣で懇願するガウに、生徒会長が紅潮しきった顔を向けた。

「何だと、貴様!」

 グイっと胸倉を掴み、今にも殴りかかりそうな勢いで腕を振り上げた生徒会長に、ガウが大きな声を張り上げた。


「そいつは第二部隊の小隊長の息子だぞ!」


 ガウの思いもよらなかった発言に、辺りがしんと静まり返る。

 くわっと目を見開き驚愕する生徒会長は、ばっと今まで散々殴り倒した男子生徒に目を向けた。だがその殴られていた男子生徒もまた、驚いた表情をみせていた。

 それはひとえに、誰にも話していないその事実を何故この非国民が知っているのかという疑問に他ならないのだが。

「なっ、う、嘘だ!」

 ガウを掴んでいた手を放し、今まで殴っていた男子生徒に焦ったように確認を取れば、「……嘘じゃない……」と視線を逸らし返事が返される。

「そんな……」

 一気に血の気が引き、崩れ落ちそうになる生徒会長に沈黙していた生徒達からたちまち罵声が浴びせられる。


「ふざけるな!」

「な、なんてことしやがったんだ!」

「お前こそ非国民じゃねえのか!」

 言いたい放題の生徒達に、呆れながらやれやれと男子生徒が溜息を吐いた。結局は自分達も同罪だというのに、と。

 そんな中、すぐさま教師が飛んで来てその男子生徒のロープを解いていく。恐らく教師達もその事実を知り得ていなかったのだろう。皆、顔面蒼白で酷くうろたえていた。

「傷の手当てを……」

 心配そうな教師の言葉を無視し、血が流れた口元を拳で拭う。

 今まで散々殴られたというのに全くそれを感じさせない足取りで、隣で縛られていたガウへと近づくと、ロープへと手を掛けた。

「どうして、知っている?」

 ロープを解きながら小さくガウに耳打ちすると、男子生徒は剣呑な瞳を向けてきた。

「君の写真を見せてもらった事がある」

 簡潔にそう告げると、また男子生徒の表情が険しくなる。誰に?と思わず問い掛けそうになるが、自分の父親なのだろうと直ぐに納得したように目を伏せた。

「いつ、どこで?」

「それよりも、止めなくていいのか?」

 ガウは男子生徒の言葉を遮り、今現在大変なことになっている生徒会長へと視線を促した。

 面倒臭そうに男子生徒もそちらへと視線を向けると、小さく溜息を吐き出した。

「まさか、俺に止めろと?」

「その方が何かと丸く収まると思うんだけど」

 同意を求めるような表情でガウが提案すれば、やれやれと男子生徒は再び溜息を吐き出す。

 ガウの瞳を受けて、仕方ないかと生徒会長を救出すべく歩き出した男子生徒は、何かを思い付いたようにガウへと振り返った。

「お前、名前は?」

「……ガウ」

「俺はルード。って、知ってるか……」

「……うん、まあ。っていうか、ほら、早く助けないと!」

「ああ」

 片手を上げて今度こそ救出に向かったルードを見送り、ガウは残りの縛られていた非国民たちの縄を解いて行く。


「大丈夫か?」

 優しくガウが声を掛けると、「俺はお前とは違う! 俺は非国民じゃない!」と、そんな捨て台詞を吐き出して逃げるようにその場を駆け出して行く。

 皆同じように慌ただしく駆けて行く姿に、「何だ、結構元気じゃん」と漸く安堵の息を吐き出した。




 そんな大騒動があれば、当然の事ながら授業どころではない。直ぐさま生徒達は自宅に帰され、教員と生徒会とで会議が開かれた。そしてそこには当事者であるガウも参加させられていた。にも関わらず、一番の被害を被ったルードは捕まらず、他の非国民たちもサッサと姿を眩ませてしまい貧乏くじを引いたガウは一人、この場の空気に耐える羽目になってしまっていた。

 

 所謂これは、学校としては不祥事で、到底ただでは済まされる事ではない。

 会議での空気は果てしなく重く、校長は今にも卒倒しそうな程だった。だがしかし、この背景には軍社会の歪みも見て取れて現役軍人であるガウとしては居た堪れない思いが込み上げた。

 そんなガウの想いとは裏腹に、会議の内容は酷い物だった。

 結局の所、事の発端が『非国民』の存在だと結論付けられガウに非難が集中した。ガウ自身は余りの馬鹿らしさに否定をせず、ただ無言を貫いた。

 その結果、ガウの学校での立ち位置が更に悪化していくことになってしまう。



■ ■ ■ ■ ■ 



 漸く解放されたガウは足早に学校を後にすると第一部隊の兵宿舎へと帰って来た。

 第一部隊の兵宿舎は隊員が十人しかいない事もあり、他の部隊に比べて建物自体がかなり小さい。隊員たちが共同で使用するのは食堂と大浴場ぐらいなもので、後は各々の部屋で過ごす事がほとんどだ。とはいえ日頃から任務に忙殺されている隊員たちは、第一部隊の本部に詰めている事が多かった。


