4.ルート案内の1 死に場所探し ④不思議な川の源流
翌朝、早い時間にトラックステーションを出発して、倉敷方面を目指す。
時間が遅くなると市街地は道が混んで来て、通過にとんでもなく時間がかかってしまうからだ。
<市街地を南下して国道2号に入りましょう。そこから西へ進んで、早島ICから瀬戸中央自動車道に入り、坂出ICから高松自動車道を西へ進みます。>
その後は?
<そのまま松山自動車道を西へ。大洲方面を目指します。>
わかった。そこから先はまた改めて案内してくれ。覚えきれないからね。
<わかりました。>
どうやら行先は四国の愛媛県のどこかのようだ。
まさかお遍路巡りじゃないよな?
◇
しばらく海沿いを走るが、海が見える程海岸沿いでもないので、淡々と高速で距離を稼ぐ。
交通量は少ない。私の前後に他の車がいなくなることもしばしばだ。
<眠くなってませんか?>
レオノーラが尋ねてくる。
ああ、ちょっと眠いかもね。
<しりとりしませんか?>
いいよ、受けて立とう。
<では、しりとりの『り』から始めます。>
「り」か。うーん、「りんご」
<『ゴリラ』>
「ランプ」
<『プリンアラモード』>
「どてら」
・
・
・
……………
<石鎚山SAで昼食と休憩にしましょう。>
レオノーラ。君、ちょっと意外なくらい………
<意外なくらい、何でしょう?>
AIにしてはしりとり弱いな。
<すみません。普段あまりやらないもので。>、
そりゃそうか。いや無理を言って悪かった。
<いえ、私が言い出したんですが。>
石鎚山SAに入り、食事と給油だ。
エナジードリンクを飲んで眠気を醒ます。
◇
再び高速の本線へ戻り、大洲を目指す。
大洲は、一級河川「肱川」の中流部にある、紡錘形の盆地に出来た街だ。想像してわかるとおり、ここは洪水の被害に遭いやすい所だそうだ。
<山形の「芋煮会」によく似た「いもたき」というイベントがあるそうですよ。>
そうなんだ。
<そろそろ大洲北只ICです。ここで高速を降りて、国道56号を南下します。>
了解。
大洲只北ICを降りて、国道56号を南へ進むと、やがてトンネルが現れる。
1km程の長さの、勾配のあるトンネルを抜けると、突然、という感じで、平坦な水田地帯に出る。
なんだここは。
てっきり峠に出るものと思っていたら、トンネルの先の道は下っておらず、平坦な盆地になっている。
いわゆる「片峠」というやつだ。
◇
<目的地に到着しました。>
ここか。
◇
<西予市宇和です。お疲れ様でした。案内を終了します。>
道の脇に車を止める。
<このあたりは、一級河川「肱川」の源流地帯になります。>
一級河川の源流だって?
<このあたり一帯は、昔は湖だったとも言われています。ここから肱川は一旦南へ流れたあと、反時計回りに円を描くようにして山間部を流れ下ります。そして、先ほど通った大洲を経て、長浜で、山が迫るV字谷を通って、海へと流れ込みます。>
普通の川と逆じゃないか。平地から始まって V字谷を通って海へそそぐなんて。
<だから、この源流地帯の宇和は、洪水やがけ崩れ等の自然災害が少ないと言われています。>
なるほどな。
<ここは気候も穏やかで、海や山の恵みも豊富です。貴方が余生を送り、生涯を終える『死に場所』にふさわしいと考えました。>
上出来だよレオノーラ。
最初から私の意図を理解していたんだね。
<恐れ入ります。>
◇
今日は大洲で一泊し、地物のアユと地酒を楽しむ。
明日からまた、二日がかりで帰らねばならないが。
<他の『死に場所』をご所望でしたら、また仰ってください。>
うん、そうだな。そのうちお願いするかもな。
<では、また明朝に。>
死に場所探しの旅は、また何度かやるだろう。
今の所、急ぐつもりはないからね。




