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無毛の猿  作者: お赤飯
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無毛の猿

木崎「鳥海、お前、『おねショタ』って知ってる?」

鳥海「・・・・・えっと、」

木崎「お前、知らないのかよ? お前、AVとか見ないの?」

鳥海「あの。木崎さん。・・・・・・勤務中ですけど、そんな大きな声でAVとか? 大丈夫ですか?」

木崎「大丈夫に決まってるんだろ? 別に、遊んでるわけじゃねぇんだ。おねショタの話、してるだけじゃねぇか。」

鳥海「あの、僕、あんまり関りたくないんですけど。静かに仕事、していたいんですけど。」

木崎「なんなのお前、おねショタも知らない癖に、仕事、できると思ってんの?」

鳥海「それが何だか知りませんが、一応、十分にできると思っていますが?」

木崎「いやぁ。参ったね。優秀な後輩を持つと、俺も楽でいいわ。はぁ? 仕事が十分にできる? 鳥海さん? はぁ。流石ですなぁ。・・・・・その優秀な鳥海さんの些細な不始末を、代わりに、訂正したの、どこの誰でしたっけねぇ?」

鳥海「分かりました。分かりました。分かりました。分かりましたよ。僕、AVは熟女専門なんで。」

木崎「お前、・・・・見かけによらず、熟女専門なのかよ? てっきりJKとか、ギャル好きかと思ってたけど。」

鳥海「木崎さん。それこそ偏見ですよ。熟女こそ至高です。熟女の良さを知らないなんて、木崎さんもまだまだお子様ですね。」

木崎「悪い。俺はまだお前の領域に達してないわ。まだ熟女の良さが分からない。俺はまだ半人前かも知れない。」

鳥海「半人前も何も、スタートにすら立っていませんよ? 今度、熟女パブ、行きませんか?僕が熟女の良さを教えてあげますよ。」

木崎「別に俺は熟女好きになりたいわけじゃぁないからなぁ。でも、その、熟女パブっていうのは気になる。凄い気になる。」

鳥海「いいですよ、熟女パブ。癒されます。心の底から、癒されます。この世から争いが全てなくなる気がします。」

木崎「・・・・・凄いな。熟女パブっていうのは。」

鳥海「おねショタっていうのはよく知りませんが、熟女より、人の心を打つものなんですか?」

木崎「それは知らねぇけど。・・・・そもそも俺は熟女もよく分かんねぇし。お前の事も理解できねぇよ。」

鳥海「えぇぇえ!」

木崎「俺はなぁ、傑作選しか見ねぇんだよ!」

鳥海「傑作選?」

木崎「ベスト盤だよ、ベスト盤!」

鳥海「人気アーティストみたいな言い方しないで下さい!」

木崎「傑作選が一番いいだろ? いい所しか集めてないんだから。だからベスト盤なんだろ?」

鳥海「木崎さん、それ、最悪ですよ? ファンとして最悪です。ファンなら、製作側か本人か分からないけど、おかしな方向に向かってるなと思っていても、とりあえず一回は見て、見てから、面白い面白くないと評価していかないと。時系列で見ていかないと判断を誤りますよ?」

木崎「・・・・・いや、俺、別に、AVソムリエじゃないし。」

鳥海「だいたいベスト盤は、全部みた人間が、最終的に、懐かしむ物であって、最初からベスト盤を見るなんて、作品に対しても、女優に対しても愚弄しているとしか思えません!」

木崎「お前さぁ。仕事にもその情熱を出せよ。」

鳥海「・・・・・・」

木崎「・・・・・・」

鳥海「なんの話でしたっけ?」

木崎「お前が熟女好きって話だろ?」

鳥海「違いますよ、『おねショタ』がどうのこうの言ってきたの、木崎さんが先でしょ?」

木崎「ああ!」

鳥海「・・・・・」

木崎「それでさぁ、鳥海。お前、『おねショタ』って知ってる?」

鳥海「・・・・木崎さん。話が最初に戻ってますよ?」



木崎「俺さぁ、そういうの、そういうジャンル?知らなくてさぁ。」

鳥海「いや、僕も知りませんよ。」

木崎「そういうの?フェチ?嗜好っていうの? 自分が好きな事以外は案外、知らないもんだよな?」

鳥海「それはそうかも知れませんね。」

木崎「瀬能さんに教えてもらってさぁ。」

鳥海「・・・・瀬能さん案件なんですか?」

木崎「オカズにしたって、」

鳥海「そういうの、聞きたくないなぁ・・・・・・」

木崎「俺も大して、聞きたくもなかったんだけどさぁ、瀬能さんが勝手にしゃべるから。付き合って、聞いていたら、色々、説明してくれてさぁ。」

鳥海「女の人の、AVとか、そいうのなんですか?」

木崎「そこら辺はよく知らねぇけど。夜のお供にしたって話だけ聞かされた。」

鳥海「女の人のAVってあるんですね。」

木崎「そりゃぁあるだろ? 人間だから、性欲だってあるし。」

鳥海「いやぁ。そういう話、女の人から聞いた事ないんで。」

木崎「お前、嫁さんから、そういう話、聞いた事、ないの?」

鳥海「ないですよ! ないない。」

木崎「・・・・・・お前んちの嫁さん、オナニーとか、しないの?」

鳥海「誤魔化してたのに。直接的だなぁ。しないですよ! うちの奥さんは。そんな事。」

木崎「お前はするのに? 熟女モノで。おかしいだろ?」

鳥海「いやいやいや。うちの奥さんはそんな事、しないです。」

木崎「別に構わないけどさぁ。他人んちの話だから。・・・・お前、家庭内別居させられてるんじゃないの?」

鳥海「ちがいますよ! 一緒の布団で寝てますよ? うち、仲、いいんですから。」

木崎「ああ、そう?」

鳥海「そうですよ!」

木崎「ふぅん。ああ、そう。まぁ、あれだけど。いいんだけど。・・・・瀬能さんがオカズにしていたっていうのが、『おねショタ』っていうジャンルらしいんだけど、お姉ちゃんと弟という設定らしい。」

鳥海「お姉ちゃんと弟?」

木崎「それも、年端も行かない、歳の離れた弟だそうだ。」

鳥海「その設定に何の意味があるんですか?」

木崎「それ言っちゃお終いだろ? お前が熟女、好きなのと一緒の理由だよ。フェチズムに理由がいるか?」

鳥海「・・・・・・・」

木崎「瀬能さんは、類まれなる性的嗜好の持ち主だから、多ジャンル、マルチバイリンガルだからなぁ。ノンバイナリィ? ノンバイナリィだよ。」

鳥海「ただの性欲モンスターじゃないですか!」

木崎「結局さぁ。楽しんだもん勝ちなんだよ。そういうの楽しめない、俺は、負け組なの。・・・・・お前は勝ち組だけどな。」

鳥海「ちょっと、ちょっと待って下さいよ。人をモンスターの仲間にしないで下さいよ!」

木崎「熟女が好きな時点で、もう、瀬能さん寄りの人間だと俺は思うぞ?」

鳥海「いや、僕、思いっきりバイナリィ、バイナリーランドですから。壁、ありますから。譲れない線ありますから。田村直美ですから!」

木崎「右も左も分からない、従順な弟を、性的な目で舐めまわして、身も心も蹂躙していく、っていうジャンル・・・・らしい。姉という立場を利用した性的搾取。いや、社会的にみても、権力の乱用、暴力だ。姉という暴力だ。」

鳥海「・・・・・まぁ。あの、ちょっと、分からなくもない、気がしてきました。」

木崎「あぁ? ああ、お前、やっぱり、そっち側の人間だもんな。」

鳥海「いや、あの、僕、熟女好きじゃないですか。」

木崎「知らないよ」

鳥海「僕が熟女を好きなのを、その、おねショタ?に当てはめてみると、自分が弟で、歳の離れたお姉さんがいたら、それはそれで、アリだな、と。言われるがまま、されるがままになってしまうのは、熟女モノと何ら変わらないのでは?と思ってしまったんです!」

木崎「力説されても。」

鳥海「歳上の女の人っていうのは、男にとったら、妙な安心感があって、包容力があって、すべてを委ねられる、そういう存在じゃないかなぁって僕は、思うんです。思いませんか?」

木崎「・・・・・分からないけど」

鳥海「僕、瀬能さんに親近感が湧くなぁ。・・・・もしかしたら、同志かも知れない。いや、同志だ。同志少女よ、敵を撃てぇ!」

木崎「怒られるよ、ほんと、お前。良かったなぁ、仲間がいて。瀬能さんだけど。・・・・他人にオカズの内容をしゃべるような女だけど。」

鳥海「・・・・・」

木崎「色々ディティールが細かくて、瀬能さんなりのポイントがあってだなぁ。まったく俺には理解できないが、まぁ、唯一理解できたのは、本物の肉親は、瀬能さんにしても流石に気持ち悪いらしくて、血が繋がっていない、義理の弟っていう設定だそうだ。」

鳥海「・・・そうなんですか。」

木崎「本物の兄弟の設定だと、本物の兄弟を思い出して、気分が萎えるとか言ってた。頭のタガが外れている瀬能さんでも、近親者だけはタブーらしい。まぁ。最低限の常識が瀬能さんにもあったんだなぁって思ったよ。」

鳥海「そこ、必要なんですか?」

木崎「近親者じゃなきゃ駄目だっていう人も中にはいるらしい。近親者同士の愛欲、っていうのは、もう、文学っていうジャンルを超えて、歴史、伝記、民俗学でも語られるジャンルだから、議論しだすとキリがない。宗教とか、そっちの方にも足を突っ込む話らしいからな。」

鳥海「そういう真面目な話もするんですね。」

木崎「常に話が脱線して行くけどな。瀬能さんの話は。近親者、血縁者同士の家系って、とどのつまり、優生思想が根底にあるんじゃないかって。瀬能さんが。自分達が優れている、自分達の血族が優れているって、だから、その血を残すって考えは、まんま、それだろ?」

鳥海「あのぉ、話が飛びますねぇ。僕、ついて行けないんですけど。」

木崎「まああれだ。瀬能さんが、お姉さんになって、無知で無抵抗な弟を介抱しているうちに、徐々に自分の母性が、女の性を目覚めさせ、欲望が止まらなくなるという、そういうシチュエーションで」

鳥海「・・・・昭和ロマンポルノじゃないですか。ピンク映画ですよ。」

木崎「姉と弟ではなく、女と男として、貪り尽くす。そこに悦を感じる、そうだ。」

鳥海「・・・・貪り尽くされちゃうんですね。ああ、そこは、共感できます。」

木崎「言ってしまえば、征服欲だよな。無垢な人間を自分色に染めたいっていう。・・・・そういうの、ま、男も女も関係ないんだなぁって瀬能さんの話、聞いていて思ったよ。」

鳥海「僕、征服されたいですもん。熟女に。」

木崎「・・・・・ああ。お前はな。」

鳥海「その『おねショタ』のシチュエーションは理解できませんが、単純に、僕と熟女の構図なら、百パーセント、いや、百八十パーセント、理解できます!要するに、歳下の男の子と、歳上のお姉さんの関係でしょ?」

木崎「おじさんが男の子とか、かわいく言うな。俺はお前も瀬能さんも、理解できねぇよ。」

鳥海「いや、木崎さんは、もう少し、熟女の良さを勉強すべきですよ!」

木崎「じゃぁ、いいよ! もうお前! 今度からずっと瀬能さんち担当しろよ! お前と瀬能さん、気が合いそうだから! そうしろ!そうしろ!」

鳥海「いや、ちょっと、それは。待って下さい、僕は『おねショタ』は一ミリも理解できませんよ?僕は、あくまで、熟女好きとして、言っているんであって、そこ、勘違いしないで下さい!」

木崎「お前とは分かち合えないな。・・・・うん、良かったよ。」

鳥海「木崎さん、こう考えてみて下さい。歳上のお姉さんって、全人類、全男子、憧れの的じゃないですか? 木崎さんだって、歳上のお姉さんに、憧れた事ありませんか? 例えば、保育園の先生とか?」

木崎「うちの保育園、ババアの先生ばっかりだったからなぁ。」

鳥海「それはちょっと。木崎さんの方が特殊なのでは? 保育園の先生っていったら、若くて、美人で、はつらつとしていて、みんな、大好きな存在じゃないですか?」

木崎「いや、だから、うちの保育園はババアばっかりで。・・・・お婆ちゃん先生って呼んでたな。・・・・なんなら、うちの親も、友達の親も、そのババア先生に説教されてた記憶しかない。」

鳥海「はぁ。」

木崎「子供だからそんなに覚えてないけど、人んちの家のこと、ずかずか言ってくる先生だったぞ? 自分の家庭論を押し付けて来るような先生だった。ただ、面倒見が良くてな。病気したり怪我したりしても、親、迎えに来られないだろ?急には。そういうの、何時でも、文句言わずちゃんと子供の面倒、見てくれるんだよ。本当は駄目なんだろうけど、夜、遅くなっても、見てくれるんだぜ?今、そういうの、法的にアウトだろうけどさ。」

鳥海「どっちかと言えば、木崎さんの方が、熟女の素質あるじゃないですか?」

木崎「世話になったけど、好きじゃねぇよ。」

鳥海「木崎さんが特殊だっていう事は分かりましたよ。」

木崎「人を変態みたいに言うな。」

鳥海「お姉さんに憧れを持たない男の時点で、特殊ですよ。特殊性癖ですよ。」

木崎「いや、そんな事はない。ほら、お前。今、やってるニュース。あれ見て羨ましいと思うか? 大の大人が、子供を強姦するって言う奴。」

鳥海「・・・・まぁ。僕は趣味と現実は分けて考えている方なので。実際、そんなの、駄目でしょ?」

木崎「犯罪だからな? 未成年略取。鳥海が良識ある変態で良かったよ。」

鳥海「なんですか?良識ある変態って。」

木崎「いやぁ。そのまんまだよ。お前、世間に出しちゃ駄目な奴かと思っていたから。」

鳥海「いや、ちょっと、待って下さい! 僕はファンタジーとリアルはちゃんと区別できる人間ですよ!」

木崎「そうか? ま、事件だけは起こすなよ?」

鳥海「仮にですよ、仮に。僕は熟女が好きなんで、ヤラれるのはむしろ僕の方で。僕はヤラれる側ですから。男の子ですから。」

木崎「おじさんがなに言ってんの?もうお前、逮捕だよ。逮捕。」

鳥海「えぇ?だから仮にの話ですよ。そんなのアダルトビデオの設定だけじゃなくて、普通に、テレビのドラマとかでもやってるじゃないですか?生徒に手を出しちゃう、教師の奴とか。」

