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シー・フェション

作者: 加水

この世界のこと。貴方は知っていますか?

ただ一つ影で佇むこの世界。

貴方方に「告白」をさせる、その世界の住人を。



場所は、目立たない所に立っている教会。そこでは日々「告白」がなされている。

いや、告白が聞こえてくると言っていいだろう。

その場所には誰も来ないのだから。神父さえもいないその場所には、いつもどこからともなく「告白」の声が響いているのだ。




告白しよう。

僕が君を嫌いだって。

一歩間違えれば出てしまう本音。それを包み隠す笑顔。

きみは知らないだろう?僕が君を嫌いだって。

いつかきっとね……君を陥れてやるんだ。

裏切りと言う行為でもってね。



告白しよう。

明日、あの人が好きだって。

もしかしたらフラれるかもしれないけど。

それでも……やっぱり好きだから。

告白してみよう。



告白します。

私の罪を告白します。

私は昨夜、人を罠に落としいれ、全財産を奪ってしまったのです。

神様は許してくださるでしょうか?




様々な「告白」の声は流れては消える。

教会「シー・フェション」に住むのは、決して人間ではない。彼等は闇から生まれし者。


「今日もやかましいなぁ。なんでこう人って秘密を作りたがんのかねぇ。」


耳が獣のように鋭く尖り、牙がちらりと覗く口以外はほとんど人間の形に近い少年が、教会の屋根を支える柱に寝転がっていた。目がくりっとしており、いささか愛嬌がある彼の名は「デュー・タイトゥ」。この教会の番人をしているうちの一人だ。


「さぁ?知られるとまずいことが多いのでしょう。」


教会の並べれている長いすの一つに腰を下ろしている長髪で眼鏡をかけている男がすぐさまデューに応えた。彼もまた番人の一人。鋭く突き刺すような瞳を持ち、人間の形をしているのだが彼も人間ではない。名は「マァリアス・バッティ」。


「オマエ、人間の格好してるんだからそれくらい知っとけよっと。」


愚痴を言いながらも身を起こし、柱から飛び降りるデュー。茶色の短い毛がひらりと舞う。

スタっと音を立てて着地した場所はマァリアスのすぐ近くだった。


「格好は動きやすいように作られた物です。関係ないでしょう?」


黒い髪を掻き揚げると、マァリアスもすくっと立ち上がる。


「まぁ、どうでもいいじゃん!それより、今日の仕事教えろよ!」


「貴方は……まぁ、いいでしょう。何個かリストを作っておきましたから貴方が選んでください。」


デューがカラっと笑って話を折ると、マァリアスがため息をついてやれやれとでも言うように首を横に振った。そして、気を取り直し黒装束の懐から数枚の紙切れを取り出し、デューに向けて押し出した。デューは片手で受け取り上に掲げて文字を目で追っていく。

彼等二人の仕事は、人に「告白」をさせること。

秘密というモノを胸に秘める人間は、悪魔や妖魔といった闇の存在につけ込まれやすい。なぜなら秘密と言う物凄いエネルギーを溜め込んでいるからである。

秘密は言わないとどんどんエネルギーを溜め込む性質を持っているのだ。

デューとマァリアスもそのエネルギーを食らうモノである。だが、彼等は闇の者となる前は人間だったらしいのだ。それを知ったのは数ヶ月前。

自分達の墓を見つけてしまったことから真実を知った。けれど、人間の時の記憶はいっさいないのだ。

自分達は人間だった。けれど記憶がない。その状態は彼等の胸の中に一つの曇りを作り出した。何がなんでも、昔の自分を知りたい。その衝動にかられてしまう。

だから、彼等は神と言われるモノの元、人間に「告白」させる仕事をしているのだ。神が言うには、この仕事で記憶が甦るというのだが……。


「うーん。たっりなぁ。もう数十件もこなしてるってぇのに記憶の欠片も出てきやしねぇしよ。ほんとにこんなこと続けてて記憶なんて戻るんかなぁ?」


「さあ?でも、他に方法はありませんしね。地味にこなして行く他ないでしょう。」


未だに記憶は戻ってはいない。うんざりとしてきたデューだが、他に方法がないことは百も承知なのである。だから仕事を続けるしかなかった。


「おっ、これいいんじゃね?相当相手嫌ってんのに、友達でいる奴。」


「デューは好きですね。そういうの。まぁ、私もそっちの方が性に合いますが……たまには別の用件をこなしてみてはどうでしょう?何か違うかもしれませんよ。」


リストの一つを見、嬉々として指をパチンと鳴らすデューに、マァリアスは苦笑った。いつも同じような内容の仕事をデューは選ぶのだ。もちろんマァリアスとしてもそういう用件のがやりやすいし、好みなのは確かだ。しかし、そのような内容ばかりやっているからこそ、記憶が戻らないのではないかとマァリアスは考えていた。


