本気武装
――土曜日、私はできる限りのオシャレをしてスポッチョを訪れた。
繊細な巻き髪に高いヒール、私のギャルイメージを最大限詰め込んだ最強のコーディネートである。
「運動する気がない」と思われても構わない。この陽キャしかいない空間で悪目立ちだけはしたくなかったのだ。
スポッチョと言えば、運動を楽しむ場所!つまり人間離れしていると噂の朱天君の身体能力を測るチャンス!
張り切って待ち合わせ場所に向かうと、スポッチョの前でゆったりとした服を着た加賀魅先輩がスマホをいじりながら立っていた。
(うわ、何着ても絵になっちゃうなー。)
「先輩、おはようございます。」
声を掛けると、加賀魅先輩は笑顔で手を振ってくれる。
(あれ、待てよ……?そう言えば加賀魅先輩って『夢魔』かもしれないんだよね?
あれ、じゃあ……人の夢の中で……色々と……)
私は変な妄想をしてしまい、「馬鹿!最低!」と声を上げながら煩悩を打ち消す。
その瞬間加賀魅先輩はビクりと体を揺らした。
「えっ……ご、ごめん。俺なんかした?」
「ち、違うんです!私がちょっと変なこと考えちゃって……!」
「そうなんだ?……今日の茂木さん、すっごく可愛い!今日は気合い入れて来たんだね。
もしかして、俺のため?」
加賀魅先輩が私の服を見ながら言う。
(きっとまた、私が惚れてないかどうかを確認してるんだろうな。)
「いえ、加賀魅先輩の為とかでは全然ないので安心して下さい!」
笑顔で答えると、加賀魅先輩はむくれた後に俯いて「……そうかよ。」と呟く。
(あれ、不機嫌になっちゃった!?……何で!?)
「おっすー!2人ともめっちゃ早いな!」
私が狼狽えてどう加賀魅先輩をフォローしようか考えていた時、元気な声で挨拶しながら朱天君がやってくる。
朱天君の服装はなんだか想像通りといった感じで、オーバーサイズのTシャツに派手な柄のパンツを合わせたカジュアルなスタイルで現れた。
そして私を少し見ると、何を思ったか緊張した面持ちで宙を見上げる。
(……?どうしたんだろう?)
「な、 早いとこ入ろうぜ!最初何する?」
朱天君が言うと、加賀魅先輩は「んー……バドミントンとか?」と答える。
「いや、バドはだめだろ。……ダーツしない?結構楽しいよ。」
「ルール教えてくれんならいいけど。」
加賀魅先輩が賛成すると、朱天君はスポッチョの中に入っていく。
「……おっかしいなー。鬼丸バドミントン大好きなはずなのに。」
朱天君の背中を見ながら、加賀魅先輩は不思議そうに首をかしげていた。
「ダーツのルールは……まあ、大体真ん中狙えたら強いって感じ。一応真ん中より配点高いとこもあんだけど、狙うの難しいからさ。」
ダーツのブースに来ると、朱天君は言いながら矢を投げる。
すると矢は円盤の小さい赤枠にヒットした。
「なんか、60点って出てるけど。50より上があるわけ?」
「あるよ。今刺したとこが1番配点高い。」
加賀魅先輩の問いに、朱天君がさらっと答える。
(すご……試し撃ちで最高点狙えるとか、本当に超人なんだ。でも人間離れしてるってほどじゃないな。)
感心していると、朱天君がダーツの矢をこちらに差し出す。
「茂木も投げてみ?」
上手く投げれずからかわれると思ったが、朱天君は丁寧に投げ方をアドバイスしてくれる。
(やっぱりこういうとこ、優しい。)
「ちょっと手の位置低いかも。このくらい上げた方が――」
朱天君の面倒見の良さに感心していた時、指導に熱が入ったのか、朱天君が私の腕に触れた。
「わ……!」
顔を熱くしながら声を上げると、朱天君もハッとしたように手を離す。
「あっ!ごめん!」
すると、それを見ていた加賀魅先輩が不機嫌そうに「楽しそうだね、2人とも。」と呟いた。
(加賀魅先輩、今日ご機嫌になったり不機嫌になったりの落差が凄いな。情緒の安定しない日なのかも……)
その後も朱天君のチョイスでビリヤードやカラオケで遊ぶ。
私と加賀魅先輩は朱天君が盛り上げたりルールを教えてくれたから楽しめたが、朱天君は勝負を楽しんでいるというよりは、皆が楽しめるよう気を使ってくれているように見えた。
(まずい、なんだか動きの少ないブースばかり回ってるような気がする……!これじゃ朱天君の身体能力がわからないじゃない!……それに……)
私は、カラオケで加賀魅先輩の歌を楽しそうに盛り上げる朱天君の姿をチラリと見る。
(ずっとこっちに配慮して、つまらなくないのかな?)
