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その13

いつもこのような拙い小説をお読み頂きまして、本当にありがとうございます。

只今、大々的に改稿をしている最中でございます。お読み下さる皆様には多大なる迷惑をお掛け致しますことをここでお詫びさせて頂きます。本当にすみません。

こんなどうしようもない私ですが、どうか最後までお付き合い下さればと思います。よろしくお願い致します。(活動報告にて詳細を書いておりますので、そちらも合わせてお読み頂ければと思います。)

「全くガウの奴、どこ行っちまったんだあ?」


 真っ暗な『森』を探し回り、ヤンはガウの名を呼び声を張り上げる。

 返って来る返事はなく、益々霧が深くなる。

「何なんだ、この霧は!」

 焦りと苛立ちからつい八つ当たり気味に、手近にあった樹へと剣を突き立てる。

 どんっと鈍い音と共に突き刺さった鋭い刃に、きらりと何かが反射した。


「なっ!」


 それを見留めた瞬間、ヤンの身体がばっと宙を舞った。

 ザッと土に足を埋め、辛うじて着地したヤンが唸りを上げる。

 腕で攻撃を防いだつもりだったが、それを弾き返すことが出来ず、逆にヤンが弾かれた。


 魔物はさほど大きくはないが(とはいえゆうに三メートルはあるが)甲羅のような硬い皮膚には尖ったものが何本も生えていた。

 四つん這いで走る姿は、歩みの遅い亀のようだがそれとは比べものにならない程に素早い動きをする。

「参ったなこりゃ」

 チラリと視線を巡らせ、剣が刺さった樹を見つめる。先程突き刺した剣から随分と離れた位置に自分が居ることにチッと短く舌打ちした。

「っていうか、どっから現れやがった……」

 苦々しく言葉を零すヤンは、全く魔物の気配を感じなかったことに嫌な予感を覚えた。大概こういう場合は、ヤバいのだ。しかも今はガウとはぐれてしまい、たった一人だ。普段連携を組んで魔物に対峙していた分、緊張が高まる。しかもこう霧が深くては、目に頼ることも難しい。もしこの他にも魔物がうじゃうじゃいて囲まれてしまったら、とヤンは縁起でもないことを考えてしまう。

 そしてもう一つ、ある考えが脳裏を過ぎる。

「こういう時ってよ、すんげえヤバいのが後ろに隠れてたりすんだよな~。そうだなあ~、この場合、『悪魔』なんてのも有りかもなあ~」


 ギュオオオ!


 瞳を赤く光らせ突然雄叫びを上げて突進してきた魔物に、「おいおい、マジかよ」とヤンは的を射ていたことに自分の感が冴えていることをつい誰かに自慢したくなってしまう。

「なんだよ、こういう時にガウが居ればいいによ!」

 そんな言葉を口にして、ガウなら「凄いです」と言ってくれるに違いないとヤンは確信し、そして肩を落とした。

 ガッと突進してきた魔物の頭を蹴り上げ、よろけた隙に懐へ入り込む。

 拳を握りありったけの力を込めると、それを魔物目掛け打ち込んだ。

 どおんっと勢い良く魔物が吹き飛ぶと、『森』の木々が魔物の巨体にバキバキとへし折られていく。何メートルか飛ばされて、砂埃を上げながら地にめり込んだ。

 未だ折られた木々がバリバリと不規則に音を立てる中、地に伏した筈の魔物の姿が消えゆく砂埃と共に消滅した。


「なっ!」


 有り得ない光景にヤンは声を上げる。一体どういうことかと頭で考え、それでも身体は辺りの気配を伺い警戒する。

 先程魔物の気配を感じ取れなかった分無駄なことなのかもしれないが、身に付いた防衛本能が勝手にヤンの五感を働かせた。


 ひたり。


 何か得体の知れない足音が地を踏む。ばっと音がした方を凝視するが、ヤンにはその姿が確認出来ない。

 一筋の汗が頬を伝う。

 だがここで、深い霧が晴れ始める。ゆっくりと、まるで波が引くかのように。

 辺りを覆っていた霧が徐々に薄くなると、ヤンの視界に小さな何かが映った。

 魔物かと思い目を凝らし、それが何か理解すると直ぐさま地を蹴り駆け出した。


「ガウ!」


 かなりの距離があるが、夜目の利くヤンは確信を持って声を張り上げた。と同時に身体が何かに弾き飛ばされる。先程の魔力かと瞬時に考え、ヤンは地面に叩きつけられる前に身体を捻り体勢を整えた。