「えー?でもさぁ……オレ、こんな好きな子がいるけど、その好きな人に告白できない。とか……あんまりそそられねぇぞ?」


デューは一つを指差し頬を膨らませる。本気で嫌そうだ。


「じゃあ、それにしましょう。」


嫌そうな表情でいるデューに、あえてマァリアスは笑顔で返した。マァリアスも正直そういう話しはあまり好きではないし、それに手を貸して面白いとはまったく思えない方なのだが、記憶を取り戻せるならどんなことでもやろう……と心に決めていたのだ。

それに、デューがポカンと口を開け変な顔をしているのは、少々おもしろいモノがあるかもしれないと考えていることを、デューは知らない。


「……はぁーっ!?何ソレ!新手のイジメか!?」


やっと理解したデューが牙を向いて吼える。が、マァリアスはどこ吹く風。デューからリストを奪い取りサラサラっと何かを書いてしまう。それは、契約の証だった。そうなってしまえば、デューもこの仕事を請けざるえないことをマァリアスは知っているのだ。


「くっ、くそっ!ちょー、やる気しねぇ!!」


悔しそうに地団駄を踏むデューに、マァリアスは笑顔を向けた。


「シー・フェション出動ですよ。デュー。」


そう言って、マァリアスは契約した紙を放り投げる。するとどうだろう、それが青白く光り輝いた。その中にマァリアスは一歩足を踏み入れる。

契約の光は、仕事相手の場所に連れて行ってくれるのだ。デューも舌打ちすると、仕方なくマァリアスの後を追うのだった。





シー・フェションとは、人間に「告白」させる場所、もしくは職業のこと言う。

今のシー・フェションはオレ、デューと相方のマァリアスだけなんだけどな。珍しい職業だし、なりたいって言う奴もほとんどいねぇ。

だけど、オレ達はちょっと訳ありでこの仕事についている。それと言うのも、オレは今現在は魔物とか闇の者とか恐れられる種類なんだけど、どうも元は人間だったらしい。だから、その時の記憶を取り戻すために今はこんな仕事をしているわけだ。

まぁ、結構おもしろい仕事だとは思うんだよな。人の闇を暴いて見たり、告白された方のあの崩壊加減とか……見てて楽しい。


「さて、ターゲットは。っと。」


マァリアスがついた先でなにやら紙を広げている。にしても、公園ってやつだな。ここは。

今回の仕事は、一人の女が、好きな奴に告白できないんで、オレ達がそれを手伝うってやつだ。激くそつまんなそうだぜ。ったく。

耳を隠すためのフードを目深に被って、オレはため息をついた。

暗闇の中、マァリアスは目を細める。……読めんのか?こんな暗闇の中で……まぁ、一つ点いたり消えたりしてる電灯あるから読めないことはないだろうけど。


「いましたよ。あの子です。」


マァリアスが顔を上げて、ある一点を指差した。そこには、ブランコに乗っている……女か?

色素の薄い長い髪が顔を覆い隠してるせいで、いまいちよくわからん。


「ふーん?」


あーあ、やる気でねぇなぁ。ったく。


「さっ、声をかけてきてください。」


「はぁ?」


笑顔でマァリアスがオレに言った。いや、ちょっと待て。なんでオレが声なんかかけなきゃいけねぇんだよっ!


「どうやら、貴方と外見が同い年ぐらいのようで。私より気兼ねに話せるかもしれませんよ?」


「ちょ、ちょっと待て!オレはオマエみたく全部が全部人型じゃねぇんだぞ!?人前に出れるかってーの!!」


あははと爽やかに笑いながら押し付けてくるんじゃねぇ!

マァリアスは人をおちょくるのが得意だ。でも、それにムキになるオレもオレなんだけどさ……。


「あ、あの……。」


か細い声がオレの耳に届く。ん?誰だ?

オレは振り返って目をひんむいた。なんと、ターゲットがすぐ近くまで来ていたのだ。オレは一歩下がってしまう。

彼女の顔は、電灯に照らされてくっきりと浮かぶ。

輪郭は弧を描き、目はおっとりとしたたれ目。どちらかといえば可愛い部類に入るほうだと……思う。


「おやおや、これは美人な方ですねぇ。」


気楽にマァリアスが言う。だが、その一言で決定した。彼女はオレが苦手とする部類だということを。

ザっと鳥肌が立つ。気持ち悪くて、オレはすぐさまマァリアスの後ろに身を隠した。

じつはオレ、人間でいう顔良し、性格良しの人間が大の苦手なんだ。鳥肌が出て力も入らなくなっちまう。とくに女だと本気で拒否反応が出てなかなかひかないんだ。


「ど、どうしたんですか?」


オレがマァリアスの服をつかんで、しゃがみ込んでいるものだから、女が心配そうに話しかけてくる。

それ以上、話しかけるな!!

更に鳥肌が立ったオレを、マァリアスが庇うように自分の後ろに隠してくれた。


「すいませんねぇ、この子デューは女性恐怖症で。」


いや、違うっ!顔も性格も良くなければ全然平気なんだよっ!

