日常3=予感=
俺は学校の近くの公園のベンチで一人、むなしく空をみながら座っていた。
――・・・今日も青いなぁ・・・・・・
何故俺がここにいるのかというと・・
ズボンのきわどいところがぬれてしまったからだ。
たってしまったからだ。
学校に行きたくなかったからだ。
理由はいろいろあるが、一番の理由としてはぬれたズボンを乾かすためだ。
初対面の青年に、ズボンを噛まれ濡れてしまった。
だから俺は学校の近くの公園の水道で、ズボンを丸ごとジャブジャブ洗ったのだ。
正直、ぬれたズボンは気持ちが悪い。
俺にあんな行動をとってきた青年も気持ち悪い。
「・・・美少女ならよかったのに・・・・・・」
そっと俺が呟いたときだ。
―ドクン―
「っ!?」
突然、心臓の高鳴りとともに激しい目眩が襲ってきた。
俺は押し寄せてくる吐き気と気分の悪さで、その場にうずくまる。
――・・・っいったい、何だ・・・・・・?
――確か俺が持病なんてなかったはず・・・
疑問に思いつつ、しばらくすると体中の痛みは引いていった。
――すごく、嫌な感じがする。
物理的な痛みが無くなり体が正常に戻ってもなお、オレの胸中では不安が渦を巻いていた。心臓の音も鳴り止まない。
「ななんだよこれ。原因不明の痛みと動悸って……。まさか、アイツに恋でもしちゃったのか?ははは……、なんてね。」
一人で冗談を口ずさんでみたが、笑えない。
ーーあぁ、あいつのこと思い出したらムカムカしてきた。へそでお湯がわかせそうだ。……じゃなくて、アイツになんて間違っても恋なんかするわきゃないだろう!オレ!!
何せ、事の発端である夜崎隆とかいうふざけた男は、オレにあんな淫らな行為をしておきながら、マックシェイクがどうのと訳のわからない言い訳をして立ち去り、被害者のオレは心もスボンも泣き寝入りの状態なのだ。
オレの心情を物語るかのように、さっきまでの穏やかだった風の勢いが増し、ベンチの後ろにそびえ立っている大木が大きく揺れて唸り声を上げた。
キュッキュキュ・・・
その時、公園の入り口付近から自転車が急ブレーキをかける音が聞こえた。
「・・・?」
視線を向けると、そこには自転車にまたがったままこちらを見る友人がいた。
「・・・優太郎・・・」
俺が彼の名を呼ぶと、優太郎は顔にニヤリと笑みを浮かべた。
「やっぱ大河か!・・・お前、もしかして学校ボイコットする気じゃないだろうな?もう授業始まってるし。」
「・・・遅刻魔のお前に言われたくないね。寝坊だよ。」
俺はさっきまでの出来事を全て頭から消去しようと努力しつつ、優太郎のほうへ歩き出した。
「げっ!お前、そのズボン濡れてんじゃん?・・・なんで?」
近くに来たからこそ気づけた、ズボンの変化。
優太郎は顔をしかめた。
「あぁ、ちょっと花に水をあげるおばちゃんにかけられたんだよ」
いえるわけがないだろう。
しらない青年に噛まれた、なんて。
俺は苦笑いを浮かべつつ、通学路を歩き出した。
「ったく、顔にかけてきたならまだ分かるけど、下半身全部がぬれるくらいってどんだけだよ!」
ばかくせぇー、と笑いつつ後からついてくる優太郎。
「どうせ、お花に水を上げていたおばさんに罪はないとか変な理由つけて、クレームの一つも言ってないんじゃないの?すげー仏頂面してる!!」
「まぁ、あるいみ町の環境保護してくださってますからね?」
ーー本当に水をかけたのがおばあさんだったらだけど!
苦い心境が喉元まででかかったが、それは飲み込んでおくことにする。
一方で、大笑いする友人を睨めつけ、オレは歩行速度を上げた。
「んなことより、遅刻だよ!もう授業終わっちゃうって!」
「あぁ」
俺、朝城大河と西条優太郎は、家の方向が同じため下校は一緒にするが登校は別々にしていた。
理由は簡単で、優太郎の登校時間がおかしいからだ。
高校に入ってから、優太郎は毎日一時間目が終わってから登校するように変化した。
何故なのかは分からないが、多分寝坊だろう。
俺たちは急ぎつつも二人でたわいも無い話をして、歩いていればあっという間に学校についた。
そしてその瞬間、一時限目の終わりを告げる学校のチャイムが鳴り響いた。