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恋する魔者

遥に導かれながらなんとか校門まで辿り着くと、遥は加賀魅先輩の周りにいた取り巻きを蔦で拘束する。


「あれ……遥?あ!茂木さんもいる!もしかして連れて来てくれたの!?」


加賀魅先輩はそう言って嬉しそうに微笑む。

顔こそ無邪気だが、それがどこか狂気的に思えて私は遥の後ろにサッと隠れた。


「なんかこいつが勝手に付いてきたんだよ。それより先輩?これってどういうこと。」


遥が尋ねると、加賀魅先輩は無邪気な笑顔をそのままに

「今日は茂木さんと俺の結婚式をする予定なんだ!だから花嫁が来るのをずーっとここで待ってたんだよ。」

と言い放つ。


(結婚!?付き合ってすらいないし告白もされてないのに!?)


「けっ……!?うわー……女性経験乏しいとは聞いてたけど、好きになったら結婚って、めっちゃ段階飛ばしてんじゃん……小学生かよ。」


遥は青い顔で呟く。

良かった、恋愛観に関して言えば遥にはある程度の常識があるようだ。


一方加賀魅先輩は今まで女子を避けてきた影響か、かなり極端な思考になってしまっている。

……でも、今までそんなに異常だと感じたことはなかったのだが……


「覚えてる?僕が昨日教えたこと。」


ふと、遥がこちらに囁く。

――そうか!加賀魅先輩は恋することで暴走してしまった魔者なのだ。


恋……することで……


(私に!?……先輩が!?)


「……おい、何赤くなってんだよ、もしかして満更でもないわけ?」


遥は呆れたように言う。


「ち、違うわ!これはその、怒りで顔が赤く染まったのよ。」


必死に言い訳をしていると、遥はため息を吐きながら「で、どうすんの?お前退治の方法知らないとか言ってたけど。」と尋ねてくる。


「それなら昨日調べたから問題ない!退治するにはまず相手を弱らせて、力を封じて、力を支配下に置けるよう契約して使役するの!」


「……弱らせればいいのね。」


遥は言いながら加賀魅先輩に手をかざす。


「ちょっ……ちょっと待って!何しようとしてる!?」


「は?攻撃しようとしてるに決まってんじゃん。馬鹿なの?……もしかして、加賀魅先輩を傷付けないで!とか言い出さないよな?」


「そうじゃなくて……遥も魔者なんでしょ?退魔師に加担して退治を手伝ったりしていいの?仲間からハブられたり、とか……しない?」


私が言うと、遥は顔を歪め

「……あのな!今そんなこと言ってる場合じゃないだろ!ザコのお前が夢魔と戦って勝てる確率ってどのくらい!?僕の手助けなしに先輩倒せんのかよ!」

と声を荒らげた。


私は図星を突かれ黙り込む。

私たちが揉めてる隙に、加賀魅先輩は魔法を使って炎を撃ち込んできた。


咄嗟に遥が私を抱えて避けるも、炎が掠って絹のような髪が焦げつく。


(あ……)


「遥……!ごめん、髪、あんなに大事に手入れしてたのに……!」


「今そういうのいいから、どうするべきかちゃんと自分で決めろってば。どうするの?自分でやる?それとも僕を頼る?」


涙を滲ませながら混乱する私とは対照的に、遥は落ち着き払っていた。


(どうしよう、加賀魅先輩と戦って勝てる方法なんて思いつかない。遥しか対等に戦えなさそうだけど、そんなことしたら彼の将来ってどうなるの……?)


そこで、私はふと焦げた地面を見て思い出す。

そう言えば、この前遥に焼かれた純銀のネックレスを再度焼き直し形成しなおしたのだった。


夢魔にとっても純銀のクロスは猛毒。

上手く加賀魅先輩の隙を作れればこれを使って弱らせることができるかもしれない。


「わ……私が、一人でなんとかする……!遥は手出さないで。」


「――はあ!?無茶だって言ってんだろ!」


私は文句を返す遥を無視して加賀魅先輩に手を振ると、「先輩、私のこと捕まえられたら結婚してあげますよ!」と挑発して校内に向かい走りだす。

遥が私を追おうとすると、魅了されてゾンビ化した朱天君がそれを阻んだ。


「げっ!ここで鬼丸は反則でしょ……!」


(ごめん、やっぱり遥をそこまでは巻き込めない。守ってもらったのがバレただけでも問題になりそうなのに、一緒に同胞討ちしたことが公になんてなったら遥の人生が壊れちゃう……!)


私は学校内に彷徨く生徒を上手く交わしながら、加賀魅先輩を屋上へと誘導する。


そして、他の生徒が入って来られないように後ろ手で鍵を閉めた。


「……やっと2人きりになれましたね。だめじゃないですか、プロポーズもなしに結婚式の準備を進めるだなんて。」


私が加賀魅先輩に言うと、彼はゆっくりこちらに近付いてくる。


「そっか……ごめん。心の準備とか諸々整える時間が必要だったよね。」


加賀魅先輩はそう口にしたかと思うと、思い切り私に抱きつく。


「っ―――!」


瞬間、ふわりと花のようないい香りがして、私の頭にもやがかかった。


(これが……魅了の効果……!?)


ふわふわとして上手く整理の付かない頭の中に、「ねえ、茂木さん……俺、茂木さんのこと好きみたいなんだ。」と声が響く。


「い、いつの間にそんな……」


必死に正気を保ちながら切り替えすと、加賀魅先輩は少し離れてから私におでこを突き合わせ、

「好きになる要素しかなかったでしょ。茂木さんは触っても変にならないし、俺を助けてくれるし……かっこ悪いとこ見せても、受け入れてくれた。

初めてだったんだよ、君みたいな人……」

と掠れた声で呟く。


「ほ、惚れられるのは嫌なんじゃなかったんですか!?しっかりして下さい!」


「……違うよ。気付いたんだ。俺は、茂木さんに絶対に惚れない後輩っていう役割を望んでたんじゃない。

普通に軽口とかも叩いてくれて、こっちが拗ねる時とかもあって、でも、たまにとんでもなく優しかったりする。そんな、普通の女の子である君と――」


そこまで言い切った後、加賀魅先輩は少しだけ息を吸ってから

「普通の恋がしてみたかったんだと思う。」

と口にする。


あまりにも平凡な願いを語るその唇は、まるで叶わぬことを口にしているかのように震えていた。

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