って、突っ込みたくても突っ込めない……だって、鳥肌が立ってて口を動かすどころの騒ぎじゃねぇんだ。


「……そうなんですか。」


「おや、貴方も何かお悩みですか?デューと同じ顔色をしていらっしゃる。」


マァリアスは、本当に人に絡むのが上手い。いつもいつも絡み始めはマァリアスがやってくれる。まぁ、端正な顔立ちも手伝ってのことだろうけどさ。

ちなみに、マァリアスは性格が悪いから拒否反応はでないんだけどな。


「え……?」


彼女は押し黙って片手で口を覆い、顔を落としてしまった。オレはとりあえずマァリアスの影から様子を窺う。


「何か……胸に秘めていることがおありなのでしょう?」


彼女に囁くように、低い声でマァリアスは言う。これで落ちない女はいない。

いや、その妖しい雰囲気は怪しまれるのとは逆に信用してもよさそうだと、なぜか相手に思わせる効果があるのをオレはよく知っているからそう思うんだけどな。


「…………。」


「いいじゃないですか。ただの他人。話した所で貴方の周りが変わるわけでは……。」


マァリアスの言葉は途中で止まった。彼女が一歩引いたから。

そういえば今回の仕事はいつもと内容も……ターゲットも違うんだっけ。眉を顰めて品定めをするようにオレ達を見るターゲット。これは明らかに怪しまれているっ!

どうやら、いつもの対応だと上手くいかないらしいな。こりゃあ、やっかいだぜ……。


「……ここで逢ったのも何かの縁。私達でよければ貴方のお話。聞かせていただきませんか?」


すげぇ、回転の速さだな。すぐさま別の言葉を爽やかに言うマァリアス。けれど、彼女の不審の目はそのまま。このままじゃ仕事ができないじゃんかっ。どうすんだよ?

オレがじと目で見ようが、彼女が冷たい視線をよこそうがなんのその。マァリアスの口は動く。


「話せば少しは気が晴れるかもしれませんよ?」


「いいわ。お話相手になって。」


彼女はようやっと警戒を解いて淡い笑顔を浮かべた。それには一瞬ドキっとするくらいだ。……鳥肌もえらいもんになったが……。

柵に腰をかけ、彼女は空を見上げた。


「わたしはコルレよ。貴方達は?」


「私はマァリアスと申します。こちらデュー。」


軽い自己紹介。オレは顔だけ出して首だけの挨拶をした。彼女はオレとマァリアスに視線を戻してから、また言葉紡ぐ。


「わたしね……好きな人がいるの。」


いきなり本題に入るコルレだけど、彼女の顔は曇っていた。何か嫌な予感がする。


「ほぉ、それは……告白とかしないのですか?」


「できれば……良かったね。」


率直なマァリアスの質問に、コルレは顔と肩を落とした。やっぱりどうも様子が可笑しい。こんなに暗くなるなんて、好きな人のことを話す雰囲気じゃない。


「良かった……というと?」


「……あのね、私が好きな人……死んじゃったの。」


彼女の一言に、俺は固まった。今、何か聞いちゃいけないことを聞いた気がする……。いや、マァリアスも目を見開いて固まってるから、空耳じゃないんだ。

……好きな奴が死んだって……それじゃあ……告白できないじゃんかっ!?


「死んで……しまったのですか?」


マァリアスもショックのあまり声が掠れているのだが、なんとか聞き返した。コルレは首を縦に振ってそれに答える。

どうやら本当のことらしい。どうするんだよっ。このままじゃ仕事にならないじゃないかっ。


「をい、どうするんだよ?マァリアスっ。」


「どうしましょうねぇ。」


我慢できずにごそごそとマァリアスに耳打ちするも、困ったように首を傾げられるだけだった。マァリアスも相当困っているのはわかってるんだけど……どうすればいいのかわかんねぇぞっ。オレだって!


「あ、あのねっ。デュー君だっけ?よく顔見せてもらいたいんだけどっ。」


オレ達がこそこそと話してる間に復活したのか、少し出ていた涙を拭いコルレは笑顔を向けてきた。オレはさっとマァリアスの後ろに身を隠す。直視は正直逃れたい……。


「な、なんでオレなんだよっ!?」


「……デュー君。私の死んだ好きな人に似てる気がするの……だから、つい声かけちゃって。ね、お願い。もう一度顔見せて!」


身を乗り出して言うもんだから、コルレの顔がぐっと近づいてきた。なんでオレが似てないといけないんだよっ。

とりあえず直視しないようにマァリアスの服をぎゅっと掴もうとした。けど、それは空を切って……。

一瞬身体が揺らいだかと思うと、女の顔が目の前にあった。


「ひっ……。」


悲鳴にもならない声をあげてしまうオレ。


「どうぞ、好きなだけ見てください。」


マァリアスの言葉でようやっとわかったのは、奴がオレを持ち上げて彼女の前に突き出したことぐらい。

な、何すんだよっ!?