「くそっ! 何で気配がねえんだ!」

 そこでヤンは、ハッと気づく。

 ガウもまた自分と同じように気配に気づかないのではと。

「ガウ、気をつけろ! 魔物だ!」

 大声で叫び、また直ぐに駆け出すも、ガウは全く反応を見せずただその場に座っていた。


「ガウ!」

 様子がおかしいと気づいたのは、後少しでガウの肩を掴める位置まで来た時だった。

 震えている。

 ヤンはただそう思った。

 だが次の瞬間には違う言葉が頭に浮かんだ。

 怯えている。

 確かにガウは怯えていた。

「ガウ……」

 声を掛けたら逃げてしまうのではないかと思う程に怯えた目をしているガウ。

 それでも遠慮がちにその名を呼へば、微かに反応を返して来た。

 ヤンはまだ魔物が近くに潜んでいることを承知の上で、その場に片膝をつきガウの肩に手を置いた。


「ガウ、どうした?」

 顔を覗き込むように窺えば、ガウは今やっと呼吸をするのを思い出したかのように大きく息を吸い込んだ。

「……ヤンさん……」

 小さく、掠れた声でガウはヤンの存在を認めた。


 だが次の瞬間、ごおっと大きな音と共に衝撃が二人を襲う。


 ガウとヤンが同時にその場から吹き飛び、近くにあった『森』の大木に叩きつけられた。

 その勢いで大木が折られ、そのまま吹き飛び続けた二人は開けた場所まで飛ばされてしまう。


「がはっ」

 血の混じった唾液を吐き出し、ヤンが地面へと跳ねながら転がる。

 ガウをしっかりと腕に庇い、何度も叩きつけられ、漸く止まった。


「ヤン!」


 衝撃から直ぐには立ち直れないヤンは、自分の名を呼ぶ声に違和感を感じた。

 それがガウのものではなかったからだ。


「ヤン!」


 再度聞こえたその声に、ヤンは激しく嫌悪した。



■ ■ ■ ■ ■



 先程よりも随分と深くなった霧を見据え、苦々しく言葉を吐き出す。

「貧乏くじとは、まさにこのことだな」

 その言葉を受け、同じく貧乏くじを引いた副官がひとつ唸る。

「まあ、確かにそうですね。他の所では霧など出ていないという報告でしたし。このまま霧が晴れるまで監視しろって言われても、朝になれば晴れるって訳でもないでしょうし」

 ほとほと参ったというように二人して腕を組めば、ただ溜息しか出て来ない。

「第一部隊は既にこの付近で見回りをしているそうですし、自分たちは取り敢えず監視していれば良いってことで、気楽に考えましょう」

 暢気にそんなことを言ってはみたが、反軍事派の討伐が優先されている今、応援に来てくれる部隊もいない。いつ他の『森』が霧に覆われるとも限らないので、偵察に出ている部隊もまた応援には駆けつけることもない。それでも他の部隊は朝には撤退する予定なので、やはり貧乏くじを引いたとしか言いようがない。

「既に来ている第一部隊は、こちらの存在を把握しているのだろうか?」

「さあ、どうでしょうね。……気になりますか?」

 『森』を注視したまま小隊長が問えば、副官は少し言い難そうに言葉を返す。

「……お前はあの少年が気になるだけだろう?」

「そんなことはありませんよ。軍とは常に複数人で行動しますからね。正直、ヤンとデレクでない事を祈っていますよ」

「ああ、そうだな」

 やはり、という思いで副官は目を伏せた。


 元々ヤンとデレクは第三部隊の出身だった。

 当時から恐ろしく強かった二人は、第三部隊の総隊長にもなれる程の技量を持っていた。だがこの国の出身ではないことと、その強さ故に権力を持たせることに危惧する声が上がり、階級は曹長止まりだった。第三部隊にいた時期は何かと揉め事の多かったヤンとデレクに、今ここで会うのは余り好ましくはないと二人は考えていた。