木崎「教師と生徒の奴は、純愛だからいいんだよ。純愛だから。絵づらが綺麗だから。でも、お前は、絵づらが汚いからアウト。おじさんはアウト。」

鳥海「絵づらで判断されたら、何も言えないじゃないですか!」

木崎「純愛とか言っているけど、未成年に手を出す人間は、やっぱりどこか破滅願望があるようにしか、俺は思えないけどな。」

鳥海「僕の場合は、お姉さんも成人。僕も成人。お互い、ウィンウィンですよ。」

木崎「お姉さんっていうか、介護に半分、足、突っ込んでいる可能性だってあるだろ?」

鳥海「ま、ま、ま、それは否定できませんけど。それはそれで良いんですけど。」

木崎「・・・・・いいのか。」

鳥海「法的に許される範囲で、個人で楽しむ分なら、何も問題ありませんし。」

木崎「そうだけど。度を越さなければな。他人に迷惑をかけずに。」

鳥海「・・・・・まぁ。そうですね。温かく、見守っていきましょう。」

木崎「お前がな?」

鳥海「えぇぇぇぇ?」

木崎「瀬能さんも、妄想して、イタしているだけだから・・・・・非常に痛い人間ではあるが、悪い人間ではない、とは思うんだけど、瀬能さんは。」




???「この世界で、唯一普遍的な物は、物理法則しかない。生命はそれに非ず。生命は常に、ゆらぎの中にその身を委ねている。」

瀬能「・・・人間は、進化の過程にあるという事ですか?」

???「それを進化と言うのであれば、きっとそうでしょう。」




瀬能「なんか最近、社会のタカが外れているのか、物騒な事件ばっかりですね。」

皇「お前。・・・食べるか、読むか、テレビ見るか、どっちかにしろよ。親に言われなかったのか?」

瀬能「なんですか?なんですか、瑠思亜は私のお母さんですか?」

皇「お前みたいな子供、育てたかねぇよ。」

瀬能「どうしても、一人になると、自由になってそういうのどっかに行っちゃいますね。」

皇「一人とか関係ねぇんだよ。行儀の話だ。・・・・ほんとお前、行儀悪いよ?」

瀬能「・・・・ッ」

皇「おい!お前、今、舌打ちしただろ? おい!」

瀬能「はいはいはいはい。もう、わかりました。わかりました。瑠思亜ママの言う事を聞きますぅ。・・・・・で、なんですか、瑠思亜ママのオッパイ、吸わせてくれるんですか?」

皇「お前バカだろ? 正真正銘のバカだろ?」

瀬能「瑠思亜ママに躾てもらえば、世の中の人は、善良な市民になるでしょうねぇ。こ~んな、未成年を暴行する事件なんて起きないでしょうに。」

皇「ああ、最近多いよな。未成年に対する暴行事件。・・・・・・あと、お前、あとでぶっ飛ばすからな。」

瀬能「・・・・・・・」

皇「まぁ近頃、未成年って括りもどうなのかって思う時もあるからな。未成年だって、加害者になるし、もちろん被害者にもなるし。」

瀬能「でもこれ、大の大人が、中学生に暴行ですって。」

皇「今の中学生って、見た目、大人だからなぁ。見た目だけじゃぁ判断つかない場合もあるし。」

瀬能「女が、男の子を暴行。」

皇「あ? 男じゃないのか?」

瀬能「見出しだけ読んだら、いかにも、おじさんが中学生男子に暴行したような印象を受けますが、おばさんが、ま、おばさんって言っても、二十代後半ですけど、中学生の男児に暴行。・・・・性的暴行だそうです。」

皇「ああ、そうなのか。」

瀬能「そうなのかじゃないですよ、ほんと、最近、この手のニュース、増えているんですよ。欧米だと、もちろんジェンダーレスですから、男女平等に裁かれますけど、こと、日本になると、刑が軽くなる印象なんですよね。女が加害者ってだけで、なにか、ちょっと、事件の印象が変わってきちゃうっていうか、事の重大さを隠してしまっていると言うか。」

皇「日本の司法は遅れているからな。」

瀬能「やっている事はレイプ犯じゃないですか。婦女暴行ですよ。・・・・女が、男児にレイプしても婦女暴行っていうのも、おかしいですけど。」

皇「うん。女がレイプしないっていう前提で、語られているから仕方がないんじゃないか。」

瀬能「男女平等とか、ジェンダーとか言われていますけど、根本は変わっていないですからね。男性社会に、女が相乗りしているのが、現実ですから。」

皇「・・・・お前、いつからリベラルになったんだよ?」

瀬能「私は別に、右でも左でもなく、ニュートラルですよ。言っておきますけど、ニュートラルが一番、難しいんですよ。真メガテンだと、全部のボス、倒す必要があるんですから。」

皇「どっちにも付かない、中立っていうのが、一番大変だからな。どことも組みしないのと、どっちつかずは別だ。」

瀬能「ま、私が法律であり、私が正義なので、他に組みする必要もないんです。私、神なんで。」

皇「ああ。・・・・じゃぁ、お前を倒したら、ハッピーエンドで話が終わるんだな?・・・・・きひひひひひひ」

瀬能「ちょっ、いや、やめて下さい! やめてぇぇぇぇぇえ! やめてぇ、食べた物が出ちゃう、いや、やめてぇぇぇぇええ!」

皇「おい!待て、クソニート! おい、今まで、タダメシ食った分、返せ!おい!」

瀬能「いやぁぁぁぁああああ! やめぇてぇぇええぇぇぇ! ああ、乳が、乳がぁ、乳が擦れるぅぅぅ!」

皇「お前に擦れる乳があるわけねぇだろ!」

ガラガラガラガラ

火野「・・・・・・・・・・・・」

瀬能「・・・・・・」皇「・・・・・・・・・」

火野「あ、ゴメン。 お取り込み中だった?」

瀬能「・・・・・・・」皇「・・・・・・・・」火野「・・・・・・・・」

ガラガラガラガラガラガラガラ パタン

瀬能「助けてぇぇぇぇぇぇえええええ! 御影ぇぇぇええ! 助けてぇぇぇええええ! オッパイが、オッパイがぁぁあああああ!」


火野「へぇ。・・・・・躾?」

皇「こういうクソニートはたまに躾てやらねぇと分からないからな。自分の立場が。」

瀬能「瑠思亜様には、ご飯を奢っていただき、ありがとうございます。私は幸せです。」

皇「でぇ、お前は何しに来たんだよ?」

火野「ああ。ご飯食べに。何か食べさせてよ。」

皇「お前、躊躇がないな。惚れ惚れするくらい躊躇がないな。」

火野「だいたい、いつもあんた、いるじゃない?」

瀬能「そもそも、ここ、私んちなんですけど?」

皇「わかった、わかった。今、何か作ってやる。待ってろ。」

火野「ああそうだ、杏子。シャワー借りるわよ。ご飯食べたら寝るから。起こさないでね。」

皇「お前も大概、自由だな?」

瀬能「家賃、・・・・取った方がいいですかね?」

皇「・・・・・・・」


火野「ねぇ杏子、ドライヤー?ドライヤー、壊れてない?」

瀬能「扇風機があるでしょ?扇風機。それで乾かして下さい。」

火野「寺内貫太郎一家か?お前んちは。」

瀬能「人んちで物借りる人間のセリフじゃないですよ、あなたは!」

火野「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛  ん?なんだってぇ?」

皇「おい、冷やしラーメン、出来たぞ?」

火野「ありがとう!」

皇「それで、いい歳した女が、中学生の男を、婦女暴行したんだっけ?」

瀬能「ああ、さっきの話ですか。」

火野「なにそれ?」

皇「欲求不満で溜まってたのか?」

瀬能「そこまでは知りませんけど。記事にはそこまで書いてありませんし。」

皇「・・・・・歳の離れた恋愛の可能性もあるしな。」

火野「光源氏? そんな平安時代じゃあるまいし。あんた、夢、見過ぎ。」

皇「あ? じゃぁ何か? ただのレイプだって言うのか?」

火野「そうでしょ? 女だって人間だもの。欲情する対象がいれば、そうなるでしょ?」

皇「欲情するたって、相手は中学生だぞ?」

火野「だから性的嗜好は千差万別。倫理や道徳で押さえられている人もいれば、押さえられない人もいる。昔より通信網が発達しているから、ニュースになる機会が増えただけで、こういうの、当たり前に事件としてはあったのよ。目に触れる機会が少なかっただけで。」

瀬能「あ、やっぱりそうなんですか」

火野「そりゃそうよ。女が犯罪、犯さないなんて理屈、通ると思う? むしろ残虐性が高いのは女の方よ。」

皇「女はリアリストだからな。」

火野「母数がでっかく出たけど、瑠思亜の言う通り、女の方が現実主義者が多いから、犯罪においても、計画的な事件を起こしている傾向があるわ。」

瀬能「ああ、男の方が短絡的で感情的だから、一時の気の迷いで事件を起こしちゃうんですね。分かる気がします。」

火野「昔のテレビドラマだったり、純文学だったら、歳の離れたお姉さんに憧れる、若人。人の道を外れた、悲恋。純愛。ああ神よ、私はあなたを憎みます!ってな、もんよ。でも蓋を開けてみれば、肉欲まみれのクソ女が、いたいけな男の子を食べちゃう話。」

皇「道ならぬ恋はどこいったんだよ?」

火野「そんなもん、どこにも無いわよ。若い男の体を貪りたいだけ。骨ばってて、体温が高い、男の体に抱かれるって、そりゃぁ、至福だと思うわよ?」

瀬能「・・・・御影。御影、経験ないくせに、なに、言ってるんですか?」

火野「はぁぁああああああ?」

火野「お前、・・・・・・恋愛経験なさそうだもんな。妄想か?」

火野「無いわよぉおおおおおおおおお! 無くて悪いのっぉぉおおおおおおお? 高校生とか中学生の時は、ばりばり処女でしたけどぉ?なにか悪いんですかぁぁぁあああああ?」

瀬能「サブカル中毒だったんでしょう?御影って。処女こじらせて、裏のビデオとか、裏から手に入れて、トチ狂って、絶叫しながら、一人でイタしてそうですもん、御影って。」

皇「・・・・ああ。なんか分かる。健全じゃなさそうだもん、お前。」

火野「してないわぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁ!」

皇「男とスル時も、一人の反動が大きすぎて、やっぱり、トチ狂って、絶叫しながら、ヤッてそうだもん、お前。・・・・・男に引かれるだろ。」

瀬能「御影みたいのが、こういう犯罪、犯すんですね。」

火野「するかぁぁぁぁぁぁああああああああ!」

瀬能「まあまあ。犯人は現場に戻って来るって言うし。」

皇「ああ、そうだよな。」

火野「・・・・・あんた達と話してると疲れるわ。私、第一、中学生とか興味ないから。歳下は恋愛対象外なんで。」

瀬能「ああ、そうなんですか。」

火野「なんでわざわざ、中坊の面倒を、今更、見なくちゃいけないのよ?面倒臭い。」

皇「あ、それは一理あるな。分かる。分かる。」

瀬能「でも別にわざわざ、歳下は恋愛対象外とか言わなくてもいいと思うんですけど。・・・・自分がモテないの自白しているようなもんですよ?」

火野「はぁぁぁぁあ?」

瀬能「だって聞いてもいないのに勝手に言うから。」

火野「だぁかぁらぁ、私はぁ、歳下は興味が無いって言っただけでしょう? モテるモテないの話してないじゃない!」

瀬能「じゃぁ、御影はおモテになられたんですかぁ? あ、あれです。オタサーの姫とかは無しですよ。」

火野「・・・・・。 !!!!!! ・・・・・。 ????? ・・・・・。」

瀬能「・・・・・なんか凄い葛藤してる。言い返したいけど葛藤してる。」

皇「お前が変な事、言うからだぞ。」

火野「恋愛シミュレーションゲームばっかしている杏子と違って、私は、充実した毎日を送っております。以上。」

瀬能「・・・・・・」

皇「・・・・・・」

瀬能「御影さん。つらい時は、いつでも相談に乗りますから。友達ですから。男がいなくても、楽しい毎日ですよ。」

皇「御影。これ、キムチメンマ。好きなだけ食べろ。遠慮すんなよ。男がいなくたって、私達がついてるから。な。」

火野「・・・・・・・・」




丹羽「よぉ。皇ぃ。」

皇「ああ、どうも。もうお帰りですか?」

丹羽「バカヤロウ、今日は仕事。仕事で聞き込みに回ってるんだよ。こんな所で、毎回、金、落としてたまるか。公務員、なめるな、バカ!」

皇「たまにはお金、落としていって下さいよ。サービスしますから。」

丹羽「皇ぃ、お前のサービスは後で高くつくから嫌なんだよ。あ、そうだ。お前、こいつ。こいつ、見たことあるか?」

皇「誰ですか?」

丹羽「お前、隠してたら後で承知しねぇからな。」

皇「知らねないモンは知らないですって。」

丹羽「ああ。そうか。・・・・空知さんにも同じ事、言われたなぁ。さっき。」

皇「空知さんが知らないんじゃぁ、私が知るわけないですよ。」

丹羽「まぁ、そうだろうなぁ。」

皇「それで、それ、誰なんです?」

丹羽「・・・・・誰ってぇ。秘密だよ。勝手に、個人の情報、流せるわけねぇだろ?」

皇「まぁ。・・・そうですよね。見かけたら、後で、連絡なりなんなりしますよ。」

丹羽「ああ、そうだな。」

皇「ああ、そうですね。」

丹羽「おい、皇ぃ・・・・・」

皇「・・・・・はい?」

丹羽「俺がうっかり、たまたま、こいつの情報を漏らしちゃうかも知れないけど、・・・・聞くなよ?」

皇「ええ。聞きません。」




荒巻「ええ。ちょっとした厄介事に巻き込まれましてね。」

瀬能「荒巻さんが? 厄介事に? あはははははははははははははははは」

荒巻「杏子さん。笑い事じゃないんですよ、これが。どうにか、杏子さんのお力添えを頂けないかなと思いまして。それで相談に上がった次第なんです。」

瀬能「そんなに改まらないで。あははははははははははは あははははははははははははははは」

荒巻「そんなにおかしいですか? 俺が厄介事に巻き込まれたのが。」

瀬能「いや、失礼。でも、ねぇ? 愉快で。荒巻さんが? あははははははははははははははは」

荒巻「参ったなぁ杏子さんには。」




皇「ヤクザ?」

丹羽「ああ。女のヤクザ。・・・・別にヤクザに女も男も関係ねぇけど、こいつは、女のヤクザだ。」

皇「法律で論れている、このご時世で、わざわざ、ヤクザをやろうなんて、大した人ですね。」

丹羽「別にヤクザをやるのは自由だからな。職業の自由。まぁ、取り締まりの対象になるけど。」

皇「見るからに、ヤクザの愛人って感じじゃなくて、本人がそのものみたいですけど。」

丹羽「そうなんだよ。こいつ、愛人とかフロントの女でもなくて、本人が構成員なの。」

皇「へぇ。・・・・それで、この人、何、やったんです?」

丹羽「今、ニュースになってるだろ? 中学生への暴行事件。」

皇「中学生に暴行? ああああ! あの女の。レイプ!」

丹羽「未成年への強姦事件だ。その犯人だよ、こいつが。」

皇「??? 犯人なら、拘置所じゃないんですか?」

丹羽「それが、この女の弁護士さんが偉いキレモンでなぁ。・・・釈放されたんだよ。場合によっちゃぁ無罪放免の可能性すらあり得るって話だ。」

皇「え? だって? え? 強姦でしょ?レイプでしょ? 犯罪じゃないですか?」

丹羽「・・・・それが、そうとも、言えねぇんだわ。」




荒巻「杏子さんもご存知でしょう? 成人女性が、中学生男子を暴行した事件。」

瀬能「ええ。ニュースで見ました。・・・・ショタはアニメの中だけにしろと、あれだけ言っているのに。こういう事件が起きると、みんな、アニメの所為だ、オタクの所為だ、って主語が大きくなっちゃうんですよね。いい迷惑ですよ。」