カラオケを終えて、私たちはゲームセンターに向かった。
すると、加賀魅先輩が「どうしても取りたいぬいぐるみがある」と言って両替に行ったことで、私と朱天君は2人で取り残されてしまう。
「……」
色々なクレーンゲームを眺めながら、私は沈黙する。
「……あの、さ。」
沈黙に耐えかねたのか、朱天君は気まずそうに話しかけてきた。
「何?」
「茂木って……加賀魅先輩のこと……好きって認識で合ってる?」
ふいに思ってもみなかったことを尋ねられ、私は大きな声で「え!?」と叫ぶ。
「いや!だって……すっごいおしゃれしてるし、目のやり場に困るような服……着てるしさ。」
少し頬を染めながら、朱天君は顔を逸らす。
「ち、違うの!これは陽キャ擬態アーマー!加賀魅先輩とか朱天君みたいなかっこいい人たちと遊ぶのに、いつもの地味な格好じゃ悪目立ちすると思って……!」
私が必死に否定すると、朱天君は私の弁明を聞いて笑い出した。
「何それ……!あはは!茂木的にはそれが陽キャの格好なんだ!」
真性の陽キャに笑われたことで、急にいたたまれなくなってくる。
(そんな笑わなくたっていいじゃない。)
不貞腐れている表情を見た朱天君は、「ごめんごめん!」と呟いて涙を拭った後
「……別に……茂木、いつもそんな地味じゃないけどな。悪目立ちなんてしないでしょ、考えすぎ。」
とフォローしてくれる。
「……!」
あまりの不意撃ち的なフォローに、私は言葉を詰まらせた。
(だ、騙されるな……!これは陽キャ特有の女をたらし込む罠に違いない……!)
「も!もしかして私と加賀魅先輩に気を使ってたからずっとスポーツらしいのも避けてたし、自分は参加しなかったわけ!?」
尋ねると、朱天君はバツが悪そうに
「まあな。ほら、あんまり動き回ると髪とか乱れそうだし、ヒール高いから危ないかなって。」
と答える。
(そっか……やっぱりこの人、凄い優しいんだな。)
私は意を決すると、「朱天君!ちょっとそこで待ってて!」と告げ、走り出した。
……
私は身につけていたアクセサリーを全て外し、靴はレンタルシューズに履き替え、大きめのTシャツを上から着込んだ。
そして、朝丁寧に巻いた巻き髪を高い位置に束ねると、朱天君と両替から戻ってきた加賀魅先輩の所へ戻る。
別に朱天君に楽しんで欲しいからではない。
本気で勝負することによって、彼の超人的な身体能力を確認する為だ。
「うわっ……!え、どうしたのその格好!」
クレーンゲームの前にいた加賀魅先輩が大きな声で尋ねると、私は得意気な笑みで
「この格好なら目のやり場にも困らないし、動き回っても平気でしょ!?ここからが本番よ。朱天君、私と勝負しなさい!」
と告げた。
朱天君は少し唖然とした顔で固まった後、またケラケラと笑い出す。
(……やばい、私の行動ズレてた!?お世辞にもイケてる格好とは言い難いだろうし、恥ずかしすぎる……!)
羞恥心を必死に押し殺していると、朱天君は息を整えてから
「やば……茂木、めっちゃ可愛い。」
と呟く。
「へ……!?」
私は意外な言葉を投げられ、思わず朱天君から目を逸らしてしまったのだった。