「大変だったな、ガウ!」

「ああ、ヤンさん。お疲れ様です。」

 時間からいって、先程まで『森』の見回りに行っていたであろうヤンと食堂で出くわし、ガウは困ったような笑顔を見せた。

『大変だったな』というヤンの言葉に、学校から何かしら連絡が入ったのだろうと察し、ガウは居心地の悪さを感じてしまう。

「本当、参っちゃいましたよ」

 たはは、と乾いた笑いの中に疲れを見せたガウにヤンは苦い笑いをしてみせた。

 バンバンと励ますようにガウの背を叩き食堂のテーブルへと誘ったヤンは、わざとらしく腹をさする。

「取り敢えず、昼飯食おうぜ! 飯!」

「はい!」


 第一部隊の食堂には、専属の料理人がいる。とはいえシェフやコックなどといった者ではなく、近所に住んでいるごくごく普通のおばちゃん連中である。

 それはひとえにこの第一部隊の隊員が、隊長と副隊長以外は『庶民』で編成されているからだ。昔ながらの『おふくろの味』は隊員達からも好評で、特別な日にはそれぞれに大好物を作ってくれたりもしていた。

 そんな美味い料理を腹に詰め込み、ガウは今日の出来事を振り返った。

「ヤンさん。学校の方はどうなっちゃうんでしょうかね?」

 鶏肉を美味しそうに食い千切るヤンは、その出っ歯を存分に生かし野性味溢れる食べ方を披露している。

「ん? ああ、そうだな~……取り敢えず学園長の首は飛ぶだろうな~。後、その生徒会長も拙いよな。同じ部隊の小隊長の息子に手を上げたってなったらな~。第二部隊って、上下関係厳しいからな~」

「ですよね」

 大体軍隊とは上下関係が厳しいものなのだが、この第一部隊は違っていた。それには勿論、理由があるのだが……。

「まあ、んなこたぁどうだっていいじゃねえか。それより、今日この後どうすんだ? 急に入った休暇だ、うんと羽伸ばすんだろ?」

「いえいえ、そんな訳にはいきませんよ……。勉強……やらないと……」

「うわ~、マジかよ……」

「はい……この間のテスト……三十点でしたし……」

「うわ~、それもマジかよ……」

「はい……」

 ガウが第一部隊に入ったのは二年前のことで、それまでは訳あってまともな教育を受けてはこなかった。それではいけないと、ちゃんとした教育を受けさせるべきだと隊長が学校へと入学させようとしたのだが、如何せん学力が足りず入る事が出来なかった。

 それでもガウの頑張りで、この二年で学力をつけ何とか今の学校に入学出来たのだが、少々厳しい学生生活を送っていた。それは学力のみならず『非国民』のレッテルを貼られてしまった事も要因の一つなのだが、このことをガウは部隊の皆には話していなかった。


「それよりよ……『非国民』ってのは何なんだよ?」

 兵宿舎に戻って直ぐ、学校から電話連絡を受けたヤンは少しばかり不機嫌な声色でガウに問い掛けた。

「……あー、それはですね……」

 言い辛そうに肩を竦め視線を泳がせるガウに、ヤンはボサボサな焦げ茶色の髪を掻きながら溜息混じりに息を吐き出した。

「まあ、何となく聞いたけどよ……。正直、やばいぞ……。隊長と副隊長の耳に入ったら……」

「あー、はい……やっぱりそうですよね……。あのー、それで、このことを知ってるのって、ヤンさんだけですか?」

「どうだろうな? 第二部隊の方には連絡行ってるかもしれねえけどな……今んとこ、俺だけかな? でも本当、解んねえぞ、どこで耳に入るかなんてな」

 ヤンの言葉にしゅんと項垂れたガウは、最悪の事態を思い浮かべ胃がキリキリと痛み始めた。

 第一部隊では最年少のガウを、隊員達は兎に角可愛がっていた。あり得ない程の過保護っぷりにガウは時々本当に参ってしまうのだが、今回もその過保護がエンジン全開になりそうでただただ嫌な予感だけが押し寄せた。