マジマジとコルレがオレを見る。ぐっ……鳥肌通り越してジンマシンが出てきちまう。どうすることもできずに……というか、動くこともできないんだよな……情けないことに。


「やっぱり……そっくり……。」


あっ……駄目だ。意識が遠のく……。

段々と薄れる中で、聞こえたのは知らない声。


「ねぇ、デュー。生きてね。」


知らない女の声……。












目が覚めると、まったく知らない部屋に居た。

どこだ……ここ。頭がガンガンする。とりあえず身を起こし、頭を押さえながら軽く振った。


「デュー、起きましたね。」


マァリアスが横に座ってた。っして、前にはあの女っ!言葉よりも先に身体が動いて後ろに下がる。


「な、な、なっ。」


「こらこら、デュー。コルレさんに失礼じゃないですか。」


後ずさりをするオレの腕をぎゅっと掴んで自分の隣にひっぱるマァリアス。

くっ……これはイジメだっ。オレが凄く真剣に嫌がってるのにっ!


「じゃあ、デューさん。よろしくね。これからデートに行きましょう!」


「はぁ?」


にっこり笑って言うコルレ。なんか、一瞬にしてその爽やかな笑顔を見たら鳥肌が収まった。性格良しに少し亀裂が入ったおかげで……な。これはようするに……この女が何か企んでいるからだ。

オレはマァリアスを見上げて説明を乞う。


「好きな人と瓜二つのデュー君とデートしたいそうですよ。良かったですねぇ。」


あはははーっとにこやかにわらっとる場合かっ!なんでそんなことになってるんだよっ!?オレが立ち上がって、握りこぶしを強く握って反論しようとすると、マァリアスは目を細めた。

奴の目は言っている。仕事の一環であると。この女に付き合って必要な情報を引き出し、円滑に仕事を進めろと言っているのだ。

仕方なくオレはその場にどすんと腰を下ろした。


「しかたねぇなっ。付き合ってやるよ!」


鳥肌も収まったし、なんとかなるだろう。多分。


「ありがとう!」


だが、ぱぁっと明るい顔になったコルレの顔を見てしまうと、鳥肌は元に戻った……をいをい。こんなことで大丈夫か?





街へ繰り出して、ぶらぶらと歩いているオレとコルレ。


「ねぇ!なんでそんなに離れて歩くの!?」


オレが歩いているとコルレは怒ったように走ってくる。彼女は昨日とは違う格好をしている。スタンダードなシャツに上着。フリフリの黒いスカートをはいているのだが、それが似合っていた。


「鳥肌立つんだよ。オマエの近くにいると……。」


オレも早歩きでなるべく距離を縮めないように言った。嫌そうに言ったものだから、コルレはぷうっと頬を膨らませる。そんなことされても駄目なもんは駄目なんだけどなぁ。


「ねぇ、なんで女性恐怖症になったの?」


どうにもならないことがわかったんだろう、彼女は一定の距離を置き横に並んだ。

女性恐怖症じゃないんだけど……そういえば、なんでこんな体質になったんだっけな?元からだったような……そうじゃないような……まぁ、いいか。本当のこと話すのもめんどくせぇし。


「オマエが好きな人のことはなしてくれんなら、話してもいいぜ。」


そんなことより今は情報収集。さっさとこの仕事終わらせていつもの楽しい依頼内容しに行こうっと。

とりあえず笑ってみせたけど、きっとぎこちないんだろうなぁ。だって凝視したくないから視線は合わせてねぇし。


「……私の好きな人はね。小さい頃から私の面倒見てくれた近所のお兄ちゃん。いつも優しくてね、とっても悪戯好き!」


無邪気な笑顔。見なくたってわかる。だって、鳥肌が……マジでやばいくらい立ったから。

でも、そんなもんか。近所のお兄さんってことは、あんまり『告白』したところでどうにもならなそうな相手だな。それに、もしかしたら尊敬を好きと履き違えてる可能性もでかいときた……つまんねぇな。なんで人間ってこうもつまんねぇことに熱くなれんだ?

オレの心中がひんやりと冷めていくのが嫌でもわかる。正直理解しがたい。それと、なぜかこういう方面の話しはオレは嫌いなんだ。

だからこそ、よけいに鳥肌もたつってわけだが。


「ふーん。」


「あのねぇ、貴方が聞きたいって言ったのになんでそんな興味なさそうなの?」


気のない返答にちょっとむっときたんだろう、少し刺のある口調で返してきた。

なんかもうめんどくさくなってきた。本当のこといっちまおうかなぁ。そんで、脅してとっととそいつの墓にでも行って告白してくれりゃこの仕事終わんじゃね?