荒巻「それは、もう、杏子さんのおっしゃる通りなんですけど。こいつ、なんですけどね。」

瀬能「・・・・ええ。」

荒巻「”大貫寿子”、暴力団の構成員です。」

瀬能「ヤクザ?」

荒巻「ヤクザです。」

瀬能「ヤクザが、カタギに手を出しちゃったんですか?」

荒巻「まぁ、それもそうなんですけど。しかも、未成年でしょう? もう、どうにもならないっていうか、手の付けられない状態のハズだったんですが、・・・・・・釈放されちゃったんです。」

瀬能「釈放?」

荒巻「ええ、釈放。」

瀬能「どんなマジック、使ったんですか?」

荒巻「俺に言わせれば茶番。リーガルゲームです。・・・・大貫に付いている弁護士がやり手で有名で、検察の裏をかいてきたんです。裏の裏は、表で。それはもう、見事な手腕だそうですよ。俺には分かりませんが。」

瀬能「へぇ。・・・・面白い話ですね。」

荒巻「面白くないですよ。・・・・・それで、はらわた煮えくりかえっているのが中学生側。被害者側の家族で、そこの弁護士さんが俺に、この女を調べるよう頼まれましてね。」

瀬能「荒巻さんが?」

荒巻「ええ。そうなんです。何分相手がヤクザですから、普通の、裁判と様相が違いますからね。」

瀬能「それで、私にどんな用件があるんですか?」

荒巻「ああ、そうなんです、杏子さん。その、杏子さんのツテで、そっち関係に強い弁護士さんなり、紹介して欲しいんです。」

瀬能「ああ、なるほど。・・・・目には目をって感じですか。紹介するのはやぶさかではありませんけど、落としどころ、ちゃんと、見つけられそうですか?」

荒巻「・・・・・・まぁ、そう。そうなんです。そこなんですよね。」

瀬能「荒巻さん。・・・・こういう交渉ごとは、何事にも中途半端はいけません。お互い、持ちつ持たれつですから。でなければ、相手を”消す”しか方法がなくなってしまいます。」

荒巻「ええ。そこは杏子さんのおっしゃる通りで。俺もその通りだと思います。ただ、こちらの被害者のご家族の気持ちを考えると、このまま黙って見ているのも不憫でならなくて。・・・・・本来なら、実刑ですよ。執行猶予、つかないですよ。」

瀬能「それが、・・・・釈放ですもんね。ま、親御さんの気持ちを鑑みれば、納得いくものではありませんよね。」

荒巻「そうなんです。」

瀬能「荒巻さんも、何時の間にか、正義超人になっちゃったんですね。先生も、今の荒巻さんを見たら、さぞかし驚かれると思いますよ? あの荒巻さんがぁ。あはははははははははははは あははははははははははははははははははは」

荒巻「やめて下さいよ、杏子さん、そういうの!」




丹羽「いくら司法で、どんな手品、使ったかは知らねぇが、国家権力だって、舐められたままじゃぁ、腹の虫がおさまらねぇわけよ。」

皇「・・・・金でも、積んだんでしょ?どうせ」

丹羽「その線も十分ある。上の方は、雲の上の方はズブズブだからな。・・・・俺たちゃぁ現場と、吸ってる空気が違けりゃぁ、そういう事もあるだろう。だがなぁ、舐められたまま終いにするほど、現場の人間は行儀よく出来てねぇんだ。」

皇「・・・・・そうでしょうね、丹羽さん見てるとそう、思います。」

丹羽「うるせぇ。・・・・それでな、正攻法が駄目なら、違う方法で逮捕、立件するまでだ。」

皇「まぁ。いつもの警察のやり口ですね。別件逮捕で口を割らせる。」

丹羽「ま、そういう事だ。この女、大人しくしていりゃぁいいものを、肩で風切って世間様を歩いているっていう、専らの噂だ。」

皇「一昔前のチンピラ、そのものですね。」

丹羽「ああ、そうなんだ。それでだ。・・・・・口実があればそれでいい。なけりゃぁ、最終的に、口実を作るまでだがな。」

皇「きひひひひひひひひ・・・・・・。それで、ネタを集めている、と。」

丹羽「たぶんこいつ。・・・・・中学生のガキをやったのは初犯じゃねぇと思うんだ。叩けば、ホコリの一つや二つ、十分、出て来るだろう?」

皇「未成年に手を出すって、やっぱり、異常者ですからね。」

丹羽「そうだろ?」

皇「分かりました、丹羽さん。他にもあたって聞いてみますよ。」

丹羽「・・・・・ちょっと、独り言が長く成り過ぎたようだな。お前、何か、聞いたか?」

皇「きひひひひひひひひ。いいえ、なにも。」




???「おい。大貫。貴様、聞いているのか?」

???「・・・・聞いてますよぉ、センセェ。調子に乗り過ぎるな?って話でしょう?」

???「いいか貴様、大概にしろよ。たまたま御母様に気に入られているだけの話だ。・・・・・次はない。」

???「いやぁほんと。今回はセンセェにご迷惑かけちゃってぇ。申し訳なく思ってぇ、おります。」

???「貴様ぁぁぁぁぁ」

???「ただセンセ。私が大目に見てもらえているのは、それなりに、私に、価値があるという事も、お忘れなく。・・・・これも、御母様のご意思でもあるんですよ?」

???「ふざけるな、子供に手を出すのが、御母様のご意思のハズがない。」

???「ま、いずれ分かる事ですよ。」

???「お前の様な異常性欲者を野放しにいておく程、私は寛容ではない。御母様には、相応に報告しておくぞ?いいな!」

???「どうぞ、どうぞ、ご自由に。・・・・・センセェも、もし、男が欲しくなったら私に言って下さいね。いくらでも用意しますからね。」

???「・・・・もういい! 下がれ!」

???「はいはい。」




皇「そういう訳で本業の人に話を聞いた方が早いと思いまして。」

大沢「・・・・・ああ。ヤクザの女の事だろ?丹羽さんからも聞かれたよ。相当、頭のイカれた奴らしいな。」

皇「大沢さん、ご存知ないんですか?」

大沢「うちは合法でやってんの。未成年に手ぇ出す奴、いねぇから。」

皇「はぁ。」

大沢「そもそもねぇ、瑠思亜ちゃん。金にもならないのに、未成年に手ぇ出して、何の得があるの?」

皇「それもそうですね。納得しました。」

大沢「あのさぁ、警察もヤクザってだけで、一括りにして考えているみたいだけど、俺達の業界は、線、引くところは、引くから。もし、俺達のモンが、未成年に手ぇ出したら、除籍だよ。外のルール守れない奴が、中のルール、守れると思う? 見つけたら、こっちから、警察に引き渡すよ。それだけ俺達の所は厳しいの。・・・・・他は知らねぇよ。他は。」

皇「ふぅうぅん。御見それしました。」

大沢「そいつさぁ、丹羽さんからの話だけど、ヤクザ、関係なくない?ただのロリコンだろ?・・・・・男の場合、ロリコンって言うのか知らないけど。」

皇「まぁ。中学生がロリコンに入るか、っていうのは個別事案によって違うと思いますけど、」

大沢「そうだなぁ。中学生でも、大人っぽい奴もいるしな。・・・・・・ヤってる奴はヤってるしな。」

皇「中学生とか高校生同士がイチャイチャしている分には構いませんけど、これ、一応、成人が未成年に手を出した。・・・・・歴としたレイプですからね。」

大沢「・・・・・何歳でも、レイプはレイプだからなぁ。」

皇「大沢さんはその女、まったく知らないんですか?」

大沢「ん?・・・・・・まぁ。ちょっとは、耳にした事はある程度だよ。本人には会った事ねぇし。」

皇「・・・・・あるんですか。」

大沢「うちのフロントで揉めたってだけの話だよ。ちょっと騒がれた程度で。喧嘩にもなってないし。・・・・二度とうちの店には来てないみたいだけどな。」

皇「揉めたんですか?」

大沢「まぁ。酒飲んで、上機嫌になって、大声出す、店のモンに絡む客なんて日常茶飯事だし驚きもしねぇが、黒服が出て、黒服の連中が威圧されたって言うんだから、ただの酔っぱらいの女じゃねぇ。・・・・向こうも分かってるんだ。引き際を。どれくらい騒げば、どうなるか。」

皇「へぇ。」

大沢「つまり、癖が悪いんだよ。癖が。あの手の女、まぁ、女に限った話じゃねぇが、あの手の輩は癖が悪い。中学生に手ぇ出したんだろ? まぁ、やるよ。やる奴だよ、きっと。怖い物がないからな。あの手の輩は一番、手に負えない。」

皇「突っかかって来られた方が損ですね。」

大沢「そうなんだよ。あれで喧嘩にでもなってみろ?店の方が悪くなる。営業も出来なくなるし。・・・・損するのはこっちなんだよ。捕まえて締めた所で、何も出やしねぇ。向こうだって、下手したら、そいつの扱い、考えあぐねている場合だってあるだろ?そういうルール、守らねぇ奴。」

皇「組織としてはお荷物ですよね。」

大沢「お荷物どころの騒ぎじゃねぇよ、迷惑だよ。他所で揉めて、それを口実に、縁、切れればラッキーだって思っている可能性だってある。・・・そういう奴は関わるだけ損なの。」

皇「はぁ。流石。流石、大沢さん。勉強になります。」

大沢「・・・・瑠思亜ちゃんもさぁ。変なのに関わると、ロクな事がないぜ?」




火野「生活共同体?」

水島「そう、生活共同体。」

火野「・・・・生協とか、そういう奴?」

水島「いやいやいや。そういう、スーパーの延長線じゃなくて、・・・・なんて言うのかな、ほら、昔、アメリカとかで流行った?ヒッピー? 一緒にみんなで暮らすとか、そういう奴。」

火野「ああ、コロニーとかコミュニティとか、そういう。」

水島「まぁまぁ、まぁ、そういう類ですよ。本人達は、生活共同体って言ってるけど。」

火野「・・・・それが、なにか、問題でも?」

水島「問題じゃないけど、ネットで話題になっててね。今度の記事、それにしようかと。」

火野「よく見つけてきますねぇ。水島さん。感心しますよ。」

水島「まぁ、ちょっと、今まで取り扱ってきた奴とニュアンスは違うんですけど、・・・・・話題とまでは行かなくても、気になっていると言うか。」

火野「で、なんなんです?その、生活協同組合?でしたっけ?」

水島「町の一区画をまるまる買い取って、自分達の村というか、町というか、そういうのを作ってしまったんだそうです?」

火野「町を?」

水島「ええ。自分達だけの町。・・・・・・気になるでしょう?そそられるでしょう?」

火野「それって、大丈夫なんですか?」

水島「大丈夫って? 何が?」

火野「分からないんですか? はぁぁぁぁ。・・・・・・カルト宗教ですよ。カルトとまではいなかくても新興宗教のたぐい。最近だと、ほら、韓国でそれこそ町ひとつその宗教団体の施設で有名になった。あれですよ。ホテルとか、教会だとか、修行施設だとか、」

水島「ああ」

火野「地下鉄サリン事件で有名になったカルト集団だって、富士山の麓に、村一つ使って、毒ガスを作っていたりしていたじゃないですか。一応、今は、組織を解体されてはいるけど。」

水島「まぁ、そうですね。ネットの情報だと、宗教の類では無いみたいですけど。」

火野「宗教じゃないのに、人が集まって、一緒に暮らしているって言うんですか?」

水島「いや、僕に聞かれても困りますけど。だからさっきも言ったように、ヒッピーとか、そういのに近いんじゃないか、って。ただ、きな臭さは感じるんですよ。普通じゃない。」

火野「ビル、マンションを借りて、シェアハウスみたいに、なにか、こう、目的があって一緒に暮らしているってパターンも、確かにあるはありますけど。ただ、ただ、ちょっと、町?町を買って、そこに住んでる?」

水島「何が目的なのか? それも謎。しかもですねぇ、女だけの集団らしいんです。・・・・現代のアマゾネス!」

火野「女だけ?」

水島「女だけで、暮らしているようですよ。老若男女。ああ、老若はあっても、女だけか。老若にょにょにょ。」

火野「・・・・・・・・・」

水島「・・・?なにか、変なこと、言いました?」

火野「水島さんは平素から変な事ばかり言ってるから、そこは気にしないでいいです。いや、・・・・・女だけって?」

水島「ほら、別に、女性だけのコミュニティなんて珍しくないじゃないですか。DV被害とか、そういうので、一緒に暮らしている事例なんて、山程ありますよ?」

火野「それはそうですけど。」

水島「やっぱり女性だけって聞くと、奇異の目で見られるじゃないですか?そういうの苦心しているみたいですよ?」

火野「ちょっと、ちょっとは気にはなりますよね。例えば設立の意図とか、是非取材したい。」




???「・・・・・・昼間っから、酒くせぇ女に、ナンパかい?」

荒巻「いや。」

???「女を買いたいなら、他をあたりな。・・・・・まぁ、相談次第によっちゃぁ、あんた、アタシの好みだから、ヤってヤってもいいけどさぁ。」

荒巻「生憎、俺にはそういう趣味は無いんでね。」

???「つれないねぇ。・・・・・・あんた、荒巻サンだろ? ここら辺の用心棒みたいな事してるって、聞いたぜ?」

荒巻「・・・・・・ああ。似たようなもんだ。」

???「別に昼日向から酒飲んで、咎められる理由はないと思うけど?」

荒巻「それはない。」

???「用件があるなら、聞くぜ?」

荒巻「別にあんたに用があって嗅ぎまわっている訳じゃない。・・・・・あんた、目立ち過ぎなんだよ。もう少し、この町じゃぁ、大人しくしておいてくれないか?」

???「なんだいそりゃぁ。お願いか?」

荒巻「ああ、”お願い”だ。あんまり事を荒立てたくない。」

???「・・・・・そうかい。」

荒巻「大貫さんよぉ。あんた、まがいなりにも犯罪者なんだ。大手を振ってよく町を歩けるな? 大した度胸だよ。」

大貫「犯罪者呼ばわりは酷いねぇ。まだ戸籍は綺麗なハズだけど? おたく、警察とか、そっちの味方なのかい?そんなナリしていて」

荒巻「あんたと事を構えるつもりはない。確かに今は綺麗な一般人だ。ただ、あんた、被害者のガキの前で、ガキの親の前で、同じ事、言えるのか?」

大貫「荒巻さん・・・・・アタシとあんたは、似たようなモンだと思ってる。目ぇ見れば分かる。この、この社会に一見溶け込んでいる様に見えても、その実、あんたは、狂気を含んでる。あんたとアタシは、人間の出来が違うんだよ。世間で狂っている様に見えても、それがシラフだ。アタシはこれが正常なんだよ。むしろ世間の方が狂ってると思ってるけどねぇ。」