「取り敢えず、勉強頑張れな!」

 食器を持って立ち上がったヤンに「はい」と力なく答え、ガウも席を立とうとした。

 その時、思い出したようにヤンが声を上げた。

「あ、そうそう。今回お前を縛り上げた生徒会長の父親、第四部隊に異動させといたから」

「え?」

「じゃあな」

 にこやかに手を振って出ていくヤンに、ガウは暫し固まったままその背を見送った。

「ああ、そうだった……ヤンさんが一番……過保護だったっけ……」

 呟くように言葉を零し、背を丸めながらガウはトボトボと食堂を後にした。



■ ■ ■ ■ ■



 大騒動から一夜明け、次の日の朝。

 昨日とは打って変わって静々と教室へと足を向ける生徒達の姿があった。ガウも特に態度を変えることなくいつものように教室に入ると、自分の席へと腰を下ろす。

 鞄から教科書を取り出すと、何やら廊下の方が騒がしい事に気が付きガウは野次馬気分で廊下へと目を向けた。

 そこには女生徒に囲まれたルードの姿があった。

 

 なるほど、とガウは一人納得した。

 

 昨日の一件でルードが第二部隊の小隊長の息子だと知り、女共が群がっている訳かと呆れたように視線を鞄へと戻した。

 実際ルードは美男子だ。

 今までは非国民だと思われていたせいで女生徒も寄り付かなかったが、あの容姿で小隊長の息子ときたら女子が放っておく筈がない。しかも頭が良い上に射撃の腕もかなりのもので、おまけに魔力もそこそこ強いらしい。そんなサラブレッドならば尚更だ。

 そこでガウは激しい劣等感に襲われた。

 顔と頭が良かったら、自分もモテていたのかもしれないと非常に残念な気持ちが押し寄せた。

 ああそういえば、同じ第一部隊のヤンさんは顔が悪すぎて女の人にことごとくフラれてたっけ……と、身近なブサイクを例に上げて益々気分を下降させていた。だがそれは、自身が第一部隊の隊員だとバラしていないせいもあるのだが……。

 そんな仄暗い思考に囚われていたガウは、突然掛けられた声に顔を上げた。


「おい、非国民!」


 自分が普段そう呼ばれている事実を知っているだけに自分の事だという認識があったため、思わず顔を上げてしまったガウだったが勿論自分が非国民だとは思っていない。

 そもそも非国民って、何なんだという話だ。

 本当の非国民とは、魔物に魂を売った者を言うのではないかとほんの数秒の間にそんな事を考えた。実際この国では、自身の欲望の為にその魂と肉体を魔物に売り渡した者も少ない。


「お前みたいなクズが同じ教室で同じ空気を吸ってるかと思うと虫ずが走るんだよ!」

 ガッと机を蹴り飛ばされて、ガウは机に置いていた鞄を掴み中身が飛び出さないように自身の腕で抱え込んだ。

「ちょ……何すんだよ!」

 流石のガウも声をあげる。


 突然の罵声と大きな音に教室の空気が一変し、皆がガウの方へと目を向けた。ある者はオロオロと、ある者はひそひそと陰口を叩き、結局の所ガウの味方は誰一人としていなかった。

 机を直そうと立ち上がろうとしたガウに、罵声を浴びせたクラスメートがそうはさせまいと腕を振り上げそのまま顔面近くへと殴る仕草をしてみせた。

 ガウが長身だと知っているため立ち上がられては面倒だと、とっさにとった行動だったのだが勢い余ってビッと顔面をかすってしまう。ガウとしても余裕で避けられる程度のものだったのだが、避けて難癖をつけられるのも面倒だと敢えてそれを受け止めた。だが、たかがその程度の事でクラスの女子から悲鳴が上がる。

 ガウとしては全く以って迷惑な話なのだが、殴り掛かって来たクラスメートは至って真剣で強い敵意を持ちガウに対峙していた。

「お前のせいで、生徒会長が退学になったんだぞ!」

「何でそれが僕のせいになるんだよ?」

 呆れたようにそう返せば、頭に血が上っているのかまた殴りかかろうとする。

 だがそこで、その腕をがっと掴み、制止の言葉がかけられた。


「やめろ」


 静かに、それでも凛と張りのある声に、その場にいた全員の視線がガウからその声を発した人物へと向けられた。

「ルード……」

 驚いたように口にした名前は、今やこの学校で知らない者はいない。

「おいおい、何だよ、昨日助けられたお礼か?」

「まあ、そんな所だ。」

 特に表情も変えず放たれた言葉に、クラス中が息を呑んだ。

 

「こんな奴、庇っても無駄だぜ! 俺だけじゃない、学校中を敵に回したんだからな!」

「さあ、そいつはどうかな?」

 ほんの少し口角を上げたルードに腕を掴まれたままだったクラスメートが、ぞくりと背筋を震わせた。威圧感のあるその態度と表情にすっかり委縮してしまい、次の言葉が出せないでいた。