「ないね。」


もううんざりしてきて、思わずそう答えた。案外に冷たい口調になって、自分でも驚いたけど。だけど、やっぱりオレには無理してこんな奴に愛想を振りまけるわけがない。


「……ちぇっ。本当にマァリアスさんの言った通り釣れないんだなぁ。」


予想してたのか、コルレはあんまりダメージを追っていない。頬を膨らませただけだ。そして、ちらりと様子を窺うようにオレを見る。


「もう……いっそ帽子脱ぎなさいよっ!」


「はぁっ!?」


いきなり大声でそう言って目深に被っていたフードに手を掛ける。オレは予想だにしなかった事態にどうすることもできず声を上げるだけ。

あっさりとオレのフードは後ろに引っ張られる。思わず手を伸ばすけど、時既に遅し。パサリという音でオレのフードは首元に落ちていた。

露わになったオレの耳。もちろんそれに彼女は釘付けになる。

ど、どうしよう!?


「…………。」


しばらく彼女は目を見開いたまま固まって、オレも同じく彼女を見返したまま固まっていた。


「それ、何?」


「耳。」


「…………。」


短い質問と単発の返答。明らかにどちらも同様しているのがわかる。オレは彼女の反応が次にどうなるのか、それが気になってしょうがなかった。

この化け物。とか、何それ!?とか否定的な言葉を浴びせられるのだろうと思った。だけど、彼女はオレの予想と反してオレのフードを再び持つと、それをオレに被せたのである。

オレは彼女の行動に目を白黒させるばかり。


「行こう、デュー君。」


そう言うと、彼女はオレの手をぎゅっと握って静かに歩き出した。この時はあまりのことに驚いて頭が真っ白になっていたせいか鳥肌は立たなかった。それどころか、どこか懐かしい匂いがした。


「デュー、行こうよ!」


どこからか知らない女の声。いや、本当は知っている記憶の声。でも……誰だかはわからずに。

オレは一瞬後ろを見るも、その声の主はいなかった。街がどんどん遠ざかっていく。







着いた先は十字架がいっぱい在って、すぐさま墓場だとわかる場所。彼女は一つの墓の前で立ち止まった。


「デュー君。貴方のこと……教えてくれる?」


「え?」


コルレは墓の前で座り込み、オレに背中を向けているから表情はよくわからない。だけど、口調からは真剣さが伝わってくる。


「貴方の本当のこと。教えてよ。驚かないからさ。」


「……でもっ。」


尚も促してくるけれど、ここで魔物だって……言えるわけがないだろう?


「信じるから。」


彼女の一言は誰かと被った。そして、オレに強い衝撃を与えていた。なぜだかはわからない。その一言は、オレにとってどうにも大事な言葉な気がしたんだ。

だから、彼女になら話してもいいと思った。オレの本当のことを。


「……オレは、魔物と呼ばれる部類の者だ。人間じゃあない。あんたの前に現れた目的はあんたに「告白」をさせること。それがオレ達の仕事だから。」


「そっか……そんな仕事してるんだね。」


淡々と説明をして、オレは彼女の隣へと歩を進めた。彼女はオレを上目遣いで見上げて淡く微笑んでみせる。疑っていないまっすぐな瞳。素直に綺麗だと思った。


「あぁ。」


それで人間の時の記憶を取り戻したくて。という言葉は飲み込んでしまった。そこまで彼女を巻き込むなんてことはしたくなかった。

これはオレだけのこと。決してマァリアスでも、お互い自分の過去のことについてはいっさい触れていない。だから、あいつがどこまで記憶が戻ってるのかも本当は知らないんだ。本人は戻ってないとか言ってるけど、真相は知らない。


「じゃあ、私がここで「告白」すれば仕事もお終いかな?」


「……マァリアスから少し聞いてただろ?」


あまりにトントン拍子で進むことに、オレはようやっと気付いた。全てマァリアスが仕組んでいたことを。


「まぁ、ね。お仕事の話しは聞いてた。デートが終わったら墓場で「告白」することも約束してた。でも」


彼女はそこで止めて、オレの瞳をしっかりと見据えた。そして、「人間じゃないのは知らなかったよ。」と小さく呟いたのだ。オレの耳には少ししか届かなかったけど、口の動きがそう言っていたんだ。

彼女は再び顔を墓場に戻した。刻まれた名前。


『デュー・タイトゥ』


オレは目を見張った。自分の名前?見間違いじゃないのか?