荒巻「・・・・・社会で生きていく為には、社会に迎合しないと、生きていけないんだよ。」

大貫「なんなら、僕ちゃんと、その親も、まとめて面倒見てやるぜ?」

荒巻「まぁ。そう言うだろうとは思っていたけど。」

大貫「なぁ荒巻さん。これから暇なら付き合えよ? あんたみたいな男、久しく、寝てねぇんだよ。」

荒巻「今日は挨拶程度に、顔を見に来ただけなんだけどなぁ。」

大貫「アタシの”女の部分”が、あんたの顔を見ていると、疼いてくるんだ。こいつは、いい男だって。」

荒巻「・・・・・・この後、何件か、用事があるんだ。」

大貫「言っておくけど、アタシは他の女と違って、脂の塊じゃないんだ。本物の”女”って奴を味合せてやるよ?」

荒巻「・・・・大貫さんよぉ。いい女って言うのは、体だけじゃねぇんだ。」

大貫「じゃぁ比べてみな。」




根本「初めまして。広報の根本です。よろしくお願いします。」

火野「火野です。インターネットを中心に、広く記事を書いています。今回は、取材にご協力いただき、ありがとうございます。」

根本「いえ。月に一件か二件、珍しいのか、取材を受ける事があるんですよ。」

火野「ああ、なるほど。私も、ネットの記事を見て、是非、取材をさせていただこうと思いまして。それでお願いした次第なんです。」

根本「ネットですか。はぁ。」

火野「どうか、なさいましたか?」

根本「ネットの動画とか、掲示板って言うんですか?SNS? ろくに我々を知らないのに、憶測だけで、デマや誹謗中傷を書き込む例が多いんですよ。本当に、本当に、迷惑しているんです。」

火野「いやぁ、多いですよね。悪質な書き込みって。」

根本「いや、ほんと、そうなんです。思い込みだけで書き込む。非情に迷惑しております。だから我々は、一つ一つの書き込みに対して、全て、対処しているんです。」

火野「すべて? 対処?」

根本「ええ。法律的に訴えています。事実無根、誹謗中傷には屈しません。断固、戦います。」

火野「・・・・・・でも、それって、非常に、コストのかかる事じゃないんですか? いや、あの、別にそれが、何かって話じゃないんですけど」

根本「ええ、時間も労力もお金もかかる事です。ですが、我々には、専属の、顧問弁護士が在籍しておりますので、いくら時間がかかろうとも、費用がかかろうとも、一件残らず、すべて、訴えております。断固とした姿勢を見せなければ付け込まれるだけですから。」

火野「・・・・・凄いですね。」

根本「当然です。我々は、生活共同体です。安心して暮らす為には、それを良しとしないものを排除する必要があります。ま、例えるなら、道にある倒木をどかすのと同じです。安全を揺るがすものを放置しておけませんからね。」

火野「とても納得のいくお考えですね。」

根本「ありがとうございます。」




瀬能「それで、”寝た”んですか、その女と。」

荒巻「ええ。」

瀬能「はぁ。」

荒巻「成り行きで。」

瀬能「・・・・・その報告を聞かされて、私も、どう答えていいのか分かりません。”良かった”ですねぇ~としか、言えませんよ。」

荒巻「杏子さんに聞いてもらいたいと、言うか」

瀬能「私、人のSEXを聞く程、暇じゃぁないんですけど?」

荒巻「いやいやいや、違うんです。SEXの話じゃなくて、懺悔っていうか、後悔っていうか、・・・・多少の好奇心があったのは事実ですけど、後ろめたさもあって、・・・・・・・誰かに話しておかないと、ストレスになるって言うか、」

瀬能「荒巻さん。違う人に話して下さい。私、あなたのストレス発散係りじゃないんで。」

荒巻「そう言わないで下さい。杏子さん。俺を見捨てないで下さい。

これ、全部、食べて下さい。俺からの、誠心誠意、気持ちです。食べて下さい。どうか、どうか。俺の気持ちを汲んで頂けないでしょうか。」

瀬能「・・・・・まぁ。大の大男が頭を下げているんですからぁ、まぁ、仕方がないっちゃぁ、仕方がないんですけど。

じゃぁこうしましょう。私、食べていますんで、食べている間だけ聞きます。・・・・仕方なく、人のセックスを。人のセックス話なんて聞きたくもありませんが、すき焼きが勿体ないんで、食べている間だけ聞きます。」

荒巻「ありがとうございます。さすが杏子さん。ありがとうございます。

じゃああの、火、入れますんで。すみません、料理! 料理、お願いします!」

瀬能「それで、痛い目にあせたんですか? あわされたんですか?」

荒巻「・・・・・・そりゃもう、俺の勝ちですよ。・・・・・十時間、かかりましたけど。」

瀬能「十時間? 半日以上ヤってたんですか?高校生じゃないんだから。」

荒巻「まぁ、はい。軍人みたいな奴で。底が知れないっていうか、・・・・スタミナが無尽蔵で。迂闊に手を出しちゃぁいけない相手でした。」

瀬能「まぁ、それを仕留めたんでしょ? 荒巻さん、見事じゃないですか。男の本懐を遂げましたね。おめでとうございます。」

荒巻「男の本懐って意味じゃぁ、たぶん、そうなんだと思います。今後一生、あんな女と寝る事もないと思いますから。」

瀬能「は、どうだか。」

荒巻「いや、ほんとですって。信じて下さい、杏子さん。」

瀬能「じゃぁ、女の方も、悪い気がしなかったでしょう? あ、そうか、向こうから誘って来たんでしたっけ?」

荒巻「ま、そうなんですけど。まぁ、ちょっと、懐かれてしまいまして。」

瀬能「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ?」

荒巻「・・・・・・・・・・・」

瀬能「落としたんですか? チンポで、女を落としたんですか?」

荒巻「いやいやいや、杏子さん。言い方、言い方。・・・・・・・どこまで本心か分かりませんけど、ま、一応、しばらくは? しばらくは、大人しくするとか、言ってました。」

瀬能「あのぉぉぉぉぉぉ、荒巻さん?」

荒巻「はい?」

瀬能「・・・・・被害にあった中学生が、どうとか、そんな事、言ってましたよね? それ、ねぇ?」

荒巻「いや、もちろん。その気持ちはありますよ? 犯罪は犯罪ですから。許す、許さないの問題じゃぁありませんから。罪は償うべきだと、思います。」

瀬能「じゃ、あれですか?荒巻さんの、その、チンポで、その女を更生させるんですか?」

荒巻「まぁ、一応、乗りかかった船ですから。」

瀬能「・・・・どっちの? 中学生の?そのポチョムキンみたいな女?どっちですか?」

荒巻「もちろん被害者ですよ。被害者側の。」

瀬能「ふぅぅぅぅううん。ま、いいですけど。私には関係ない話ですから。・・・・・荒巻さん、お肉、おかわり?」

荒巻「はい? はい、よろこんで。

すみません、追加、お肉、追加で。」

瀬能「・・・・・・あんまり、女の方に肩入れすると、先生からお叱りを受けますよ。その女の親玉、・・・・・ちょっとした有名人みたいじゃないですか?」

荒巻「そうなんです。それで杏子さん、あの、先生の方には、なんとか、」

瀬能「えぇぇぇぇぇ? 私、売春されませんよ?」

荒巻「買収です、買収。」

瀬能「ああ、買収。買収。私、賄賂は効きませんからね。お肉はお肉。話は話。」

荒巻「杏子さん、そこをなんとか。そこをなんとか。・・・・・一生のお願いです。」

瀬能「お肉、五人前追加、話はその後です。」




根本「我々は戦後の混乱期、配偶者が死別したり、家族が離散した孤児などを集めて、共同で、生活を始めた事がその発足の契機となりました。貧困、飢え、病気、そして差別。我々は、共に生きる事で、それらの社会的問題を克服してきました。」

火野「はぁ。」

根本「創始者である久世は、傷つけ、罵り合うのも人間だが、癒し、助け合うのも、また、人間だ、と説いています。」

火野「とても素晴らしいお考えですね。・・・・こちらの絵の、こちらの方が?」

根本「ええ。創始者の久世です。今年、八十七になります。」

火野「え、ああ、え?」

根本「現在は、ウォーキングに出かけております。もうすぐ戻ると思います。記者さんの都合が会えば、是非、会っていって下さい。当人も喜ぶと思います。」

火野「はぁ、えぇ。ええ、喜んで。」

根本「・・・・・いまだ現役。ますます健康で、私達の方がはっぱをかけられていますよ。」

火野「元気なのは、とても、よろしい事じゃないですか。」

根本「宣伝じゃないんですけど、これ、ローヤルゼリー。本物です。」

火野「ローヤルゼリー? ああ、ハチミツの?」

根本「まぁハチミツじゃぁないんですけどね、女王蜂が食べる、専属のエサです。これ、我々の畑で、蜂を育てて、蜜を取っているんですよ。」

火野「養蜂って奴ですか?」

根本「ああ、ご存知ですか?そうなんです、果物や野菜の受粉に、この自然の蜜蜂を使って行っているんです。その中でローヤルゼリーを取るんです。」

火野「とても、・・・・・健康的ですね」

根本「ええ、とっても。」




額賀「あれ? 瑠思亜ちゃん、もう、帰っちゃったんですか?ゆっくりしていけばいいのに。」

大沢「ああ? ナンバーワンホスト様がいらっしゃらないからだろう?」

額賀「そんな事いわないで下さいよ、大沢さん。」

大沢「俺んトコはいいから他の客の相手してやれよ?」

額賀「ちょっとは息抜きさせて下さいよ。・・・・よいしょっと。」

大沢「額賀。この店にも来たのか、例の、女。」

額賀「ええ。随分、お金を落として行って下さいましたよ。まぁ、派手にお金を使われていましたが、遊び慣れてはいない感じでしたね。・・・・ろくにお金を使わないゲストの方が、ホスト慣れしているっていうのも、おかしな話ですけど。」

大沢「そう言うなよ、金、使ってくれりゃぁ、どんな奴でも、お客様だ。」

額賀「無理矢理、はしゃいで、うぅうん。何か、別の目的があるように思いましたけど。」

大沢「別の目的?」

額賀「それは分かりませんよ。ただの勘です。ホストの勘。」

大沢「他所の店でも、わざと揉め事、起こして、強く印象を与えている節がある。」

額賀「何の為にそんな事、しているんです?」

大沢「知るかよ、俺が。それを調べているのが警察だろ? それに、ほら。」

額賀「ああ、瑠思亜ちゃん・・・・ あの子、首、突っ込むのが好きですからね。」

大沢「それはいいんだ、向こうの旦那とは、うちも親しくさせてもらってるからなぁ。持ちつ持たれつだ。」

額賀「それより、その、例の女。・・・・・何者なんです?」

大沢「うぅぅぅぅぅん、何て説明していいのか、分からねぇ。」

額賀「?」

大沢「裏社会、表社会、・・・・・どっちにも、顔が利く権力者。そこの構成員、って所か。」

額賀「なんですか、それ?」

大沢「とんでもねぇババアがいるんだよ。」

額賀「・・・・お婆さんですか?」

大沢「ああ、ただ。ただ、とんでもねぇババアだ。下手な政治家、ヤクザの親分くらいじゃぁアゴでコキ使えるババアだ。」

額賀「・・・・・・にわかには信じがたい話ですが」

大沢「なんせ、指定暴力団で解体された、あそこの親分。その親分のオムツを変えたって話だ。今のじゃねぇぞ?先代の、だぞ?」

額賀「はぁ?・・・・・え?いったい幾つなんですか、そのお婆さん?」

大沢「戦後の焼け野原の時にやぁ、ろくにメシも食えねぇ人間あつめて、炊き出ししてたって話だからなぁ。」

額賀「教科書じゃないですか? 歴史の教科書に出て来る話ですよ」

大沢「ああ、そういうババアだ。・・・・・妖怪なんじゃねぇかって話も、マジで出たらしいからな。誰も本当の年齢なんて知りゃ知らねぇ。親分連中がガキの頃にはもう、ババアだったって話もある。」

額賀「はははははははは。さすがにそれは無理があるんじゃ・・・?」

大沢「まぁ、そうとも言い切れねぇところがあるからなぁ。今の親分連中は、幾ら年寄りっていっても戦後の生まれだ。でもほんと中には戦争体験者もいてな、大親分中の大親分だよ、そんな人は。」

額賀「そうでしょうね、年齢的に」

大沢「戦争で、死ぬ思いで帰ってきたら、日本だって、戦地より酷い状況だ。まだ戦地なら、軍隊だから、それなりに統率が効いているから理性が働く。でもな、ここは普通の町だ。ガキもいれば年寄りもいる。男もいれば女だっている、当然だ。兵隊で帰って来たって、仕事もなければ金もねぇ。でも生きなくちゃならねぇ。ある意味、戦場より悲惨な地獄なんだよ。

そんな時に、そのババアは、分け隔てなく誰にでも、タダでメシを食わせて歩いていたそうだ。」

大沢「・・・凄い話ですね。」

大沢「どういうつもりでそんな事してたのかは知らねぇ。俺はそのババアと付き合いねぇしな。

生きるか死ぬかって時に、助けてもらった恩義があるから、そのババアに頭が上がらねぇ奴が多いんだと。・・・・理屈じゃねぇんだ。今、食べるメシがねぇ時に、助けてもらった義理は理屈じゃねぇ。俺も経験があるから、それだけは分かる。」

額賀「・・・・・・・」

大沢「表社会、裏社会に顔が利くっていうのは、そういう事情があるからだ。そのババアの子分が、・・・・その例の女。」

額賀「なかなか、微妙なパワーバランスの上にいる、女なんですね。」

大沢「・・・・本来は存在しない権力者。その幽霊みたいな奴が、表社会で、わざわざ警察沙汰を起こしてまで存在をアピールしている。」

額賀「僕達は幽霊に遊ばれているって事ですか」

大沢「ああ、そういう事だ。警察は幽霊を逮捕するのか、まぁ、様子見って所だな。・・・・遊ばれているのは警察だけじぇねぇ、俺達もおんなじだけどな。」

額賀「・・・・上はどう判断するんでそうねぇ。」

大沢「まったく、面倒臭い話だよ。このまま大人しく幽霊が消えてくれれば運の字なんだがな。」




火野「なんでも、女性だけのコロニーだと伺っていますが。」

根本「あぁ。ああ、それ、ネットの書き込みですよね?」

火野「間違っている情報ですか?」

根本「ええ。大変迷惑しております。女だけの集団、女だけのコロニー。現代のアマゾネス!とか、ありもしない事を書かれてへきれきしているんですよ。」

火野「ああ、それは大変、失礼しました。」

根本「そこはしっかり訂正しておいて下さい。我々は、女性だけでなく、しっかり”男性”もおりますので。」

火野「すみません、ネットの書き込みを鵜呑みにしてしまって。」

根本「いえ、いいんです。しっかり訂正して紹介していただければ、何の問題もありません。むしろ、我々は、世間に対して、誤った情報を訂正するのも、仕事だと思っていますので。」

