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3人目の容疑者

「ちょっと!勝負って何。俺今必死にスポッチョ限定うさこうもりを取ろうとしてるんだけど。」


加賀魅先輩が冷静に突っ込むと、私はクレーンを指差し

「じゃあ、最初の勝負はこれ!加賀魅先輩の狙ってるぬいぐるみをどっちが早く取るか対決よ!」

と言い放った。


「ええ!?困る!」


何やら焦っている加賀魅先輩を置いて、私と朱天君は睨み合う。

その視線がぶつかる先には火花が散っていた。


(なんだかさっき一瞬、『可愛い』だかなんだか言われた気がするけどきっと気のせいね。こんな陽キャが私を褒めるわけないもん。)


私たちは両替を終えると、加賀魅先輩の狙っていた大きなぬいぐるみを交互に狙っていく。

流石と言うべきか、私が誤ってぬいぐるみ端に押し込んでも、朱天君が上手く軌道修正してくれた。


(噂には聞いてたけど、ゲームまで上手いんだ。)


感心しながら横顔を盗み見ていると、あっさりぬいぐるみが取れてしまう。


「よし!取れた!」


私と朱天君はハイタッチをした後にぬいぐるみを加賀魅先輩に渡す。


加賀魅先輩は複雑そうな顔をすると、ため息を吐きながら「ありがとう」と口にした。


「あの……お金、いくらだった?」


「いえ、あまり気にしないでください。スポッチョの料金、加賀魅先輩が払ってくれたのでそのお礼です。」


「俺も返さなくていいよ。いつもお世話になってるから。」


加賀魅先輩の問いに私と朱天君が答えると、彼は「そう……」と呟く。


(どうしても欲しいって言ってたのに、手に入っても嬉しそうじゃないな。)


「次、何する!?バドミントン!?サッカー!?」


曇った表情をしている先輩を尻目に、朱天君は輝くような笑顔で言い放つ。


(きた!朱天君の身体能力がモロに出そうな競技!)


「バドミントンいいね!絶対負けないから!」


私はノリノリで挑発する。

しかし、後ほどそれを後悔することになってしまった。


3人でバドミントンのコートに向かうと、

加賀魅先輩に見守られながら私と朱天君はコートに入る。

そして、朱天君は「いくぞー!」と言ってから楽しそうにラケットを振るった。


刹那、とんでもない速度でバドミントンの羽が私の真横を通り抜ける。

球を目で追うことは不可能で、ふわりと風が私の髪を撫でたかと思うと、背後に羽が転がっていた。


(弾丸……?)


「バッカ……!危ないだろ!女子相手に全力出すなよ!」


加賀魅先輩がこちらに走り寄りながら言うと、朱天君は髪をかき上げながら「ご、ごめん……」と呟く。


(これが、朱天鬼丸の運動神経……!噂に聞いていた通り普通じゃない!でも今の時点じゃまだ確信は得られないわね。もっと観察せねば!)


「大丈夫です先輩!私退魔師なんで、危険には慣れてますから!……朱天君、全力で来なさい!」


言うと、朱天君はどこか嬉しそうに微笑む。

しかしその後は対等にゲームができる程度には手を抜かれてしまった。


(球技は危険と判断されてしまったか……!何か身一つでできて、かつ体力測定可能なものはないかしら?)


私は必死に入り口にあったパンフレットを頭の中に呼び出す。

そして、ふと『ピッチング』ができることを思い出した。


「朱天君!次はピッチングの速度で勝負しない!?それなら危なくないから、朱天君も全力でできるし!」


「いいね!楽しそう!」


私の提案を朱天君は2つ返事で承諾する。


(これで……この男の真の実力がわかるはず!)


そしてピッチングエリアまで足を運ぶと、朱天君は少し肩を回した後で弾を投げた。


すると、風が後ろにいた私と加賀魅先輩を巻き上げる。

そして計測器には、198.4km/hというとんでもない数字が映し出されていた。


(有り得ない……!200キロに届く勢いの弾なんて人間に出せる筈ないでしょ!やっぱり、この人は魔者なんだ……!)