 あれから五年の月日が経ちそれなりに昇級はしたが、それでも未だ第三部隊から抜け出せていない実情に、少しばかり羞恥の念が押し寄せる。それはただ単に男の自尊心の問題なのだが、部下が一気に昇格してしまった事実を受け入れるのは、五年経った今でも憚れた。


 そんな昔の事を少し懐かしく、そして苦々しく考え込んでいた二人は、突然目の前に飛び出して来た人影に目を疑った。



 どおんっと大きな音と共に、バリバリと木が砕ける音が後に続く。

 次いで『森』の中から勢い良く吹っ飛んで来た黒い塊に驚く。

 だがその黒い塊が人間だと気付き、戦慄した。

 目に飛び込んで来た黒が軍服の色だと気付き、第一部隊の隊員だと瞬時に理解する。

 そしてその一人が自分たちの元部下だと思い至り、確認をするように言葉を零す。


「あれは……ヤンか?」

「そのようです」


 吹き飛んで来たヤンから目を逸らさず、二人はお互いに確認を取る。

 そして小隊長が駆け出した。


「ヤン!」


 それに慌てた副官が小隊長の腕を掴み、行かせまいと制す。


「駄目です、小隊長! そこから先は、結界の外です!」

 第一部隊のヤンが吹き飛ばされて来たのだ。

 魔物が近くにいるのだと容易に想像でき、ヤンの傍へ行こうとする小隊長を止めなければと副官は強く腕を引いた。


「ヤン!」


 だが激しく動揺している小隊長は、制止を無視して未だヤンへと駆け出そうとしていた。

 これがこの小隊長が第三部隊から抜け出せない理由だと知っていた副官は、落ち着かせるように声を上げる。


「小隊長、ヤンなら大丈夫です。ヤンは第一部隊の隊員です。昔とは違うんです」


 昔、ヤンがまだ第三部隊のいた頃、ひとつの村が魔物に襲われた事があった。瘴気にあてられ動くことさえ出来なかった部隊の隊員は、ただその場で事の成り行きを見ているしか出来ないでいた。

 魔物をたった一人で退治するヤンの姿を。

 だがその当時、今ほど強くはなかったヤンは随分と酷い怪我を負ってしまった。

 それ以来、部下が倒れると時々激しく取り乱す事が多くなった。

 魔物の『中』への侵入が、第一部隊の登場でめっきりと少なくなってからは随分と落ち着いていたのだが、ここにきて弾けたようにぶり返した。

 それでも、副官の言葉で動きを止めた。


「自分たちが行っても、足手まといになるばかりか邪魔になってしまいます。ここは堪えて下さい」

「……あの時のようにか?」

「ええ、そうです。何も出来ないんですよ、自分たちには」

 静かに放たれた言葉に、小隊長はゆるゆると身体の力を抜いた。

 そしてヤンへと再び目を向ける。






「くそっ! 気配が感じねえっては本当に厄介だな」

 