だけど、いくら見てもそれはオレの名前で……。


「私ね、お兄ちゃんのこと。ずっと好きだった。好きだったよ。」


彼女は言った。仕事はこれで終わりのはずなのに、オレの心には暗闇がゆっくりと侵食していく。

どういうことだ?なんで、コルレの好きな人の名前がオレなんだ?いや、ただの同姓同名かもしれない。だけど……。


「デュー君!ありがとう。気持ちがすっきりしたわ。へへ、びっくりしたでしょ?名前が一緒で。」


にっこり笑いながら言う彼女の顔が、オレには少し歪んで見えた。ふらふらする奇妙な感覚。どうしようない不安が胸の奥から湧き上がってくるのがわかる。


「デュー君!?」


オレは走り出していた。コルレに背中を向けて、一心不乱に……どこかに行く当てがあるわけじゃないのに。なのに、走り出していた。

止まらない。止められない。


「デュー?」


しばらく走って、どこをどう走ったのか最初に来た公園付近で、オレを誰かが呼び止めた。よく知った声。


「マァリアス!」


オレは頬を伝う生暖かいものを一回拭って彼の方へと振り返った。奴は珍しく目を見開いて驚いた表情をしていた。


「デュー……どうしたんですか?」


「……オレ。どうしたらいいかっ。」


オレはマァリアスの服を掴んで、その後言葉に詰まった。なんていえば言い?オレの墓があったんだ?でも……もしかしたら違うかも。でも……。


「わかりました。ゆっくり話を聞きましょう。落ち着いてください。」


マァリアスはにっこりと笑って、オレの背中をポンポンと叩いた。それが暖かいと感じて、余計にオレの涙は流れ出してしまった。可笑しい感覚。

暖かさなんて……感じたことなかったのに。遠い昔の記憶以外には……。

洗いざらいマァリアスには話した。そうじゃないと、彼にはよくわからないだろうと思ったからだ。


「そう……でしたか。良かったじゃないですか。」


「え?」


オレの説明を聞いて出た返答がそれか?話したせいかいささかオレは落ち着きを取り戻していた。


「だって、過去を思いだしているのでしょう?目的に近づいてるではないですか。まぁ、その墓は貴方のではないでしょう。時間軸がおかしすぎますから。」


淡々と話すマァリアス。ずずってオレが鼻をすすると可笑しそうに声を出して笑うとこからしてあんまり真剣さは感じられない。まぁ、ここで重々しく話されてもオレがへこむだけだからいいんだけどよ……。


「思い出すって言っても、まったく一部分っていうか、知らない女の声だけだぞ?頼りになるのかよ?」


「そうですねぇ。それは多分コルレさんと関わっていけばおのずとわかって行くと思いますよ。」


オレの頭を軽く撫でてマァリアスは言う。けど、それじゃあ、オレは納得できないんだ。


「でもっ。」


「ふふふ。デューのコレルさんに対する反応。かなりのものでしたね。何か身体が拒否してるような……コルレさんと居れば何か思い出しますよ。」


オレの言葉を遮って見せた意味ありげな笑みに、オレの背筋がぞっとした。でもっとは言えない様な異質な雰囲気に、オレはマァリアスから顔を背けた。


「それに、仕事はどうやら失敗のようです。」


「えっ?」


いきなりの違った話題にオレは思わず顔をマァリアスに戻した。普段の笑みに戻っていたマァリアスだが、その笑顔は崩れない。


「コルレさんの依頼の欄が、赤く光って先ほど消滅しました。そして、新たにその欄にコルレさんとデュー。貴方の名前が出てきました。この意味、わかりますか?」


「はぁ!?オレの名前!?そ、それって……つまりはコルレとオレが新たに「告白」する秘密を持ってるってことじゃねぇかよっ!!」


「しかも、一度契約した欄に出てくるということは、契約実行ということです。というわけで、貴方もコルレさんに洗いざらい言ってもらわなきゃなりませんので、よろしくお願いします。」


にっこりと笑う顔は仕事の顔だ。知ってる。この顔は何がなんでも任務を実行するという顔だ。それは、オレに対しても有効で……ため息出そう……。




とりあえずコルレの家の前で待機中。未だにあいつ帰ってこないのな……もう日も沈むってーのに。

はぁ……仕事だからって、オレがコルレに「告白」する内容をマァリアスは教えてくんねぇし。でも、どうせあれだろ。もう残ってる秘密なんて、人間の時の記憶を取り戻そうとしてる。ってこぐらいだろ。

