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魅了パンデミック

遥と話した翌日、私はいつものように学校に赴く。


遥が堂々と吸血鬼であることを明かしたのに、私はそれを見逃してしまった。これは退魔師としてあるまじきこと。


『退治の仕方が分からない』なんて嘘だ。

実は、流石に手順くらいは心得ている。

ただ、遥に適うはずもないという恐怖や、傷つけるのを拒もうとする頭が物事をなあなあにしてしまった。


(最低。)


自己嫌悪に浸っていると、校門の前にやけに大きい人だかりができているのが目に入る。


(……事件かしら?)


野次馬根性で人だかりに寄っていく。

――人だかりは、男女比丁度半々くらいで構成されており、“何か”を熱狂的に見つめているみたいだった。

その目は据わっており、あまり周りが見えていないように感じる。


「加賀魅先輩ー!」


「きゃー!かっこいい!」


そんな言葉が聞こえてきて、うっすらと嫌な予感が頭を過ぎった。

また加賀魅先輩が変な女子に付き纏われて騒ぎになっているのでは?

そう思い、私は中心にいるであろう彼を救う為に人だかりの中に飛び込んだ。


しかし、やっと少し見えた輪の中心で、加賀魅先輩がとても楽しそうに笑っている。


(えっ……トラブルじゃない!?)


ギョッとした私にいち早く気付くと、加賀魅先輩は嬉しそうにこちらを見た。


――何故かは分からないが、今の彼に近付くのはまずい気がする。

逃げようとたじろぐが、周りの人がそれを阻んできた。


(こわい……何これ……!)


加賀魅先輩の手が伸びてきたかと思うと、不意に誰かに襟の後ろを捕み引き寄せられ、苦しいと思いながらも人だかりから脱出することに成功する。


助かった、と思い後ろを見やると、そこには見たことのない綺麗な顔立ちをした青年が立っていた。

片目だけ前髪で隠れていて、そこから綺麗な碧い瞳が覗いている。その薄い色の茶髪からは、どこか儚くミステリアスな雰囲気を纏っている。


初めて見るはずの顔だが、どこかこの青年からは懐かしさを覚えた。


「ごめんね、変なとこ掴んで。来て、話は後!」


茶髪の青年は私の腕を取ると、逃げるように走りだす。


「えっ……ちょ、ちょっと!?」


手を引かれるままに体育倉庫前の扉に辿り着き「ここで野原君が寝てるから、頼るといい。彼は多分、唯一『あれ』に対抗し得る人だから。……どうか、無事で。」と言い残して去っていく。


「あっ……!待って、名前……!」


私が言い切るのを待たず、青年は姿を消してしまった。


(な、なんだか分からないけど、遥に会うしかない!)


体育倉庫に入ると、室内だと言うのにフードを被って眠る完全防備スタイルの遥の姿が目に入る。


「遥、起きて!」


私は猫耳フード姿の遥を強く揺さぶる。

しかし、彼はふにゃふにゃと声を上げながら起きる素振りを見せない。


(可愛い……このまま寝かせてあげたい。)


私は唐突に入った甘やかしモードをオフにして、再び遥を強く揺さぶる。

すると、やっと人形のように長いまつ毛が持ち上がり、赤い瞳が覗いた。


「何……桃ちゃんの癖に僕を起こすなんて生意気。」


遥は目を擦りながら不機嫌に言い捨てる。


「ごめんね、遥は沢山寝るから世界一の可愛さを保ってられるのに……じゃない!何か、妙なことになってるのよ、甘えてないでちょっとこっち来て!」


私はふらつく遥を起こし、校門の見える教室から人だかりを見下ろす。


「なんか、加賀魅先輩が中心になって人が集まってて……ハリウッドスターでも囲んでるみたいに盛り上がってるの。そろそろ授業が始まる時間なのに変でしょ?」


思えば、ここに来るまでに殆ど生徒を見かけなかったのも異常だ。

一体何が起こっているのだろうか?


遥はどこからともなく双眼鏡を取り出すと人だかりの様子を確認して、めんどくさそうな表情を浮かべる。


「魅了だね。あいつら全員、加賀魅先輩に魅了されてる。……あの人も魔者だったんだー……」


遥の言葉に、私は思わず「魅了!?」と大きく言葉を反芻した。


「夢魔とか1部の悪魔が使える、人を惚れさせちゃう厄介な能力だよ。登校してきた生徒がどんどん魅了されて……言わば、『加賀魅大好きゾンビ』にされちゃってんね。」


(ふざけた名前をそんな真顔で……)


「何が目的なんだろ?魔が差して学校を支配したくなったとか……?桃ちゃん何か知ってる?」


「あ……そう言えば昨日朱天君が『加賀魅先輩のメンタルが落ちてる』とか何とか言ってたような……」


私は言いながら携帯を取り出し昨日のメッセージを確認する。


「ああ、それ僕にも来たや。うーむ……昨日一緒にいたなら鬼丸も今頃加賀魅先輩にメロメロかもね。やだぁ、加賀魅先輩きっと可愛い僕を狙ってるよ〜……

おいお前、何とかしろよな。」


遥の態度にイラついて言葉を返そうとした時、ふいに後ろから「いたぞ!」という声が響く。

振り返ると、そこには何人かの生徒が興奮気味にこちらを見ていた。


「あの女だ!捕まえろ!」


言いながら生徒たちは私を指さす。


「狙ってるのは僕じゃなくて……お前みたいだな?」


遥はそう言って生徒に向かい手をかざすと、魔法で薔薇の蔦を召喚し生徒たちの足に絡めた。

生徒たちは足を絡め取られ転んだり、動きを封じられてしまう。


「あ、ありがとう……助けてくれて。」


「何言ってんだ。僕は自分の身を守ったの。……ま、おこぼれに預かりたかったらくっついてるんだな。」


遥はそう言ってどこかを目指し歩きだす。


「ど、どこ行くの!?」


尋ねると、遥は怠そうに振り返り

「決まってんじゃん、台風の目を観測しに行くんだよ。」

と言い放った。

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