 全身に走る鈍い痛みを堪え、ゆっくりと上体を起こしたヤンは、先程自分の名が聞こえて来た方に顔を向けた。

 そこには二人の軍人の姿があり、「誰だ?」と記憶の中にある人物を探し出す。

 そして、見つけた答えにヤンはぎゅっと顔を顰めた。

 やはり知った人物だったかと。

「あれは確か……ベンとジーンか?」

 身体の大きいベンは少し遠いヤンの位置からもそれなりに雰囲気が伝わるが、小柄なジーンの方はいまいち確信が持てていなかった。

 そんな昔の記憶を辿るヤンに、小さいながらもしっかりとした声が掛けられた。

「ヤンさん……」

「ガウ、大丈夫か?」

「はい、僕の方は。でもヤンさんの方が、酷いじゃないですか」

 ガウを庇ったせいで右半身は服が地面で擦られ、ボロボロになっていた。

 それでも擦り傷程度で、大した事はない。

「おう、これくらいなんてこたねえよ。それより、立てるか? 魔物がいる。油断するなよ」

 むくりと起き上がり、ガウに手を差し伸べると警戒するように辺りを窺う。

「魔物?」

 ヤンの言葉に疑問を抱いたガウは、確認するように問い掛けた。

 まるでそんな気配はないのにと。

「ああ、気配がまるでない。だが、間違いなくいるんだ」

 ガウも顔を巡らせ、魔物の姿を探す。だがどこにもその姿はなく、また気配すらも感じられない。

 そしてもう一つ、ガウは探していた。先程まで話しをしていた女性を。


 そんなガウを他所に、ヤンが辺りを警戒しながら歩き回る。

 すると、またヤンを呼ぶ声が響いた。


「ヤン! 大丈夫なのか!」

 チッと舌打ちをしながら、ヤンは面倒臭そうに声がした方に顔を向ける。

 今まで無視を決め込んでいたのだが、仕方がないかと諦めた。

「おい、二人とも。もうちょい結界の奥へ行け。そこじゃ何かあったら、とばっちりを食っちまうぞ」

 しっしっと犬を追い払うように手を払うと、素直に「ああ、解った」と返される。

 意外にもあっさりという事を聞く二人に、ヤンは拍子抜けしてしまった。

 自分が上官だからという意味合いであっさりと引いたのか、本当に邪魔だからという意味でいうことを聞いたのか、つい問い質したくなってしまったヤンだったがぐっと堪える。今はそんなことに構っている場合ではないと。