火野「ありがとうございます。」




荒巻「杏子さん。・・・・・誠に申し訳ありません。」

瀬能「はぁ?」

大貫「申し訳アリマセンデシタ・・・・」

荒巻「あの、もう、こんな事、させませんので。どうか。あの、二度とさせませんので、お許し下さい。おい、寿子!しっかり頭を下げろ。」

大貫「申し訳ありませんでした。申し訳・・・・・ ギャァァァァァッァア」

瀬能「・・・・・・・・んで、荒巻さん? どういう用件で?」

荒巻「寿子が、寿子が、杏子さんに手ぇ出すとは思わなかったんで、本当に、申し訳ありません。躾が足りなくて申し訳ありません。」

瀬能「・・・・・ひぃさぁこぉぉぉ?」

荒巻「こいつです。こいつです。」

大貫「イヤァァァッァァァアアアア! ア アァァァァ!」

瀬能「別に、誰かと喧嘩するのはよくある話ですから、そこは構いませんけど、」

荒巻「・・・・・はい」

瀬能「どうして、なんでですかねぇ? どうして、荒巻さんが、頭、下げているんですか? 頭、下げるのは、この、さかりがついた猿だけでいいんじゃぁないんですか?」

荒巻「いえ。あの。・・・・・・こいつ、今、俺が、面倒みているんで。・・・・その、面倒を見ている責任がありまして、」

瀬能「責任?」

荒巻「あの、こいつ。寿子が、・・・・・あの、事もあろうに、杏子さんを、俺の、女と勘違いしまして。それで、」

瀬能「それで?」

荒巻「手ぇ出してしまった、と。・・・・・・・・・本当に申し訳ありません。おい、寿子。頭、下げろ。」

大貫「申し・・・・・・ギャヤァァァァァァァァァァァァァアアアア!」

瀬能「あははははははははははははははははははは よく鳴く猿だ事で。」

大貫「ガァァァァァァアアアア! アアアアアアアアアアアアアアアァァッァア!」

荒巻「申し訳ありません! 杏子さん、申し訳ありません!」

瀬能「荒巻さん。あれだけ私、この猿に気をつけろって言いましたよね?」

荒巻「はい」

瀬能「猿に夢中ですか? 猿の穴はそんなに具合がよろしいんですか?」

荒巻「申し訳ありません! 申し訳ありません!」

瀬能「荒巻さん。・・・・・・別に、この猿をどう使おうが、それは荒巻さんの勝手です。ですが、先生の顔に泥を塗るような事をしたら、私、許しませんよ?」

荒巻「はい。杏子さん。おっしゃる通りです。」

瀬能「私も優しいから、下手にヒビが入るより、折っちゃった方が、後で、綺麗に元に戻るから、良かったでしょう? おい、猿。お前に聞いているの?」

大貫「はい゛ぃ゛ぃ゛ぃぃぃぃ、嬉しぃぃぃぃぃっぃいです!」

瀬能「荒巻さん、」

荒巻「はい!」

瀬能「今度からはちゃんと、猿を躾て下さいね。」

荒巻「はい、おっしゃる通りに。杏子さんのおっしゃる通りに。」

瀬能「それから、猿」

大貫「は゛いぃ゛ぃ゛ぃぃ゛ぃ゛ぃ」

瀬能「お前の主人は誰だ?」

大貫「・・・・・きょ゛、き゛ょう゛こ゛ざ゛まぁ゛でぇ゛す゛ぅ゛ぅ゛ぅぅぅう」

瀬能「そう。じゃぁ、しっかり、私の為に芸をおぼえなさい。」

大貫「わ゛か゛・・・・・・りまし゛た゛ぁ」




皇「へぇ。”久世共同生活会”?」

丹羽「表向きは、おんなじ様な考えを持つ人間が、一緒に暮らす、コロニーみたいなもんだ。」

皇「宗教か何かなんですか?」

丹羽「いや、宗教とかそういうのじゃぁ無いらしい。生活様式とか、思想とか、そういうのに共感した人間の集まり、らしい。」

皇「・・・らしいって?」

丹羽「いや、俺も詳しくは分からねぇんだ。町いっこ分の敷地で、共同生活しているって情報だけ。」

皇「町ひとつ分?」

丹羽「・・・・すげぇだろ?」

皇「どれだけの規模なんですか? 共同生活の規模じゃないですよ。」

丹羽「本人達が、共同生活って言っているんだから、そうなんだろう?」

皇「でも、・・・・・・町ひとつ? それだけの人間が何を目的に、一緒に生活をしているか分かりませんけど、集まっていれば、公安警察の捜査対象になるんじゃないんですか?」

丹羽「もちろん、そうだ。当然だろ?」

皇「・・・・・・あ、公安からのタレ込みですか。」

丹羽「そう言うなよ。そうだよ、そうそう。公安からの情報供与だよ。」

皇「宗教団体じゃなければ、暴力団に近い扱いってわけですか?」

丹羽「宗教は認可がいるし、暴力団は社会的に迷惑行為、犯罪行為をしているっていうのが前提にあるけど、・・・・・一緒に、共同生活している、ってだけじゃぁなぁ?」

皇「でも丹羽さん。規模が、規模が違うじゃないですか。大きすぎる。いくら集会、結社の自由があったとしても。」

丹羽「ま、社会転覆をたくらむ犯罪を計画しているわけでもないしな。」

皇「それは分からないじゃないですか、これから、起こすかも知れないし。」

丹羽「警察は事後なの。事後が基本。起きてもいない事で、逮捕は出来ません。・・・・その前に、公安が目ぇ光らせているしな。」

皇「・・・・・・まぁ、そうですけど。ちょっと、普通じゃない気がします。」

丹羽「皇ぃ。俺だって、そう思うよ。普通じゃねぇ。それは分かる。」

皇「そこの女なんですね、その、・・・・えっと、大貫っていう女は。」

丹羽「ああ。」




久世「寿子が消えたって?」

矢板「ええ、はい。」

久世「あの子は、まったく。」

矢板「・・・・一度、顔を見せたのですが、・・・・・・その後、連絡が取れなくなりました。」

久世「少し、甘やかし過ぎたかしら?」

矢板「いえ、・・・・そんな事はないと思います。あの子も、自分の立場は分かっているハズですから。・・・・・ただ」

久世「???? 寿子がどうしたのです、おっしゃいなさい?」

矢板「顔を出した時に、そのぉ、怪我をしておりまして」

久世「怪我?」

矢板「傷の手当はしてありましたが、腕を吊っておりまして、理由を聞くと、折った、と。」

久世「・・・・あの子が?健康だけが取り柄のあの子が、腕を折る? 大怪我じゃない?」

矢板「はい。・・・・・連絡が取れない事を鑑みても、何らかのトラブルに遭遇したとしか考えられません。あれほど、調子に乗るなと言っておいたのですが。私の責任です。申し訳ありません。」

久世「・・・・まぁ、そうねぇ。寿子ももう大人だし。知江の所為ではありませんよ。」

矢板「ですが、しかし・・・・・・」

久世「はい。この話はもうお終い。・・・・・もし、寿子に怪我を負わせる相手がいたとしたら、私達も、それ相応のもてなしをしなければなりません。よろしいですね、知江?」

矢板「はい。御母様のおっしゃる通りに。」




荒巻「・・・・・・杏子さん。その、久世って女。久世共同生活会って、何なんです?」

瀬能「あなたの可愛い、可愛い、お猿さんに聞けばいいじゃないですか?」

荒巻「聞いても、話をはぐらかして。・・・あんなナリですが、あれなりに、義理立てしているのだと思います。」

瀬能「それはどうでしょう。末端の兵隊さんには、知らさせれていない事もあるでしょうし。」

荒巻「・・・・寿子が兵隊、ですか?」

瀬能「親玉は、簡単に言えば現代の妖怪とでも言いましょうか。この世、ならざる者です。」

荒巻「・・・・・すみません。俺には理解出来ません。冗談なのか、本気なのか。」

瀬能「私も先生から聞いた話なので、真意は図り兼ねますが、戦前戦後には、政府の中枢に潜り込んでいた、という話です。」

荒巻「は?」

瀬能「どういう経緯で、その女が、そこにいたのかは分かりませんが、政府の正式な職員。いわゆる役人ではなく、政府高官の妾として、その立場を確立していたようです。最初は、ただの役人の愛人。役人の出世と共に、女の立場も強くなり、発言力が増していく。いつの間にか、日本の政治家だけでなく、GHQの愛人として、更に、権力の中枢に、姿を現します。

決して、表に出る事のない女ですが、その発言力、権限は、日本の総理以上。

うちの先生なんか、あの女に言わせれば、ハナタレ小僧ですよ。先生の御父上が、世話になったって話ですから。」

荒巻「・・・・・・・」

瀬能「姿かたちは、正史には存在しませんが、その発言力は、本物です。妖怪以上の化け物ですよ。」

荒巻「寿子はその、怪物の、手下。」

瀬能「国を好き勝手うごかせる女の、息のかかったお猿さんが、何か粗末をしでかした所で、簡単に、事実は、ひん曲がってしまうんです。

犯罪? そんなもの、ありましたか? 実際、無かった事になっているでしょう?」

荒巻「・・・・・ええ。はい。」

瀬能「今、お猿さんはあなたに懐いていますから、ババアの真意を探るチャンスです。」

荒巻「・・・・はい。」




根本「我々は新しい、進化の形を模索しているのです。」

火野「はい?」

根本「ですから、我々、久世共同生活会の目指す所は、人間の新しい進化。すなわち、生命の進化なのです。」

火野「あの、・・・・・申し訳ありません。よく、理解できないのですが?」

根本「理解できないのも無理はありません。記者さん。あなた。いえ、あなた方は、言わば、旧人類。進化以前の人間だからです。

我々は、進化した人類として、かの地を納めるべく、共に、生活を営んでいるのです。」

火野「・・・・進化?」

根本「当然でしょう? 旧人類である、あなた方と、社会を共にするのは、我々にとって、苦痛でしかないのです。

どうして、進化した我々が、劣っている旧人類に合せて、生活をしなくちゃいけないのですか? わざわざレベルを下げる必要が何処にあるんですか?是非、教えて頂きたいと思います。・・・・・旧人類である、あなたに答えられるのならば。」

火野「・・・・・・・・」

根本「我々を救って下さったのは、紛れもなく、このコロニーを運営されていらっしゃる、久世様。

窮屈な社会から、我々を解き放って下さったのです。進化した我々こそ、新しい人類。我々こそ自由に生きるべきだ、と。

とても素晴らしいお考えだと、思いませんか?」

火野「・・・・・カルトじゃないですか! あなた方は、言っていること、カルトじゃないですか!」

根本「カルト? 冗談じゃありません。そこら辺のインチキ宗教と一緒にしないでもらえませんか?

我々は、一人一人が、個別に、時間も、場所も、超越して、共に目覚めた、いえ、進化した人類。

詐欺まがいの教祖に洗脳された、カルトと一緒にされては甚だ迷惑なんですよ!」

火野「・・・・・・・・」

根本「我々は、惹かれ合って、かの地に辿り着いた。そう、我々は、導かれて、御母様の所へ、導かれたのです。」

火野「・・・・・広報さん? あなた、今、自分で、おかしな事を口走っているか分かっていますか?」

根本「何も間違った事など、話しておりませんよ。むしろ、理解できないあなたがおかしいのです。そう、所詮、旧人類ですから。」

火野「・・・・これ、記事にしますよ? いいんですか?」

根本「どうぞお構いなく。我々、進化した人類の意思など、到底、旧人類は、理解できようがありませんから。

とても残念な事です。

近いうちに、あなた方、旧人類は滅びるでしょう。進化した生物が生き延びるのが、自然の摂理。歴史が証明したただ一つの事実です。

共生など不可能なのですから。」




荒巻「・・・・今、帰った。」

大貫「・・・・・・」

荒巻「おい、いるなら返事くらいしろ。」

大貫「・・・・わかった。」

荒巻「ん?どうした?」

大貫「荒巻。お前、また、杏子さんの所に行ってたのか?」

荒巻「あ、ああ。・・・・それがどうした?」

大貫「なぁ、あの女はなんなんだ? なんなんだ、あいつは?」

荒巻「おい。・・・・冗談でも杏子さんの事を、あの女なんて呼ぶな。死にたいのか?」

大貫「・・・・・・・悪かったよ。悪かった、謝るよ、荒巻。」

荒巻「いいか。俺は、杏子さんに義理がある。杏子さんの上にいらっしゃる方も同様だ。今、こうやって、屋根のある所で温かい物を食えるのも全部、杏子さんのおかげだ。だいたい、この部屋だって、杏子さんが用意してくれたセーフハウスだ。・・・・・お前の為にだぞ?分かってんのか?」

大貫「・・・・・・・・ああ。でも、なん」

荒巻「寿子。質問はするな。・・・・安全に暮らしたいなら杏子さんの事を聞くな。」

大貫「アタシも・・・・・・アタシだって、御母様を裏切れない。もし、御母様がお前を、お前達を殺せって命令するなら、アタシは従わなくちゃならない。」

荒巻「”もしも”の話はするな。現実を見ろ。今、お前は怪我を治せ。怪我を治さなけりゃぁ何も始まらないだろ。」

大貫「・・・・分かってる。」

荒巻「お前もつまらない事に首、突っ込んじまったなぁ。こんなつまらない話で腕、折られずに済んだものを。」

大貫「・・・・お前だって、そうだ。」

荒巻「因果なもんだ。・・・・・寿子、お前、料理の一つでも覚えろよ。ここにいる間に。お前のメシは不味く食えたモンじゃねぇ。今から、上手いメシ、作ってやる。」

大貫「お前は、いい主夫になるな。」




皇「女だけの集団?」

ミケ「ああ。有名な話さ。」

皇「盗撮し放題だなぁ、ミケランジェロ先生。」

ミケ「ふざけんな、あんな、頭カルトな連中、誰が、頼まれて、盗撮するんだよ?」

皇「頭、カルト?」

ミケ「ああ? お前、知らなかったのか?」

皇「いや、まったく。知るわけねぇだろ、知ってたら、聞くか。」

ミケ「・・・・そりゃぁ、そうだな。」

皇「でも、女だらけなら、パンチラ、撮り放題だろ?」

ミケ「だぁかぁらぁ、話を戻すな。・・・・・・いいかサッキュバス? 僕が描くのは、一瞬の切り抜きだ。時間と空間と、純白の下地を、永遠に切り取る、芸術だ。頭のおかしい連中を、撮るフィルムは、生憎、持ち合わせてはいない。」

