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使い魔

「遥、使い魔って……どういうこと!?」


尋ねると、遥は「今から説明しようと思ってたのに。」と吐き捨てる。


そして、遥は静かに口を開き

「さっきスマホで調べたんですけど……所謂退魔師の行う『退治』の手順って、加賀魅先輩の需要と合致すると思ったんです。」

と続けた。


「退治されちゃうのに需要と一致するの?矛盾してね?」


加賀魅先輩が疑問を口にする。

遥はそれを聞いて「ちっちっちっ」と唇を鳴らした。


「いいですか?『退治』の手順はこう。魔者を弱らせ、力を封じ、使役する……使役させられた魔者は、悪さができないように力を奪われながら生活するか、退魔師の使い魔になることが殆どです。」


「先輩の自由がなくなるだけの気もするけど……」


私が言うと、遥はゆっくりと首を振り

「ここからが本題。使い魔契約には、退魔師協会が定めた必須項目っていうのが存在する。

それは……!『魔力補給の責任を担う』というもの。」

と語る。


(魔力補給の責任……?)


「……満足に餌を与えるのが飼い主の責任、みたいな話?」


加賀魅先輩の要約に、遥は満面の笑みで「そう、例えば戦闘で消耗した場合に退魔師は対価を払う義務がある……つまり!桃ちゃんの使い魔になれば定期的に彼女が魔力を供給してくれるってわけです!」

と口にした。


「えっ」


違う……この男、本当に私を助けに来たわけではない。

この事態を納める為に私を売りに来たのだ……!


「ちょっと、何勝手なこと言ってんの!?

夢魔の魔力補給のしかた、遥だって知ってるでしょ!?」


私が声を荒らげると、遥は自分の爪を眺めながら「知らなぁい、てかその質問ってセクハラ。」と呟く。


(やっぱり知ってるんじゃない……!)


「まあ落ち着けって……加賀魅先輩って普段から激モテだし、かなり少食なはずだよ。

恐らくは、手を繋ぐとかそんなんで事足りる。」


遥の言葉に、先程の加賀魅先輩の言葉を思い出す。

――加賀魅先輩は、魔力補給で苦労したことがないと言っていた。


遥の言う通り、手を繋ぐ程度で魔力供給が可能なら、この事態を納められる上に私も退魔師引退を免れて一石二鳥だ。

加賀魅先輩が納得すれば戦わなくてもよくなるから、遥が退治に加担したことはバレにくい。


……もしかして遥は、朱天君と戦いながら最も被害の少ない選択肢を考えてくれていたのか……?


「で、どう?加賀魅先輩。主従関係とはいえ、桃ちゃんと一緒にいれる契約って考えたら……概ね結婚と取れなくもなくない?」


「確かに……俺立場には拘らないし、子供の頃誰かに養って貰うのが夢だったから全然あり。」


遥の問いに、加賀魅先輩は笑顔で答える。


(ろくでもないな……)


「桃ちゃんはどう?加賀魅先輩、かなり強い魔者だし……雑魚のお前の使い魔になってくれるなんて願ってもないことだろ。」


遥が腕を組みながら言う。

確かに強力な使い魔がいてくれたら助かるし、何より退魔師引退を逃れられるのは大きい。


「……私も……先輩がいいなら、あり寄り。」


「じゃ、契約成立だな。後はお前が何とかして、僕は昼寝に行ってくる。」


遥はそう言って、ボロボロのまま保険室を出てしまった。


「あっ……」


(お礼、言えなかった……)


私は、加賀魅先輩の方に向き直ると「じゃ、じゃあ……!使い魔にしますよ、後から訴えないでくださいねっ!」

と言って契約用の道具を取り出す。

それは「制御札」と呼ばれる、木の御札がぶら下がったネックレスのような物だった。


「えっと……これから先輩には困った時に助けて貰うし、私はそれに相応の対価を払う義務があります。問題なければ、これを首にかけてください。」


説明後に制御札を差し出すと、加賀魅先輩は「なんか違うな」とでも言いたげに首を傾げる。


(まずい……気が変わった!?)


そして暫く眺めた後、おもむろに制御札に触れた。


「……!」


突如、制御札を中心にふわりと風が巻き上がる。

制御札は強い光を発しながら形を変え……指輪に姿を変えた。


「はい!?」


「それってずっと付けてなきゃいけない系のアイテムでしょ?邪魔くさいのは嫌だなーって。あ、大丈夫だよ。効果は変わってないから。」


加賀魅先輩は悪びれもせずに言う。


(制御札を……勝手にオシャレアイテムにされた……)


「それにほら、こっちの方が結婚式っぽい。」


そう言って加賀魅先輩は私の手を掴み、自分の左手の前に持ってきた。


「……指輪、はめて。」


言われるがまま、先輩の細い指に指輪をはめると、加賀魅先輩の周りにホタルが発するような、淡い光が漂う。

加賀魅先輩は少しの間苦しそうに唸った後、息を落ち着かせる。


初めての契約ということもあり、私は心配になりながら加賀魅先輩の手を握って見守っていた。


「……先輩?大丈夫ですか……?」


先輩の息が整って来た頃、声をかける。

すると加賀魅先輩はハッとした様子でこちらを見てから、真っ赤に顔を染めていった。


その目には光が宿っていて、いつもの先輩に戻ったことがひと目でわかる。


「あ……あ……俺……!」


震えた声呟いてから、加賀魅先輩は悶えるように近くのベッドに潜り込み、喚く。


「うわー!嘘だ!ごめんなさい、違う……!こんなつもりじゃなかったの、卒業までには告白しようと思ってて……!」


頭まですっぽりと布団を被りながら、うにょうにょとうねり叫ぶさまは、魔者というより妖怪のように見えた。


(暴走が止まって正気に戻ったんだ。……てことは、成功したんだよね?)


私は保険室の窓から外を見渡す。

すると正気を失っていた教師や生徒たちが、不思議そうに周りを見渡しているのが確認できる。


解決……できたんだ……!


「……キモかったよね……色々お騒がせして……嫌いになった?」


加賀魅先輩が後ろから呟くので、私は振り向いてから彼の傍に駆け寄った。


「か、加賀魅先輩!私は別に今回の件怒ってないです……!いやむしろ、先輩が使い魔になってくれて助かりましたよ!私、7月に魔者退治できないと引退っていう崖っぷちだったので……!」


言うと、加賀魅先輩は恐る恐る布団から顔を出し「……ほんと?」と呟く。


「本当です!……そうだ!今日の放課後私の母と父に報告しに行かなきゃいけないんで、先輩も同行して下さい!」


その言葉に加賀魅先輩は満面の笑みを浮かべ「本当に結婚のご挨拶みたい!行く行く!」

と無邪気に言い放った。


そして、加賀魅先輩はふいにこちらの手を握り

「……茂木さん……暴走した状態の時に言っちゃたのはうっすら覚えてんだけど……好きだよ。結婚したいくらい、大好き。」

と言って微笑んだ。


「んなっ……」


私は不意を突かれ硬直する。

心臓ははち切れんばかりに鼓動し、顔は凄まじい程の熱を帯びていた。


「……茂木さん!めっちゃ魔力漏れてきちゃってる!大丈夫そう!?」


(こ……これが……夢魔を使い魔にするということ……!生半可な覚悟では魔力がもたない!)


私は「気を強く持たねば」と自分の心に何度も言い聞かせたのだった。

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