 そんな時だった。


 だんっと身体に振動が走る。

 またもや魔物に弾かれ吹き飛ばされたのだと理解し、ヤンは地に倒れる前に何とか足を踏ん張らせ、体勢を保った。

「ヤンさん!」

 ガウの叫びが聞こえ、そちらにちらりと視線を向けると、ヤンは直ぐに声を荒げた。


「ガウ!」


 今まさにガウに牙を衝きたてようとする魔物を目にし、ヤンは反射的に地を蹴っていた。

 ガウに体当たりし、魔物の攻撃をかわす。

 だが一歩出遅れてしまった。


 ばっと鮮血が迸る。


「くそっ!」


 脇腹を押え、ガウに倒れ込んだままヤンが言葉を吐き捨てた。


「ヤン!」


 結界の中から焦ったような声が届く。

 それを煩わしそうに一瞥した後、ヤンは「下がってろ!」と声を張り上げた。

 次いで、気付く。

 ガウが、震えていることに。


 がたがたと奥歯を鳴らし、真っ青な顔でガウはヤンの脇腹から視線を逸らさない。

 抉られたそこは、あるべき肉が削ぎ取られ、不気味な空間を作っていた。

 紅い血液はみるみるヤンの軍服を濡らし、広がっていく。


「あ……ああ……」


 何かを言おうとして、震える唇を動かすガウは、結局言葉にならず声だけが漏れる。

 だがそんな事をしている間にも、魔物は二人を狙っていた。

 姿が見えないという訳ではない。ただ気配が感じ取れないだけだ。

 素早い動きをする魔物を目で捕え、攻撃すれば良いだけの話しだと、ヤンはガウの腰にある剣をすっと抜刀した。


 魔力を込めて剣の刃に集めると、それに危機感を抱いた魔物はすぐさまヤンの前に姿を現した。

 それを見逃さず、剣を振り下ろすと、ばっと魔物の身体が頭から真っ二つに切り離される。

 左右に分かれた躰は、各々地面へと大きな音を立てながら崩れた。


 そしてヤンもその場に倒れ込む。


「ヤンさん!」


 ばたりとうつ伏せに倒れたヤンに駆け寄り、ガウは大きく身体を揺する。

 気を失っていたかと思われたヤンは、既に自己による治癒が始まっていたためか、意識ははっきりとしていた。その分、痛覚もしっかりとしている。

「ちょっ、ガウ、痛い、痛いって!」

 乱暴なガウの行動に抗議するヤンはどこか必死だ。

「わっ、ヤンさん! 大丈夫ですか!」

「大丈夫じゃない。マジで痛い。だから揺するな」

「はい、すみません」

 しゅんと項垂れたガウに、ヤンは仰向けになると慰めるようにガウの頭を撫でた。

 次いで倒した魔物へと目を向ける。

 瘴気が溢れ出し、辺りを黒く覆っていることにこのままでは拙いと判断する。

「ガウ、聖水を」

「あ、はい」

 ゆるゆると立ち上がり、ガウは魔物へと聖水をかける。

 その後、ヤンと自身にも聖水を降りかけガウはヤンの身体を担ぐように支え、結界の中へと入って来た。


「ヤン!」

 するとすぐさま小隊長であるジーンが駆け寄って来る。

「よう、久しぶりじゃねえか」

 当時から上官に対し敬語を使わなかったヤンは、相変わらずの態度で話しかける。

 それに特に感情を見せず心底心配してくるジーンに、ヤンは勘弁してくれと内心で毒づいた。

「そんな顔すんなって。大した事ねえ。それに直ぐ良くなる」

「ヤンの言う通りです。今は報告とヤンの身を衛生班に届けるのが先決です」

 治癒力の高いヤンに心配は無用だと、副官のベンがそう諭す。

 何となくムッと来たヤンだったが、正論なので何も言い返せない。

「解っている! だが……これだけは言わせて欲しい」

 唇を噛み、ぎゅっと拳を握ったジーンは、ヤンを支えているガウへと顔を向けた。


「お前は第一部隊の隊員なのだろう! なのになんだ、あのザマは! ヤンを見殺しにするつもりだったのか! 貴様のような奴が……貴様のように力がありながらその力を発揮出来ないような奴に、第一部隊の隊員を名乗る資格などない!」


ガウに指を突きつけ、ジーンは怒気を含み言い放つ。その余りにも強い負の感情に、ガウはひゅっと息を呑んだ。


「なっ! てめえ、なに言ってやがる!」

 ジーンの突然の発言に、ヤンは激しく怒りを露わにした。

 脇腹を押さえつつ、声を張り上げる。

「お前は黙っていろ!」

 そんなヤンを強く制し、ジーンはまたガウへと詰め寄ろうとする。

「貴様っ!」

 そうはさせまいと、ヤンがジーンの胸倉を掴む。

 その手を、ベンが掴んだ。

「二人ともやめろ! 今はこんなことをしている場合ではない! 職務を忘れるな!」

 上官二人を前に、命令口調で言えば、ぎんっと二人に睨まれる。だがここで怯む訳にはいかないと、ベンンは視線だけでガウへ顔を向けろと二人に促した。


 ショックを受け、ただ立ち竦むだけのガウ。

 俯き、今にも泣き出しそうなその表情に、流石のジーンも言い過ぎたかと思い直す。

 ガウはまだ少年なのだ。

 まだ幼さの残るガウの容姿は、それを肯定していた。

 ただ第一部隊の隊員というだけで、逆にその立場にガウが苦しめられているように感じて来てしまう。

 

 言ってしまったことを取り消すことも出来ず、ジーンは視線をガウから逸らした。

「報告をしてくる」

 そう言い置いて、ジーンは車へと歩き出す。その背を見送りぎりっと奥歯を噛み締めたヤンは、怒りが収まらず、けれどガウの心の方を優先した。

「ガウ、気にするな」

 凭れ掛かりながら言ってもガウの気持ちが浮上する訳もなく、ヤンは小さく溜息を吐き出した。


 怪我人に気を遣わせんじゃねえよ! とジーンに対して心で毒づきながら。



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