あーあ。早く言ってすっきりしてぇなぁ。

にしても……あの声は誰だったか。知ってる。知ってるんだけど、まったく思い出せない。


「デュー君!!」


オレは名前を呼ばれたことにはっとする。考えようとしてるところに、丁度コルレが帰ってきたのだ。道路の向こう側で手を振りながらこちら側に駆けて来るコルレ。

すぐ横に、車って呼ばれる馬がなくても走る馬車が目に入った。それがコルレに向かってスピードを落とさないのを……オレの頭が危険信号を出す。

オレは彼女の名前を呼んで手を伸ばす。けれど、届かない。

ゆっくりと動く時。あぁ……オレはこの場面をよく知っている。知っている。二度目だ。また、同じことを……オレは。


「嫌だぁああ!」


そう叫ぶの精一杯で、届かない手。


「デュー。泣かないでね。きっとまた会おう。」


知らない女の声。違う。知らないわけがない。


「マーナ!!」


オレのたった一人の。たった一つの宝物。馬車に轢かれ死に際には笑顔で……マーナ。君を忘れるなんて、僕がどうかしてたんだ。

一瞬、過去とフラッシュバックして、馬車に引かれる白銀の髪をなびかすマーナが見えた。だけど、現実は車がオレの目の前を走りすぎていった。


「……マァリアス……。」


コルレはマァリアスが抱えて飛んでいた。人間技じゃないけど、そんなこと言ってる場合じゃない。なんとか助かってよかった……。

僕はへなへなとその場に座り込んでしまった。


「あー、びっくりした。」


本人は口を押さえてそんな言葉を言ってるけど、大して驚いてない感じだ。オレの目の前に着地して、マァリアスはオレすらも抱えた。

そして、人に見つからないうちにさっさとコルレの家の中へと入るのだった。まったく手際のいい奴だ。

コルレの部屋で三人とも机を囲んで座った。


「あ、あのね。デュー君……。」


話を切り出したのはコルレ。オレは俯いて何も言えないでいる。マーナのことを思い出してから、一つ気になることがあって、コルレの顔をまともに見れなかったからだ。


「マーナって……誰?」


「オレの……大事な人……。」


それだけやっと答えた。記憶が洪水のようにやってきて……確実に元の人間だった時の記憶を思い出している。


「……へぇ、そう。」


コルレはそれだけ言って、黙りこくる。沈黙が痛い。オレはマァリアスをちらりと見た。するとどうだろう、この状況を楽しんでいるかのように笑ってた。

むっとして、何かを言おうとしたら、バチっとマァリアスと目が合ってしまう。一瞬怯むオレ。


「記憶、戻ったのですね。」


「あぁ。」


なぜか、後ろめたくなってマァリアスから顔を逸らした。


「それで、コルレさんに言うこと。あるのでしょう?」


くそっ……何もかもお見通しかよっ!

オレはマァリアスをキッっと睨みつけた。けど、そんなのなんのその。相変わらずの笑みでウィンク一つ。……こいつ、楽しんでやがる。


「……オレ。仕事をしてたのは昔の記憶を取り戻すためだったんだ。」


「うん……。」


オレは未だにコルレを見られずに話しだす。コルレは頷いてオレの話を促してくれた。


「それで、あんたに会って……記憶が戻ったんだ。ついさっき、全て思い出した。マーナのことも……。」


「うん。」


様子を窺うが、コルレは顔を明後日の方向に向け、オレの顔を見てはくれなかった。それでも、頷くところからまだ話しても良いんだ。って思った。


「マーナは、オレの大事な人で……でも、助けられなかった人。あんたによく……似ていた。」


その言葉でようやっとコルレは顔を上げた。そう、似ていた。おっとりとしたたれ目で、優しく強い意志を秘めた瞳。そして、いつも僕を引っ張っては外へと連れ出してくれたマーナに。コルレはそっくりだったんだ。

だから、身体は拒否を示していた。記憶を思い出してしまえば、オレはきっともう。魔物ではいられない。暖かさを知っている人間だ。

ある意味、それはそれで辛かった。


「私に……そっくり?」


「そう。可笑しいよな。オレは、お前が好きな人に似てて、お前はオレの大事な人に似てたんだ。」


でも……きっとお前を好きになんかなんないよ。これ以上、あいつの手の平で躍りたくなんかない。

オレはマァリアスを見た。


「ふん。これで満足かよ?でも、オレはコルレなんか好きになんねぇぜ。」


笑ってみせた。一瞬マァリアスの眉がぴくりと動いたのを捉えた。

どうせ、お前はそうなることを見越してたんだ。オレがこいつに「告白」するって。でもな、マーナの代わりなんていやしない。いないんだよ。だから、オレは……死ぬよりも魔物になることを選んだんだ。


「おやおや。まぁ、いいんですけどねぇ。コルレさんの話しも聞いたらどうですか?」


「何でだよっ!?こいつは、近所の兄さんとか言うのにオレを重ねてるだけじゃねぇじゃかよっ!!そんなの、好きだなんて言えるかよっ!?」


それでも落ち着いているマァリアスに、オレはついに怒鳴り散らした。頭にきたんだ。ありえないって。

何でこんな奴の話を聞かなきゃいけないんだ。って。

オレは思わず勢いで立ち上がった。握った手が少し痛みを訴えてくる。


「ち、違う!!コハク君!!」


「はっ?」


「えっ?」


いきなり違う名前を呼ばれて、間抜けな声を上げる。それに、コルレも目を見開いて戸惑いを見せた。マァリアスだけが、愉しそうに笑っている。


「……オレはデュー・タイトゥ……マァリアス、てめぇっ!」


オレはようやっと理解した。マァリアスがなんらかの方法でオレとコルレの知覚と聴覚を操っていたのだと。名前を完璧に変化させて……墓の名前もオレには自分の名前に見えたけど本当は違ってたんだ。


