夜崎隆の存在
「・・・どういう、こと・・・?」
能力学校だと?
そんでもって、オレが能力者だと?
ーーそんな話、一度も聞いた事がないぞ!
確かに、テレビで見る超能力とかアニメやゲームでよくある魔法は知っているが、こんな身近に本物の能力者がいるものなのだろうか。
ーーあ、でもそういえば兄貴がNational学園の入学で父親と言い争ってた時にチラッと聞こえてきたような気がする。
たしか『オレの能力はそんなことの為に使いたいわけじゃない!』的なことを叫んでいた。
当時のオレは兄貴の言ってたな能力とは、もっとこう現実的な自分の力とか学力の事を話しているのだと思っていたが、違ったのか?
いや、そもそも能力ってこの世に実在するのか?こんなに身近に。
にわかには信じられないでいるオレは混乱しつつ、外を笑いながら歩く同じ学校の前も知らない生徒達をながめてみた。
俺の混乱を知ってか知らずか、夜崎は小さく笑った。
「もしかして、全く知らなかった?」
無知な子羊を見るような目で、彼は俺をみていた。
俺はうつむく。
――ってか、普通に考えればコイツの言っていることは本当のことかどうかすら分からないんだぞ!信じるなよ、オレ!!
正直なところ、半信半疑だった。
今朝型会ったばかりの変態におかしな事を吹き込まれている。そう思うこともできた。
しかし、確かにいわれてみれば、兄貴はお盆と正月以外は家に帰ってこないし、いつも新しい傷を作って帰ってきていた。
――・・・この点に関して言えば、National学園が普通と違うのは一目瞭然だよな。
「あと、・・・そういえば、母さんも兄貴に『学校どうだった?』とか一度も聞いてなかったな・・・」
無意識の発言に、夜崎隆は反応した。
「だろ?・・National学園は能力者を扱うが故に、国の組織と繋がってる。だからお前の兄貴みたいな優秀な学生は、国家機密レベルの危険な任務を強いられているんだ。だから迂闊に一般人が首を突っ込めないのさ。」
あくまでも、彼の言葉は坦々としていた。
オレは海老かつの袋を握り締めた。
信じてないはずなのに、どこか心が苦しい。
「・・・誰が、そんな事信じるかよ・・・」
本当は、言葉と裏腹に納得していた。父の学園が特殊という事はすでに知っていたし、普通の学校とは違う不可解な点も多々あった。
・・・でも、そんな重大事実を言われれば否定しかできない。オレはそんなクソなヤツだ。逃げることしか考えない。
オレの素直じゃない返答に夜崎はだまりこんだ。
彼の雰囲気が少し冷たくなったのを肌で感じる。
オレは少しハラハラするが、彼は昔から無口なんだ、だから今もそうなんだと思うことにでもした。
オレにとっては重い沈黙が長々と流れる。
夜崎はずっと答えてくれない。
オレはどうしたものか、と顔を上げた。すると夜崎と目が合った。
「・・・何か、言ってくださいよ。」
仕方なくムッとしたような顔をしてみれば、夜崎の真顔がオレに近づいてきた。
「・・・本当はなんとなくでも分かってるでしょ。」
「ッ!」
図星だった。思わず顔を強張らせるオレを見て、彼は楽しそうに笑った。
「言ったからね。お前は『箱』だって。もう、外の裏組織には君の情報が流れてるから、・・・そのうち、いやでも現実を知るだろうさ。」
「・・・どういうことだよ?」
だいたい、箱の意味自体正確に理解すらできていないというのに・・・
裏組織?いやでも現実を知る?わけが分からない!!
目の前に座るこの先輩が、ただのオカルト好きだったらいいのに・・オレは本気で神に願った。
夜崎はテーブルごしにオレの方へよってきた。
「・・・君、いずれ命をねらわれる。相手によっちゃぁ、殺されるかもしれない・・・」
彼の言葉には嫌なほどに説得力があった。
「そ、んな」
オレは自分の手が小刻みに震えていることに気づいた。
そして、気づくと必死で夜崎の目をみていた。
何かにすがるように必死で・・・
「・・・怖い?」
夜崎の低い声。
鋭い瞳。
オレは何も言わなかった。言えなかったのだ。
実感のわかないオレに体の中で眠る何かが警告しているような感覚だった。怖いわけではない。だけど、震える。
「大丈夫」
ふいに夜崎が言った。
しかし、その言葉はさっきまでの彼と比べるとあまりにも冷たく重い。
「お前は箱で・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺がお前の鍵になるから・・・・・・」
そして、さらに驚いたことに夜崎がオレの肩を軽く抱いてきた。
視界の端に彼の軽く釣りあがった口元が写る。
・・・何故コイツは笑えるんだ?なんでオレは抱かれなきゃいけない?なんで、オレが箱で・・・
「・・・なん、で」
オレは小さく呟いた。
「ん?」
夜崎が耳をオレにかたむけた。
でも、オレは続きを口に出すことはしない。
もし、裏の組織にオレの情報が流れているというのなら・・そもそもコイツはオレにとって敵かもしれない。信用していいのかすらも分からない。
「こんなに解読しにくい箱を、誰かに渡したりするもんか。」
夜崎隆は、そう言って抱きつく力を強めた。
オレとしては、もう何がなんだか分からなくなったので、店の古びた天井を仰ぎ見ていた。