「まず最初に言っておく。そいつが非国民だっていうのは、どう考えてもおかしいだろう」

「……はっ! 何でそんな事が……」

 漸く絞り出した声は微かに震え、最後まで言葉を続けることが出来なかった。

「そいつは俺の父親が第二部隊の小隊長だと知っていた。誰にも話していない事を何故こいつが知っていたのか……。実際そいつから前に俺の父親に会い話した事があると聞いたんだが、じゃあそれはどこでという話になる。まだ答えを聞いてないんでな、憶測になるが。まあ、考えられるのは以前俺の父親に助けられた事があるか、こいつ自身、軍と何かしら関係があるのではないか、てところだろう」

 答えを求めるようにルードがガウに視線を向けると、クラス中の視線がまたガウへと集まった。

「ええ……っと……」

 なかなか鋭い所を突かれ、ガウはうろたえてしまう。

 ルードの父親には確かに会った事があり、話もした。だがそれは助けられたのではなく、助けたのだが。

 それを今ここでどうこう言うつもりもないガウは、ルードが自分を軍の関係者だと言った事に対し酷く焦ってしまっていた。

 流石に頭脳明晰だけあってそういうところにまで考えが行き着くのかと、ガウは素直に感心してしまっていた。正直、普通に行き着く考えなのだが少々おばかちんなガウにはそれさえも驚愕に値する出来事なのだ。

「もしそうだとしても! どうして話に加わらない! それにこいつは第一部隊の事を『大したことない』とか言いやがったんだぞ!」

 ああ、そんな事も言ったっけ……とガウは随分前の記憶を遡る。

 自分の事を手放しで褒められ照れてそう言ったのを思い出し、あの発言が全ての切欠だったのかと改めて認識し項垂れた。

「なるほどな。だとすれば、助けてくれた第二部隊は酷い言われようで、第一部隊ばかりが持てはやされるのが癪に障ったという可能性もある」

 ルードの言葉に、ガウはきょとんとしてしまう。

 結局の所、それって自分の父親の部隊が良く言われていない事に対して常日頃から自身が思っている事なのではないのか、と。ついそんなことを思ってしまい、ガウはダシに使われた感じがして思わず顔を顰める。だが、ルードはそんな感情を微塵も見せずに、同意を求めるようにガウに視線を向けてきた。

「あー、まあ……そうなんだよね……」

 そう答えるしか円満に解決出来る方法を見出せず、苦笑いを浮かべながらもガウは頷いた。

 ここで自分が第一部隊の隊員だと言った所で信じてもらえる筈もないし言うつもりもないと、面倒な事から解放されたい一心で何度も首を縦に振った。

「……そうか……。すまない……その、そんなつもりじゃなかったんだ。勿論、第二部隊だって、活躍してるしな……」

 第二部隊の小隊長の息子を前に、バツの悪いクラスメートはおどおどしながらも謝罪の言葉を口にした。

「ああ、いや……僕が非国民じゃないって、解ってくれればそれでいいんだ」

 ここは今、一番はっきりと言っておかねばとガウは声を大にしてクラス中にアピールした。

 ほっと場が和んだのも束の間、ここで新たな声が場を制した。


「見損なったよ、ガウ君!」

 ルナである。

「ガウ君は、結局権力に屈しるの? そんなの、ガウ君らしくないよ!」

 突然割って入った声に、一瞬頭が真っ白になったガウは何を言われているのかが理解出来ないでいた。

「ガウ君はそんな意気地なしじゃないでしょう! 私知ってるもん! ガウ君はどんなに蔑まれたって、非国民だって事に誇りを持っていたじゃない!」

 それは大きな勘違いである。

 大体、ガウ本人から自分が非国民だと言った事はない。実際、非国民ではない。

「いや、僕は非国民じゃないし、非国民だなんて一言も言ったことないけど?」

「え?」

 話の噛み合わない二人に、一瞬の沈黙が流れた。

「でもでも、じゃあ、今までどうして……第一部隊なんて、結局庶民の集まりだ、とか、軍人は給料が高過ぎるとか、兵宿舎にお金掛け過ぎだとか言ってたの?」

「え……」

 収まりかけていたガウへの不信感が徐々に増していく。

 ガウを庇って間に入ってくれていたルードも、ふうと一つ溜息を零すとその場を立ち去ってしまった。

 何も返事を返さないガウを真剣な表情で見つめるルナは、何だかんだで『非国民のガウ』に恋をしていたらしい。

 そんなことなど全く知る由もないガウは、言葉に詰まり弁解のタイミングをすっかり逃してしまう。

 そして再び、非国民のレッテルを貼られてしまうことになる。



 ガウの学校生活はこうしてまた苦難の連続を迎える事となった。


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