皇「・・・・・ほんと、気持ち悪りぃ。その裏切らない、定番の気持ち悪さは一体なんなんだよ?」

ミケ「僕は、聞かれたから答えただけだ。」

皇「性犯罪者が何を偉そうに。」

ミケ「言っておくが、僕は性犯罪者ではない。既に罪を償った一般人だ。犯罪者ではない。」

皇「犯罪者予備軍の間違いだろ?」

ミケ「予備軍って何だ? まだ捕まったわけじゃない。」

皇「”まだ”?・・・・人の犯罪行為に口を挟む程、野暮じゃないけど、ミケランジェロ先生、いい加減真人間になったら?」

ミケ「お前は推定無罪の法則を知らないのか? あくまで僕は、写真愛好家だ。」

皇「推定無罪ってお前みたいな盗撮犯を優位にさせる為のものじゃないんだよ! うるさいよ、ほんとに、まったく。」

ミケ「うるさいとは何だ!」

皇「はぁ~い、タッチ!」

ミケ「やめろぉぉおお! お前のブヨブヨした脂肪の塊を押し付けて来るな! 気色悪いぃぃぃいいいい!」

皇「ミケランジェロ。私のオッパイは高いのよ?タダで触れたんだから感謝しなさいよ、この童貞風情が。」

ミケ「うるさい! サッキュバスがぁぁぁああ! お前の脂肪なんか触りたくないわ! 手がぁ手がぁ汚れるぅぅぅぅううう!」

皇「そう言えば。そう言えば、思い出したんだけど、ほら、中学生の男の子をレイプしたって女。そこのコロニーの女なんでしょ? あんたと、どっこいどっこいじゃない、気持ち悪いところが。」

ミケ「誰が気持ち悪いんだ、誰が!」

皇「そのぉ、ロリコン?ショタコンのところが、そっくりじゃない」

ミケ「僕はロリコンではない。僕が意図する所は、初潮が始まった後の、詳しく言えば、第二次成長期の女性だ。」

皇「・・・・・・ほんと、気持ち悪い。ミケランジェロ、よく女の前で、平然とそんな事言えんなぁ? 気持ち悪いぃぃぃぃぃぃぃぃ、吐き気するわ。」

ミケ「はぁぁぁぁぁあ? 第二次成長期の女性ほど、完璧で、美しい肢体はないだろう?」

皇「肢体とか言うな! 歴としたロリコンだよ、お前は!」

ミケ「何度も説明させるな! ロリコンではない、と言っている!」

皇「・・・・・お前は、特殊な性癖の持ち主だから、ロリコンでも」

ミケ「ロリコンではないと言っておろうが!」

皇「女の子とセックスしたいとは思わない、けど、その女は、実際、男の子を、ヤっちゃったわけだろ? どういう心境なんだ?やっぱりイカれてるのか?」

ミケ「異常性犯罪者の心理は測りかねるが」

皇「お前も大概、異常性犯罪者だよ」

ミケ「現代では罰せられるが、これが戦国時代なら、元服して、結婚していた年齢だろう? 下手をしたら、四、五歳で、結婚させられた事例だって沢山ある。相手に同意を求めていないのは、僕からしたら、論外の行為だが、子供が作れる年齢なのだから、その性行為もあながち的外れな事ではないと思うが?」

皇「・・・・・・おお。異常性犯罪者のくせに、まともな事を言うな。」

ミケ「時代によって、社会によって、価値観や法律、倫理観は変化する。たまたまその女が居合わせた、この時代が、不運だったに過ぎない。それだけの話だ。」

皇「・・・・まぁ、犯罪者は自分の行為を正当化したがるからな。今のミケランジェロ先生みたいに。ならぬものはならぬのです!と、八重の桜で綾瀬はるかが言ってただろう?」




水島「あ、火野さん。取材、どうでした?」

火野「ああ? 取材?」

水島「どうしたんですか、顔色が悪いですよ。」

火野「なんなの、なんなの、なんなの、あいつら? カルトじゃない、ただのカルト集団じゃない」

水島「カルト?」

火野「・・・・・ネットの情報なんかまだ可愛いモンよ。・・・・・・最悪だわ。」

水島「あの、久世共同生活会が、カルトだって話ですか?」

火野「・・・・そうよ。」

水島「・・・・まさか、そんな。」

火野「典型的なカルト教団よ。・・・・・金を集めていないだけで、傾倒した思想集団じゃない。」

水島「それは心外だなぁ、火野さん。僕、根本さんに、取材は丁寧に答えてくれるよう、お願いしておいたんですよ?」

火野「・・・・はぁ?」

水島「久世共同生活会はカルトじゃぁありません。・・・・人類の新しい未来の形なんですよ。」

火野「水島さん? 水島さん、」

水島「仕方がないですよね。進化した人類の考えなんて、旧人類の火野さんが、分かるはずがない。ま、最初から分かっていた事なんですけどね。」

火野「・・・・・・えぇ? え?」

水島「僕は少しでも、根本さんの力になりたいと思って、久世様のお考えを、世間に知らしめる為、多方面に発信するお手伝いをしているんです。今回の件も、その一つです。・・・・・期待していたんですよ、火野さんには。とても利口な方ですから。もしかしたら、進化した人類の末席に、火野さんを加える事が出来るかも知れない、と。」

火野「・・・・・・水島さん、あなた、最初から、知っていて、仕組んだの?」

水島「人聞きが悪い。仕組んだなんて。僕は、最初から、久世共同生活会の人間ですよ。・・・・お恥ずかしい話、最近入会したばかりですが。」

火野「はははははは。ははははは。・・・・・・あなたみたいな、何も考えていない、その場のノリだけで生きている人間は洗脳されやすそうだけどね?」

水島「それはちょっと、僕に対して、失礼じゃないですか、火野さん。何も考えていないって。僕はいつでも、人類の、未来の事を考えていますよ。そして、憂いている。このままでは、人類に未来は無い、と。」

火野「・・・・・バカじゃない。アニメかマンガの、かませ役のセリフじゃない。」

水島「僕が、かませ? 冗談言わないで下さいよ。 僕はいつだって、人生の主人公だ。僕こそが主役だ。そう、進化する人類側の人間なんだ。」

火野「かませもかませ、最初に殺されるかませ役じゃない。あなたが主役になれる事はない。あなた、そういうキャラじゃないもの。イイモンにも、ワルモンにも、どっちにもなれないハンパザコ。」

水島「・・・・・僕が、ハンパザコ? 笑わせてくれる。だから、君は旧人類なんだ。」

火野「あなたから引き出せる情報なんて、ハンパザコのかませクズには何も無いと思うけど、」

水島「ハンパザコのかませクズのドケチセコセコマン?・・・・・火野さん。あまり僕を怒らせな」

ガン!

火野「だからあなたは、ハンパザコのかませクズのドケチセコセコ、エロメガネだって言うのよ。」




丹羽「よぉ、皇ぃ。」

皇「ああ、丹羽さんも捕まったんですか。」

女「おい、ここに入っていろ。」

丹羽「分かった、分かった、押すな。入るから。・・・・・・あのぉ、悪ぃんだが、トイレ、行きたいんだが?」

女「トイレだと?」

丹羽「漏れちゃうよ? 俺、しこたま、ビール空けてきたばっかりなんだぁ、おしっこ、行かないと、漏れちゃうよ?」

女「・・・・・・・」

丹羽「おじさんが、こんな所で、おしっこ、漏らして、それでいいのか? 俺はいいよ?漏らす方だから。困るのは、あんたらの方だろ? こんなおじさんに、ビールまみれの泡たっぷりのおしっこ、ぶちまけられちゃって。・・・・・・・それでいいなら、それでいいけど。」

皇「あああ、あの、このおじさん、本気ですよ? 本気でおしっこ、漏らしますよ? 臭いですよ?」

女「ふざけるな!」

丹羽「じゃぁぁ、トイレ、行かせてぇぇぇぇ、お願いぃぃぃぃぃ、もう、がまんできなぁぁぁぁいいいいぃん!」

女「・・・・・・便器が中にある。用を足したければ、そこで、しろ!」

丹羽「チッ!・・・・クソ!」

女「大人しく入っていろ!」

バタン!

皇「きひひひひひひひひひひ・・・・駄目でしたね。」

丹羽「ああ、まったくだ。おじさんのおしっこを甘くみるとは。おい!なめんなよ! 絶対、おしっこ、してやるからな!後で後悔させてやる!」

皇「丹羽さん。・・・・・ホント、最低ですね。最高です。」

丹羽「うるさいわ。・・・・・・それより皇ぃ。なんで、お前、こんな所に取っ捕まっているんだよ?」

皇「いやぁ、ちょっと、中に入って見た方が、色々、分かるかなって思って。そうしたら、早々に、捕まりました。それで、丹羽さんは?」

丹羽「おんなじだよ、お前と。中から内偵しようと思ったら、このザマだ。・・・・・外からじゃ分からねぇが、警備が異常だ。」

皇「そうですね。大使館の要人でも警護しているくらい、厳重な警備してますね。」

丹羽「ま、殺されなかっただけでも、運の字かもな。・・・・・・こんな状況じゃぁ殺されても文句は言えねぇ。」

皇「殺されるどころか、死体だって上がるかわかりませんよ?」

丹羽「だいたい、なんだここ? 窓がねぇ。完全に人間を軟禁監禁する目的で作ってる部屋じゃねぇか。」

皇「ここが普通の住宅かどうかも怪しいですけどね。やっぱり何かの施設なんでしょうか? カルト教団っぽいって話、聞きましたけど。」

丹羽「内情が分からねぇんだ。外に情報が漏れ伝わる事がねぇ。完璧な情報操作。・・・・・公安だって、マークするのが精一杯だったんだろうよ。」

皇「丹羽さん。生きて帰れたら、二階級特進ですね。」

丹羽「ふざけんな、お前。・・・・・生きてんのか、死んでんのか、どっちなんだよ!」

ガチャ

矢板「・・・・・・」

皇「・・・・・」丹羽「・・・・・・」

矢板「あなた方は、歓迎されていない客人だと、理解しているのか?」

丹羽「あんたが、ここの・・・・代表か?」

矢板「代表ではない。」

丹羽「じゃぁ、代表を出せよ? 俺は一番上の人間と話がしてぇんだ。おたくとは話にならねぇ。」

矢板「・・・・丹羽刑事。あなたはそんな事が言える立場にあると思っているのか? お門違いも甚だしい。」

丹羽「ほえぇ? あんた、俺の事を知っているのか?」

矢板「・・・・・・・・。ええ。そちらのお嬢さんは、皇瑠思亜さん。市内、風俗店勤務。」

丹羽「へぇ、おたくらには個人情報もヘッタクレもねぇんだなぁ。」

矢板「勘違いしないでもらえるか? あなたは。あなた方は、住居不法侵入。ならびに、器物破損。恣意的猥褻罪、強盗未遂、強姦未遂、暴行未遂、並べればキリがない。・・・・しかも現役の警察官が、一般住宅に、許可なく、侵入。

これがどういう状況か、お分かりか?」

丹羽「ああ。そうだな。・・・・・・これが、表に出れば、懲戒免職必須だろうなぁ。」

皇「・・・・・・・」

矢板「私は弁護士。当会の顧問弁護士をしている。・・・・我々には、警察、検察に多くの知人がいる、あなた方を立件するのは容易だ。」

丹羽「・・・・弁護士先生かぁ。それは、脅しと捉えてよろしいのですかな?」

矢板「脅し? いいえ。あなた方に拒否権はないと言っている。」

丹羽「ははははは。・・・だろうな。」

矢板「私はなるべくなら、物事を穏便に済ませたい方だ。だが、中には、そうでない人間も当然ながら、いる。」

丹羽「・・・・・じゃぁ、おとなしく撤退させていただきますわぁ、」

矢板「撤退? 人の家に土足で入り込んで来た人間が言う台詞とは思えないが?」

丹羽「こりゃぁ失礼しました。弁護士先生と違って学がないもんで。・・・・・どうか、この件は、ご内密に。二度と、こんな、バカなマネはいたしませんので。申し訳ございませんでした。おい、皇ぃ。お前も、頭を下げろぉ。一緒に土下座だ。」

皇「え? あ、あ、はい。・・・・・すみませんでした。申し訳ありませんでした。ごめんなさい。」

矢板「家畜は床を舐めている方が似合っている。そう思わないか?」

丹羽「・・・・おっしゃる通りでございますぅ。」

矢板「いいか? 次はないぞ?」

丹羽「ありがとうございます、ありがとうございますぅ。」

皇「ありがとうございます、ありがとうございます、」




久世「さて。御客人。・・・・用件を聞こうか?」

瀬能「どうも、ありがとうございます。申し遅れました。わたくし、瀬能の娘で、山鳩先生に大変ご厄介になっている者です。」

久世「瀬能?・・・・ああ、成金貴族の。・・・・・孫か、ひ孫か?やしゃご・・・?それはいいとして、ハトの小僧は達者にしているのかい?」

瀬能「ええ、息災に過ごされております。」

久世「それで、瀬能の娘が私に何の用だい? ハトの小僧の、お使いか、何かか?」

瀬能「久世様が可愛がっていらっしゃる、一匹の猿を、預かっておりまして。」

久世「・・・・・・・・猿?猿ときたかい。 ふふっ・・・・・・・・・そうかい。あんたん所で預かってくれていたのかい。」

瀬能「ええ。」

久世「そりゃぁ、少しは褒美でも、くれてやらないとねぇ。」

瀬能「なにぶん久世様は、新しい人類、進化した人類と自らの事をおっしゃられ、会を主催なさっていらっしゃる。大変興味深く拝見させて頂いております。ですが、・・・・進化した人類が、猿だとは、・・・・・臍で茶が湧いてしまいます。あ、そうそう。久世様がお喜びになると思って、お茶に合う土産を用意して参りました。」

久世「面白い事を言う娘だねぇ・・・・・」

瀬能「久世様がおっしゃる進化した人類とは、この、女だらけの集まりの事を、おっしゃられているので?」

久世「・・・・・・」

瀬能「それは、むしろ、退化した社会構造では、ございませんか?」

久世「・・・・・お前は本気でそう思っているのか? ハトんところで、何も勉強して来なかったみたいだねぇ。

お前は戦争を経験した事があるか? まぁ、その年齢だ。戦後、敗戦国として、しかも、加害国としてレッテルを張られ、恒久平和、戦争放棄を謳うようになった。いや、謳わされる事になった。」

瀬能「・・・・・・・」

久世「ま、私は戦争なんか無い方がいいと思っていたクチだから、それはそれでいい。別になんとも思っちゃぁいやしない。国として贖罪をするだけだ。それはこの国が続く限り、歴史が語り継いでくれよう。

だがねぇ、じゃぁ、なんで、戦争なんか起きるんだ? 簡単な話さ。それは、人間だからさ。人間だから戦争を起こすのさ。

人間の歴史、人類の歴史は、争いそのもの。・・・・・・石や棒が、戦闘機、ミサイルに変わっただけさ。本質は何も変わらない、違うかい?」

瀬能「・・・・・・・いいえ。」

久世「人間の本質は争うこと。どう足掻いても、それが人間の本質なら、変わる事が出来ない。でもある時、気づいたんだ。人間には、二種類いることに。」

瀬能「二種類ですか?」

久世「まぁ人間だけじゃない、生命全般にいえる話さ。生命が生き残るシステム。そのシステムとしての、オスとメス。男と女さ。

戦争っていうものはねぇ、男が起こすもんなのさ。

人類の半分は男。その男が、どういう訳か、戦争を起こす。本能なのか、男だからなのか、争いの火種をつくるのは男。火がつきゃぁ、お互い、やる方もやられる方も、最後の一人になるまで争いをやめない。・・・・・不思議なもんだと思わないかい?」