「おやおや。知っている名前の方が呼びやすいかと。」


その一言でコルレも気付いたのだろう。本当の名前が操作されていたことに。


「じゃ、じゃあ改めてデュー君。私の話を聞いて。」


そして、何度かマァリアスと話していたせいか、何を言っても無駄なことを重々承知しているコルレ。……ある意味すげぇな。

真剣な瞳で見られ、思わずオレはその場に腰を下ろした。でも、彼女を見ることはしない。それはきっと、何かの枷だと気付いているけど、気付かないフリをする。


「なに?」


「私ね……実はデュー君に一目ぼれしてたの。」


「……はっ?」


顔を赤らめて何を言うかと思えば……どうせマァリアスの入れ知恵か何かだろう?じと目でマァリアスを見るけど、軽く首を横に振られてしまった。


「嘘じゃないよっ。信じて!」


『逢いにきたよ。』


オレは目を見開く。空耳か?コルレの声に混じって、マーナの声が聞こえたんだ。記憶の声なんかじゃない。


「デュー君!」


『デュー。』


気のせいなんかじゃない。マーナの声がする。オレはコルレを凝視した。そこにはコルレしかいない。いないけれど、やっぱりオレは彼女から何かを感じている。鳥肌は立たないけど、だけど何かがある。


「デュー。転生というのを信じますか?」


いきなりマァリアスがオレに言った。転生といえば、生まれ変わり。死んだ人が新たな人となって生まれてくるという奴だ。

オレはマァリアスを見た。


「マーナさんの生まれ変わりがコルレさんなのですよ。」


いつになく真剣な表情のマァリアス。冗談を言っているようには思えない。でも、それじゃあ……オレにどうしろって言うんだ?


「デュー。いいんですよ。気持ちを素直に言ってごらんなさい。そうすれば、君も……。」


その後のことは言わなくてもなんとなくわかった。魔物ではなくなるんだよな?マァリアス。


「マーナ……いや、コルレ。オレも、お前と会った時から本当は……」


好きだったんだよ。とそう彼女に耳打ちして……。





デューは、人となってコルレと暮らしている。そして、マァリアスは教会「シー・フェション」に戻るのだ。

けれど、デューには心残りがあった。あの時見た自分の墓。それと、友のマァリアスのこと。


「やぁ、デュー。久しぶり。」


しかし、突如その疑問が飛ぶ日はやってきた。

いきなりマァリアスがデューの家にやってきたのだ。しかも、何のことはない。普通の人間の格好をして、思いっきり馴染んでいる。


「ま、マァリアス!」


いきなりやってきた友に、デューは驚きやら嬉しさやら。とりあえず友の名を呼ぶことしかできなかった。


「実は貴方に言ってなかったことがありましてね。「告白」しに来ました。」


「あ、あのなぁ……仕事はもう終わりだろう?記憶戻ったんだし……。」


怪しい笑みで相変わらずの共に、頬を引きつらせデューは答えた。しかし、マァリアスはウィンク一つ。


「実は、貴方の仕事は終わってないのですよ。私は終わりましたけどね。」


「どういうことだ?」


まったく本題に入らないマァリアスに、デューはやっと自分のペースを取り戻し質問をする。マァリアスは真剣な表情にあり、デューを見据えた。


「次の人間の記憶を取り戻す子の手伝い。それが、今度の君の仕事ですよ。わかりますね?」


「……はぁ?」


マァリアスの言葉にわけがわからないとでも言うように、デューは目を見開いて間抜けな声をあげるだけ。マァリアスは眉をピクリと動かしため息をついた。


「ですから、私のポジションを今度は君がするんですよ。」


そう付け加えた。ようするに、「シー・フェション」とは記憶を捜す者と、捜し終わった者のタッグで形成されているということだ。それに初めて気付いたデューはもう言葉も出ない。


「ようするに、私は貴方にとって神の使いであり、今度は貴方がその子にとっての神の使いになるのですね。いやぁ、結構いろいろなことできますよ?このポジション。」


あはははー。と笑っているマァリアス。実に愉快そうだ。しかし、デューはその場に両手をつき、かなり落胆している。


「……ようするに……また「シー・フェション」をしろってことだな?」


「ご名答。」


デューの返答に気分よく答えるマァリアス。そして、書類の一式をデューへと手渡した。


「それでは、私はこれで失礼します。もう、会うこともないでしょう。」


「待った。」


片手を上げて去ろうとする友に、デューは声を出してとめた。そして、彼をじっと凝視する。


「行く前に一つ。聞きたいことがあるんだ。」


「はい、何でしょう?」


デューはごくっと唾を飲み意を決する。


「最初に見た墓。あれは何だったんだ?オレは記憶を辿る限り、死んじゃあいない。死なずに魔物になったんだ。それなのに、あんな墓……。」


「なに、簡単なことですよ。あの空間は時空の歪みも存在します。それで未来を見せたまで。参考までにどうぞ。」


にっと笑ってマァリアスは一礼。今度はデューも止めなかった。マァリアスの後ろ姿を見送って、デューも一礼をしたのだった。


そして、今日もどこかで「告白」させる仕事を「シー・フェション」が行っていることでしょう。

今度はもしかしたら愛の架け橋……しているかもしれませんね。





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