1.旅の始まり
〈承知いたしました。少々お待ち下さい。〉
ああ、
本当に探すのか、レオノーラ。
◇
遅い春。
天候不順の夏。
実り少ない秋。
私の人生を四季に例えるなら、こんな感じか。
今は冬の始まり。
だが不思議なことに、人生の冬は思っていた程酷い季節じゃなかった。仕事はあるし、収入も大したことはないが、心配していた程低くもなかった。
そう、普通に暮らしては行ける。ここ大事。
◇
四十歳になった年、車を買った。
真っ赤な国産のスポーツカーだ。
中年になった記念に買ったと人には説明しているが、本音は何か一つくらい、パッと明るいものが欲しかったのだ。
そう考える位、私の人生の秋は心細いスタートをした。何度か転職をした。気が付いたら、経済的には相変わらず苦しかったが、私の中には無形の実りが出来た。これまでの技術と経験が、いつの間にか、次の冬を迎えるための大事な資産になっていた。
車は、私の見聞を拡げてくれた。時には仕事の道具としても役立ってくれた。どんなに遠くても、道が続く限り、この車で何処へでも出掛けた。
◇
その車も、今では車齢二十年を越えた。
エンジンは二基目、変速機は三基目だ。走行距離も二十万kmを超えた。
そうやって機械部分は修理や部品交換でなんとかしてきたが、問題は電子部品だ。十年経っても新品の部品が手に入る機械部品と違って、電子部品は五年も経てば交換部品自体が入手困難になる。
特に困ったのがカーナビだった。地図情報の更新サービスが、僅か三年で終わってしまう。それ以降に出来た新しい道路等は、情報が入らないのである。それでも使えないことはないが、不便は否めない。
そこで、カーナビだけは最新のものを入れることにした。クラウド上のAIが案内をする最新のものだ。
このカーナビには、一つ大きな特徴がある。地図を表示するディスプレイが無いのだ。操作も案内も、完全に音声だけで行われる。
商品名は「レオノーラの聲」。
「レオノーラ」と話しかけると、この名前がキーになって、ナビが仕事を始める。行き先の名前やジャンル、立ち寄り地等の具体的な希望を声で告げると、クラウド上のAIが希望に沿った目的地、到達時刻などを計算し、案内を始める。案内の仕方は、交差点等の分岐の手前で、余裕を見た絶妙なタイミングで左折・右折や入るべき車線等を言葉で指示するというものだ。これは慣れると楽で良かった。
呼び掛ける名前は好きに設定出来たが、私はデフォルトの「レオノーラ」のままで使った。
メーカーによれば、「レオノーラ」には擬似的な人格が備わると言う。そして、ドライバーとの対話を重ねることにより、その人格は日々成長し、ドライバーの希望に沿ったより的確な案内が出来るようになるのだと言う。
キャッチフレーズは、「貴方が育てるAIナビ」だ。
◇
そのレオノーラに、ある日私はこう告げたのだ。
「私の死に場所を探して、そこへ案内して欲しい。」と。