瀬能「・・・・・・・だから、女だけの集団を作ったんですか?」

久世「ハトの娘はいいねぇ。・・・・・・そんな単純なぁ話じゃないよ。いいかい? この世から男を失くしちまえばすべて上手くいく?そんな短絡的に物事を考えちゃぁいないよ。

ハトの娘。どうして、生命はオスとメス。男と女に、分かれていると思う?」

瀬能「それは役割が違うからです。役割を分業する事で、生命としての、生き物としての、寿命を延ばしているからです。

まず、子孫を残すにしても、子供を産む方。育てる方と、食料を供給する方、子供を守る方に分かれれば、生存確率が格段に上がります。仮にこれを片方だけで行うと、子供を身ごもっている間、卵でも同様ですが、その間の、食料を得る事が困難になります。無事に子供を産めたとしても同様。自分が食料を取っている間に、場合によっては、子供が他の動物の餌食になってしまう可能性もあります。子供が死んでしまえば、子孫を残す事が出来ません。生命としては、そこで、お終いです。

ですから、生命は、つがいになった方が生命を継承しやすいのです。つがいと言うか、産む方と、その周りで世話をする方の。・・・・・生命の戦略と言っていいでしょう。」

久世「なかなか面白い子だねぇ、お前は。

生命の戦略っていう意味では、オスとメス。互いに持っているDNA。遺伝子情報が違うんだ。遺伝子レベルの脅威。」

瀬能「ウィルスとか?」

久世「そう、ウィルス、細菌、その手の生命体。あの手のモンが一番厄介でねぇ。大量流行すると多くの生命が大量死滅しちまう。・・・・・弱点が一緒だからさ。弱点が一緒だから、一気に広がって、一気に死滅する。

でもねぇ、そういう時でも、生き残る生命がいるんだ。持っている遺伝子情報が、個人個人、微妙に違うからだ。

同じだったら、全員、お陀仏だよ。この世から、消えてなくなっちまう。それで滅んだ生命だって、歴史を見れば、きっと五万といたはずだよ。」

瀬能「・・・・・・」

久世「オスとメスで別れているのは、単純に、持っている遺伝子情報が違うっていうのもある。それだけで、ウィルスや病気で、生命が生き残る確率が上がるんだ。これも立派な生存戦略の一つだよ。」

瀬能「オスとメスに。男と女に分かれていた方が、生命にとって、人類にとって、都合が良い事ばかりじゃないですか。」

久世「・・・・・・ひひいひひ。ひひひひひひ。だがねぇ、実際はどうなんだい?ハトの娘?

男がいなくたって、子供は育てられるだろうぉ?」

瀬能「・・・・・・・・・」

久世「私は戦後のどん底の時代。この国が地獄だった時代、両の親が死んだ、赤ん坊を嫌という程、面倒見てきたよ。赤ん坊だけじゃない。

亭主が戦地から帰って来ない、帰って来たとしても骨になって返って来た、赤ん坊を抱える女房。反対に女房が死んで、赤ん坊を抱えてうろたえる亭主。そんな人らを私は、面倒見てきたんだ。

赤ん坊は必死だよ。見ていて健気になる。生きる為に必死。・・・・・あんな、なんにも出来ない、弱々しい命の癖に、生きるのに必死なんだ。殺し合いをしているのが馬鹿らしく思える位にねぇ。

私はねぇ、あの子達の母親になるって決めたんだ。あの子達の為なら、人にツバ吐きかけられたって、後ろ指さされたって、何だって出来る。鬼にでもなれたさ。例え、この後、エンマ様に地獄へ連れていかれようと後悔はない。ひひひひひひひ、私はねぇ、本物の地獄を見て来たからねぇ、何も怖くないんだ。

分かるかい?ハトの娘。

男がいなくったってねぇ、子供は育つんだ。

むしろ、喧嘩や戦争を起こすくらいなら、邪魔なんだ。男は邪魔。そう思った時にこの会を立ち上げた。久世共同生活会をねぇ。」

瀬能「・・・・・・」

久世「どっかの島国は、王族制を導入しているけど、神様の末裔とか、馬鹿々々しいことを言っている。男系の血筋しか王様になれないとか言っている。

男系の血筋とは、いったい何を示しているのか?何を受け継いでいるのか? お前には見当がつくかい?」

瀬能「Y染色体です。父親から受け継がれるものは、Y染色体です。」

久世「ひひひひひひひひ。そう、そうだよ。Y染色体。母親からはX染色体を受け継ぐ。それじゃぁ次の問題だ。男系、女系、どっちの血筋の方が優れていると思うかい?」

瀬能「・・・・・・・」

久世「お前も女だから分かるだろう?お前が母親から受け継いだ、X染色体。お前は、完全な形で、母親から受け継いでいる。

お前には、男兄弟がいるかい?」

瀬能「ええ。兄が。」

久世「瀬能ん所は今時、王族ファミリーと違って、男だから跡を継ぐとか、女だからとか、そういう話はないだろうとは思うが、父親から受け継ぐY染色体はねぇ、世代を追う毎に、劣化しているんだ。いずれあと、数百年で、Y染色体は無くなる、消滅すると言われている。

劣化したものを受け継いで、この国は、男系だ男系だって喜んでいるんだよ? まったくもってお笑い草さね。だったら、完全に遺伝子を受け継ぐ、女系にした方がいいじゃないか? そう思わないかい?」

瀬能「それは・・・・・伝統とか儀式とか、閉鎖的な王族の内輪の話であって、我々には関係ない話だと考えています。」

久世「いい子ちゃんのお答えだ。感心するよ。

私もそうさ。正直、あんな王族一家には興味がない。好き勝手やってくれていいと思っている。実際の所、あの一家が受け継ぐ男系の血筋は、せいぜい特徴的な耳毛を生やす程度の事だからねぇ。耳毛の為に命を懸けてんだ、笑えるだろう?

ただ、私はこの男を排除した、女だけのコロニー。これが、新しい社会の形。新しい人類の形だと思っている。」

瀬能「過去、女だけのカルト集団が出てきましたが、ことごとく、潰れていきました。何故なら、ファッションだからです。

中には久世様のように信念をもって、女だけのコロニーを作った人もいたでしょう。ですが大半はファッションレズビアンでした。女だけで社会を構成するのは難しいのです。女は、嫉妬、妬み、嫌がらせ、陰湿極まりない生き物です。女は女同士で衝突します。そして、内側から崩壊していくものです。」

久世「お前の言いたい事は分かるよ。なにせ私も、嫌と言う程、そういう女だけのコロニーの崩壊を見て来たからさ。でもねぇ、このコロニーはもう直、九十年だ。自分でも惚れ惚れするよ、よく九十年も持ってきたってねぇ。

何故か分かるかい? それが人類の進化なんだよ。」

瀬能「世迷言を。」

久世「お前も知っているだろう。女を中心とした社会。ほぼ女だけで構成された社会。そう、蜂。蟻。女王が作った、女の世界だ。

蜂や蟻はねぇ、大した知能は持っていないが、進化の過程で、社会性と役割分担っていうのを獲得してきたんだ。何千、何万っていう蜂や蟻が、コロニーで暮らす。そうしているとねぇ、段々と役割を持つようになるんだ。

エサやミツを運んでくる蜂。コロニーの修繕を行う蜂。卵をかえしたり幼虫の世話をする蜂。敵を攻撃し、巣を守る蜂。女王の世話をする蜂。中には、怪我をして動けなくなった蜂を世話する蜂も出てくる。

このコロニーも一緒さ。女王を中心にして、各々、役割をみつけて、働き出す。

仕事をして金を運んでくる子。掃除洗濯をする子。住宅改修をする子。料理を作る子。子供の世話をする子。ボディガードの子。歳をとって動けなくなった子を世話する子。私を世話する子。

分かるかい?

このコロニーの中で、役割を分業していくんだ。自分の得意不得意に合わせてねぇ。」

瀬能「子供はどうするんですか? 蟻とか蜂と違って、人間は、永遠に子供を産み続けられませんよ。」

久世「そりゃそうだ。人間は物理的に、卵子の数に上限がある。初潮があれば、閉経だってある。いくら私だって、そんな何人も子供を産めるモンじゃない。

その代わり、子供を産む、子がいる。」

瀬能「子供を産む・・・・・産ませるだけの女って事ですか?」

久世「子供を産ませるだけ、なんて言ったら、戦国時代の話になっちまうじゃないか。そうじゃない。自ら進んで、子供を産みたいって子もいるんだよ。信じられないだろ?少子高齢化かだなんだって騒いでいる時代に、自分から子供を産みたいって子が集まってくるんだ。

ここなら安心して、産めるからねぇ。

あ、言っておくよ? うちは変なカルトじゃないから、ちゃんとした免許を持っている子がいる。医師、助産師、看護師、子供を産み、育てるにゃぁ天国みたいなぁ所さ。どんどん、どんどん、子供を産み、生まれた子供がまた戻ってきて、また子供を産む。

そうやってこのコロニーは大きくなって来たのさ。」

瀬能「人間は、女だけでは、子供を作れません。男は、男は、どうしているんですか?男がいなくちゃ子供は生まれないじゃないですか?」

久世「ひひひひひひ。ひひひひひひひひ。誤解しなさんな。なにも、男を誘拐して連れてきてはいないし、精子バンクを多用して、子供を増やしている訳でもぉない。恋愛だよ、恋愛。自由恋愛。ここで育って、結婚して、離婚をして、子供と共に戻ってくる子もいれば、夫婦で戻ってくる子もいる。そりゃぁ千差万別だよ。まぁ、なかには、亭主をシェアする子もいるみたいだけどねぇ。」

瀬能「・・・・・・」

久世「そんな目をおくれでくださんな、お前だって、生娘じゃぁあるまい?

正直、我々が欲しいのは、精子だ。男じゃぁない。・・・・・精子を持って来てくれるなら、有効に使わせてもらうのが礼儀だろう?男はいらない、結婚は冗談じゃない、でも、子供だけは欲しいっていう子だって、当然いる。そういう子を支援するのも、我々の会ならではだ。もちろん、経済的にも法的も、問題ないように支援している。

人間の生き方は様々だ。女だからと言って、それが不利になるなんて、おかしいと思うだろう?

それにだ。猿やライオンの群れ、あれだってそうだ。オットセイもそう。一見、男のボスを頂点とした、群れを作って、ハーレムなんて言われているが、あれも見方を変えれば、立場が逆になる。メスが、子供を作る為に、優秀な精子をつくるオスだけを選んで生かしている。言わば精子の貯蔵庫さ。動物は人間より残酷でねぇ。精子が出せ無くなれば群れから追い出される。ボスと言われていたオスも、哀れ、野垂れ死。

当然だろう?狩りも、子育ても、全部、メスの仕事だからさ。何も出来ないオスは死ぬしかないんだ。オスは精子だけ提供すればいい。

私は、人間だから、精子を提供してくれた男には、理知的に、褒美をくれているがね。」

瀬能「まさしく、ユートピアですね。・・・・・・・どの政治家も成しえなかった施策を行っている。百年先は行ってますよ。素晴らしい。」

久世「おかしなモンでねぇ、女の社会を構築していると、身体も変わってくるんだ。さっき、役割を分業していると言ったねぇ。それと同じで、自然と身体が変わってくる。それに合わせたようにね。

力仕事を行う子は、体つきが大きくなる。筋肉の量が増えるんだ。頭の良い子は、ますます頭が良くなって、難関国家試験を難なく取得するし、そう、身長や体重、力、柔軟性、役割に合せて、特化していく。・・・・・・それを進化って言うんじゃないのかい?」

瀬能「・・・・・・そんなものは進化でもなんでもない。環境に合った、身体変化に過ぎません。この閉鎖社会にだけ起きている特異的な物ではない。どこにでも起きている、誰にでも起きる事です。」

久世「ああ、そうかい。ひひひひひひひひ。これは失礼した。」

瀬能「・・・・・・・・・・」

久世「だがねぇ。・・・・・・うちの子の中には、Y染色体の代わりをする、X染色体を持つ子もいるんだ。」

瀬能「!」

久世「いずれY染色体は滅ぶ。その時、世の男どもはどうするんだろうねぇ。男の存在意義は、Y染色体だ。その精子をもって、はじめて、卵子と受精できる。でも、受精できない精子なんて、何の意味がある? 男の存在意義は何処にある?

そんなモンは消滅するんだ。男がふんぞり返っていた時代、男と女が共に生きようとした時代、そして、男の価値が無くなる時代。

今はまだ精子が必要だ。でもねぇ、あとちょっとで、女だけで、子供が産めるようになる。それを進化した人類と呼ばずして、何て呼ぶ?

女だけの社会、女だけの世界。いずれそうなる。それは決定している未来だ。我々は、既にそれを実践しているだけに過ぎないんだよ。」

瀬能「面白いお話ですねぇ、久世様。子宮がヒリヒリしてきますよ。」

久世「お前は、ハトの知り合いでもあるから、我々の末席に加えてやってもいい。ただ、そんな貧相な体じゃぁ元気な赤ん坊は望めない。あと十キロは増やさないとねぁ。」

瀬能「お気遣いどうも、ありがとうございます。

でも、結局、ここは、理想郷でも天国でもない、ただの子供生産工場ですよ。夢みたいな話を並べた所で、誰も幸せになれない、デストピアです。ババアの妄想が詰まった箱庭です。」

久世「・・・・・なんだって?よく聞こえなかったが?」

瀬能「ババアになると耳が遠くなりますもんね。」

久世「ハトんとこの娘。私に喧嘩、売ってんのかい?」

瀬能「御託を並べたところで、体のいい老人ホームじゃありませんか? みぃ~んな、あなたを慕ってる。みんな、あなたが大好き。・・・・・いいえ、いいえ。あなたの力にすがっているだけですよ。

老人ホームごっこも、もうじきお終い。あなたは失敗したんです。力を失くした女王は、巣から追い出される。歳を取って卵も産めない女王は、野垂れ死ぬだけ。さっき、あなたが言った通りですよ。」

久世「・・・・・・」

瀬能「蜂や蟻のコロニーが、猿とライオンのコロニーと大きく違う所はなんだか分かりますか? 子孫を残す、卵を産める女王を頂点としたコロニーという事です。女王と言っても、我々が思う、権力の中枢にいて何でも思い通りになる女王という意味ではありません。女王も、そのコロニーにおいては、ただの役割に過ぎません。

卵を産み、子孫を残す為だけの道具。死ぬまで、卵を産み続ける、そういう役割なのです。当然、卵を産む機械ですから、卵を産む為に、無理矢理、栄養価の高いエサを摂取させられる事で、体が大きくなり、そして寿命も他の蜂より長く生かされます。それでもいつかは、歳を取ります。卵を産めなくなる時が来ます。

自然の摂理っていうのは、機械的で、合理的。それを残酷と捉える人もいますが、所詮、生命なんてものは、そんなものかも知れません。

卵を産めなくなった女王は、コロニーから排除されます。役割を負えなくなったのですから当然です。その時、コロニーでは、新しい女王を擁立します。自然とそのコロニーから新しい女王が誕生するのです。そのまま同じコロニーを維持していくのか、それとも、別れて、新しい所にコロニーを作るのか、それは女王次第です。

久世さん。あなたのこのコロニーでも、同じ事が起きているんじゃありませんか?