「へへ!自己ベスト出たかも!茂木も投げてよ!」


言われるがまま投げるも、私の球はかなり手前で落ちてしまう。


「ぐぬぬ……」


198キロなんて記録に届くわけもないことは分かっていたが、これ程差があるとは……


「茂木、投球フォーム綺麗だな!多分もうちょっと上らへん狙ったら遠くに飛ぶと思うよ。」


朱天君は馬鹿にするでもなく素直にアドバイスをくれる。

それが余計に私を惨めにさせた。


私が朱天君にアドバイスを貰いながら球を投げる練習をしていると、背後から殺気のようなものを感じて振り返る。

後ろには、大きなぬいぐるみを抱えながら頬を膨らませてこちらを睨む加賀魅先輩の姿があった。


(わあ、風船みたい……)


「……どした?……あ、まずい……」


異様さを感じ取った朱天君も振り返ると、加賀魅先輩を見て顔を青くする。


「2人とも……俺のこと忘れてるでしょ……!酷い、俺だって遊びたいのに……!」


むくれながら言う加賀魅先輩からは、いつもの落ち着いたイケメンの面影が感じ取れなかった。


「先輩、寂しがり屋だから1人にすると拗ねるんだよ……!爆発したら手に負えねーの。」


朱天君は小声でそう教えてくれる。


(惚れられるのが嫌だとか、寂しがり屋だとか……繊細な人……)


とはいえ、加賀魅先輩を放置していたのは事実だし、せっかく場をセッティングしてくれた彼に不義理を働いたのはこちらだ。


「か、加賀魅先輩も投げますか!?私先輩の投球見たいなー!」


私がなんとか機嫌を取ろうと話かけると、加賀魅先輩は依然不機嫌なまま

「……やだ。鬼丸に勝てなくてしょぼいって思われるだけだもん。」

と吐き捨てそっぽを向く。


「じゃ、じゃあまたゲーセン戻りますか!?先輩の好きな物取りますよ、任せて下さい!」


「何で取って貰う側固定なの。俺だって遊びたいんですけど。」


(そ、それもそっか。ミスった……)


どう声を掛けても不機嫌が治らない加賀魅先輩への対処に困っていると、朱天君が「こうなったら奥の手だな。」と意を決したように言う。


「奥の手?」


「茂木、今から目にすること、絶対学校の奴らには言うなよ。……あとあんまりじっくり見ないで。」


朱天君はそう告げ、加賀魅先輩の前まで歩いていく。

そして大きく手を広げたかと思うと――

思い切り加賀魅先輩を抱き締めた。


「――!?!?!?」


私はあまりの光景に思わず声にならない悲鳴を上げる。


暫く朱天君が加賀魅先輩の背中を撫でていると、先輩の顔は段々緩んでいき……最終的に頭を撫でられご機嫌になった猫のような表情になっていった。


(いや、子供じゃないんだから!)


「……加賀魅先輩、温もりに飢えてるからこうやってなだめると落ち着くの。男が近くにいたら試してみて。」


朱天君は加賀魅先輩から離れるとまるで猛獣の扱いを語るかのように解説を始める。


(余りにも謎が多いな、この男たち……)


しかし、今回ではっきりしたことがある。

朱天鬼丸は恐らく何らかの魔者で、身体能力が常軌を逸しているということだ。


暫く3人で遊んでから駅で解散する流れになると、朱天君は「今日はありがとな!俺、茂木のこと凄い好きになったかも!」と笑顔で言い放つ。


「はえ……」


言葉も返せないでいると、「あ、やばい!電車来そうだからもう行くわ!」と言って改札まで走り去ってしまった。


(惑わされるな、あれは魔者!きっと優しい言葉をかけてこちらを籠絡する気なのよ!)


ふいに、誑かされまいと必死に言い聞かせている私を加賀魅先輩が無言でじっと見つめていることに気付く。


「あ……どうしました?先輩、あっちの路線ですよね?」


去ろうとする意志を感じさせない加賀魅先輩に尋ねると、彼は私の手を握り

「もうちょっと一緒にいたい。」

と言ってどこかに歩きだした。


「えっ……!?ちょっと、先輩!?」


私は何がなんだか分からないまま、加賀魅先輩の後を付いて行くことしかできなかった。

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