歳を取って、終焉の時を覚悟したあなたは、新しい女王を擁立した。・・・・・でも、それが上手くいかなかった。女王のいないコロニーは、息絶えるだけです。年老いた女王と共に、朽ち果てるのを待つだけです。

それをあなたは、許せなかった。」

久世「見てきたように言うじゃないか、お前さんは。」

瀬能「ええ。先程来、久世さんにお土産をお持ちしたと言いましたが、それは、こちらです。・・・・・・・面影があるでしょう?十年ぶり?くらいですか? あなたの可愛いお嬢さんです。」

久世「あ、あ、あ、あああああ、ああああああああああ、貴様ぁぁぁぁあああ!」

瀬能「・・・・あんまり、調子のると、怪我しますよ?年齢を考えて下さい。私、手加減、しませんので?

写真で申し訳ないです。・・・・・あなたに似て、ちょっと強情だったので、少し強引に、秘密のお部屋にお出で頂きました。あなたとのお話が終わるまでは、こちらの安全を担保する意味で、お部屋に待機してもらっています。まぁ、保険です。この保険が、どれほど、効力をしめすかは分かりませんが。」

久世「遥はぁ! 遥は無事なのぉぉおおおお!」

瀬能「あなたの返答次第では、五体満足で、お帰りいただく手筈になっております。

不思議なご関係ですね。縁を切ったり、切られたりしている仲なのに、・・・・・親子の縁は、切れないもんなんですねぇ。」

久世「当然よ。・・・・・自分の、自分のお腹を痛めて、産んだ、その子を、大事にしない親なんて、いない!」

瀬能「なら、なんで、あんな馬鹿な事をしたんです? あなたのお孫さんでしょう?」

久世「・・・・・ッ」

瀬能「憎かったんですか? 思い通りにならない娘さん。倉石遥さん。

あなたの手駒の一人、おっきいゴリラみたいな女、いますでしょ? それに聞いたら、久世さんの事、倉石遥さんの事、しゃべってくれましてねぇ。

最初は、あなたに義理立てして、何も、教えてくれなかったんですけど、まぁ、色々、交渉した結果、教えてくれました。」

久世「小娘がぁぁぁ、寿子は、寿子は無事なんでしょうねぇぇぇええええええええ! ギャァァァアアア!」

瀬能「ほら、歳、取ると、足元がお留守になるって言うでしょう?久世さん、無理しない。私、あなた相手でも手加減しないって言ったでしょう?忘れちゃいました?」

久世「はなせぇぇぇぇええ! クソアマァァァァ! 私を、私を誰だと思ってんだあぁぁぁあああああああ!」

瀬能「知ってますよ。戦後、裏の総理と言われ、誰も逆らえなかった、女王様。今は、哀れなモンですねぇ。あなたを助ける人は誰もいない。あなたの力は失われてしまったんです。」

久世「離せぇぇぇぇぇぇええええ! 離せえぇぇええええええええ!」

瀬能「あなたはの失敗は、五十年前から始まっていました。あなたは、時の総理大臣と共に、権力の座から降りるべきでした。あなたは、女王の座に居座り続けた。・・・・その結果、世代交代が起こりました。当然です。歳を取れば次の世代に席を譲らないといけません。世代交代の弊害は、あなたを知らない、若い世代が中心になってきてしまった事です。

あなたが、権力を振るいかざそうとも、それに従う、求心力がありませんでした。在りもしない権力を振りかざす、裸の女王様だったんですよ、あなたは。」

久世「・・・・・・・」

瀬能「あなたが、”ハト”呼ばわりする、山鳩先生ですら、世襲二代目。正確には、三代目なんですが。

山鳩先生は、あなたの事を本当に危惧なさっておいでですよ。先代先生について歩き回っていた頃、あなたに、日本の表も裏も、教えてもらった、返せない恩義があると言ってました。

それはそうなんですけど、私には関係ない話なんですけどね。」

久世「ぐあぁぁぁああああああああ! あああああ! 年寄りに手ぇ上げるなぁぁああああああ!」

瀬能「あのぉ、都合が良い時だけ、年寄り呼ばわりしないで下さい。妖怪ババア相手に、気ぃ抜けば、こっちがやられるに決まっているじゃないですか。

あなた、自分の孫を、あの猿に襲わせたんですね。権力の継承とか、お孫さんには関係ないでしょう?」

久世「クソアマァァァァ! 小娘に説教なんてされたくないわぁぁぁああああああああああああ!」

瀬能「別に説教なんてするつもりはありませんよ。権力に憑りつかれると、頭まで、おかしくなってくるんですね。」

久世「よく聞けぇぇぇ、小娘ぇぇぇぇ! 自分の子供は、自分の物だ! 自分の思い通りにして何が悪い? しかも、日本で、最大級の権力を、継承してやろうと言うのに、それを拒んで、出ていきおったぁぁああああ! 許す事が出来るか? 許されるはずがないぃぃぃぃいいいいいい!

私の子供でありながら、私の娘でありながら、将来を、権力を、財産を、この世のすべてを受け継ぐ責任が、遥にはあるんだぁぁあああああああ! それなのに、それなのにぃぃぃぃぃ、あの子はぁぁぁああああああああああ! 私を裏切った。私を裏切って、出て行った!

許せるか? 許せるはずがはい! だから、その子供に制裁を加えたんだ。あの子に直接ではなく、もっと、ダメージを強く与えられるように、自分の子供にね。

あの子も、自分が親になって、初めて、分かっただろう? 子が受ける制裁の辛さを。おぞましさを。私の子として産まれた、その、重責を、身を持って知ればいいんだぁぁぁぁあああああああ! ああああああああああああああああああああ!」

瀬能「・・・・・可哀そう。本当に可哀そう。あなたの子供に生まれてきてしまったばっかりに、勝手に、そんな事を押し付けられるなんて。倉石さんは可愛そう。同情します。子は親を選べませんからねぇ。可哀そう。」

久世「なんだとぉおおおおおおおおぉぉぉおおお!」

瀬能「あなたみたいな、自分の事しか考えていない親を持って、可愛そうって言ったんです。ほら、騒がない。」

久世「ギャァァァァァァァァァァアア!」

瀬能「可哀そうと思っただけで、それ以上の感想はありませんよ。私もあんまり年寄りと遊んでいられないので、このまま大人しく隠居するって言うなら、こちらは手を引きます。先生も、良い隠居暮らしの場所を用意して下さると、言っています。

なんでしたら、倉石遥さんが引き継げるように後押しもしますし、どうしても倉石さんが嫌だって言うなら、適宜、財産を譲り受ける準備も整えています。」

久世「遥を人質に取っておいて、なんて、言い草だ!」

瀬能「先生は寛大なお方です。悪い様にはしないと思いますよ? ただ、奥様はあなたの事をよく思っていらっしゃらないですけど。」

久世「あぁぁぁああ゛あ゛あ゛あ???」

瀬能「・・・・先生自体、覚えていないんだから、その嫁さんなんか覚えているハズ、ありませんよねぇ? ただ奥様は、歯ぎしりしてお怒りでしたから、相当、嫌な思いをされたんでしょうねぇ。忠臣蔵の松の廊下ですよ、やった方は覚えていない。・・・・・あなた、女の敵が多いんです。あははははははははははははははははは。」

久世「なにがおかし゛い゛ぃ゛ぃぃぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃい、あああ゛ああ゛ああ゛ああ゛あああ?」

瀬能「血圧が上がりますよ? さて、どうします?」

久世「・・・・・・・遥。遥と会って、決める。遥と、遥に会わせてちょうだい!」

瀬能「いいでしょう。」

久世「離せぇぇぇ、小娘がぁぁぁあああ!」

瀬能「はいはい。はい、ノーカン、ノーカン! 叩いたら、叩き返しますからね。ババアは物覚えが悪いから。」

久世「・・・・ハァッ」

瀬能「石倉遥さんの身の安全は保障します。約束ですから。それから、お約束の日時は、先生と相談して、後程、連絡を差し上げます。」

久世「・・・・・・・」

瀬能「あなたに拒否権はありませんので、あしからず。」




皇「解体した? あの、カルト集団住宅が?」

丹羽「ああ。・・・・・運営組織が解体されて、いわゆる、集団住宅っていう扱いになるらしい。」

皇「あの、いったい、どういう事なんですか?」

丹羽「いや、だから、俺にも分からねぇんだ。公安からの情報でな。」

皇「公安?」

丹羽「ああ。組合組織が解体されたんだから、残っている家は、住みたきゃ住めばって感じらしい。ただ、組合組織で、互いに、融通して、生活していた訳だろ?生活が立ち行かなくなる人も多いみたいだ。子供、幾人か抱えた、片親とかな。」

皇「はぁ。」

丹羽「たぶん、・・・・だんだん、てんてん、ばらばらになって行くだろう。女王がいなくなった巣が、いずれ崩壊するのと同じだ。働き蜂だけじゃぁ、生きていけねぇ。」

皇「そうなんですね。・・・・なんだかちょっと、切ないですね。あんなに大きなコロニーが。」




瀬能「・・・・寿子。お前が犯した、未成年男児への強姦罪は、経歴から抹消されます。」

大貫「・・・・・・・」

瀬能「先生のご尽力により、お前の経歴はことごとく白紙となりました。」

荒巻「ありがとうございます。杏子さん、ありがとうございます。」

瀬能「??? 荒巻さん。どうして、あなたが嬉しがるんですか?あなた、関係ないでしょう?」

大貫「・・・・・荒巻。」

瀬能「ついでに言うと、久世は、あなたの身分を解放しました。そういう事なので、あなたを利用する価値が無くなりました。もう、好きな所に行ってくれて構いません。」

荒巻「杏子さん。あの、寿子は、寿子は、自由なんですか?」

瀬能「さっきから、そう言っているでしょう?」

荒巻「良かったなぁ、寿子。お前は、自由だ。もう、お前を縛るモンはねぇ。自由なんだ。」

大貫「バカ、やめろ。よせ、抱きつくな!」

瀬能「・・・・・ああ、イチャついている所、申し訳ないんですが、寿子。」

大貫「あ、はい。・・・・はい。はい、杏子さん。」

瀬能「もし再就職する気があるなら、先生が、一人、人材を募集してましてねぇ。荒事専門なんですよ。・・・・チンピラ相手の喧嘩程度の話じゃないですよ?殺す、殺される覚悟がいる仕事です。まぁ、ババアの子守よりかは有意義な仕事だとは思うんですけどね。返事はいつでも構いません。気が向いたら教えて下さい。

あ、それまで、荒巻さん。寿子の面倒、よろしくお願いしますよ。」

荒巻「え? 俺がですか?」

瀬能「行くところ、ないんでしょう?だったら、あなたの所に置いておいてあげなさいよ。近いうちに同僚になるかも知れないんですから。」

荒巻「分かりました。ありがとうございます、杏子さん。」

瀬能「だから何であなたが、嬉しがるんですか? 感じ悪い。だから、猿は嫌いなんです。」




瀬能「生物は、環境や条件によって、多種多様に、変化していく。それを進化だって、ダーウィン先生が言ってましたよね。孤島の鳥を見て、そう気づいたとか。」

皇「なんだよ、急に。」

瀬能「人間も、未だ、進化の途中で、これからも多種多様に変化していくんでしょうね。」

皇「まぁ、環境の変化は地球規模で著しいし、もう、温暖化がデフォだしな。」

瀬能「宇宙に出ていくのが当たり前になったら、更に、変化は顕著になるでしょうね。重力からの解放です。」

皇「骨格も筋力も変わるだろうし、そもそも、無重力で、精子と卵子が、結合するかどうかも、怪しい所だからな。正常な細胞分裂が起きるとは限らない。まだ、人間で試した例はないからな。」

瀬能「きらめく無重力セックスですか。」

皇「ああ、無重力で射精したとして、子宮まで、精子が届く保証もないんだぞ? 精子はミサイルと一緒。ただ、前方に進むだけしか機能がない。カミカゼ特攻隊だ。」

瀬能「一点突破、まさに、突貫ですね!」

皇「それだって、重力があるから、上と下、そいうのが分かるんだ。無重力だったら、そういう感覚が精子にも無くなるから、いくら膣内とは言え、卵子に向かって進んで行くとは限らないんだぞ。」

瀬能「何億の精子が一点突破で向かっていっても、妊娠の確率は、三十パーセント程度。無重力で、あっちゃこっちゃに精子が飛んで行ってしまったら、確実に、妊娠の確率は下がるでしょうね。」

皇「ま、そうなれば、テクノジーの進歩で、妊娠は体外受精がデフォルトになるだろうな。セックスは娯楽。妊娠は機械。・・・・分けて考えるようになるはずだ。」

瀬能「でも、機械で体外受精を行えば、妊娠の確率だけは、グンと跳ね上がるんじゃないんですか?」

皇「まぁ、化学だからなぁ。妊娠を妨げる要因がないからな。・・・・あとは、精子と卵子が、未熟だったり、形成不全されていなければの話だけど。精子の劣化は顕著らしいぞ。精子が機能不全で、役に立たないって話、よく聞くぜ。」

瀬能「それは、子供を授かりたいカップルには、深刻な問題ですね。」

皇「今のところ、精子を作れるのは、男だけだからなぁ。」

瀬能「でも、それは、いずれ分からないんでしょう? 精子をつくる遺伝子が女に出来る可能性だってあるわけだし。」

皇「そりゃそうだ。両性の動物なんていくらでもいる。魚のほら?あの有名な映画のやつ。あいつとかな。ニモ。ニモだよ。・・・・あいつら、群れの環境に合わせて、オスになったりメスになったり変化するんだ。」

瀬能「人間もそういう風になる可能性もある訳ですね。」

皇「生命である限り、絶対無いとは言い切れない。遺伝子のどこか、なにかの具合で、精子をつくるスイッチが入る可能性だってある。女同士で子供を作るのだって、夢物語じゃないし、むしろ、男のY染色体が劣化、消滅するのは時間の問題だ。いずれ直面する人類の問題なんだ。

男が必要なくなる時代が、来るんだぜ?」

瀬能「そうしたら、貞操観念が逆転して、生命的にも、社会的にも、女優位の世界。女尊男卑なんてことも、あり得ますね。」

皇「・・・・冗談だった、エロ漫画、エロビデオの世界が、現実となるかもな。」

瀬能「我々、人類は、どこへ向かうのでしょうね。無毛の猿は、どこに行くのでしょうか。」

皇「来た道を戻るのか、それとも、宇宙の深淵を覗くのか。どっちだろうな。」

瀬能「・・・・・まぁ、そんな話、どうでもいいんですけど、今日は、瑠思亜、一緒に寝ましょう。瑠思亜の子供みたいな体温、好きなんです。」

皇「やめろ、くっつくなぁ! お前、嫌なんだよ、お前の歯ぎしりぃぃぃ! こっちが眠れねぇんだよ! 歯ぁ矯正しろぉ!矯正ぇ!」


※全編会話劇

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